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書籍と雑誌の要約と解説

アトピー・シックハウス列島の謎

シックハウス症候群によるアトピー性皮膚炎

装丁
アトピー・シックハウス列島の謎 アトピー・シックハウス列島の謎
アトピー環境研究会・名古屋
風媒社
ISBN4-8331-3126-9
2000/12/10
¥1700
解説
アトピー性皮膚炎のごく標準的な治療として、
ごく当たり前にステロイドを処方していた医師達が、
患者が減るどころか増える一方という現実に疑問を持ち、
治療方法ばかりでなく患者を取り巻く生活や環境全体に関心を向け始めています。

この本ではそんな医師の1人が発起人となり、建築、化学物質、
環境衛生などの専門性を持つ協力者たちを集めて発足した
アトピー環境研究会・名古屋(以下、調査隊)が、
実際に患者の住環境を調査し発見した問題点と、
その問題点に即したアドバイスを紹介します。

1995年5月頃から試験的な調査活動を行い、
その年の12月に設立総会を実施しました。

その後、毎月2~4件の調査活動(フィールドワークという)を続け、
5年間(2000年8月現在)で150件の調査を実施しました。
この現場調査活動は他に類をみず、さまざまな波及効果をもたらしました。

「調査隊」メンバーには、
本人あるいは家族にアトピー性皮膚炎や化学物質過敏症
と思われる症状を持つ人たちが多く参加しています。
調査に参加した専門家にとって「現場にある真実」を知ることができたばかりでなく、
自分たちの環境改善にも大いに役立ち、
調査隊員になると何故か必ず良くなるというジンクスをも作ってしまいました。
また、個人や所属する企業の利益を考えず、
その専門知識を提供する「真のボランティアとは何か…」を探る調査でもありました。

この活動に共感し全国数か所で同様の団体が立ち上がっています。
運営方法などで多少の違いはあるにしろ、
目指す目標は「シックハウスとアトピーの原因」の解明です。

目次
  1. 「原因」は現場で探す
    1. 一戸建て住宅の丘
      1. 症例1 ハウスメーカーの新居でアトピーが悪化
      2. 症例2 「計画換気装置」見設置の結果
      3. 識者の広場1 化学物質排出に役立つ上手な換気法
      4. 症例3 最先端仕様でシックハウス
      5. 症例4 「ホルムアルデヒド対策済」の住めない家
      6. 識者の広場2 お茶会風景Ⅰ
      7. 症例5 在来工法でシックハウス・その1「対策に積極的に参加した工務店」
      8. 症例6 在来工法でシックハウス・その2「生きた心地がしない家」
      9. 識者の広場3 お茶会風景Ⅱ
      10. 症例7 2×4(ツーバイフォー)工法5例の検証
        1. 金魚が死ぬ家
        2. 肺疾患が悪化した家
        3. 結膜炎を引き起こした「高級住宅」の落とし穴
        4. 「健康被害」は家族全員に…
        5. ステロイド離脱と新築入居
      11. 識者の広場4 お茶会風景Ⅲ
      12. 症例8 シロアリ消毒の健康被害
      13. 症例9 床下のカビ臭による「シックハウス」勘違い
      14. 症例10 「思い込み」と「現場にある真実」のギャップ
      15. 識者の広場5 お茶会風景Ⅳ
    2. 集合住宅の街
      1. 症例11 特徴的なワンルーム
      2. 識者の広場6 ほこりはカビの保存庫
      3. 症例12 一般的なマンションの場合
      4. 症例13 中古マンションのリフォーム例
      5. 識者の広場7 お茶会風景Ⅴ
  2. 迷いの森から出口へ
    1. 高気密住宅
    2. 「健康住宅」のゆくえ
    3. ホルムアルデヒドのガイドライン
    4. 果たして出口は?
  3. 情報の泉
    1. プロにも役立つ用語解説
    2. 新築住宅入居後の健康被害(不定愁訴)問診表(簡易版)
  4. 提言
文献
  • 柳田国男『木綿以前の事』[P.8]
  • 植村振作『農薬毒性の事典』
  • アレルギーネットワーク『アレルギーの快適生活術』

