バベルの図書館

書籍と雑誌の要約と解説

ステロイドいのちの電話

江崎ひろこに寄せられたステロイド禍報告

装丁
ステロイドいのちの電話――2000人の叫び ステロイドいのちの電話――2000人の叫び
江崎ひろこ(日本ステロイド軟膏禍第一原告)
かもがわ出版
ISBN4-87699-006-9
1991/04/10
¥1300
解説
「ステロイドいのちの電話」の設立動機は、立派な使命感があってのものではない。

一九九〇年三月に、
私の二冊目の著書「そっと涙をぬぐってあげる」出版の記事が、A新聞に掲載された。
それからというもの、早朝七時過ぎから夜の十時過ぎまで、ひっきりなしに電話がかかり出したのだ。
家族4人のうち誰かひとりは電話番という事態になり、
食事も入浴も、トイレさえゆっくりできなくなるにいたって、
せめてわが家の生活ペースを取り戻したいと考え出したのが、
電話受付時間の制限だったのである。

同年四月末、
「ステロイドいのちの電話」設立の記事がニ、三の新聞に掲載される。

これで時間外にかかる電話はグッと減った。
だが二時間のあいだに約三十件。
しばらく私は電話の前に二時間座りきりという日々だった。

さすがに半年たつと一日四、五件になり、
やっと私はゆっくりと記録ノートを見直す余裕ができた。
地獄の日々をのたうちまわって生きている人々の肉声が、
ノートの文字から甦る……。

目次
  1. パートⅠ
    1. 絶叫「死にたい!」
    2. ひもじさに耐える
    3. やめられたら奇蹟
    4. 「おばあちゃんを恨みなさい」
    5. タイムリミット
    6. 結婚生活も地獄!
    7. 「油断もスキもありゃしない」
  2. パートⅡ
    1. オバケ宣言
    2. 「あんた、強いなあ」
    3. 「自分のこと好きでいてね」
    4. こんな人もいるんです
    5. クリニックとそうじ寺
    6. なんて身勝手な人達
  3. パートⅢ
    1. 腰骨がなくなった
    2. 呪い殺してやった
    3. ああ膣が、唇が!
    4. 思わず笑っちゃいます
    5. 「心中しよう」と言った医者
  4. パートⅣ
    1. アトピー考
    2. 本当は治っていない
    3. 怖いのは知っているけど
    4. 知りたいの?知りたくないの?
    5. 終着駅
    6. 本屋の店先を借りたい
    7. 自分で治したワンちゃん
    8. 生きかたが決められない
    9. ある日の電話
  5. パートⅤ
    1. 学生達
    2. 法律事務所へ行く前に
    3. とにかく顔を見せて歩いて!
    4. よく効く薬は……?
    5. 行政からのメッセージ
    6. 読者からの手紙

内容

絶叫するステロイド皮膚症患者[P.11]

どうしてあげることもできないのが、この絶叫型である。
受話器をとるなり「ウワァー」という泣き声。
続いて「もうイヤ!死にたい!」泣き叫ぶ声。
若い女性だ。
「おいくつ?」「今、どんな状態?」たたみかけるように尋ねる私。
でもすすり泣くだけで答えない。困ったな、と思う。
一分もたっただろうか。
「ごめんなさい。つらいの。ごめんなさい」
電話は一方的に切れてしまった。
何歳なのか。どんな症状なのか。
どこの人?OL?学生?……なにもわからない。
しかたがないので記録ノートに「女、絶叫“死にたい”」とのみ書き込む。

除去食がアレルギーマーチを増悪させる[P.14-15]

その女の子は、生後まもなくアトピー性皮膚炎と診断される。
母親がステロイド軟膏の怖さを熟知していたので、
ステロイドは一切使わず、除去食が開始された。
しかし最初は卵や牛乳をやめるだけで十分効果があったのだが、
段々除去する品目を増やさざるをえなくなり、
ついにアワとヒエしか食べられなくなってしまう。
いのちの電話には、こういった例がたくさん報告された。

母親を逆恨みするステロイド皮膚症少女[P.21-22]

