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書籍と雑誌の要約と解説

ワクチン(岩波新書)

ウイルス学者が世の母親のために書いた手引き

装丁
ワクチン(岩波新書) ワクチン(岩波新書)
野島徳吉(京都大学ウイルス研究所教授)
岩波書店(岩波新書青版809)
ISBN4-946572-28-7
C3047
1972/01/29
¥???
目次
  1. からだを守るために
    1. 赤ちゃんの誕生
    2. 母体のなかの赤ちゃん
    3. 自立への準備
    4. 免疫機構の発達
    5. ワクチン接種――はじめての社会参加
  2. 人間と微生物との共存
    1. 共存の形式
    2. 寄生
    3. 共存の歴史的変化
    4. 土着の微生物
    5. 微生物の病原性と非病原性
    6. 微生物とのよりよい共存
  3. 感染と発病
    1. 感染――ヒトと微生物の交渉
    2. ポリオ・ウイルス感染の道すじ
    3. 感染から発病まで
    4. 発病をたすける条件
    5. 結核の形成
    6. 発病のメカニズム
  4. 微生物はどのように伝染するか
    1. 疱瘡ウイルス
    2. インフルエンザ・ウイルス
    3. 日本脳炎ウイルス
    4. その他の微生物の生態
    5. ガン・ウイルス
  5. 免疫とはどういうことか
    1. 自己――非自己の認識
    2. 抗体をつくるしくみ
    3. 即時型過敏状態
    4. 遅延型過敏状態
    5. 免疫寛容
    6. 免疫に関係するからだの組織
  6. からだを守るしくみの全体像
    1. からだを守るしくみの最前線
    2. 組織内の防御のしくみ
    3. 防御のしくみとワクチン接種
  7. 集団免疫
    1. ポリオの生ワクチンと不活化ワクチン
    2. 伝染病流行の三要素
    3. インフルエンザの集団免疫の過程
    4. 集団免疫の指標
    5. インフルエンザ・ウイルスの感染防御
    6. 伝染のモデル実験
    7. 個人の防御力と伝染力
  8. ワクチンの副作用
    1. ワクチン接種の基準
    2. やむをえない危険とさけられる危険
    3. 活化ワクチンにともなう副作用
    4. ウイルス・ワクチンのなかの動物の細胞成分
    5. 生ワクチンにともなう副作用
    6. 種痘の副作用
    7. やむをえない副作用
    8. からだの条件とワクチン接種
    9. 仮説的な危険
    10. 数多いワクチン事故
    11. 一九四八年京都の事故
    12. ソーク・ワクチン開発途上の事故
    13. 副作用をなくすには
  9. 伝染病をふせぐために
    1. 環境と伝染病
    2. ワクチンとワクチン接種計画
    3. 化学療法
    4. 流行予測とサーベイランス
文献
  • G・ウイルソン『予防接種の危険』[P.184]
  • 『護痘錦嚢』[P.191]
  • 『明治文化史』[P.192]

内容

  • ワクチン有効論[P.9-10]
  • 西欧諸国で結核症の死亡率の激減したのは、生活労働条件の改善によるもので、BCGや化学療法剤の発見以前でした。[P.14]
  • ポリオ・ワクチン投与以来激減します。[P.14]
  • ある病院で髄膜炎のため志望した患者の半数は、髄膜炎菌や肺炎菌あるいはインフルエンザ・ウイルスのためではなく、非病原性の大腸菌やブドウ球菌のためであったという統計があります。[P.18]
  • 糖尿病患者は細菌感染症になりやすいのですが、インシュリン投与で糖尿病とともに感染症もなおります。[P.19-20]
  • 小児科医は、時期を問わず扁桃摘出がポリオ・ウイルス感染――発病にたいして危険であると警告を発しています。[P.29]
  • 抗体そのものに制菌作用はない[P.32]
  • パラインフルエンザ・ウイルスの場合、不活化ワクチンができたのですが、ワクチン接種すると、次の感染が重篤になるのです。[P.64]
  • ブタの日本脳炎ワクチン接種実験[P.75]
  • 愛玩動物の輸入も多いわが国では、イヌ、ネコ、その他の愛玩動物にかならずワクチンをすること、野放しの家畜をゆるしてはならないこと、このふたつのことを厳重にまもる必要があります。[P.86]
  • 種痘した幼児が全身にウイルスがまんえんして死亡した場合、しらべてみると、胸腺発育不全で、そのため種痘しても遅延型過敏状態にならないで、接種したウイルスが体内でふえるのをおさえられないことがわかりました。[P.125]
  • BCGの結核予防効果(英国MRC、1963年)[P.125]
  • ワクチン中の脳物質がアレルギー性脳炎を引き起す[P.127-129]
  • インフルエンザワクチンは感染防御しない[P.156-157]
  • 不活化ワクチンに伝染防止効果はない[P.157-160]
  • インフルエンザ・ワクチンをつくる過程で混入するニワトリ卵のたんぱく質、細菌または、その分解物や代謝物による副作用が重要です。前者はアレルギー反応、後者は発熱その他の原因です。[P.172]
  • はしか生ワクチンにSSPEの疑い[P.182-183]
  • 六、七年前に、ワクチン事故を研究している友だちから、ワクチン事故数の推測の数字を聞いてびっくりしたことをおぼえています。[P.185]
  • 私の友人は健康な二人の子どもに日本脳炎ワクチンを今年接種しましたが、二人ともその後は異常ありません。[P.189]