内容

  1. 調査症例の中には新築住宅入居後、難病である膠原病を発症した方もいます。[P.13]
  2. 今日も多くの医師たちは言う「そんな重症患者はいない」と。しかし患者たちは言う「重症患者は医者へは行かない」…と。[P.16]
  3. アトピー地蔵[P.21]
  4. シックハウス系アトピー[P.30-32_97-100]
  5. 自然派建築家「畳に使用される畳表は薬剤で着色されていたり、畳床も防虫シートで加工されています。その薬剤の量がまた半端じゃなく、空中散布の農薬の10倍~20倍濃度に匹敵するものもあります。消毒していない畳の方が薬剤代も手間も掛かってないから安いように思いますけど、品物が少ないから逆に価格が2倍くらいします。まったくおかしな話ですよ」[P.50]
  6. 皮膚科医A「私は現在、合成洗剤・柔軟剤どころか洗濯せっけんも使いません。水洗いだけでも結構きれいになりますよ」[P.61]
  7. 金魚死亡事件[P.86]
  8. シロアリ業者の害悪[P.114-117_187]
  9. アメリカで化学物質過敏症として近年問題となったのは「湾岸戦争症候群」です。多くの兵士が「虫除けのために大量に噴霧された化学薬品によって化学物質過敏症を発症した」と訴えました。しかし、これを「他覚的」に診断する方法がないため、米陸軍は彼らに対する保障に関して頭を抱えています。[P.167]
  10. 瀬川忍のアンケート調査[P.167-168]
  11. 1970年ころ日本では「引っ越しうつ病」という病名が精神科で盛んに用いられていました。その中にシックハウス症候群が含まれていたのかもしれません。[P.168-169]
  12. 筆者は今日まで、日本でSBSの事例を聞いたことはありません。[P.169]
  13. 輸入合板[P.171]
  14. 消費者はしばしば「建材」に目が向きがちですが、私たちの調査結果では、室内空気汚染のかなりの部分は家具や衣類、防虫剤など、住み手が後から室内に持ち込んだものによることが多いようです。[P.176]
  15. 家を建てようとする人が建築費を値切ったとき、実は最初に削られるのが換気扇なのです。実際、私たちはトイレにすら換気扇のついていない家を何度も「シックハウス」として調査しました。[P.176]
  16. 深谷元継(アトピー環境研究会発起人)『市政への提言』=懸賞論文(平成8年12月)[P.192]
  17. 醸造工場が原因でカビ汚染を起こした家[P.196]
  18. 住宅汚染に真剣な建築業者[P.197]
  19. 点取り医療[P.198]

アトピー地蔵[P.21]

[皮膚科医A]アトピー患者が減らない理由は、
不適切なステロイド漬け治療と、それらによって医療不信に陥った患者に、
さらに付け込む悪質なアトピービジネスによると考え、
これらの問題を解決すべく立ち上がった1人の医師。
当初「アトピー治療に大金をつぎ込むくらいなら、地蔵でも建立して、
お札を造り百円くらいで売ってアトピー治療に役立てよう」と冗談で言っていたものが、
いつのまにか本人が「アトピー地蔵」と呼ばれるようになった。

シックハウス系アトピー[P.30-32_97-100]

新居入居後にアトピーを悪化させた症例[P.30-32]

患者 30歳代男性。
症状の経過 99年5月入居(99年3月現場下見でアトピー症状悪化)。
99年6月「環境避難」目的で入院。翌日から快方に向かったが、
退院後悪化したため新居バルコニーにテントを張り避難生活を始める。
99年6月と7月に調査。

閑静な住宅地に建つ大手ハウスメーカーの軽量鉄骨プレハブ、二世帯住宅。
計画換気(第Ⅲ章、情報の泉「換気」参照)
装置はオプション(別途注文)仕様で、この家には設置されていませんでした。