「娘にあんな恐ろしいことを言われたの、初めてです」
電話の声は震えていた。四十代の主婦。
現在18歳の娘の全身に、18年間ステロイドを塗布し続けた。

「かゆくてただれた肌で夜泣きしている子を放っておく親がどこにいます!?」と母親は言う。
しかしともかくも18年間塗布された娘は全身ズルズルになってしまった。
「誰が薬塗ってと頼んだ!誰も頼んでいない。お母さんの一存で塗ったんだ。
責任もって治してほしい。治らないのなら、お母さんを一生恨んでやる」
血膿にまみれ、その子は泣き叫んだという。

「耐えられますか?」と尋ねてみた。
「まだいけそうです。でも限界がきたら、この子を殺して私も死にます」
そう言って、電話は切れた。

子供の脱ステロイドを妨害する姑[P.23-25]

私と同年輩の彼女は三人の子を持つ。
三人ともアトピーでステロイドを塗布していた。
ある日、書店で私の著書を読み、大きなショックを受ける。
子供達を廃人にしてしまう!!
彼女はどんなひどいリバウンド(禁断症状)がきても廃人になるよりはましだと考え、
子供達への塗布を中止することにした。
当然のごとく肌はほてり、ただれはじめる。
その様子を見て姑さんが烈火のごとく怒り出したのだ。

「あんた、可愛い私の孫になんてことするの。
薬で廃人になるなんて聞いたことがない。
“そんな恐ろしい薬やったら医者が処方するはずないやろ”。
シロウトが医者に逆らってどうすんの。
私が許しまへん。子供達に早く薬を塗ってやり!」

唇をかんでいる彼女に、
姑さんは「嫁のくせに生意気な!嫁はなんでもハイハイと従ってたらよろしい」と怒鳴ったという。
彼女の夫も「お母さんに従ってろ!」と叱った。

彼女は泣く泣く三人の子供達の全身にステロイドを塗布した。
わずか二時間で肌はつやつや、“ペラペラ”になった。
それを見て姑さんは「見てごらん。年寄りの言うことに間違いはない」と言い放った。

彼女は電話口で静かに言った。
「あれだけ毎日毎日全身に塗っていたら、十年後どうなるか……。
でもその時私は子供達に言うつもりです。
あなた達を廃人にしたのはおばあちゃんよ。
悔しかったら、おばあちゃんを恨みなさいって」

ステロイドの恐ろしさを信じない身内[P.24_33]

彼女はどんなひどいリバウンド(禁断症状)がきても廃人になるよりはましだと考え、
子供達への塗布を中止することにした。
当然のごとく肌はほてり、ただれはじめる。
その様子を見て姑さんが烈火のごとく怒り出したのだ。

「あんた、可愛い私の孫になんてことするの。
薬で廃人になるなんて聞いたことがない。
そんな恐ろしい薬やったら医者が処方するはずないやろ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
シロウトが医者に逆らってどうすんの。
私が許しまへん。子供達に早く薬を塗ってやり!」

唇をかんでいる彼女に、姑さんは
「嫁のくせに生意気な! 嫁はなんでもハイハイと従ってたらよろしい」と怒鳴ったという。
彼女の夫も「お母さんに従ってろ!」と叱った。

*   *   *

彼女には助けてくれる人がいなかった。
実家のお母さんでさえ、ステロイドを塗布すればすぐ良くなるのに、
わざわざ醜い顔で我慢しているあなたが理解できないと言って、
愛想をつかしているという。

ステロイド軟膏を化粧下地にするのを止めようとしない主婦[P.26]

「嫁がわかってくれなくて困っています」
電話の声は本当に困りきった様子だった。

嫁がステロイドを化粧の下地クリーム代わりに使うので、
薬の怖さを教え、半ば強制的に使用を中止させた。
当然顔は真っ赤にただれる。

するとお嫁さんは
「私を醜くして面白がっている。うちのおばあちゃんは鬼だ」
と近所や親せき、実家にまで言いふらしたのだという。

「おかげで外も歩けません、みんなに白い目で見られて。
なかには直接、なんで××子をいじめるのとくってかかってくる人もいます。
わかってもらえなくて悔しい!もっともっと世間にステロイドのことが広まってほしいです」

