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書籍と雑誌の要約と解説

ハンバーガーに殺される

アルツハイマー病肉食説

装丁
ハンバーガーに殺される ハンバーガーに殺される – 食肉処理事情とアルツハイマー病の大流行
DYING FOR A HAMBURGER
マレー・ウォルドマン&マージョリー・ラム(トロント大学/アナウンサー)
Dr.Murray Waldman & Marjorie Lamb
熊井ひろ美(東京外国語大学英米語学科卒)
不空社
ISBN4-900138-82-7
2004/09/07
¥1800
目次
  1. アルツハイマー病小史
    1. 痴呆◆その事情
    2. 痴呆◆過去と現在
    3. 昔の医師と医療
    4. 老人に関する記録◆古代ギリシアから現代文学まで
    5. 年齢パターンとアルツハイマー病
  2. クールー、クロイツフェルト・ヤコブ病とその変異型、狂ったウシ
    1. クールー◆カニバリズムの呪い
    2. クロイツフェルト・ヤコブ病
    3. 狂ったウシと死んだイギリス人
  3. プリオン病
    1. 小さな暗殺者
    2. 究極の侵入者
    3. 人間を冒すそのほかのプリオン病
  4. 危険な食事
    1. ウシと人間
    2. 解体工場
    3. 利用しないのは鳴き声だけ
  5. 現代の疫病
    1. 天然痘、梅毒、エイズ……そしてアルツハイマー病?
    2. 食肉加工の衝撃
    3. さまざまな集団におけるアルツハイマー病
    4. 一頭だけ?
  6. 予防、治療、そして完治の可能性
    1. 危険にさらされた集団
    2. 治療法を求めて
    3. 老年期の未来
文献
  • 10-10.Rivera-Milla,E.,et al.”An evolutionary basis for scrapie disease: identification of a fish prion mRNA.” Trends in Genetics.Vol.19:2:72-75.2003.
  • 11-5.Kimberlin,R.H.,Walker,C.A.”Pathogenesis of mouse scrapie;effect of route of inoculation on infectiouseness titers and dose-response curves.”Journal of Comparative Pathology.1978:88;39-47.
  • 15-11.Asante,Emmanuel A.,et al.”BSE prions propagate as either variant CJD-like or sporadic CJD-like prion strains in transgenic mice expressing human prion protein.” the EMBO Journal,Vol.21,No.23,pp.6358-6366,2002.
  • 15-15.Westaway,D.,et al.”Presenilin proteins and the pathogenesis of earlyonset familial Alzheimer’s disease:beta-amyloid production and parallels to prion disease.” Prions and Brain Diseases in Animals and Humans:Proceedings of a NATO Advanced Research Workshop,Erice,Italy,August 19-23,1996.Morrison,Douglas R.O.,(ed)Vol.295,p.159-176;New York,London:Plenum Press.1998.
  • 15-16.”Link found between proteins responsible for Alzheimer’s and vCJD.” The Scientist August 25,2000. Online as of May 6,2003.
  • 16-6.Asante,E.A.,et al.”BSE prions propagate as either variant CJD-like or sporadic CJD-like prion strains in transgenic mice expressing human prion protein.” The EMBO(European Molecular Biology Organization)Journal,vol.21,No.23,pp.6358-6366,2002.
  • 17-11.Alzheimer’s Disease and Related Disorders Association,Inc.”African Americans and Alzheimer’s Disease:The Silent Epidemic.” 2002. Online as of March 26,2003.
  • 19-1.デヴィッド・スノウドン『100歳の美しい脳 – アルツハイマー病解明に手をさしのべた修道女たち』
  • 20-1.Schenk,D.,et al.”Immunization with amyloid-beta attenuates Alzheimer-disease-like pathology in the PDAPP mouse.” Nature 400 173-177,08 July 1999.
  • 20-2.Motluk, Alison. “Fragile minds: Could the proposed treatments for Alzheimer’s make this debilitating disease even worse?” New Scientist vol.177,issue 2380-01,Feb.2003,p.34.

内容

  • 一九九〇年ごろより前には、医学や宗教に関する文献だろうが一般文学だろうが、この病気の記述はまったくない。[P.2]
  • インドのアルツハイマー病発症率は世界でもっとも低く、赤道アフリカが僅差きんさで二位だ。[P.24]
  • アルツハイマー病になるとたいてい嗅覚きゅうかくが衰える[P.47]
  • 二〇世紀の秀でた小説家デイム・アイリス・マードックがアルツハイマー病患者として在命中だったころ、夫のジョン・ベイリーが一九九九年に『作家が過去を失うとき――アイリスとの別れ<1>』(邦訳朝日新聞社)を書いている。[P.105]
  • ドイツの研究グループが魚類もプリオン病にかかることを証明している(原註10)。[P.225]
  • 一回の脳内注射はニ万五〇〇〇倍の経口投与に相当すると見積もっている(原註5)。[P.238]
  • プリオン病が最初に医学文献に記述されたのは、アルツハイマー病が最初に記述された時期とほぼ同じである(二〇世紀初頭)。[P.239]
  • 孤発性クロイツェルト・ヤコブ病と見られている患者の一部は実際にはBSE感染牛に由来するプリオンに感染しているのではないかということが述べられている(原註11)[P.304]
  • ヤコブ病とアルツハイマー病には生体分子的な類似点が見られる[P.311]
  • 医学文献に記録されたすべてのクロイツフェルト・ヤコブ病の症例のなかで、脳神経外科手術あるいは注射を受けていたケースは五パーセントにも満たない(原註3)。[P.326]
  • 牛肉を食べることが共通のタブーであるために、多くのインド人は、事実上は菜食主義者なのだ――そしてこの事実が、インドにおけるクロイツフェルト・ヤコブ病の――そしてアルツハイマー病の――発生率の低さを説明しているのかもしれない。[P.327]
  • 興味深いのは、最近スイスから二〇〇一年の孤発性の発生率が二倍に上昇しているという報告があったことだ。ちなみにスイスは、一九九〇年から二〇〇二年の期間でヨーロッパ大陸においてもっともBSEの発生率が高かった国である。(原註6)[P.330]
  • 北アフリカ諸国など、おもに経済的な理由により食肉加工産業が存在していない国々では、やはり発生率は低い。[P.343]
  • アフリカ生まれのアフリカ人がアメリカに移住するとアルツハイマー病発生率が白人よりも高くなることが調査で証明されているからだ――一四パーセントから一〇〇パーセントも高くなることもある(原註11)。[P.343]
  • アミロイドを除去するワクチン[P.377-378]
  • ペントサン・ポリサルフェート[P.389-390]