工事途中の様子を下見に行った際、症状の悪化がみられましたが、
完成入居後、窓を閉めた生活をはじめた途端、アトピーが悪化しました。
環境避難のため入院したところ症状は快方に向かい、
家に帰ると悪化するという、症状が住環境の影響を強く受けると考えられる、
アトピー性皮膚炎の代表的症例です。

99年6月入院と同時に
患者自宅寝室のホルムアルデヒドの濃度を測ったところ、0・22ppmでした。
窓を10分間開放し測定したところ0・06ppmに下がっていました。
再度閉め切って測定したところ30分後には指定値の0・08ppmを超え0・09ppm、
60分後には0・15ppmになりました。

99年7月に実施した調査では、前回の調査以来、四六時中窓を開放していたため、
開放状態で0・03ppmという結果が出ました。

その後、患者は徐々に改善に向かいました。

改修工事後にアトピーを再発させた症例[P.97-100]
調査日99年5月
98年3月入居。98年10月、床レベル調節のため改修工事。
患者は[40歳代女性]入居直後より頭痛・疲労感・微熱・喉の痛みなど様々な不定愁訴に悩む。
40歳代男性]喘息悪化。
[14歳男児]嘔吐・胃痛・それまで治まっていたアトピー再発。
[3歳男児]アトピー悪化。小屋裏3階建一戸建て住宅。
[40歳代女性]改修工事後寝込む日が続いた。
98年11月、別の調査機関にてホルムアルデヒド測定。

調査結果概要

シックハウス問題をよく知っていた建て主の希望により施工された住宅ですが、
建設会社がこの問題や対策を十分認識していなかったようです。
仕様書通りの材料で建てた場合、どの程度化学物質が発生するかの検証を怠り
「F1やノンホルマリンの接着剤を使用すればいいだろう」程度の推測で施工したため、
結果として建て主の希望に反し不幸にも健康被害になってしまったと考えられます。

ホルムアルデヒド測定結果 1999年5月28日(金)   薄曇り 室温23℃
場所 時間 濃度ppm 備考
2F寝室(予定) 18:52- 0.18 約2時間閉切後(閉切中)
19:25- 0.04 10分間開放(開放中)
19:35- 0.08 再閉切直後
20:05- 0.11 再閉切後30分
20:40- 0.11 再閉切後約1時間
2F子供部屋2 19:08- 0.09 閉切中
1FLD 19:21- 0.11 閉切中(台所換気扇は稼動)
1F和室 19:36- 0.11 閉切中
2F押入(寝室横) 20:40- 0.20 閉切中
3F洋室1 20:55- 0.11 閉切中
3F小屋裏(洋室1) 20:55- 0.11

金魚死亡事件[P.86]

患者の話によると玄関先(下駄箱の上)の水槽で飼っていた17匹の金魚が、
入居後1ヶ月後には10匹、調査日には今にも死にそうなものも見かけられ、
生きている金魚は落ち着きがない動きにみえました。
調査から10日後、御礼の手紙の中に「金魚がすべて死んだ」と記されていました。

シロアリ業者の害悪[P.114-117_187]

巡回点検のシロアリ業者が来たそうですが、
築80年ということもあり天井近くの柱にも虫食いが見られ、
家人があまり納得していないのに、
業者の強引なセールスに押され駆除することになったそうです。

シロアリに詳しい方によると、天井近くの虫食いの被害についてはシロアリが原因ではなく、
木喰い虫ではないか…ということでした。

*   *   *

日本しろあり対策協会では施工業者に「施工確認書」を作成させ、
注意事項の確認を求めるように指導しているそうですが、
筆者は使用された薬物が記載されたものを見たことがありませんし、
罰則も何もない「指導」に何の意味があるのでしょうか?

