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書籍と雑誌の要約と解説

薬品食品公害の二〇年

『薬のひろば』活動の記録

装丁
薬品食品公害の二〇年――『薬のひろば』活動の記録 薬品食品公害の二〇年――『薬のひろば』活動の記録
高橋晄正(東京大学物療内科講師)
松籟社
ISBN4-87984-128-5
1993/03/15
¥1942
解説
本書は、一九七一年に創刊号を世に送ってから一九八九年五月までに発行した一〇〇号までの
『薬のひろば』(「薬を監視する国民運動の会」の機関誌)の内容を部門別に分類し、
その内容のあらましを紹介したものである。

『薬のひろば』が活動したのは、わが国の高度経済成長が極点に達し、
その生産至上主義の矛盾が薬害・食品公害・環境破壊として噴出した時期である。
その一つひとつに科学的に対応してきた本誌の内容は、
科学時代に突入した企業社会が
いかに自然と人間を破壊するかを生なましく物語る貴重な資料といえる。

このような科学の名における自然と人間の破壊の事実には、
緊急に個別的対応が要求されるのであるが、
この二〇年間にほとんどの領域において一再ならず発生しているのを前にして、
私たちはそれらが企業社会の本質に根ざしたものではないか
という課題にも取り組まなければならないように思う。
そのような研究において、
本誌の内容の流れはそうした分析のための重要な資料となるものである。

一方、本誌は、それぞれの薬害、食品公害などの因果関係の分析において、
行政、企業、学者たちが
どのようにして科学的真実をゆがめていたかを丹念に追究しているので、
それらを分類整理してみると、彼らのごまかしの手口集ができるはずである。

