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書籍と雑誌の要約と解説

わが罪 農薬汚染食品の輸入許可

厚生省食品衛生調査会元委員長の告白

装丁
わが罪 農薬汚染食品の輸入許可 わが罪 農薬汚染食品の輸入許可
山本俊一(東京大学名誉教授)
真菜書房
ISBN4-916074-19-X
1999/12/25
¥1800
解説
私は当時の厚生大臣に農薬汚染食品を認めるよう進言した諮問委員長を務めた責任がある。

最近HIVウイルス汚染血液製剤の輸入を認めるよう
大臣に進言した委員長が叩かれたので恐れをなしたわけではないが、
良心がとがめるので自ら告白をしようと思った次第である。

この本の標題は、もともとは『価値の狭間で』と名づけるつもりであった。
「経済的価値と健康的価値の狭間で」という意味である。
人間にとって経済も健康もどちらも高い価値を持っているが、
世の中の人は目先の経済を優先する。

私の専門は「衛生学」である。「生を衛る学問」と書く。
特に最近の経済優先の世相を苦々しく思っている一人であり、
そのために本書を書いたといってよい。

目次
  1. 厚生省の場
    1. 厚生大臣室
    2. 厚生大臣室
    3. 厚生省赤シャツ局長室
  2. ドンキホーテのご出陣
    1. 坊ちゃん教授室
    2. 坊ちゃん教授室
  3. 共同謀議
    1. 厚生省赤シャツ局長室
    2. 坊ちゃん教授室
    3. 坊ちゃん教授室
  4. 立ち回わり
    1. 厚生省赤シャツ局長室
    2. 坊ちゃん教授室
    3. 厚生省赤シャツ局長室
    4. 厚生省赤シャツ局長室
  5. 風車めがけてまっしぐら
    1. 厚生省会議室
  6. ゴルディオスの結び目
    1. 坊ちゃん教授室
  7. 青い鳥探し
    1. 厚生省タヌキ局長室
    2. 銀座のレストラン
    3. 厚生省タヌキ局長室
    4. 坊ちゃん教授室
    5. 日比谷公園のレストラン
    6. 坊ちゃん教授室
  8. 破局
    1. 坊ちゃん教授室
  9. フィナーレ
    1. 赤坂の料亭
校正
  • 分析農民連食品分析センター→農民連食品分析センター[P.23]

内容

  1. 衛生研究所の残留農薬検査[P.21-22]
  2. 農民連食品分析センターの残留農薬検査[P.23]
  3. サリチル酸の歴史[P.55-58]
  4. 不都合な論文は厚生省の図書館にお蔵入り[P.143-145]

衛生研究所の輸入穀物残留農薬検査[P.21-22]

第4表 輸入野菜の残留農薬
品名 産地国 検出農薬名 残留農薬(ppm)
カボチャ メキシコ
ニュージーランド
クロルピリホス
エチオン
T-DDT
デイルドリン
エンドリン
0.01
0.02
0.01
0.01~0.03
0.02
サヤエンドウ 台湾 クロルピリホス
ジメトエート
オメトメート
ホサロン
エチオン
0.02
0.03~0.08
0.03
0.25
0.04
枝豆 台湾 EPN
クロルピリホス
エチオン
パラチオン
エンドスルファン
NAC
0.01~0.03
0.01~0.09
0.01~0.02
0.01
0.01~0.02
0.11
オクラ フィリッピン
タイ
ジメトエート
オメトエート
NAC
EPN
キャプタン
シハロトリン
シベルメトリン
0.02~0.13
0.01~0.07
0.01~0.45
0.03
0.01
0.06
0.39
グリーンピース アメリカ クロルプロファム 0.01
シイタケ 中国 T-BHC 0.01~0.02
ジャガイモ アメリカ クロルプロファム 0.01~4.9
ポテト加工食品 アメリカ クロルプロファム 0.01~0.05
たかな漬け 台湾 NAC 0.03