ワクチン有効論[P.9-10]

赤ちゃんは生まれることによって社会にあらたに参加するわけですが、
母体由来の抗体を失った赤ちゃんというのは、
社会集団のなかではいろいろの感染病に感染しやすい感受性者になるわけです。
ヒトからヒトへ感染する病気の場合には、
赤ちゃんの社会参加によってその集団はそれだけ防御力を失い、
新しい感染源がふえるのです。
それ故、赤ちゃん自身が防御の経験をつむ(ワクチン接種をする)ということは、
社会集団の防御力を維持し強めることになるのです。

ワクチン接種というのは、誕生以後赤ちゃんが参加する最初の社会行動といっていいでしょう。

抗体そのものに制菌作用はない[P.32]

結核菌に感染した動物のマクロファージをとりだして、
それに結核菌を少量感染させます。
しかし、菌はその細胞内でふえることができません。
ところが、非感染の動物のマクロファージ内では、結核菌はふえるし、
マクロファージに結核菌を感染させる前でも後からでも、
結核菌の抗体を加えてみても、菌のふえかたには影響ありません。
つまり、抗体が菌の増殖阻止には働いていないのです。

ブタの日本脳炎ワクチン接種実験[P.75]

吉祥院豚舎では六月一一日に五六頭のブタに生ワクチンを接種し、
さらに六月二五日に一五頭のブタに接種して、計七一頭に接種しています。
岩倉豚舎ではワクチンを接種しておりません。
豚舎は七月一〇日に保有蚊からウイルスが分離されて、
感染率は一〇%くらいですが、
吉祥院豚舎は、八月一日にはじめてウイルスが分離されて、
しかも感染率が〇・三六%、ピーク時ですら二・七%ですから、
ここでは生ワクチン接種の効果が現われているようにみえます。
ただし、出橋豚舎では二〇〇頭ほど六月二日と二五日の二回にわけて生ワクチンを接種し、
ここは八月二二日に保有蚊を分離しました。
感染率は〇・三%と低いですが、ピーク時には九・三%になっており、ひじょうに高いのです。
出橋豚舎にしろ吉祥院豚舎にしろ、ウイルスが分離されるのは一〇日から一ヵ月ぐらいおくれています。
最初の感染率はひじょうに低い、ことに吉祥院豚舎ではピーク時でも二・七%です。
これらのデータから、ワクチン接種がブタを日本脳炎ウイルスからふせぐには、
あるていど有効だったと主張されています。

BCGの結核予防効果(英国MRC、1963年)[P.125]

第9表 BCG接種の結核予防効果(英国MRC,1963年)
1,000人あたりの毎年発病率
実験に参加した人数 0~2.5 2.5~5 5~7.5 7.5~10
ツベルクリン反応-
BCG接種しない群
12,867 2.11 2.83 1.34 0.86
ツベルクリン反応+
BCG接種した群
13,598 0.41 0.41 0.38 0.40

ワクチン中の脳物質がアレルギー性脳炎を引き起す[P.127-129]

ネズミでもモルモットでもよいですが、その脳をすりつぶしてアジュバントといっしょに注射すると、
二、三週たって、けいれんやまひがおきます。
しらべてみると、脳、脊髄などの中枢神経系に炎症がおきて、
リンパ球やマクロファージの滲出がみとめられます。
胸腺をとったり、薬で遅延型過敏状態にならなくした動物では、
このように脳物質で処置しても、この脳炎はおきないし、
動物をあらかじめ抗体ができないようにしておいても、
このように処置すればこの脳炎がおきます。
ですから、この脳炎は遅延型過敏状態によっておきると考えられます。
このことは、アレルギー性脳炎がおきた動物のリンパ球
(この細胞のなかには、前述の活性化した細胞もある)を、
健康な動物の体内にうつすと、この動物は脳炎をおこしますが、
脳炎をおこした動物の血液中の脳物質の抗体を、
健康な動物の体内にうつしても、
脳炎をおこすことはできないことでもわかります。
脳炎は、活性化した細胞が、その免疫反応をひきおこした抗原の存在する脳の部位に働いておきます。