目次
  1. 薬品公害を追って
    1. 虚構の保健薬アリナミン
    2. 食欲亢進剤アペール
    3. 胃潰瘍薬キャベジン
    4. 悲劇の解熱剤
    5. かぜ薬としてのビタミンC
    6. 整腸剤「正露丸」
    7. 整腸剤キノホルムでスモン
    8. 鎮静剤サリドマイドと四肢障害
    9. 腎臓薬クロロキンと視野障害
    10. 酵素過剰で未熟児網膜症
    11. 糖尿病薬で意識障害
    12. 抗生物質クロマイで死の貧血
    13. 家庭常備薬評価のバイブル
    14. 注射による筋短縮症
    15. 種痘後の幼児に脳脊髄炎
    16. インフルエンザ予防接種の無効有害性
    17. むし歯予防用フッ素の医学的批判
    18. 避妊薬の安全度は?
    19. 漢方と針灸の効果は?
    20. 薬品公害を追って――まとめ
  2. 栄養学・その後と食品汚染を追って
    1. 高脂肪食と直腸ガン、乳ガン
    2. 塩蔵魚、干ものと胃ガン
    3. カルシウムの吸収と玄米食
    4. 古典となった酸性・アルカリ性食品
    5. 砂糖、食塩、食酢など
    6. わらびの中の発ガン物質
    7. 低温殺菌牛乳信仰
    8. 食品のコバルト60照射
    9. 合成洗剤による食品汚染
    10. 有機肥料の使い過ぎの害
    11. 農薬による食品汚染
    12. カビによる食品汚染
    13. ヨードによる食品汚染
    14. 食文化と食品汚染のまとめ
  3. 食品添加物を追って
    1. 合成殺菌料トフロンの毒性
    2. 給食コムギにリジン強化で筋力低下
    3. 人工甘味料サッカリンに発ガン性
    4. 新甘味料アスパルテームの毒性
    5. 防カビ剤OPPの毒性
    6. コムギ粉に添加の臭素酸カリウムの毒性
    7. 酸化防止剤BHAの評価
    8. 調味料グルタミン酸ソーダの評価
    9. 食品添加物と無脳児の出生
    10. 合成着色料とHLD症候群
    11. ハム・ソーセージの食品添加物調査
    12. 学校給食を考える
    13. 食品添加物を避ける生活設計
    14. その他の食品添加物
    15. 食品添加物のまとめ
  4. 環境汚染とそれによる被害を追って
    1. 光化学スモッグで中学生集団が被害
    2. 農薬工場周辺でガン死亡増加
    3. 農薬ニッソール散布で高校生死亡
    4. 農薬を減らしたミカン山
    5. 農薬の特殊毒性
    6. 農薬による環境の汚染状況
    7. コンポスト(汚泥肥料)の重金属汚染
    8. メラミン食器からホルムアルデヒド、ほか
    9. それでも原発か
    10. 環境汚染のまとめ
  5. 薬品・食品公害二〇年の回顧――私たちは何を見たか
    1. もはや帰るべき自然はなく
    2. リポートへの感想
    3. 随想的科学論
  6. 本会の活動を支えた人びと
    1. 本会の活動を支えた人びとのプロフィル
    2. 法廷証言の記録
文献
  1. 高橋晄正『アリナミン――この危険な薬』[P.27]
  2. 高橋晄正『薬の選び方便覧』[P.36_55]
  3. 高橋晄正&平沢正夫『薬 この危険な副作用』[P.36_55]
  4. 日本教職員組合養護教員部『学校常備薬の実態』健康白書№2[P.36]
  5. 高橋晄正&水間典昭『裁かれる現代医療』[P.48]
  6. ランバート『現代医学の犯した過ち』[P.53]
  7. 東京都・港区消費者の会『家庭常備薬調査』[P.55]
  8. 板橋区消費者の会『家庭薬の調査』[P.55]
  9. 高橋晄正『注射の功罪』[P.56]
  10. 親の会『筋短縮症 つくられた障害児たち』[P.56]
  11. 高橋晄正『フッ素とむし歯』[P.63]
  12. 高橋晄正『フッ素の潜在毒性』常識シリーズ・パンフ№25[P.63]
  13. 高橋晄正『むし歯の予防とフッ素の安全性』[P.63]
  14. 日本教職員組合『子どもの歯の現状とフッ素の問題』健康白書№5[P.63]
  15. 高橋晄正『漢方の認識』[P.68]
  16. ユアール『中国の医学』[P.68]
  17. 高橋晄正『漢方薬Q&A』[P.68]
  18. 高橋晄正『カルシウムの正しい常識』常識パンフ№22[P.96_118]
  19. 高橋晄正『牛乳・その選び方』薬のひろば№97特集号[P.96_118]
  20. 高橋晄正『UHT牛乳の栄養学』常識シリーズ№24[P.118]
  21. 高橋晄正『照射ジャガイモの安全度』常識シリーズ№17[P.120]
  22. 高橋晄正『からだが危ない――身辺毒性学』[P.120_146_160]
  23. 高橋晄正『社会の中の医学』[P.134]
  24. 高橋晄正『食品公害のしくみ――AF-2をめぐって』[P.151]
  25. 高橋晄正『給食公害のしくみ――リジン問題の黒い霧』常識パンフ№3[P.154]
  26. 高橋晄正『サッカリンと行政公害』常識パンフ№4[P.157]
  27. 高橋晄正『サッカリン行政を裁く』常識パンフ№5[P.157]
  28. 高橋晄正『新甘味料アスパルテーム』常識パンフ№21[P.160]
  29. 高橋晄正『OPPレモンは食べられるか』常識パンフ№8[P.164]
  30. 高橋晄正『パンと臭素酸カリウム』常識パンフ№15[P.165]
  31. 高橋晄正『食品添加物の常識』常識シリーズ№18[P.173_188]
  32. 高橋晄正『今、子供に何が起こっているのか』[P.173]
  33. 高橋晄正『食品添加物小事典』常識パンフ№20[P.173_188]
  34. ファインゴールド『なぜあなたの子供は暴れん坊か?』[P.175]
  35. 『薬のひろば』「ハム・ソーセージの選び方」№64[P.183]
  36. 『薬のひろば』「学校給食を考える」№79&81&83[P.185]
  37. 高橋晄正&金戸&花村『光化学スモッグ』[P.200]
  38. 石田紀朗『ミカン山から省農薬だより』[P.206]
  39. 『薬のひろば』「農薬の特殊毒性」84号[P.207]
  40. 『薬のひろば』「コンポスト(汚泥肥料)文明批判」68号[P.210]
  41. エンゲルス『自然の弁証法』[P.222]
文献
  1. ミネラルバランスのすぐれた→ミネラルバランスのくずれた[P.127]

内容

中外製薬の肝臓治療剤犯罪[P.16-17]

私は、二〇名に近い教室の同僚の協力を得て、過去一〇年にわたる世界中の肝臓薬の文献を調べ上げ、
それが一九五五年を境にして世界の文明国の医学界から姿を消していることを知った
(「肝臓治療剤の臨床的根拠」、『最新医学』一七巻一二号)。
それは、推計学に基礎をおく科学の方法論が、医学の中に取り入れられた時期に一致していた。
肝臓薬は、世界のどこの国のものでもまだ科学の批判には耐えられないものであった。

