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書籍と雑誌の要約と解説

水道管の叫び

日本中の水道水が危ない!

装丁
水道管の叫び 水道管の叫び
松下和弘/俊成正樹
中経出版
ISBN4-8061-3737-5
2010/06/30
¥1600
目次
  1. 「蛇口から赤い水が出る!」
    水道博士のもとに持ち込まれた不気味なパイプ(直結方式の水道管)
    1. 築35年の医療施設の水道管をみる!
      1. 水道管にべっとり張りついた“赤い物質”
      2. 「赤い物質」の招待は鉄錆だが……
      3. 発ガン性物質が含まれている!?
    2. 赤い物質の分析を依頼された「水博士」とは?
      1. 「水」と植物に関する研究の突破口を開く
      2. おいしい・健康によい「水」の正体を見抜く
      3. 「うまい酒」の秘密を解明する
      4. 日本製「ゴルフボール」の飛距離大幅アップに貢献!
      5. 製薬会社の主力製品開発に貢献したことも……
      6. 尿中の代謝成分と病態との関係をあきらかにする
      7. NMRが難病診断にも有効なことを立証する
      8. ガンの進行状態に応じた治療の道を開く
    3. なぜ「水博士」は、自問自答しなければならなかったのか
      1. 万が一、MDAが水に溶け出す状態であれば……
      2. どっと押し寄せてくる疑惑の波
  2. これが「赤い水」の正体だ!
    錆びた水道管の衝撃の分析結果
    1. 分析に使用される「NMR(核磁気共鳴)装置」とは?
      1. いまや分子構造分析に不可欠なNMR装置
      2. 原子核と電子は、N極とS極を持つ極小の磁石
      3. 原子には、N極がS極ではなく、N極を向く性質がある!
      4. N極とN極を向き合わせ、エネルギーを観測する
      5. 日頃の鍛錬がなければ、NMR装置は使いこなせない
    2. 発ガン性物質が水に溶け出していた!
      1. 水博士、分析・測定準備にとりかかる
      2. 「発ガン性物質が水に溶け出している!」
    3. 「直結水道による東京水の供給」先での汚染発覚!
      1. 錆止め塗料に混ぜて使う発ガン性物質「MDA」
      2. 新技術「WRAPシステム工法」に国交省が関心を!
      3. 平成以前の水道管は、MDAが使用された確率が高い!
      4. 「健康衛生上、きわめて危険な状態が生じている!」
    4. ほかの水道方式は大丈夫なのか?
      1. 日本には二タイプの水道があるが……
      2. 老朽化した水道管は、発ガン性塗料が使われた可能性が高い
  3. 野放しにされた「発ガン性塗料」
    なぜ行政は「使用禁止措置」をとらなかったのか
    1. 北の大地で始まったMDA騒動
      1. 消費者連盟がMDA入り塗料を使った工事の中止を求める
      2. 米国では、すでにMDAの使用を禁止していた
      3. 札幌市水道局回答――「乾くから問題ない」
      4. 札幌市水道局「回答」の背景にあるものは何か
      5. 問題の沈静化にやっきの厚生省
      6. 「コールタール系塗料」も野放し状態
    2. 厚生省・日本水道協会は、どう対応したか
      1. 「くさいものにふた」の措置を急ぐ
      2. 三つの“ボタンのかけちがい”に着手
      3. 規格変更後も、発ガン性塗料が使われ続けていた!
      4. 「問題ない」と開き直る業界団体
      5. 老朽建築物の“自然死”を待つ
  4. マンション、オフィスビルの水道管は安全なのか
    「貯水槽水道」「ビル内引き込み管」の実態に迫る
    1. 築28年のマンションの水道管をみる!
      1. 再び現れた「赤い塗料」
      2. これが分析の手順だ!
    2. 水道管汚染の“原点”に迫る!
      1. 日米貿易摩擦を議題に行なわれた「田中・ニクソン会談」
      2. 在庫の山となっていた戦略物質「芳香族系エポキシ樹脂」
      3. 発ガン性塗料を野放しにし、規格変更に舵を切った理由とは?
  5. 水道管汚染をなくすことはできるのか
    水道管汚染解消の方法とは?
    1. こうして日本の水道管汚染が始まった…
      1. 作家・伊藤整によって紹介された“新産業素材”
      2. 材料、塗料、接着剤の革命時代が到来した
      3. 樹脂接着剤の“はしり”が開発される
      4. 発ガン性物質が水道管工事現場に“氾濫”した
      5. 水道管汚染に拍車をかけた塩素と鉄の関係
      6. いまや、さまざまな汚染物質が水道管に流れ込んでいる