子供がステロイド皮膚症になると夫は妻に責任を押し付ける[P.27]

「育児は全ておまえにまかせてある。
その子の皮膚病をこじらせるなんて、おまえは自分の役目を放棄するのか。
俺はしっかり働いて食わせてやって、責任を果たしている。この子が治らなかったら責任とれよ」

夫にこう言われ、泣きながら電話をしてくる女性の、なんと多いことよ。
年齢も二十代から七十代までバラエティーに富んでいる。

ステロイド点滴で寝たきりになった症例[P.35]

その女性の声は最初から最後まで震えていた。

高校時代に湿疹と診断されたご主人は全身にステロイドを塗り続け、徐々に悪化。
ここ八年間に十回入院し、ステロイドの大量点滴を受けたところ、
半年前から骨が痛んで起き上がれなくなり、全身ズルズルのまま寝たきりだというのだ。

「もう主人、駄目なんでしょうか」

大きなカマボコ屋さんで、ご主人はひとり息子。
あとを継いだばっかりだった。

「仕事は従業員が大勢いるので大丈夫です。でも私達の人生はもう終わりみたい……」

おむつかぶれの予防にステロイドを塗布する看護婦[P.36]

ステロイドの副作用については熟知していたので、
自分の子供には絶対使わないつもりで、彼女は男児を出産した。
一週間後、退院。その数日後から赤ん坊のお尻がジュクジュクしてきた。
湿疹ではない。赤味を帯びている。
変だと思い、産院で相談したところ、恐るべき事実がわかった。

なんと産院の看護婦が、おむつかぶれの予防・・・・・・・・・のために、
おむつ交換のたびに赤ん坊のお尻にステロイドを塗布していたというのだ!

ステロイド脱毛の症例[P.45-46]

頭にステロイドローションを連日ふりかけていたら、
頭髪は全部抜けてしまい、ツルツルの頭は血膿でズルズル。
ひっきりなしに膿が流れ落ちてくるので、手ぬぐいを坊主頭に巻いて、しのいでいるという。

「それにしても恐ろしいかゆさですなあ。なにも手につかん。たまりませんわ。
まだ四十日目です。あんた、十年以上も耐えてるんですか。
強いお人ですなあ。男のワシは、もう限界。気が狂いそうです」

ステロイド皮膚症は元には戻らない[P.49]

医学的にきちんとしたことはわからないが、
私の知る限りでは、もとどおりになった人はほとんどいない。
皆無といってもいいぐらいである。

IgE5万の患者[P.54]

IgEが五万! という女性が電話してきた。

五万というと、神経が体の表面にむき出しになっていると思えるほど、感じるという。
掌に水をうけただけで、軟水か硬水かわかる。
タマネギやニンニクのような刺激物は、手でつかむと掌全体がしびれる。
添加物がいっぱい入った食べ物を口にすると、のどがえぐれるように痛む。
合成洗剤で洗った衣服はピリピリして着られない。
他人の家に入っただけで、その家にペットが飼われているかどうかわかる。
動物園や植物園へ行くと全身真っ赤になり、激しいかゆみが襲う。……

「神経の休まる時がないんですよ。
いつも外部からの刺激を受けてピリピリしてる。
しんどいです。なにもない一日を過ごしたい……」

恐怖のステロイドクリニック[P.58-60]

その女性は二十六歳の主婦だった。
東京の某クリニックから、命からがら逃げてきたと言う。
ステロイドを使わずにアトピーを治すという、そのクリニックの広告を女性週刊誌で読み、
長年アトピーに悩んできた彼女は、大喜びでそこへとんで行ったのだった。