私が学会の席上であからさまに商品名を指摘することを避けたのは、製薬会社の良心を信じたからであった。
しかし、その後、二、三のジャーナリズムがこれを探知し、製薬会社に求めた弁明を聞くに及んで、
私はそこには一片の社会的良心もみられず、科学を抹殺して、
国民を欺瞞しながら切り抜けようとする非道な姿が明らさまにされていることを知った。

このころ、朝日新聞の科学部でこのことを書けといってきて、
半ページほどのスペースに要点を書いたのだが(一九六三年一月八日)、
その記事がのると間もなく、中外製薬の社長上野十蔵氏が新聞社に乗り込んでいって、
「グロンサンが効かなかったら腹を切ってみせる」とタンカを切り、
中外製薬の指名する御用学者三名、宮木高明(千葉大)、高橋忠雄(慈恵医大)、阿部勝馬(慶大)各氏に、
次週の同じ曜日の、同じ場所に、同じ大きさで、反論を書かせることを要求し、
朝日新聞の首脳部は科学部の反対を押し切ってそれをのんだのである。

新聞の経営費の半分が広告費であって、さらにその半分が医薬品と化粧品であってみれば、
製薬資本に従属したマスコミとしては、
生きるために節を曲げて人民を虚構の医薬品に誘う共犯者となるのも当然のことであろう。
そこに良識なき資本主義社会のマスコミの悲哀と犯罪性があるというべきであろうか。

このニュースに驚いた東大病院で、
あっという間にグロンサンの処方が前年度の八%に落ちたのは結構なことだったが、
東大病院の処方が、商業新聞を読んで書き変えられているというのは、
変えないよりはましにしても、何ともはや学問的権威のない所業であった。

だが、そうした中外製薬の反撃に対して、東大薬理学教室は動かなかった。

グロンサンの売り上げは五〇億円から五億円へと減少した。
一方、私のこの重大な指摘にもかかわらず、学会がこの事件を完全に無視した理由も、
いまになってみれば明白なことである。

失敗薬キャベジン[P.30-31]

アメリカで、ラットをある配合飼料で飼ったところ、胃潰瘍ができた。
そこで何か足りないものでもあるかといろいろな野菜のエキスを与えてみたところ、
キャベツのエキスを与えた群でそれができないことがわかった。
そこでキャベツエキスの成分の中から胃潰瘍予防因子を探す研究が行われ、
可能性はU成分(キャベジン)とG成分(グルミン)にしぼられた。

動物実験の結果、G成分のほうにその効果があることがわかった。
それも、欠陥食品を与えられている動物にたいする効果であって、
飽食している人間での胃潰瘍に効くというのではない。

害性の判明したノーシンの在庫を売り切ろうとする薬局[P.32]

ノーシンなどの主成分であるアセトアニリドの害作用については、
私たちの機関誌『薬のひろば』の創刊当時にそのために腎障害を起こした死亡例を中心に大々的に取り上げたが、
これを朝日新聞がスクープして報道した。
ノーシンなどの会社も反論ビラを配るなど反撃の姿勢を示したが、
厚生省は一九七一年四月この薬物を使用しないよう行政指導した。

その年の夏、上野に出かけたついでに松坂屋の中二階にある薬品ケースをのぞいてみたら
まだアセトアニリド入りのノーシンが売られていた。
私が、「これ、、まだ売っていいんですかね」と聞いたら、
年配の薬剤師さんが「夏になると新しいのが出るそうですが……」とちょっとばかり申し訳なさそうな顔で答えた。

その年の夏も終わりに近いころ、札幌NHKに呼ばれて行ったときに市内を歩いていて驚いたのは、
アセトアニリド入りのノーシン類が薬局の前に山と積まれていたことである。

東京では見られなくなっても、地方に移動させて在庫だけは一掃するということなのだったろう。

秋になって、私は利根川の上流の山村に講演に行った。
サンプルとして村の保健婦さんに持ってきてもらった公民館の救急箱の中に
アセアニリド入りのノーシンを発見したので、
まだこんな危険なものが残っている、と実物教育をした。
それにたいして何となく会場が白け気味だったのが気になったが、
あとで夕食のときに話を聞いてその理由がわかった。
数カ月前に隣町の薬局からノーシンの半額割引販売の話があり、
保健婦さんの世話で村の人びと大量にノーシンを買い込んだというから、無理もない。

海外旅行に正露丸を持って行くと現地で逮捕される[P.41]