いまの話は、たとえばネズミの脳をネズミに注射すると、脳炎がおきることでしたが、
こうばかりとはかぎりません。
過去において副作用のため多くの犠牲者を出したワクチンに、
狂犬病ワクチンがあります。
このワクチン製品のなかには、
ウイルスをふやすとき使ったウサギの脊髄由来の物質が混入しています。
ワクチン接種をすると、この脳物質にたいし、ヒトが遅延型過敏状態になり、
体内の活性化した細胞は、ウサギの脳物質と構造的に類似したヒトの中枢神経部位に働き、
知覚まひから失明、てんかん様症状、さらに運動まひ等々をひきおこし、
重いものは死につながりました。
これはウサギの脳物質にたいする免疫反応によって、ヒトがアレルギー性脳炎をおこした例です。

現在、アレルギー性脳炎をおこす脳物質は、かなり研究され、構造もあきらかになり、
ヒトをふくめた動物間の関係もあきらかになりつつあります。
第10表はその関係をしめしたものです。
ただ、次のことは注意されるべきです。
これらの脳炎をおこす物質は、
動物実験であきらかに脳炎症状をおこしたものにかぎられているということです。
これらの物質が、アレルギー性脳炎をおこす物質であることはたしかですが、
これ以外にも、現在の動物実験では探知できない弱い反応をおこす物質もあるかもしれません。
それ故、ワクチンをつくるのに動物の脳を使用しないにかぎります。
それをよぎなく使う場合も(現在では、日本脳炎ワクチンと狂犬病ワクチンにかぎられます)、
なお問題はありますが、
ウイルスをふやす細胞をニワトリ受精卵の細胞その他にきりかえるほうが安全でしょう。
また、脳以外の臓器の細胞を使う場合も、以上の観点から十分検討されるべきです。

第10表 ヒトおよび動物の脳物質(アレルギー性脳炎をおこす物質)のあいだの関係(数字が小さいほうが関係は密接)
ネズミ モルモット サル
ネズミ 0.1 0.6 2.0
モルモット 0.1 1.8
サル 0.2 1.5 0.2
ヒト 0.3 0.8 0.1

インフルエンザワクチンは感染防御しない[P.156-157]

腕にワクチンを接種した場合、主として人間の体内にできるのは血液中の抗体です。
しかし、ワクチンは一部分気道の粘膜にも到達しますから、気道の粘膜にも抗体をつくります。
気道を直接免疫するほど十分であり、強力であるというわけにいきません。
そのうえ、インフルエンザ・ウイルスに感染した歴史というのは各人各様ですから、
その免疫状態も各人各様です。
このことは、とくに腕にワクチンを接種して、気道の粘膜に抗体をつくる場合に影響すると思われます。

さきほど、血液中の抗体価にはある閾値があって、
これを境として感染するかどうかきまるといいましたが、これは正確ではないようです。
血液中の抗体価は、ワクチンまたは自然感染による免疫の強弱をしめすにすぎません。
とくに、ワクチンの場合では、血液中の抗体価は気道の粘膜も免疫されていることを期待させる指標ですが、
期待はかならずしも実現しているとはかぎらないのです。

このことは、ワクチンをしたのにインフルエンザになったという場合、
多くあてはまることと思います。

つけ加えていいますと、血液中の抗体というのは、
気道の粘膜にいって、いわゆる分泌抗体にはなりません。
分泌抗体と血液の抗体というのは別で、化学構造もちがうものです。
血液中の抗体は、感染防御には役だちませんが、
病気の悪化をふせぐのには一役を買っていると思われます。

不活化ワクチンに伝染防止効果はない[P.157-160]

人間ではこまかいデータがありませんが、最近ひじょうに巧妙な動物実験がされました。
マウスを使ったモデル実験です。

マウスの気道にウイルスのエアゾールをふきかけてウイルスを感染させます。
感染したマウスをケージのなかにいれ、
ほかのマウス(接触マウスといいます)といっしょにおきます。
二四時間から四八時間くらい接触させ、あとで接触マウスが感染したかどうかしらべるのです。
気道にほんとうにウイルスが感染したかどうかは、
肺に眼にみえる病変ができますから、肺をしらべるとわかります。
これがひとつのモデルです。ほかのモデルもできます。
感染マウスをつくるのに免疫後四週間たって感染させます。
免疫するのには不活化ワクチンを使う場合と、生ワクチンを使う場合があります。
それから接触マウスのほうも免疫するのです。
これらを組合わせれば、いろいろの型のモデルができることがわかりましょう。