そのクリニックではレーザー光線を当て、注射をし、白い軟膏を塗布するという。

注射と軟膏の成分を尋ねると
「医者を信じない者は治るものも治りませんよ」と一喝された
(あとで、軟膏塗布の理由を、クリニックの院長は気休めのためだと言った)。

そのクリニックは入院設備もあったが、彼女は通院した。
しかし関西から東京まで週三回も通えないので、やむなく東京にアパートを借りた。
そのクリニックには、彼女と同じようにアパートを借りたり、
なかにはホテル泊まりをして治療に専念している患者が大勢いた。
三ヵ月ほどで肌はつやつやし、彼女は元気いっぱいの女性となる
(ステロイドを内服すると、一時期ものすごく体力、気力が増すことは前述した)。

ところが、もう治療の必要なしと言われて治療を中止したとたん、
動けなくなるほどの脱力感とともに全身が真っ赤になってむくみ、
血膿が吹き出した(典型的なリバウンド現象)。
あわててクリニックへ行くと入院となった。
数カ月点滴を受け、いったんおさまる。
しかし点滴を三日も休むと症状がぶり返した。

ある日、彼女は散歩中にクリニックの焼却場に
大量の点滴や注射の容器が捨ててあるのを見つける。
なにげなくその一つを拾って、知り合いの医者に見せると、

「どこから見つけてきたの。これ、かなりの重症患者に使うステロイドだよ」

彼女はショックを受けた。
激しい怒りを感じた彼女は弁護士に頼み、カルテをコピーしてもらった。

しかし彼女はまたもやショックを受ける。
カルテには×月×日点滴△△mgとしか記載されてなかったのだ! 
弁護士も「全く悪質だが、これではどうしようもない」と言った。

裁判を断念した彼女は、とにかく自分の命だけは守らなければと思い、退院したい旨を告げた。
が、院長は許可しない。
殺される!! と思った彼女は、深夜こっそりクリニックを抜け出し、タクシーで関西に逃げ帰った。
さすがに院長はそこまでは追ってこなかった。
そして入院費請求書もこなかったのである。

<中略>

クリニックでは患者に故意にステロイドを投与し、中毒にさせて入院が必要なほどの重症にさせ、
一生ステロイド不可欠の体にして大もうけしているらしい(ここは保険が利かないので)。
それでもまだクリニック内には多くの患者が入院しているのだ。
なかには、投与されているのがステロイドだとわかっている患者もいる。
一日とてステロイドなしでは生きられないため、訴えるどころではないのだった。

私のもとへは同じような被害例がたくさん報告されてきた。
サギだと言って警察へ届けた人もいた。
しかし忙しいからと門前払いされた。

漢方薬アナフィラキシーショック[P.64]

私の知人は人から強引に漢方薬を勧められて飲み、
ショック症状を起こして救急車で運ばれ、危うく一命を取りとめた。
医者の診断では、漢方薬自体は悪くなかったが、
ずっと服用していた抗生物質と漢方薬が当たったということだった。

アトピーの会代表のエゴイズム[P.65-66]

私を利用してひともうけしようという人もいた。
あるアトピーの会の責任者である。

「あなたの本、あなたが購入すれば少し安くなるんでしょ。
その値段で売って下さい。
実はアトピーの会の資金が不足してるんで、
こちらのバザーで定価で売って、差額分を資金にしたいので、小包で送って下さい」

びっくりした。
彼は著者割引の事を言っているのだが、
なぜ私が小包の送料持ちでそんな事をせねばならないのか。
彼は当然の事をしているといった態度だった。
今までも何度か無報酬どころかお金を使わせて、私に原稿を書かせた人だった。

骨盤が消失したステロイド皮膚症主婦[P.72-73]

その五十代の主婦は入院先の病院から電話をしてきた。
動けないのでストレッチャーに寝たまま娘に
電話口まで連れてきてもらって、かけているという。

最初は顔の湿疹でステロイド塗布を始めた。
その後どんどん量が増え、内服もして三十年きた。
医者に何度副作用のことを尋ねても、大丈夫の一点ばり。
あげくには「医者の言うことを信じない患者には薬をあげないよ!」と威された。

が、ついにある朝突然歩けなくなった。
救急車で病院に運ばれて足のレントゲンを撮ったところ、腰骨が写らないという。
三十年近くステロイドを内服してきたことを告げると、医者は絶句した。
そして、「ステロイドいのちの電話」のことを知り、
必死の気持ちで今、電話をかけているのだとのことだった。