    2. 水道管汚染は解消できる!
      1. 錆の発生を抑える新技術「WRAPシステム」
      2. 水道「水」供給分野に、はじめて民間の参入が認められる
      3. 日本初の水道事業とは?
      4. 待たれる安全・安心な水道「水」づくり
  6. 「いまなら、まだ間に合う!」
    いますぐ水道管汚染対策に取り組め!
    1. 築36年の大型高層建物の水道管をみる!
      1. 念入りに塗装された水道管が持ち込まれる
      2. 二〇〇〇ppmもの発ガン性物質が検出された!
      3. 日本中の水道管が汚染されている!?
      4. 「いまなら、まだ間に合う……」
    2. マンション管理会社はどう対応しているか
      1. マンション管理組合あてに三〇〇〇通のアンケートを送る
      2. アンケートの持つ意味・ねらいとは?
      3. 東京都「給水方式」に問題あり!
      4. 一度目、二度目とも、極端に低いアンケート回収率
      5. 外部からの働きかけにいっさい答えない管理会社
      6. 反応の鈍い行政サイド
      7. マンション業界の大手企業は無視を決め込む
    3. 水道管から発ガン性物質をきれいさっぱり洗い流せ!
      1. 全国に築三〇年以上の分譲マンションが五〇万世帯!
      2. 「年間一〇万人の雇用が実現する!」
      3. まず人々の関心を高めることがカンジン!
  7. 「水」の汚染から身を守る!
    居所の水道管は安全か――管路診断のすすめ
    1. 発ガン性物質は、こうして体をむしばむ
      1. MDAがDNAの“設計図”を書き換える
      2. DNAが持つ三つの「修復機能」とは?
      3. MDAは人の代謝を通して活性化する
      4. 酵素が体内の毒物を洗い流す
      5. MDAの人体への影響は十人十色だが……
    2. いますぐ水道管を診断し、適切な対策をとろう!
      1. 水道管診断の手順と対策とは?
      2. 水道管対策が進まないときは?
    3. 「水」が体内の毒を洗い流す
      1. 体内の毒物が病気を引き起こす
      2. 毒物を洗い流すには、どんな「水」を飲めばよいのか
      3. カップ一杯のコーヒーで、どういう水かがわかる
    4. 「水」が老化を遅らせる
      1. 「老化を遅らせる水」とは、どんな水か?
      2. 水道水質の差が、平均寿命の差となって表れる
      3. 老化を遅らせる水のつくり方
      4. 竹酢液で無農薬野菜をつくる
文献
  • 松下和弘『すぐに役立つ水の生活学』
  • 松下和弘『最新ミネラルウオーター完全ガイド』
  • 俊成正樹『日本から水がなくなる日』
  • 丹保憲仁『21世紀の日本と北海道』
  • ウェスト・マリン『水の神秘 科学を超えた不思議な世界』
  • パトリック・マッカリー『沈黙の川』
  • マルク・ド・ヴィリエ『ウォーター世界水戦争』
  • マーク・ライスナー『砂漠のキャデラック』
  • フレッド・ピアス『「水」の未来』
  • 中川良隆『水道が語る古代ローマ繁栄史』
  • 高寄昇三『近代日本公営水道成立史』
  • 伊藤安雄『治水思想の風土 近世から現代へ』
  • 土木学会関西支部『川のなんでも小事典』
  • 建築設備技術者協会『小事典 暮らしの水』
  • 海賀信好『世界の水道』
  • 綱渕輝幸『最先端科学読本』
  • 佐々木聰『よみがえれ! 科学者魂』
  • 橋本淳司『おいしい水きれいな水』
  • 橋本淳司『水問題の重要性に気づいていない日本人』
  • 鈴木宏明『水のはてな Q&A55』
  • 岡崎稔・鈴木宏明『科学で見なおす体にいい水おいしい水』
  • 小山寿『水道水の危ない話』
  • 日本水質研究会『いま、水が危ない』
  • 女子栄養大学栄養科学研究所『水と健康』
  • 中本信忠『生でおいしい水道水』
  • 村田徳治『正しい水の話』
  • 田丸博文『マンション・ビルの水が飲めるようになった』
  • 榮森康治郎『水と暮らしの文化史』
  • 湯坐博子『水道水にまつわる怪しい人々』
  • 全武植『不老長寿の水を科学する』
  • 井戸勝富『健康の秘訣は電子にあった』
  • 南山堂『南山堂医学大辞典』
  • 森北出版『化学辞典』
  • 中小企業庁組織課『改訂 中小企業等協同組合法の解説』
  • 自由民主党特命委員会『「水の安全保障研究会」報告書』
  • 『古事記』[P.22]
  • 森田実『水の時代を生きる』[P.85]
  • 伊藤正『氾濫』[P.174/196/200]
  • 神奈川県『横浜水道誌』[P.213]
  • 太田久好『横浜沿革誌』[P.214]