(東京・大阪・神奈川衛生研究所の92~95年度の報告から)

第5表 輸入穀物の残留農薬
品名 産地国 検出農薬名 残留農薬(ppm)
小麦 アメリカ
カナダ
オーストラリア
クロルピリホスメチル
マラチオン
フェニトロチオン
0.02~0.49
0.01~0.61
0.04~0.07
小麦粉 クロルピリホスメチル
マラチオン
フェニトロチオン
0.03
0.02
0.02~0.11
トウモロコシ
ポップコーン
アメリカ マラチオン
ピリミホスメチル
メトキシクロル
0.01~0.04
0.01~0.1
0.01
大豆 アメリカ
中国
テイルドリン
T-BHC
NAC
0.01
0.01
0.01
ソバ粉 中国 フェニトロチオン 0.12~0.19
落花生 中国 ジメトエート
T-BHC
T-DDT
0.02
0.01~0.07
0.01

(東京・大阪・神奈川衛生研究所の92~95年度の報告から)

農民連食品分析センターの残留農薬検査[P.23]

第6表 身近な食品の農薬汚染
製品名 農薬名 検出量
強力小麦粉 マラチオン 0.02ppm
小麦粉薄力粉 クロルピリホス 0.02ppm
昭和天ぷら粉 クロルピリホス 0.12ppm
薄力小麦粉 クロルピリホス 0.043ppm
学校給食食パン埼玉 クロルピリホスメチル
マラチオン
フェニトロチオン
0.02ppm
0.01ppm
0.01ppm
学校給食コッペパン茨城 フェニトロチオン 0.014ppm
0.005ppm
学校給食ブドウパン茨城 フェニトロチオン 0.016ppm
0.024ppm
アメリカ・オレ・アイダ・フライドポテト クロルピリホスメチル
クロロプロファム
1.05ppm
アメリカ・ブロッコリー ジクロルボス 0.06ppm
アメリカ・レモン イマザリル 1.78ppm
アメリカ・レモン イマザリル 1.51ppm
アメリカ・レモン イマザリル 2.48ppm
アメリカ・レモン イマザリル N.D.
外国・レモン イマザリル 0.07ppm
アメリカ・レモン イマザリル 0.04ppm
大豆(OCIA認証) EPN 0.026ppm

(1996.10~1997.6 分析農民連食品分析センター)

サリチル酸の歴史[P.55-58]

大正(一九一四年)のことです。
貴族院で「飲食物防腐剤サリチル酸使用延長の件」が審議されていました。
この法案に関しては、その時までに次のような経緯がありました。

明治三六年(一九〇三年)のこと、内務省が帝国議会に提出した法案
『飲食物防腐剤取締規則の改正』の中に次の一項がありました。
「清酒に防腐剤サリチル酸を添加することを禁ず。」
それはこの頃サリチル酸の毒性に関して多くの研究結果が発表され、
世の注目を浴びていたからで、つまり世論に押されてこのような決定に到ったのであります。

ところが、このことを知って肝をつぶしたのが大蔵省でありました。
当時は、国庫収入のうち酒税の占める割合が高かったので、
この規則改正によって多量の清酒が保存中に酸敗して商品価値を失うでありましょう、
そうなれば酒税の大幅減となり、政府財政にとっては致命的な打撃となります。
そこで、大蔵省は審議途中なのに横槍を入れました。

内務省としては、体面もあるので、両省間で内々折衝し、
これに補則を作り「この項の施行を七年間停止する」という但し書きを付け加えました。
その時の大蔵省は、腹の中で、七年間の猶予期間があれば、
そのうちにサリチル酸に代わる新しい防腐剤が開発されるだろうと
高をくくっていたのでありました。
ところが、期待に反して、その期限内には適当な代用品は開発されませんでした。
そこで政府はあわててさらに三年間の再延長を決めたのであります。
合計一〇年間というわけです。

