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書籍と雑誌の要約と解説

がんと環境

患者として、科学者として、女性として

装丁
がんと環境 がんと環境――患者として、科学者として、女性として――
サンドラ・スタイングラーバー
Sandra STEINGRABER
訳・松崎早苗
藤原書店
ISBN4-89434-202-2
2000/10/30
¥3600
解説

近藤誠氏「『患者よ、がんと闘うな』著者」推薦

がんが相変わらず増えている。
日本は人口の半分が、将来がんを発病するだろう。
その原因は何なのか、高齢化やライフスタイルの変化だけで説明がつくとは思えない。
自身が膀胱がんと乳がんを病んだ著者は、綿密な調査により、
空気、水、食物などに含まれる合成化学物質の造花が主因であることを示している。
がんの増加は環境汚染・環境破壊のもう一つの帰結なのである。
この放置されたままの危険に対処するためには、正確な現状認識が不可欠である。
がん患者の家族や、近隣に住む方がたにも一読を薦めたい。

目次
  1. レイチェル・カーソンの志を継ぐ
    1. 微量
      1. イリノイの大草原
      2. イリノイの土の汚染
      3. 「人畜無害」とされたDDT
      4. 乳がん組織の中の微量農薬
    2. 沈黙
      1. 三つの沈黙
      2. 若い女性ががんになるということ
      3. 乳がん患者カーソン
      4. ジェニーのがん告知
      5. ドロシーとの友情の中で
      6. カーソンは環境によるがんを予測していた
    3. 時間
      1. 告知――一人にひとつの物語
      2. がん登録制度
      3. 親友ジェニーの死
      4. がんの長期的動向
      5. がん登録データの活用
      6. 増加する黒色腫、リンパ腫、骨髄腫
    4. 空間
      1. ノーマンデイル
      2. 移住すれば罹患率が変わる
      3. がんのマッピング
      4. スーパーファンド・サイト
      5. がんの疫学
      6. 乳がんクラスター――ロングアイランド
      7. ケープ・コッドの乳がん
      8. 真実を見のがす
  2. 化学物質を追え
    1. 戦争
      1. 有機化学物質――自然と人工
      2. 戦争が作った化学農薬
      3. 「知る権利」法で化学物質の排出を減らす
      4. ふるさとテーズウェル郡と化学汚染
      5. 有機塩素化合物から離れよう
    2. 動物
      1. がん細胞
      2. 乳がん細胞MCF-7を残した女性
      3. 早くからわかっていたヒト発がん性物質
      4. ヒト発がん性の評価法
      5. ベルーガ鯨と私の膀胱がん
      6. 野生動物のがん標本
      7. カレイにがんをつくる
      8. 私たちがん患者は水中の生物と連帯したい
      1. 特別の日
      2. 除草剤が変える農村風景
      3. 農薬依存が逆襲をうける
      4. 大豆とトウモロコシ
      5. 光合成を阻害する除草剤
      6. 農薬残留基準は私たちを守らない
      7. 食物連鎖とピラミッド型濃縮
      8. 農薬使用のつけ
      9. いとこの大豆収穫
    3. 空気
      1. 消えてなくなる最後の一点
      2. 地球蒸留による化学物質の旅
      3. 空気から肺へ
      4. 肺がん
      5. 甥たちとふるさとをドライブする
  3. 「知る権利」と人々の連帯
      1. イリノイ川の鳥と魚
      2. 揮発性物質をシャワーで浴びる
      3. 故郷の地下水汚染が見つかる
      4. 水が原因のがん
      5. 塩素殺菌は正しいか
      6. サンコティー帯水層の汚染
      7. 地下水層をイメージする力
      1. ふるさとのゴミ焼却炉問題
      2. 焼くのか、埋めるのか
      3. ジョン・カービーとたたかう
      4. ゴミ焼却炉ががんをつくる
      5. 地域内の対立、家族間の分裂
      6. ダイオキシンの作用
      7. カービーのゴミ・ビジネス
      8. 焼却炉をやめさせる
    1. からだ
      1. からだの年輪
      2. 体内負荷量
      3. がんは細胞分裂の暴走
      4. DNAアダクト
      5. 乳がんと外因性エストロゲン
      6. 家族は環境を共有する
    2. エコロジー的ルーツ
      1. 私の遺伝子に変異をおこさせたもの
      2. 生活スタイルと環境は分けられない
      3. カーソンの遺産――「知る権利」
      4. オルタナティブ――三つの原則
      5. がん宣告後の私のイリノイ観
構成
  • ロナルド・レーがん→ロナルド・レーガン[P.315]
  • 検出レベルを越えて→検出レベルを超えて[P.324]