中略

まず、弱毒性のA2ウイルスをエアゾールで感染させて免疫し、
四週間すぎてから、A2型の感染実験をします。
この場合、完全な抵抗を示してそれは一年間くらい保持されます。
つまり生ワクチンは、免疫ウイルスと同じウイルスによる感染実験では、
完全な感染防御力をしめすのです。
それ故、もちろん感染源にもなりません。
それでこんどは、同じAグループのウイルスですが、
型のちがうA0の生ワクチンで免疫して、A2を感染させ、
それを感染マウスとして、無処置の接触マウスと同一ケージにいれて伝染力をしらべました。
すると、その伝染力は免疫しないA2を感染させたマウスの場合の五分の一でした。
こんどは、接触マウスのほうをA0で免疫し、A2感染マウスと同一ケージにいれました。
このときは、接触マウスに感染する率は、無処置接触マウスの二分の一でした。
どちらにしろ、A2と関連のすくないA0で免疫した場合、
感染実験でも伝染実験でも効果のあることは注目すべきことです。
この理由はまだわかっておりません。

次に、A2の不活化ワクチンを末梢からマウスにひじょうに強力に免疫します。
そうするとこれはA2にたいし強い防御力をもちます。
不活化ワクチンの場合でも、ひじょうに強力に免疫すれば、
気道の粘膜の免疫ができるということに対応するわけです。
完全に防御しては感染マウスになりませんから、
ワクチンで防御力があまり高くなく、感染がおきるていどに免疫します。
そうすると、これが私たちのワクチンの場合にひじょうに近いことになるわけです。

まずA2感染マウスと、このワクチンで免疫したマウスを接触させます。
結果は無処置接触マウスはワクチン接種接触マウスにくらべ、四倍も感染するのです。
これは接触感染にたいして、ワクチンがあきらかに有効であることをしめすものです。
次に感染マウスを免疫しておいて、その伝染力をしらべます。
おどろくべき実験結果が出ました。
感染マウスを免疫しても免疫しなくても、伝染力は同じなのですから。
つまり、不活化ワクチンの投与の場合には、
接触感染にたいしてはあるていど防御力は発揮するけれども、
伝染する能力は減っていないのです。

なぜかというのは、むずかしい議論になりますが、
伝染には気道にあるウイルスが、ある閾値に達することが必要です。
気道でウイルスがふえて伝染に必要な閾値に達しても、発病するとはかぎりません。
だから、このマウスのモデルのように不活化ワクチンを投与しても、、
ウイルスがおさえられつつ、ふえて閾値に達すると、
発病しないまでも、他のマウスに伝染する力をもつのではないかとも考えられるのです。

最後に、生ワクチンの場合とちがって、A0不活化ワクチンを末梢から投与しても、
防御にも伝染にも効果がないことがわかりました。

はしか生ワクチンにSSPEの疑い[P.182-183]

学童期前後のこどもに発症する亜急性硬化性全脳脳炎(SSPE)という病気があります。
知能障害、性格変化にはじまり、歩行困難、けいれんをともなうこともありますが、
病状は悪化する一方で、最後には昏睡状態になり、数ヵ月から数年で死にます。

最近になって、この病気にかかった脳細胞のなかに電子顕微鏡でウイルス粒子が発見され、
ついでその粒子ははしかの抗体と反応するので性質がはしかウイルスに近いことわかりました。
さらに、はしか不活化ワクチン接種後三年目、はしか生ワクチン接種後五〇日目で、
この病気のおきた例が報告され、にわかにはしかワクチンとの関係が注目されるようになってきたのです。
WHOは、はしか生ワクチンが脳炎をおこした例は、
世界的規模のワクチン接種実施中でもいままではないと言明しました。
さらに諸外国で、そして今年になってわが国でも、
SSPE患者の脳から、はしかウイルスとごく性質の近いウイルスを分離して、
試験管のなかの動物細胞でふやし、たしかめました。
SSPEがはしかウイルスまたは近縁のウイルスによっておきるのか、
それとも、はしかウイルスは、
体内にひそんでいるほかのウイルスが脳に伝播し感染する手助けをするだけなのか、
まだ、意見は一致していないと思います。

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