内容

  1. 芳醇なアルメニア・コニャックと長寿で知られるアルメニア共和国の長寿地域、
    セバン湖周辺の八ヵ所の飲料水を分析すると、
    日本の飲める温泉水と同じように分子集団が小さい。[P.39-40]
  2. 身体が衰えるほど尿中のアミノ酸濃度が上がる[P.47]
  3. アメリカ環境保護庁のMDA発癌性報告[P.89-90]
  4. 政府ぐるみのMDA捏造調査報告[P.91-95_99-100]
  5. 本管工事にたずさわった業者によれば、
    「一〇キロメートルの本管に、錆止め全面塗装をほどこすためには、
    二トントラックに、なみなみ一杯ほどのタール系塗料が使われていた」[P.101]
  6. MDAを禁止せず新塗料を規格化する摩り替え工作[P.102-103]
  7. MDA不正使用の内部告発[P.104-105]
  8. MDAは塗料を早く固めさせるために使われる[P.149-150]
  9. 下請け水道業者には何も知らされない[P.151-152]
  10. 安藤論文(MDA安全説)のトリック[P.179-186]
  11. 日米貿易摩擦を解消するためにMDAが大量輸入された[P.189-192]
  12. 家庭の風呂水が三日も貯められると、バスタブの内側がぬるぬるしてくる。
    あれは人の皮膚表面から湯中に出た常在細菌(微生物)の死骸である。[P.204]
  13. ある種のバクテリアは鉄を好んで食べる。
    水道管の内側で鉄が露出した部分から、亜鉛が剥がれ始める。
    これが錆発生のメカニズムである。[P.205]
  14. 住宅の水道管はペットの毛で汚れ切っている[P.206-207]
  15. 『脂肪組織に蓄積された毒物を洗い流すには、油を溶かす力のある水=
    界面活性力の高い水=油脂分散性の高い水を飲むことです』[P.260]
  16. クラスターの小さい水は老化を遅らせる[P.263-264]

身体が衰えるほど尿中のアミノ酸濃度が上がる[P.47]

子どもの尿中には、アミノ酸や有機酸が少なく、ほとんど水に近い。
子どもの代謝機能が活発なため、アミノ酸や有機酸が体内で
一〇〇パーセントに近いほど利用されているからだろうと、松下は考えた。

比べて大人の尿は、アミノ酸や有機酸が多く含まれる。
病人の尿は、身体の代謝機能がさらに落ちるため、アミノ酸や有機酸をかなり多く含む。
――尿中のアミノ酸濃度、有機酸濃度は、健康と病気のバロメーターである。

アメリカ環境保護庁のMDA発癌性報告[P.89-90]

米国EPAがMDAに目をつけたのは、一九八三年(昭和五八年)春のことである。

同年四月二〇日、EPAの記者発表(プレスリリース)要旨――
「NTP(ナショナル・トキソロジー・プログラム)による動物実験の結果、
MDAに発ガン性が見出されたので、
TSCA(トキシック・サブスタンス・コントロール・アクト)にもとづき
緊急調査を開始し、一八〇日以内に必要措置をとる」

このときEPAの行なった「動物実験」とは、
「MDA一五〇ppm含有水を一〇三週間、
経口投与されたマウス・ラットの甲状腺と肝臓に、ガン変異がみられた」
というものであった。

≪中略≫

実験結果にもとづき、EPAは水道管におけるMDAの使用を全面禁止した。

政府ぐるみのMDA捏造調査報告[P.91-95_99-100]