内容

  • アトラジンは、人に乳がんと卵巣がんを起こすと考えられている。[P.31]
    EPA, The Triazine Herbicides: Atrazine, Simazine, and Cyanazine, Position Document 1, Initiation of Special Review, OPP-30000-60-4919-5(Washington,D.C.:Office of Pesticide Programs,1994);A.Pinter et al., Neoplasma 37 1990):533-44;A.Donna et al., Scadinavian Journal of Work Environment and Health 15 (1989):47-53; A.Donna et al., Carcinogenesis 5 (1984):941-42.
  • 殺虫剤ゲーム[P.33]
  • リンデンは、一九八三年に、人のシラミ用シャンプーとノミ取り以外のほとんどの使用が禁止されたけれども、私が思っていたよりずっと身近なところにあるのは確かである。[P.36]
    M. Moses, Designer Poisons: How to Protect Your Health and Home from Toxic Pesticides(San Francisco : Pesticide Education Center, 1995);EPA,Suspended, Cancelled and Restricted Pesticides, 20T-1002 Washington, D. C.:EPA,1990); Curtis, After Silent Spring.
  • アルドリンは土の中の生物を抑制し、ほ乳類の脳波を異常にする。[P.36]
    J.B.Barnett and K.E.Rodgers,”Pesticides,” in J. H. Dean et al.(eds.),Immunotoxicology and Immunopharmacology, 2nd ed.(New York:Raven Press, 1994),191-211;R.Spear,”Recognized and Possible Exousures to Pesticides”, in W.J. Hayes and E.R. Laws Jr.(eds.), Handbook of Pesticide Toxicology vol.1.(New York: Academic Press,1991),245-46;EPA,1990,Supended;Carson,Silent Spring,26.
  • クロルデンの農薬使用は一九八〇年に、ヘプタクロールの使用は一九八三年に中止されたが、この二つは白血病その他の小児がんと関係している。[P.36]
    Spear,”Possible Exposures,” 245;P.F. Infante et al.,Scandinavian Journal of Work Environment and Health 4 (1978) : 137-50.
  • 乳癌と農薬[P.37-39]
  • エスカレーターボーイ[P.112]
  • 水質汚染は飲用経由よりも呼吸経由の方が影響が強い[P.276-277]
  • ケープ・コッドでは、塩ビの水道管を使っている家で膀胱がんと白血病の発生が高くなったのはテトラクロロエチレンが溶け出したことが、原因とされている。[P.280]
  • 水質汚染が癌をもたらした事例集[P.280]
  • 一九四〇年迄にはアメリカ合衆国の自治体が供給する飲用水の約三〇%が塩素処理されていたが、現在ではアメリカ人の七〇%が塩素処理された水を飲んでいる。[P.281]
    R.D.Morris et al.,AJPH 82(1992):955-63; S.Zierler,AEH 43 (1988):195-200; A.L. Jolley et al.(eds.), Water Chlorination: Chemistry, Environmental Impact, and Health Effects, vol.5 (Chelsea,Mich.:Lewis,1985).
  • 塩素処理と膀胱癌・直腸癌の関係を示した疫学調査[P.283-284]
  • ダイオキシン研究所のジェームス・ハフは、「いかなる種といえどもTCDDに曝露されたものはすべて、またいかなるルートからであっても、明確な発がん性作用が認められた」と記している。[P.307]
    J.Huff,”Dioxins and Mammalian Carcinogenesis,” in Schecter, Dioxins and Health, 389-407.
  • セベソ農薬工場事故のその後[P.308-309]
  • 「神はリサイクルをし、悪魔は焼却する」[P.310]
  • 尿をサンプリングした研究者たちは、アメリカ人の大多数の体内に殺虫剤クロルピリホスが検出レベルを越えて存在することを明らかにした。[P.324]
    “Chlorpyrifos Metabolites in 82% of U.S. Population,” Pesticide and Toxic Chemical News, 8 Nov. 1995, pp.15-16.”
  • 一九七六年にはアメリカ人の母乳の約二五パーセントは汚染されすぎていて、ビン詰めにして売ることはできなかった。[P.326]
  • エストロゲンが乳がんに何か役割を演じているかもしれないという最初の手がかりは、一八九六年にイギリスの外科医が卵巣を取り除くと乳がんの腫瘍がしぼむことが時々あるという報告をしたときに得られた。[P.337-338]
    H.Magdelenet and P. Pouillart, “Steroid Hormone Receptors in Breast Cancer,” in P.J. Sheridan et al.(eds.), Steroid Receptors and Desease: Cancer, Autoimmune, Bone, and Circulatory Disorders (New York: Marcel Dekker, 1988),436-65.