瀬川忍のアンケート調査[P.167-168]

筆者は以前、患者会などの協力を得て「シックハウス症候群」と推測された患者に対し、
アンケートを試みました。集計した結果は表の通りです。

回答者数37名 症状の変化 人数(%)
発症した家に住み続けている 改善した 13名(35%)
不変 6名(16%)
悪化した 5名(14%)
転居した 改善した 4名(10%)
不変 2名(5%)
悪化した 6名(16%)

転居しても悪化した人は全員
「新築住宅入居前から匂いに敏感だった」と答えていました。
残り一人は別宅と往復していましたが、その後、改善に向かいました。
この「転居しても悪化した人」の中に化学物質過敏症に陥った人たちがいます。
「住み続けても改善した人」はシックハウス症候群ですが、
化学物質過敏症に移行するのを免れた幸運な人たちといえるでしょう。

化学物質過敏症に陥った人が治らないというわけではありません。
ひたすら(自覚できる)「反応する物質」からの回避を続けることによって、
数年がかりで日常生活レベルに回復した人たちもいます。

輸入合板[P.171]

欧米ではオイルショック後に高気密高断熱住宅の室内住宅が問題となった際にも、
0.5ppmを超えるという日本のような現象は起きませんでした。

これは住宅の構造の違いによると考えられますが、
日本でシックハウス問題が顕在化した1995年より少し前から、
円高とコストダウンの他、ラワン材産地の工業化のためという目的で、
船輸送の間の虫食いを避けるため非常に高濃度の
ホルムアルデヒド処理をされた合板が輸入されていました。

国内での合板生産のピークは1987年で、1995年には約半分に減っています。
この輸入合板が「シックハウス症候群」の元凶であったのかもしれません。

醸造工場が原因でカビ汚染を起こした家[P.196]

真菌班は普通の人なら見落としそうな壁紙のしみを見て、カビだと断言する。
そして壁紙を剥がし、裏側に悪夢のように広がるカビのコロニーを白日の下にさらす。
カビアレルギーで肺炎を起こし、
毎冬入院を繰り返していた二十代の女性の家を調査した事例では、
隣接する醸造工場で発酵に用いられていたカビが患者の家の天井にも発生していた。
患者はこのカビに対するアレルギーであった。

住宅汚染に真剣な建築業者[P.197]

私の心配をよそに、集まってきた建築関係者は皆一様に真剣であった。
実は住宅と健康被害の問題を一番危惧していたのは現場で直面している彼等なのであった。
ある防蟻業者は
「白蟻駆除剤で一番健康障害を受けるのは実際に作業をしている自分たちだ。
何とか消費者の意識を変えて安全な処理法で済ませたい」と訴えた。

点取り医療[P.198]

私の勤めている国立病院は厚生省の直営病院であり、
行政改革の煽りを受けて、経営改善が史上命題である。

院内に経営改善委員会が設けられ、毎月の売上高が各科毎に集計され、
少ない科は定員などの削減対象となる。

各科医師は売り上げすなわち保険診療点数を上げるよう努力することとなり、
過剰投薬・過剰検査が助長される。

公的医療機関の診療内容が保険診療点数で評価されるのは絶対におかしい。
あってはならないことである。せめて入院や外来の患者数で評価されるべきである。

私の所に通ってくるアトピー患者は薬が嫌いな人が多い。
ステロイドで懲りているからであろう。
何をしに来るかというと、症状を見せに来る。
薬は欲しくないが医師には見て欲しいのである。
先日そんな患者の領収書を見せて貰ったら、「再診料・百円」とあった。

私は誰に何と言われようと、このような民間病院では決して成り立たない、
保健医療の歪みの狭間に陥ってしまった患者達に対応する事こそが、
厚生省の直轄の病院たる国立病院の責務であると信じて疑わない。

このような医療に専念できることこそが、国立病院勤務医という年収の低い
(ある病院の同年の皮膚科医に年収を聞いてみたら本当に半分位であった)
地位に甘んじている者の誇りである。

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