ヤコブ病とアルツハイマーには生体分子的な類似点が見られる[P.311]

遺伝学的な観点から見ても、この二つの病はいちじるしい類似点を示している。
クロイツフェルト・ヤコブ病にはかかりやすくなる遺伝子が存在しており、
別の遺伝子がある程度病気を予防する働きをしている。
アルツハイマー病にも同じことが言えるのだ。
いくつかの研究により、これら二つの病気で亡くなった人の脳には
生体分子的な類似点が見られることが証明されている(原註15)。

双方とも、タンパク質が正しく働かないために引き起こされる病気だ。
中国天津の南開大学の木易池明チ・ミン・ヤン教授の研究によると、
孤発性アルツハイマー病と孤発性および遺伝性のプリオン病の発症段階の根底には、
共通の分子機構が存在しているという(原註16)。

アミロイドを除去するワクチン[P.377-378]

デイル・シェンク博士が患者の脳に蓄積したアミロイドタンパクに対するワクチン接種をこころみた。
この研究は、アミロイドの蓄積によって
アルツハイマー病が引き起こされるという仮定のもとにおこなわれた――
アミロイドを取り除けば、病気も退治できるはずだ、と。

シェンクは脳のなかにアミロイドタンパクをつくり出す種類のマウスを繁殖させた。
次に、マウス自身の免疫システムにアミロイドを攻撃させて
最終的に破壊させるようなワクチンを開発したのだ(原註1)。

この研究方法はマウスにおいては非常にうまくいったので、臨床試験が開始された。
残念なことに、臨床試験はあまりにも期待はずれな結果に終わった。
このワクチンは、脳の腫脹しゅちょうなど命にかかわる重大な副作用を引き起こした。

だが、なによりも期待はずれだったのは、
たとえワクチンがうまく働いたときでも、効果が出ないという事実だった。
ワクチンはアルツハイマー病患者の脳からアミロイドを除去するには
非常に有効なようだったが、そのような患者に臨床的改善の徴候がまったく見られなかったのだ。
それはまるで、肺ガン患者のX線写真をエアブラシで修整したかのようだった。

検査結果は良くなっているのに、患者の容態は良くならないのだから。
これらの研究結果は、アミロイドの蓄積は病気の結果であって、
原因ではないということを示唆しているように思われる(原註2)。

ペントサン・ポリサルフェート[P.389-390]

ジョナサン・シムスは一九八四年生まれのふつうの元気いっぱいの高校生で、
スポーツが得意で二〇〇一年にはサッカーの北アイルランドジュニアユース代表候補にも選ばれた。
健康で活動的な身長約一八八センチのジョナサンは、
タバコはまったく吸わず、酒もめったに飲まなかったが、
彼の家は一家全員が肉好きだった。

二〇〇一年九月、ジョナサンの両親は息子のようすの変化に気づく。
まもなくその症状に、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病という診断がくだされた。

ジョナサンが体の自由を奪われ痴呆症へと急速に転げ落ちていくのを目にして、
父親ドン・シムスは死に物狂いでインターネットを検索し、
プリオン病の分野で研究する学者たちに連絡をとり始めた。
そしてやっとのことで、ドンは物議を醸していた治療法を試すように医師を説き伏せた。

その治療法はジョナサンの脳に直接カテーテルを挿入するものだった。
カテーテルを通して、医師はペントサン・ポリサルフェート(PPS)
という薬をジョナサンの脳に送り込んだ。

本来は人間の膀胱炎ぼうこうえんの治療に用いられる薬だったPPSは、
動物実験においてプリオン病の治療に効果がありそうだということが示されて、
現在ヒツジのスクレイピーに対する予防薬として検査を受けている最中である。

PPSは新しいプリオンの生成とある種の炎症の両方を止める働きがあると
考えられるが、その活動の大半は後者の効果によるのかもしれない。
死んだ脳細胞は取り替えることができないのだ。
PPSと海面状脳症の専門家である微生物学者のスティーヴン・ディーラー博士は、
シムス一家がこの処置の許可を得ることができるように力を貸した。

PPSは実際に、ジョナサンの病気の進行を食い止めるのに成功した。
二〇〇三年九月の時点で、彼は平均的な変異型患者よりも一〇カ月長く生き延びている。
だが悲劇的なことに、ジョナサンがこの薬の投与を受け始めたときには、
彼の病状はすでに昏睡状態にまで悪化していた。

ジョナサンの両親は息子が新たに反応らしきものを見せるようになったことに注目しているが、
病気によるダメージは取り返しのつかないものであるようだ。
したがって、たとえ効果的な治療法が見つかっても、
病気の進行を食い止めること以上は期待ができない。

この原稿を書いている現時点では、
PPS治療は少なくともさらに三件のプリオン病症例に対して許可がおりている。

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