殺虫剤ゲーム[P.33]

私より二~三歳年上のベビーブーマーたちは
DDTを止めようという旧い雑誌広告があったことを信用しない。
この人々は、蚊やニレ立ち枯れ病やマイマイ蛾の駆除計画から派遣された、
霧を撒くトラックをしっかりと覚えているからである。
こういうトラックを追いかける子供のゲームを想い出す人もいる。
「この霧の中に一番長く居られた人が勝ちだった」と言い、
「めまいがすれば落ちこぼれになる。私はそうならずにいつでも勝ちだった」
と想い出している。
別の人は、「殺虫剤トラックが近所によくきていた頃、
男たちがホースをうちの裏庭に引っ張り込んでリンゴの木に撒いた。
我々子供はリンゴを投げ合って、たまには食べたこともあった」と言っている。

乳癌と農薬[P.37-39]

乳がんになった女性の体内のDDEとPCBの濃度は、
腫瘍組織内で周囲の健康な乳腺組織よりも
かなり高くなっているとの研究発表が出された。
やや弱いものの、同様の傾向がリンデン、ヘプタクロール、ディルドリンでも見られた。
この研究は対象人数が一四人と少ない数だったが、とても説得力があった。
というのは、DDTとPCBはすでにゲッ歯類で乳がんを起こしていたからである。

M.Wasserman,Bulletion of Environmental Contamination and Toxicology 15 (1976):478-84

<中略>

一九九三年に生化学者のマリー・ウォルフたちは、
一七年近く検討した初めての大規模な研究を行なった。
ニューヨーク市でマンモグラフィー診断に参加した
一四、二九〇人の女性の保存血液からDDEとPCBを測定した。
採血から六ヶ月以内に五八人が乳がんと診断された。
ウォルフは、この五八人に相応しい対照群、
すなわち乳がんになっていなくて同じ年齢、
同じ生理状態の人を一四、二九〇人の中から抽出した。
そして二つの群の人々の血液を比較した。

平均として乳がんの人のDDEレベルは三五%高いという結果がでた
(PCBはわずかに高いという程度だった)。
最も衝撃的な結果は乳がんの人で最も高いDDEの値が
乳がんでない人の四倍も高かったことである。
研究者たちは「DDEは乳がんリスクと強く結びついている」と結論した。

M.S.Wolff et al.,JNCI 85 (1993):648-52;
D.J.Hunter and K.T.Kelsey,JNCI85(1993):
598-99:M.P.Longnecker and S.J.London,JNCI85(1993):1696-97.

ウォルフに続いてカナダ、ケベックのエリック・デュウェイリーが率いる研究チームの仕事がある。
デュウェイリーは生体検査を受けた女性の乳房組織を入手した。
がんと診断された二〇の腫瘍と、良性と判断された一七の腫瘍を選んで残留農薬を分析した。
前出の研究と一致する結果で、
がん組織中の農薬及び工業化学物質のレベルは良性の組織中よりやや高レベルだった。
デュウェイリーは、がん組織のうち、
エストロゲン・レセプター・ポジティブ(エストロゲンの存在に敏感ながん)に限定して比較した。
すると、悪性と良性の違いはさらにはっきりした。
DDEのレベルが非常に高いという結果になったのである。

E.Dewailly et al, JNCI86(1994):232-34.

ウォルフとデュウェイリーに続いてクリーガーの研究がもっと複雑な姿を描き出した。
ハーバードの疫学者ナンシー・クリーガーは、
その時カリフォルニア・オークランドのカイザー財団にいたが、
一九六〇年に女性たちから血液を採取し、約三〇年間凍結保存した。
この三〇年間に乳がんになった女性の血液と乳がんにならなかった女性のものを時々比較してきた。
主な疑問は「何年も前のDDTとPCB被曝から、乳がんになるか予想できるか?」である。
これまでの研究が、乳がんになった時点でのDDTとPCBのレベルを見ていたのに対して、
彼女の研究は、被曝と発症の時間差を考慮に入れた初めての研究だった。
女性は人種と民族別に、アフリカ系アメリカ人、
アジア系アメリカ人と白人の三群に分られた。
三者を一緒にしていたときはがんとそうでない人の間に著しい差は出なかったが、
三群を別々に比較すると、
白人、そして特にアブリカ系アメリカ人の乳がんの人のDDEはかなり高い値になった。
さらに不思議なことは、
アフリカ系アメリカ人は過去にPCB被曝がより多い人が乳がんになる傾向であったのに対し、
白人ではむしろ逆の傾向になったのである。
PCBが最高レベルの人は発症していない人々の中に見つかったのである。