札幌市水道局が、北海道消費者連盟に出した「回答」――。
「使用中のエポキシ樹脂は一時間ぐらいで乾くはずであり、
冬季は硬化を早めるために管を温風で暖めている。
塗料は事前に溶出実験を行ない、アミンの不検出を確認しており、問題はない」

≪中略≫

札幌市水道局の出した「回答」には、重大な視点の欠落があった。

さしあたっては溶け出さないと仮定しても、塗料は将来にわたり固まり続けるのか。
乾いたあと、MDA含有塗料は何年で劣化し、溶け始めるのか。

塗料の経年劣化の視点を欠落させたままの「回答」には、
当時の厚生省と日本水道協会の意向があった。

日本水道協会は、日本各県各都市の水道局、水道事業組合が加入する厚生省の外郭団体であり、
厚生官僚や都水道局幹部ら多数が高給で天下る、渡り鳥官僚の受け皿でもある。

札幌市水道局からの問い合わせに対し、
「MDA発ガン性塗料の使用禁止など必要ない」の声が、
厚生省と日本水道協会の内部にわき上がった。

*   *   *

厚生省は、
「サンプル採取→分析→実験→行政改善」という一連の作業をみずから行なわず、
外郭団体である財団法人ビル管理教育センターと日本水道協会の内部で、
いわば身内の委員会で対策を検討させる道を選んだ。

しかも「現時点で水道管に溶け出しているか、いないか」のみに絞り、
非公開の検討を始めたのである。

――一九八六年(昭和六一年)三月、
厚生省所管・財団法人ビル管理教育センターによる
「給排水管の洗浄・ライニングの水質に及ぼす影響に関する調査研究報告書」
(資料抜粋1=一一〇ページ)

――同年一一月、日本水道協会による
「水道管更生用二液性エポキシ樹脂塗料について」の報告書
(資料抜粋2=一一一ページ)

二つの「報告書」の結論は、札幌市水道局の「回答」と同じ基本線上にあった。

要するに、東京・大阪・横浜の現場から
サンプル管塗料と水道水をあれこれ採取して調べてみたが、
MDAが水道水に溶け出している事実はなかったというのである。

MDAを禁止せず新塗料を規格化する摩り替え工作[P.102-103]

厚生省はMDA問題の扱いを一変させる。
MDA問題にどう向き合うのか、態度をあいまいにしたまま、
ことがら全体を、新塗料の規格問題にすりかえたのである。

日本政府が、MDA物質を使用禁止にするのか、しないのか。

そのことに何ら触れないまま、
日本水道協会は「JWWA K135」塗料の規格化を、全国の会員に伝えた。

厚生省が表立って「MDA発ガン性塗料使用禁止」を言わずとも、
新塗料「JWWA K135」が普及すれば、
大量に備蓄されたMDA発ガン性塗料は、
使われながらしだいに少なくなり、自然に姿を消す。

これが厚生省と日本水道協会幹部の思惑ではなかったか。

ここにおいて、とうてい一〇〇行では説明しきれないほどの、
複雑怪奇な規格変更手続きのトリックが仕掛けられた。

後に――日本水道協会内部の「塗料部会」(安藤正典委員長)承認文書の叙述が、
委員会終了後、一夜のうちに、何者かによって別の文章に書き換えられ、
塗料成分内容が変貌したまま部会承認事項になってしまうという、
おどろおどろしいからくりが当時の資料から浮上するのだが、
これについては別の機会にゆずりたい。

MDA不正使用の内部告発[P.104-105]

二〇〇五年(平成一七年)一月のことである。

水道管の更生工事(防錆工事)業者最大手のひとつ、日本軽金属工業が、
過去に行なった工事において、日本水道協会が新たに指定した
「JWWA K135」塗料を一度も使っていなかった事実が、
マンション管理新聞への内部告発から、明るみに出た。

大手業者が、札幌市水道工事の騒ぎからこちらも、
危険なMDA含有塗料を使い続けていた、というのだ。

「日軽金が『技術審査証明』取り下げ申請 指定のエポキシ樹脂を一度も使用せず」
(マンション管理新聞・第六三一号 平成一七一月一五日発行)

MDAは塗料を早く固めさせるために使われる[P.149-150]