「たぶんステロイドの副作用でしょうね。骨がボロボロになるんです」

私が言ったとたん、「ウワァー!!」と彼女のものすごい絶叫が聞こえた。
しばらくけもののように吠えてから、「あの医者殺してやる! 三十年も嘘つきおった。
私はどうせ長くないから、死んだらあいつを呪い殺してやるんだ! 私の骨を返せ!」

受話器の向こうでわめきちらした。
そばの娘さんが電話を代わり、「母は心臓も悪いそうなんです。
ステロイドを使い過ぎましたねと、今の病院の主治医が言いました」

そう言って泣きじゃくった。父親はなく、母子二人暮らし。
来春高校卒業予定だという。
看護婦らしき人のなだめるような声がして、電話は一方的に切れた。

膣がただれたステロイド皮膚症主婦[P.78]

五十代の主婦からの電話だった。

「申し上げにくいのですが……、私、ステロイドを三カ月間膣に塗ってしまったのです」

「エ~!?」と言ったきり、私は声が出ない。

「膣がただれてきたので産婦人科へ行ったのです。
治るまで・・・・塗りなさいと渡されたのがステロイド剤でした。
今から思えばバカみたいですね。治す薬じゃないんですもの。
でも私、知らなくてせっせと塗りました。
だんだんただれてきた頃、あなたの本に出会い、
心臓が止まりそうになるほどの衝撃を受けました。
あわててやめたのですが遅かったんです。
今もナプキンが離せません。婦人器官全体が血膿でグチャグチャ。
トイレに行くとすごくしみて痛いです。もう死にたい……」

そこで声が途切れた。泣いている。

それにしても独身の私には強烈すぎる相談だ。なおも彼女は続けた。

「実は、私、このこと人に話したのはあなたが初めてなんです。
主人にも話していません。もう年ですから……言わなければ主人にもわかりませんしね」

口を閉じられなくなったステロイド皮膚症女性[P.80]

電話の女性達は、三年以上唇がズルズルの状態できたという。
口紅が塗れないどころではない。
起きている間はずっと口を半分あけた状態でいる。
閉じると膿のために口が開かなくなるのだ。
アゴがすごく疲れるらしい。
眠る時に口を閉じると、毎朝唇の膿をとるのに大騒ぎしなければならない。

婚約破棄されたステロイド皮膚症女性[P.83]

「ステロイドの副作用はどの位の期間で治るんですか。
一生治らない人もいるんですか」と尋ねてきた男子学生がいた。

一流大学現役合格の法学部四回生。
さすがに落ち着いた賢そうな声である。
なんでも彼女がステロイドづけで全身ズルズルらしい。

「長い交際で結婚も考えています。
でも一生治らないのなら結婚をあきらめます。
まだ双方の親も会ってませんし今のうちなら……」

「ちょっと待ってよ。薬をやめればある程度は回復するのよ。
でも遺伝のハッキリしたデータはないの。あせることないんじゃない? 
結婚してから相手がどんな事故に遇うかわからないんだし……」

私がそう言うと、彼は冷静な態度で言った。

「でも僕の人生計画で、皮膚のただれた女性を伴侶に選ぶことは、予定にないんです」

ステロイドジョーク[P.84]

「ステロイドいのちの電話」には医者とのやりとりもたくさん報告されるが、
思わず笑っちゃうようなのもある。

●「だんだん薬が強くなっていくようですが大丈夫ですか」と主治医に尋ねたら、
「大丈夫。いけるところまでいってみましょう」と答えたという。
いけなくなったら、どーすんの!?