だいぶ前のことだがヨーロッパ旅行に出かける息子に、
水が変わるからと心配した母親が正露丸を一瓶もたせてやったそうだ。
いまヨーロッパでは、上下水道が完備して久しく赤痢や腸チフスの発生がほとんどみられなくなり、
医学校の講義でも学生たちに臨床講義ができなくなっているのだが、母親はそんなことは知らない。

ところでその青年がイタリアに上陸したとたんに荷物検査でつかまってしまい、
警察に一週間拘留されたのである。
罪名は「発ガン物質導入罪」。
母親の心尽くしの正露丸が、息子に縄目の恥を負わせることになったのである。
それにしても、イタリアの税関吏にまで正露丸(クレオソート製剤)の発ガン性が知れわたっているのには驚いた。
青年が日本領事館のはからいで罪にならずにすんだのはいうまでもない。

胃癌硝酸塩説[P.85-88]

東大の病理の吉田富三教授が、病理学教室で解剖されたなかで、断然胃ガンが多かったのだ、
胃ガンができるのに一〇年はかかることを考えると、それが食事のせいだというなら明治初年の胃ガンは、
江戸末期の日本人の食べ物の中にその原因があることになるといったという。

いわれてみるともっともな話だが、アメリカのファインの報告は、まさにそれを裏づけるものであった。

彼はまず、世界一一カ国の国民が毎日の食事からどのくらいの硝酸塩を摂っているかを計算してみた。
次に、各国の胃ガンによる死亡率の統計を集め、両者の関係を一枚のグラフに描いてみたのである。
わが国の国民一人一日当たりの硝酸塩の摂取量はだんぜん多く、
外国で最高位にあるチェコスロバキア、ユーゴなどの二倍にもなっているが、
胃ガンによる死亡率もそれに比例してそれらの国ぐにのちょうど二倍になっているのである。

ところで、私たちの食べる食品の中のどれにそんなに硝酸塩が入っているかを
国立予防衛生研究所の河端俊治氏が調べているが、
一日三〇〇ミリグラムにも及ぶ硝酸塩の九〇%は、野菜からきているのである。

そう言われてみると、お浸し、お汁の実、漬け物、鍋物の材料と、私たちの食卓はたしかに野菜は豊富である。

その野菜の中の硝酸塩は、野菜をよく育てるために畑に撒かれるチッ素肥料が、
土の中のバイ菌の作用をうけて硝酸化され、根から野菜の中に入ってきたものである。

ファインが食べ物から摂取される硝酸塩と胃ガンの関係を調査したのは、
もちろん食べ物に由来する亜硝酸塩と二級アミンからできる発ガン物質ニトロソアミンが念頭にあってのことだが、
体内に入った硝酸塩はいったいどこで亜硝酸塩に変わるのかということを検討してみる必要があることになる。

一食に三〇グラムのハムを食べるとして、その中の亜硝酸塩の量は〇・五ミリグラムくらいだから、
のちに述べるように体内に入ってから口の中でできる亜硝酸塩のほうが六〇倍も多いことになる。

もう一つ、漬け物というのは、漬け物桶の中でいいバイ菌の働きで発酵させ、
おいしい味をつくる日本独特の食べ物であるが、このとき野菜中の硝酸塩が亜硝酸に変わるのである。

たとえば白菜漬けの中には硝酸根一五二ミリグラム、ニトロ基が〇・一七ミリグラムが含まれているが、
これを食べたあと、唾液の中に一五〇~一七〇ppmの硝酸根と五〇ppmまでのニトロ基が出てきて、
半日くらいつづくのである。

この唾液の中の亜硝酸根(ニトロ基)はいったいどこから来るのだろうか。
胃とか腸とかでできたものが血液の中に吸収されて唾液の中に分泌されてくるものと考えるのがふつうだが、
じつはそうではなかった。

唾液腺から唾液を口腔に運んでくる管の出口に細い管をつっ込んで唾液をとってみると、
その中には硝酸塩はあるが、ニトロ基はみられないという不思議なことがわかった。

食事とともに唾液の中に大量に出てくる硝酸塩はいったん口腔内に分泌されたのち、
口の中のバイ菌によって亜硝酸塩(ニトロ基)に変わるのである。

ところで、発ガンの共犯者の片割れである二級アミンがどんな食品に多く含まれているかを調べた研究があるが、
魚ではにしん、たら、いわしなどがやや多いほうだが、これを貯蔵したらどうなるかが問題である。