ところが、この一〇年の猶予期間がいよいよ切れる頃になって、
代用品開発の望みは完全に絶たれてしまったのであります。
そこで大蔵省に押し切られた内務省は、清酒に対するサリチル酸添加を禁止する措置を、
事実上、棚上げにするという法案を、大正三年(一九一四年)貴族院に提出したのであります。

この法案の審議段階で政府に猛烈に噛み付いた人物がいました。
それが石黒忠直です。

当時の議事録からその発言を引用してみましょう。

「大蔵省では税を取るのが何よりも眼目でございまして、どっちかというと、
大蔵省はサリチル酸を入れる方の肩をもっているようにみております。
これを極論いたしますと、税の方が人命よりも重いというような
見解ではないかというような感じもございます。」

この時、石黒は勅選議員でありましたが、
それまでに陸軍軍医総監を務めたこともある、当時の医学界の元老であります。
そのような身分の人がずい分と思い切ったことを言ったものであります。
やはり彼は、経済的価値より健康的価値を重視したのでありましょう。
しかし、さすがの石黒のこの発言も無視され、
清酒に対する防腐剤サリチル酸の添加が合法化され、
昭和二二年(一九四七年)の食品衛生法公布の日まで、
全国民はサリチル酸入りの酒を飲まされる羽目となったのであります。

タバコと肺がんとの間に因果関係のあることは今日では常識となっております。
それと同様、戦前のわが国では、サリチル酸添加の清酒と消化器がんとの間には
因果関係があるのではないかという疑いが強かったのですが、
とうとうそれを実証することはできませんでした。

不都合な論文は厚生省の図書館にお蔵入り[P.143-145]

野だいこ課長 例の研究班の報告ができ上がりましたので、お届けに上がりました。
坊ちゃん委員長 それは随分早かったね。(ざっと目を通して)それでこれはどこにどうやって発表するのかね?
野だいこ課長 いえ、発表はいたしません。
坊ちゃん委員長 なんだって! 発表しない研究論文なんて、これまで聞いたこともないよ。では、一体これを、どうしようと言うのかね。
野だいこ課長 これを委員長にご覧いただいた後には、厚生省の図書館に保管いたします。
坊ちゃん委員長 厚生省の図書館とは今までに聞いたこともないが、そこでは、だれでも閲覧できるのかね?
野だいこ課長 所定の手続きをお取り下されば、どなたでも閲覧できます。
坊ちゃん委員長 それは一般には公開されていないということだ。研究班をつくったのは、研究成果を発表し、広く専門家たちに意見を出してもらうためだよ。ぜひ、発表し給え。
野だいこ課長 それはできません。そうすれば研究班の先生方にご迷惑をおかけすることになります。
坊ちゃん委員長 君の言うことはよく分からんよ。どうして迷惑なのかね。まさかこの報告書はにせ物ではないんだろうね。だれか別の人が書いて、この研究者たちはただ名前を貸したというのではあるまいね?
野だいこ課長 天地神明にかけて、決してそんなことはございません。確かにここに名前の載っている先生方がお書きになりました。ただ、この研究班では氏名も研究成果も、どこにも発表しないということで、先生方にご協力をお願いしました。今さら発表するといえば公約違反となります。それは絶対できません。
坊ちゃん委員長 馬鹿なことを言っちゃいかん。そんな公表できない論文なんか秘密文書にすぎない。それでは一文の価値もない。(独白)ここに名前の載っている人たちは研究者の風上にも置けない連中だ。厚生省から研究費をもらってふところに入れ、厚生省の気に入るように論文を書いたのだ。本人たちが心底そのように思っているなら、それはそれでもよい。でもそうならば、男らしく責任を取るべきだ。正々堂々と発表すればよいではないか。それなのに、こそこそと逃げ隠れをしながら学界を上手に泳いで行こうとする、何と情けないことか。
野だいこ課長 そういうことでしたら、この報告書は厚生省に持ち帰ります。
坊ちゃん委員長 そうしてもらいたい。

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