●「ステロイドの副作用は怖いそうですが」と尋ねると
「いえ、副作用が出るまでは大丈夫です」と答えたという老教授。

診察室の椅子の秘密[P.87]

以前、ある医師が講演で言っていた。

――患者が診察室で座る椅子は背もたれがなく、くるくる回って不安定である。
あれは背中を聴診器で診るのに便利だという目的だけで、作られたものではない。
不安定な椅子に座らせて、心まで不安定にして、医者にすがる気持ちにさせるためだ――

医者のステロイド偽装詐欺[P.90]

私はステロイド被害を防ぐために、
「ステロイドに無知であってはいけない。
だから病院で使われているステロイド軟膏の薬品名を自分で覚え、
また人にも覚えるように」と勧めていた。
×××という名前の軟膏はステロイドである、とわかれば被害も出なくなると思ったのだ。

が、私はあまかった。あまいというより、バカだったと気づいた。
いくらステロイドの名前を覚えても、医者が嘘をついて・・・・・
(これは非ステロイドです、と言って、実際はステロイドを処方する)
渡している限り、なんにもならないのである。

いのちの電話の被害例の約三分の二は、こういったサギ・・に遇った例であった。
なかには、「ステロイド剤に副作用は一切ありません・・・・・・・」と断言した医者もいた。

反省の色のないN医院[P.95-96]

あなたの裁判の被告だったN医院へ電話したら、
奥さんが『江崎さんはアトピーです』とわめいて、
そのうしろでN医師が『切ってしまえ』と怒鳴ってるの。
そのあとでは『なにもしていない・・・・・・・・のに訴えられて老後がメチャクチャだ』ですって。
顔をつぶされたあなたは一生がメチャクチャなのにね。
自分の医療ミスを反省して今後気をつけるという姿勢が全くない。
もう一つの被告D総合病院は謙虚なのにね。

なにも裁判のことを聞くんじゃなくて、
今ステロイドをどのように使っているかをインタビューしたかったのに、
泣き落とされちゃ話にならない。
あなたの悪口もいっぱい言っていたわよ、とてもここでは言えないような内容。
でも私、あの人達を見て、ああステロイド事件はまだ終わっていない、
反省しない医者がいる限り私達マスコミが
この事件を世間に訴え続けなきゃならないって心底思ったわ。

<中略>

一九九〇年初夏、某テレビ局からの電話である。

手が使えなくなったステロイド皮膚症女性[P.104-105]

二十二歳の女性。
ステロイドで手首から先がただれ指も曲がらない。
だから洗顔、歯みがき、食事、風呂、洗髪、トイレ、衣服の着脱……
一切のことを五十代の母親がしている。

「もう五年間・・・手を使っていないんです。
鉛筆を持つ感覚など忘れてしまいました」と彼女。

「私が死んだらこの子の面倒は誰が看るのでしょう。
こんなになっていても単なる皮膚病扱いです。
なにもできないんだから手がないのと同じなのに。
なぜ障害者として認めてくれないのか……」と母親は泣く。

障害者認定には医師の診断書が要る。
まさかステロイドの使い過ぎとは書けないので医者は診断書を発行しないのだ。

流れ式ステロイド病院[P.109-110]

京都市内の某医院。大きな皮膚科。

皮膚病に苦しんだことのある人なら、一度は来院したか、
人から勧められて名前を知っている有名な医院である。

ここに通っている患者さんの話。

「午前中に予約患者が百人以上来ます。
飛び込みで行ったら二時間は待たされる。
十人ずつ診察室に呼ばれ、顔の治療の人は椅子に座り、
背中や足の人はベッドに寝て患部を出して待ちます。
するとお医者さんがソレーッて感じで、ステロイドを端の人kら順に塗っていく。
十人全員済んだら、ハイ次の十人どうぞって感じ。
インフォームド・コンセント? とんでもない。一言も話さない時もある。
若い女性、たくさん来てるよ。一日二百人以上来てるね。子供は少ない。
あちこちの皮膚科でもうこれ以上ステロイドを塗っちゃいけない
ってお払い箱にされた人が、みんなここへ来るんだ。
どんなに副作用がひどく出ている人でも、医者はそれを副作用症状だとは教えないで、
とにかく上からまたステロイドをたっぷり塗布するから、いったんはきれいになる。
みんな、ありがたい、ここの皮膚科はよそよりもいい薬があると思って、通いつめる。
それで緑内障になれば眼科へ、胃に穴があいたら外科へ転送すりゃいいんだから楽なもんだよ、
別の病気が出たといえばいいんだから。毎日ゾロゾロ患者が出入りしてるよ。
あんた、あの皮膚科の前で本売ったら?」