魚の貯蔵法といえば、塩漬け、乾物、缶詰などだが、日本中どこへいってもおいしいのはいかの塩辛である。
しかし、塩辛の味は、二級アミンのでき具合によるのである。

乾燥貯蔵した魚といえば煮干、乾いわし(めざし)、かつお節というところだが、
乾たらには生のたらの三〇倍も二級アミンが含まれている。

するめはいかを乾燥したものだが、
その中にも乾たらに匹敵するくらいの二級アミンが含まれているし、
いかの燻製にもその半分くらいは含まれている。

缶詰では、鮭煮、さば水煮には中くらい、いわし油煮、いかしょうゆ煮には
とびぬけて大量の二級アミンが含まれている。
高級品のまぐろ油煮やかに缶に比較的少ない。

これもファインの実験であるが、昼食にパン一二〇グラム、ベーコン一七〇グラム、ほうれん草三一〇グラム、
トマト二〇〇グラム、それにビール四六〇グラムを摂ったあとの血中ニトロソアミンの測定をしたところ、
それは三〇分で最高値に達し、三時間後に向けて減少している。

わが国でも、ジューサーにかけてから一日放置した小松菜ジュースに
いかの塩辛を加えたものをモルモットの胃の中に注入し、
一時間後に取り出した胃内容物からニトロソアミンを検出している。
しかし、新鮮なジュースを使ったのでは出ていないし、いかの塩辛だけでは出ていない。

玄米くる病[P.89-90]

イギリスのメランバイは、仔イヌに穀類の多い食餌を与えるとくる病になるのは、
そのなかのフィチン酸がカルシウムの吸収を妨げるためであり、肝油がその治療に役立つことを明らかにした。

その影響でわが国でも大正年代後半に多数の実験が行われ、
「玄米くる病」という病名ができたのもそのころのことである。

砂糖カルシウム溶出説の反駁[P.101-102]

「砂糖の摂り過ぎでカルシウムの喪失が起こり、骨が弱くなる」という説が消費者のなかに広まっているが、
この説を支持する国外の論文は発見することができない。
またこのことを著書として刊行している著者に照会したが、原著として発表された論文は送られてきていない。
極端に大量の砂糖を与えて糖の代謝不全を起こさせ、
多糖のケトン体の生成によって酸血症をひき起こしたときには
骨からの脱カルシウム現象が起こりうるものと考えられるが、
こうした状況は人間の日常生活のなかでは容易に起こらないものと考えられる。

化学塩[P.103-104]

専売公社(当時)では海水をイオン交換膜法で濃縮して塩を取り出している。
これは、合成樹脂の膜(スチレンとジビニル・ベンゼンを高分子重合させたもの)で仕切った海水槽に電圧をかけ、
ナトリウムイオンや塩素イオンを集中的に濾し取るもので、
このときPCBなどの汚染物質を除き去ることができるから、
海水の汚染の影響をうけることがないのが特色である。

このイオン交換膜から、低分子の合成樹脂成分や可塑剤として添加されている
フタル酸エステルが遊離してきて塩を汚染する心配はないことが、
専売公社への問い合わせで明らかにされた。

もっとも、専売公社も、並塩、食塩、家庭塩にはイオン交換膜法でつくった塩を使っているが、
精製塩、漬け物塩、ニュークッキングソルトには輸入した塩田塩を原料としている。

イオン交換膜法で海水濃縮をする方法は、
その高い濾過性能からみて安全性についてはまず問題がないように思われる。

自然塩として販売されているものに「伯方の塩」(松山市)という名称のものがあるが、
これは海外から輸入した塩田塩を井戸水に溶かし、煮つめて食塩を再結晶させたもので、
基本的には専売公社の精製塩、漬け物塩、ニュークッキングソルトと同系統のものである。

ただ、専売公社の場合には、溶解後、食塩の純度を上げるために苛性ソーダを加えるという捜査を行っているが、
これも最終段階までに完全に中和してあれば問題はない。
また、サラサラとした感じを出すために塩基性炭酸マグネシウムでコーティングしていることも、
とくに問題はない。

「赤穂の天塩」の不純物混入問題[P.105]

現在、自然塩として販売されているもののなかで、
中国から輸入したニガリを添加しているのは「赤穂の天塩」といわれるもので、
「伯方の塩」には添加されていない。

「赤穂の天塩」の着色が問題になったことがあったが、日本食品分析センターに分析を依頼した結果、
「着色物質より、主成分として鉄(Fe)が検出され、他に少量のケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、
マグネシウム(Mg)などが検出された」と報告されたことがある。