N.Krieger et al.,JNCI86(1994):589-99:B.MacMahon,jnci86(1994):572-73:S.S.Sternberg,JNCI86(1994):1094-96;J.E.Brody,New York Times,20 Apr.1994,p.C-11;D.A.Savitz,JNCL86(1994):1255.

エスカレーターボーイ[P.112]

私の統計学教授は次のような少年とデパートの物語を好んでする。
少年は何がエスカレータを動かしているのだろうと不思議に思う。
何時間も観察して、次の結論を出した。
「エスカレータは回転ドアによって作られるエネルギーで動いている。
なぜならその日店が閉まって回転ドアが止まるとエスカレータが止まったからだ。」

水質汚染は飲用経由よりも呼吸経由の方が影響が強い[P.276-277]

加湿器も食器洗い器も洗濯機も全て、料理と同様、水中の揮発性物質を大気に移動させる。
そのような曝露源は、特に幼児や家にいて終日家事に勤しむ女性について気がかりである。

入浴という単純でくつろげる行為が揮発性物質への主要な曝露源となる。
一九九六年の研究で、シャワーを浴びたばかりの人が吐く息は
揮発性有機物のレベルが高くなっていることがわかった。
じっさい、シャワーを十分間浴びるか浴槽に三十分間浸かる方が、
二リットルの水道水を飲むよりも多量の揮発性有機物を摂取する。
閉鎖的なシャワー室は、おそらく蒸気を吸い込むために、
揮発性有機物の取り込み量が最も大きい場所である。

汚染物質の曝露経路によって、体内におけるその生態学的移行が大きな影響を受ける。
直接飲んだり料理を通じて取り込む水は、まず肝臓を通過するので、血液に入る前に代謝される。
入浴を通じて体内に入るものは、肝臓に到達する前に、様々な器官に拡散する。
その場合の相対的な危険度は、汚染物質とその代謝分解物の生物学的な作用にも依り、
経路上の様々な組織の相対的な感受性によっても異なる。

入浴に関する研究結果は、飲用水の基準に対してさらに疑問を提起している。
ここでもまた私たちは、飲用水の基準がいかに視野の狭いものであるかを見ることになる。
一九九六年に行なわれた研究論文の著者である環境科学者
クリフォード・ワイセルとワンクエン・ジョーは、次のように説明している。

 水道水中の汚染物質への曝露やその悪影響に関する従来の研究は、
 飲むことが曝露の主な経路だと考えていました。
 そして、水中化学物質による健康への影響は二リットルの水を飲むとして見積もられ、
 それ以外の経路から体内に取り込まれる量は無視して基準を設定しました。
 それによって、健康に与えるリスクが低めに見積もられることになったのです。

バイセル、ジョーらによる研究は、
イリノイ州ロックフォードで起こった異常なケースを理解する一助となる。
一九八四年、電気メッキ会社による不法投棄に関連した環境調査が行われ、
個人の井戸一五〇以上と自治体所有の井戸一つが
揮発性の有機塩素溶剤に汚染されていることが明らかにされた。
汚染の程度は様々であったが、五〇〇ppbを越えるものもあった。
このためロックフォード南部はスーパーファンド最優先地区リストに該当することになった。

それから五年後に行われた調査では、
汚染された井戸から水を引いている家の屋内空気とその住民の血液から、
井戸から出たものと同じ化学物質が検出された。
興味深いことに、血液中の化学物質の濃度は、
汚染源となった井戸水中の濃度よりも、屋内空気中の濃度と相関していた。
そして屋内空気中の濃度は、おおむねシャワーを使用する時間の長さに相関していた。
これらの結果は例の数が少ないので統計的に有力とはいえない。
しかしながら、揮発性有機物については、水の汚染がひどい場合でも、
飲用経由よりも呼吸経由の体内への負荷の方が重要であるという考えを支持している。
そうなると、水が汚染されたら瓶詰めの水を買って対処するという方法は役立たずということになる。

水質汚染が癌をもたらした事例集[P.280]

ニュージャージー州では、
公共水道中の揮発性有機化合物と女性の白血病との間に関係があることが分かった。

J.Fagliano et al.,AJPH80 (1990):1209-12.