薬をたくさん出すのが良い医者という思い込む老婆[P.110]

あるおばあさんは言う。

「よそのお医者さんは初めはたくさん薬くれはるのに、
だんだん減らしていかはる。私を殺そうとしてはるんや。
けどここの皮膚科はどっさり薬くれはる。いいお医者さんや」

ステロイド禍に無知な医師[P.113-114]

京都府医師会のある男性は、薬で廃人になるということが信じられないようだった。

「ちょっと言い過ぎじゃないですか」と言った。
しかし彼は、全国初のステロイド訴訟が京都で起こったことも、
私の本のことも、「ステロイドいのちの電話」のことも知らないのだった。
「まぁ絶対ないとは言いませんけど、
薬との因果関係もわかっていないことだし、
五千人や一万人にひとり位はそういう人もいるでしょうけど」

この言葉で私はもう喋る気がなくなってしまった。

薬で廃人になった人が激増していると聞けば、
一度実態調査をしようかと思うかなと期待していたのだが、
それどころか、事実を聞いてもそれを信じようとしないのだった。

全身ひび割れ状態のステロイド皮膚症男性[P.120]

ステロイドを二十二年間塗布した男性。

全身ひび割れて、ひどい割れ目にはお箸が一本はいるという。
「全身がウィンナーソーセージのようです。
切れ目からひっきりなしに血膿が出続けています」と母親は言う。

血と汗にまみれて寝たっきりの彼は、十代の頃は泣き叫んでいたらしい。
が、二十二歳になった今、つい先日、彼は静かな口調で、ベッドの中から母親に向かって言った。

「母さん、僕の人生は終わった……」

おだやかな、悟りきった表情でした。そう言って母親は電話口で泣きくずれた。

医者に詐欺罪は適用されない[P.147]

一九九〇年十一月一日、私は、府会議員岩田隆夫氏のお世話で、
苗村光廣氏(京都府保健環境部健康対策室参事)、
上野哲氏(京都府保健環境部理事)、
井上知明氏(京都府保健環境部薬務課製薬係長)
と話し合いの場をもつことができた。

これは行政に対しての交渉ではなく、
「ステロイドいのちの電話」によせられる質問のうち
私が答えられない内容のものを尋ねる、といったものだったので、
内容はともかくとして案外スムーズに話し合いが進んだ。

以下は、その質問と薬務課の返答である。

<中略>

Q・医者に薬の説明義務はあるか?

A・義務はない
薬は医者の手に渡った時点で医者の裁量にまかされることになっている。
だからどんなにメチャクチャな使い方をしても、たとえ嘘の説明をしても、法的には罰されない
医者に限り、患者をだましてもサギ罪にならないらしい)。

膿地獄に陥ったステロイド皮膚症高校生[P.160]

私の次男は高校生です。今は学校を休んでいます。
顔は白いウロコをはったようにひび割れ、
体からは臭い熱気がして黄汁がにじみ出してパンツやパジャマにふれるのが気持ち悪く、
一度座ったら身動きもせずにいます。
私が部屋に行くと、丸く膨れあがった顔で、細くあいた目で私に言うのです。
「早く治してくれヨ」(略)
体からふき出してくる汁のために胴体にはバスタオルを巻き、
両腕両足にはタオルを巻きつけて、一日二回も三回もかえました。
次の朝には敷ぶどんの下まで汁がしみ込んでいました。
部屋には、なんとも言えない臭いにおいがして、
大声で「もう死にたいよう」「死んでもええ」
「なぜボクだけがこんな目にあわんならんのか教えてくれヨ。
家族誰もこんな事ないのに教えてくれヨ。助けてくれヨ。死にたいヨ」。
昼も夜も一日中泣きわめく毎日が続きます。
生き地獄です。疲れた……。(四十一歳・女)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です