これをわかりやすくいうと、「着色物質の主成分は、水酸化鉄であり、
他に少量の岩石を構成する鉱物(造岩鉱物)を含む物質である」となるという注釈がついていた。
つまり、鉄さびと砂が混じっていたということである。

このように、天然のニガリにはいろいろな不純物が混入する可能性があるので、
最近では豆腐の凝固用には、純粋の塩化マグネシウムが食品添加物として許可されている。

ワラビと膀胱癌[P.108-109]

わらびの毒性については、元東京大学医科学研究所広野巖教授が岐阜医大病理にいた頃、
三篇の英文論文を発表しているが、日本語で詳しく書かれたものがないので次に紹介する。

そもそもは、少量のわらびを数カ月ないし数年にわたって食べた家畜が血尿を出し、
膀胱にポリープ様のものがみられることがローゼンベルグ(一九六〇年)によって、
また膀胱腫瘍のみられることがパンムッシュ(一九六三年)によって報告された。
一九六五年、エバンスとマンソンは、わらびを食べさせたラットの小腸に腺ガンが多発することを報告したので、
わらびの中に発ガン物質のある可能性が出てきた。
さらにパンムッシュらはわらびを食べさせたウシで膀胱新生物を(一九六七年)、
ラットで腸と膀胱にガンを(一九六九年)証明した。

パンムッシュは、日本人に胃ガンの多いのは、
わらびを食べる習慣のあることが関係しているのではないかとその論文の中で述べているので、
広野らはあく抜き、ゆでる、塩漬けにするなどの処理が、
その発ガン性にどのように影響するかについて実験を行った。

① ゆでると減る

ゆでると回腸・盲腸のガン・肉腫が著しく減るが、膀胱の腫瘍は増える。
ゆで汁には発ガン性がないから、この発ガン物質は熱で分解するといえる。

② あく抜きと塩漬けの効果

木灰や重曹でのあく抜きや、四カ月の塩漬けで発ガン性が著しく減る。
しかし完全に発ガン率ゼロにはならない(なお一〇%の発ガン率)。

③ 巻いている部分、茎、根の危険度

発ガン性は巻いている部分に多く、茎の部分がこれに次ぐが、根の部分が最も多く発ガン物質を含んでいる。
しかし、根から作ったデンプンには発ガン性がまったく存在しない。

洗剤病(ベーチェット病と脳下垂体腺癌)[P.123]

界面活性剤は重金属の吸収をも促進する働きをするが、
難病の一つである「ベーチェット病(前眼房蓄膿性ブドウ膜炎、虹彩炎、アフタ性口内膜、外陰潰瘍など)」
の原因として、前眼房内における重金属の大量蓄積との関連が指摘されているが、
その吸収促進に農薬または合成洗剤の関与が部分的に指摘されている。
ベーチェット病は、わが国で世界最高の発生率を示しているが、合成洗剤による食品・食器の洗浄、
医薬品への配合がわが国における奇病の発生に何らの寄与もしていないということはありそうにもない。

≪中略≫

合成洗剤を二〇―三二〇ミリグラム/キログラム与えたラットでは、一六一匹中の一五匹に発生しており、
その発生率は五・五九%で自然発生率の約四倍であり、その差は統計学的に有意である。
したがって毎日合成洗剤を二〇―三二〇ミリグラム/キログラムずつ摂取していると
脳下垂体の腺ガンが四倍くらいふえることになる。

ブルーベビー症とベビーフード[P.128]

ベビーフード用粉末野菜の使いかけを放置した場合に、
空気中から落下するバイ菌や容器に付着しているバイ菌のために亜硝酸となり、
これが吸収されて血中の赤血球と結合し、
酸素との結合性を奪ってしまうためにブルーベビー症(幼児青色症)となり、
死亡する危険に瀕することが報告されている。

黴米配給決定事件[P.133-134]

戦後の食糧難のなかで、私たちが最初に当面したのは、
輸入商社によってエジプトや東南アジアなどで買いつけられ、
倉庫の不完全なまま埠頭で雨ざらしになった外米が、
熱帯を通過して運ばれてくる船の船倉の中でカビ米となってきた事件であった。
政府はこれを一〇%搗き減りする程度に搗精して配給しようとしたが、農林省食糧研究所の角田広技官は、
東南アジア従軍中にカビ米を食べた兵隊たちに肝臓や腎臓障害の多発したのを経験したことから、
カビ米で飼育したラットで、肝硬変や腎傷害の発生することを証明したと発表したので、
数十万トンに及ぶカビ米(黄変米と呼ばれた)の配給が議会で問題になり、それにストプがかかった。
一九五三年のことである。