アイオワ州ではディルドリンが混入した川から飲用水を引いている郡で、リンパ腫の発症率が上昇した。

Cantor,”Water Pollution.”

マサチューセッツ州では産業都市であるウォーバンの
塩素系溶媒が混入した二つの井戸が小児白血病と結びつけられた。

S.W.Lagakos et al.,Journal of the American Statistical Association 395(1986):583-96.

ノースカロライナ州では、郊外の街バイナムでがんが群発したことと、
上流で農業系及び産業系の化学物質が混入した河川水を飲用したことを関連させている。
その研究は反論を許さないものであった。
なぜなら一九八〇年代になってがんによる死亡が急増したが、
これはがんの通常の潜伏期を考慮すれば、
発がん性物質と分かっている化学物質に川が最も汚染された時期
(一九四七―一九七六)と被曝時期が合致したからである。
ウォーバンの場合も同様に、小児白血病の多発と水の汚染時期とが合致し、
汚染された井戸の閉鎖から数年後には減少した
(ウォーバンの子供達の惨状に対する激しい抗議に端を発して、
マサチューセッツ州のがん登録が創設された)。

NRC,Environmentaal Epidemiology,188;J.S.Osborne et al.,AJE 132,suppl.1(1990):87-95.

塩素処理と膀胱癌・直腸癌の関係を示した疫学調査[P.283-284]

初期の研究はいわゆる生態学的デザインによるもので、
塩素処理した水を使っている自治体と使っていない自治体とのがん発生率を比較していた。
オハイオ州、ルイジアナ州、ウィスコンシン州、アイオワ州、ノルウェー、
そしてフィンランドで行われた研究はケース対コントロール実験やコホート研究で、
がんと塩素処理との関係について、より熱心な探求が行われた。
研究者は水道水に関する習慣の詳細を個人個人に面接して尋ね、
生活スタイルが似通っている人々をコントロールとし、
過去の曝露量については水質記録から予測し、前の居住地で飲んでいた水の起源さえも調べた。
そのような研究はウィスコンシン州、イリノイ州、ルイジアナ州、
マサチューセッツ州、メリーランド州、ノースカロライナ州、
コロラド州そしてノルウェーで行われ、水の塩素処理とがんの関係、
特に膀胱がんと直腸がんとの関係があることを示した。
特に河川など、地上部から飲用水が引かれている場合に顕著であった。

それらの研究の中で最も意欲的なものの一つが、他ならぬケニス・カンター自身によって行われた。
彼の研究チームは合衆国内の十の異なる地域で九千人に対して個人的に面接を行った。
個々の回答者の経歴と、それまでの飲用水の使用状況の履歴とを合わせて検討した。
分析は最終的に次の結論を導きだした。

 膀胱がんの発生率は水道水の消費量とともに増加した。
 さらに、その増加の程度は、
 塩素処理した地表水を使っている地域に住んだ長さに強く影響されていた。
 生涯の大部分を塩素処理されていない
 地下水を使っている地域で過ごした人については、
 発生率は増加していなかった。

K.P.Cantor et al.,JNCI79(1987):1269-79.

セベソ農薬工場事故のその後[P.308-309]

疫学者のピエール・アルベルト・ベルタッツィと同僚はセベソ周辺の二千人の家族の健康を診察してきた。

一九九三年までに、ベルタッツィはB地区(二番目に高い汚染地区)
の住民の中にがんが多くなっていることに気が付いた。
一般の人々と比較して、B地区の人々は肝臓がんの割合が三倍高かった。
白血病、多発性骨髄腫と、ある軟組織肉腫も上昇していた。
ドイツの研究結果とは違って、B地区の女性の乳がん発生はむしろ低くなっていた。
子宮がんも同様であった。
A地区(最も高い汚染地区)の住民の多くが直後にそこから逃げ出したが、
そのため健康調査もままならない。

P.A.Bertazzi and A. diDomenico,”Chemical,Environmental,and Health Aspects of the Seveso,Italy,Accident,” in Schecter,Dioxins and Health,587-632;P.A.Bertazzi et al.,Epidemiology4(1993):398-406;R.Stone,Science 261(1993):1383.

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