厚生省の食品衛生調査会は上のように処理したうえで配給を可とする答申をする方向に動いていた。
東大薬理学教室の浦口健二助教授を中心とする毒性研究班の実験はまだ未完成であった。
応用統計学者の増山元三郎氏と私は調査会メンバーに誘われ、データの統計解析の面から、
一〇%搗き減りの安全性を保証することが不可能であるという論陣を張った。

最終決定の日、増山講師と私には通知のこないままに配給を可とする答申は決定された。
私たちの抗議にたいして厚生省は「事務手続上の手違いで申し訳ない」といったが、
答申の決定はどうにもならなかった。
官僚の悪質なワナにはめられた最初の経験であった。

AF-2告発運動の発端[P.149]

ニトロフリル・アクリル酸系の化合物は大阪の上野製薬が開発し、
特許をとって独占販売していたもので、その毒性については当時ほとんど文献がなかったが、
この系統の化合物を食品添加物として用いることの危険性を最初にわが国に紹介したのは、
東京医科歯科大学の柳沢文徳教授であったようである。
その出典は、アメリカで発行された小冊子で、そこには
「日本ではニトロフラン系の化合物が食品添加物に使われているが、これは危険なことである」
と数行書いてあった。

郡司氏は、柳沢文徳教授がどこかで講演のときに話されたのを聞いて、自分の著書に書いたものと推測される。
上野製薬は業務妨害として東京地検に告発し、郡司氏は防衛の準備をする暇のないままに起訴された。

リジン添加給食パン[P.152-154]

一九五五年ごろ、技術革新によってアミノ酸の量産が可能になった時点で、
味の素株式会社・協和醗酵株式会社などのアミノ酸企業は、
栄養学者たちを集めて「必須アミノ酸研究会」を設立し、
一九六四―六五年に四国・大阪・山梨・東京・青森の五地区の学童の給食のパンにリジンを添加する実験を行った。

それをまとめた資料はリジンの有効性を証明するもののように取りつくろわれていたけれども、
よく分析してみると、二重目隠しのもとでの対照試験を行った例では有効性の証明はなく、
逆にリジン添加群の学童の立ち幅跳びは年々対照群より低下していく傾向がみられ、
筋力低下の可能性を証明していた。

≪中略≫

コムギ粉に添加されたリジンは食品で摂られたのと異なり、筋肉中に入ってカリウムを追い出し、
筋力を低下させるという害作用が予備研究で明らかになっていたのである。

≪中略≫

一方、タンクで細菌を培養してアミノ酸を合成させる方法が
石油たんぱくの製造法と同じタンク培養方式であることから、
私は炭素源として用いられるn-パラフィンや糖蜜廃液中に含まれる発ガン物質
3、4-ベンツピレンがアミノ酸に吸着されてはいないだろうかと考え、
埼玉県和光市のお母さんたちが勉強用に入手した給食用リジン中の発ガン物質を
知人の科学者に頼んで分析してもらった。
それは1ppb程度に検出され、全国のリジン添加反対運動に油をそそぐことになった
(ppbはppmの一〇〇〇分の一)。

赤色三号(エリスロシン)[P.178]

赤色三号(エリスロシン)は、アメリカではまだ禁止していないが、
これについては神経細胞への影響について注目すべき論文が発表されている。

それは、マリーランド大学のオーガスチン(一九八〇年)のもので、
カエルの神経と筋肉のついている標本を取り出して、
そこに赤色三号の一〇マイクロモル溶液(一〇ppm)という超希薄溶液を作用させただけでも、
神経の末端から神経伝達物質であるアセチルコリンの放出が起こることを明らかにしている。

そしてその五倍の五〇マイクロモルの溶液を一五分間作用させたあとで、十分に生理的食塩水で洗っても、
少なくとも三時間はアセチルコリンの放出が止まらなかったという。
まさに神経伝達物質がたれ流し状態になってしまうというわけである。

ところで、口から入った赤色三号が血中または神経組織内でどのくらいの濃度になるかであるが、
ラットに与えると、大部分は糞中に出てくるが、
〇・四~一・七%が変化しないまま胆汁中に出てくるというから、腸から吸収されることはまちがいない。
しかし血中濃度がどのくらいになるかは書いていない。
福島医大の朝比奈氏がやや大量の赤色三号をマウスの皮下に与えたのでは、
三二時間後でも血中濃度は一ミリリットル当たり一・七マイクログラム(一・七ppm)以下にならないという。

水曜会の亜硝酸塩添加量調査[P.179-180]

東京都武蔵野市に水曜会というお母さんたちのグループがある。
そこに食品・薬品公害の連続講演に行ったことが縁で、
このグループのハム・ソーセージについての調査に協力することになった。
その代表者は、東大自主講座「医学言論」のときからの知り合いであった。

まず最初に、自分たちの住んでいる武蔵野市では
どこの会社のどんなハム・ソーセージが売られているかという予備調査がなされ、
それでわかった二五社にたいして、
原材料、調味料など一六項目にわたる成分や添加物についてのアンケート用紙を送り、回答を求めた。
二三社から合計合計一九〇品目についてのデータが送られてきた。
それを一覧表にまとめてみると、
私たちの身のまわりにあるハム・ソーセージの成分を具体的に示すまことに貴重なデータであった。

とくに発色剤亜硝酸塩の量は、
国の許可基準の七〇ppmが業界の自主規制によって五〇ppmに引き下げられていることがわかったが、
現実には添加しているものでも一〇ppmという低い値のものが多くなっていることに驚かされた。
それであれば一〇〇グラム食べても一ミリグラムの亜硝酸塩を摂取するにすぎず、
野菜中の硝酸塩から体内で生成される亜硝酸塩が一日に三〇ミリグラムに及んでいることを考えると、
その比重はあまり問題にならないこともわかった。

三西化学工場周辺で癌死増加[P.201-203]

一九七一年に、私は九州の久留米市の郊外にある荒木町で、
農薬加工をしている三井東圧系の三西化学工場の周辺の住民に農薬被害が発生しているので
調査してほしいという訴えをうけたのである。

九州大学の青年医師、検査技師、看護婦、学生たちの協力を得て、
一九七二年四―五月に、工場周辺住民中の希望者一三四名に精密検診を行った。
その結果、いろいろな異常が高率に発見されたが、最も特異的だったのは、
受診者の三分の一の人たちの血清コリンエステラーゼ活性値が正常値以下に低下していることであった。

それらの住民の大部分は農業に従事しておらず、
有機リン系やカルバメート系の農薬中毒の可能性は考えられなかった人たちであった。
そこで、それらの人びとについて三〇品目近い生活条件の調査を行い、
コリンエステラーゼ活性値の低下している群とそうでない群で
出現率に有意な差のある項目は何かを統計学的に検定してみた。
その結果、意外なことに井戸水使用者に高率であることだけが有意であることがわかった。

それまで、農薬被害はありうるとしても、作業中の粉塵による大気汚染によるものとばかり考えていたが、
工場による地下水汚染の可能性のあることが出てきた。
そこで、福岡県衛生研究所や長野県佐久病院にある農村医学研究所に数カ所の井戸水を送り、
農薬の検出を依頼した。

その結果、α、β、γーBHC、PCP(除草剤)、有機リン農薬、MO(除草剤)などが、
検査者が資料がどぶ水のまちがいではないかと驚くほどの高濃度で井戸水中に検出された。

私は知人で、農薬の環境汚染研究で有名な愛媛大学農学部の立川涼教授に依頼して、
工場周辺の土壌、水、空気について広範囲にわたって農薬汚染の状況を調査してもらった。
その結果、筑後平野の平均的状態と比較して、工場周辺は明らかに汚染度が高く、
汚染源は農耕に用いられた農薬ではなく、三西化学工場であることが明らかにされた。

私はたびたび現地を訪れているうちに、
最近工場周辺の人びとにガンで死亡する人が多いという訴えを、住民たちから聞かされた。
抗生物質が楽に使えるようになった現在では、
私たちは脳卒中か心臓麻痺でなければガンで死ぬよりほかに死にようがないのだからとも思ったが、
念のために福岡法務局に手続きして許可を得、
学生たちの協力のもとに地域の人びとの死亡診断書の病名調査をしてみた。

その結果、農薬工場がやってきた一九六〇年ごろから、工場周辺三〇〇メートル以内の住民のガン死亡率は、
工場周辺において増大してきているという恐るべき事実が明らかにされた。
そして、現地の住民のカンの素晴しさに驚かされたのであった。

工場を取り巻くガン死亡の輪は、
年を追うにつれてドーナツ型に周辺に拡大する傾向がみられるが、
そのしくみなどについては簡単には判らなかった。
現在、二名の原告が工場の操業停止を求めて訴訟を提起してもう十数年になる。
現在の法理論では未必の健康権侵害を理論化するのはなかなかむずかしく、裁判所は和解を求めている。

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