鋳鉄管にせよ何にせよ、錆止め塗料ってものは、そもそも管路へのノリが悪いんです。
塗った後なかなか乾かない。固まってくれないんだ。

だから早く固まらせるために二液性といって、
塗料に硬化剤を混ぜ合わせたものを噴霧器のノズルから導水管の内側に吹き付ける。

そのときの硬化剤に、MDAとか、
タールエポと呼ばれる有害なエポキシ樹脂を使うんですね。

大体、完全に乾くまでには、先ほど言ったように、二日間はかかります。
固まるまでの期間を「養生」というんですが、養生に二日。

だから、通栓しクリーニングまでが四日。
テレビカメラ入れたり、タールエポ塗ったりで一日。
養生が丸二日。管の接続で一日。合計八日間の工事日程です。

下請け水道業者には何も知らされない[P.151-152]

MDA(メチレンジアニリン)とか、タールエポってものが、
人体に悪影響をおよぼすものだって話が、わたしたち下請け業者に届いたのは、
今から六年ぐらい前のことですよ。

厚生労働省からの通達とか、日本水道協会の集会や文書とかじゃなく、
下請け仲間業者の、仕事のやりとりの中で、
「あれはとんでもない悪性のものらしい」と耳に入ってきた。

わたしだけじゃない、
導水管の内面被覆工事を手がけている業者なら、誰でもそうじゃないかな。
元請けの大手から、下請けに注意があるとか、そんなことは一度もありませんよ。

タールエポが悪性の塗料だから「K135」に代えたって?
新しい規格の塗料を使いなさいとか、そんな話はどこからもなかったですね。
下請け業者の間の風評として「タールエポってのは使わないほうがいいらしいぞ」って、
ただそれだけですよ。

安藤論文(MDA安全説)のトリック[P.179-186]

厚労省官僚は、実態調査を手抜きする根拠として、
「平成一七年厚生労働科学研究費補助金により実施された
『水道に用いられる塗料等からの溶出の実態と評価に関する研究』
(以下「安藤論文」という)」を持ち出す。

この研究論文を書いたのは安藤正典主任研究者
(当時、武蔵野大学薬学部薬学研究所環境化学研究所)である。

論文の中で、安藤主任研究者はみずからの研究要旨を、次のようにいう。

「本研究では……現在使用中の水道管の塗料等の成分や、
建築物内の給水管の更生工事で使用される工法・塗料等に関する情報収集を行い」
「塗料成分の検査方法を確立し水道管からの溶出実態を把握するとともに」
「その毒性情報を収集し、無毒性量あるいは発ガン等反応の増加させる可能清量の評価値を算出し」
「上記評価値と溶出実態を基にリスク評価を行うことにより、塗料等に起因する健康影響を評価した」

≪中略≫

安藤論文は、研究にあたってまず、塗料成分や工法についての「情報収集」から始めたとしている。

その結果、何があきらかになったのか。

安藤論文の「研究要旨」は続けていう。

「……塗料の種類として七種の製品が使用され、これら塗料のうち、
健康影響の観点から問題となるMDA(4・4-メチレンジアニリン)
を使っているものは三つの工法のみであった」

防錆塗料は七種類もある、MDAを使っている工法はこのうち三つにすぎないと、
安藤主任研究者は「情報収集」の結果をいうのだ。

では、その結果を裏づける塗料と工法の種類・種別の「情報」とは、どのようなものなのか。

長文論文の末尾に「表1 塗料の種類及び成分等一覧表」
(以下、「一覧表」という)が示されている(一八一ページ参照)。

≪中略≫

この表をみて、神谷昭(給排水管路再生事業協同組合理事長)は首をかしげる。
「MDA含有塗料を含む工法は、三種類のみだといっていますが、この三工法だけで、
当時の更生工事=錆止め工事シェアの八〇パーセント以上を占めていたんですよ。
残りの二〇パーセントに残り六工法が群がっていた……これが事実です。
工事現場の実態を知らないか、知っていてわざとねじ曲げたのか。どちらかですね」
「三つの工法のみ」という安東表現は、
「日本人が飲んでいる国産ビールの銘柄は、地ビールを含め一〇〇種類以上ある。
麒麟とアサヒはそのうちの二銘柄にすぎない……」と言うようなものだ。

≪中略≫

このように「情報収集」をもてあそびながら、安藤論文は、
実際の水道水にMDA含有塗料の成分が、溶け出しているかどうかの実証研究結果を、
四四ヵ所の水道水、採取個所におよぶ検査結果を提示し、次のようにいう。
「実際にMDAを含有していた更生工事済給水管から供給された給水を飲用しても
安全性は十分に確保できているものと考えられた」

≪中略≫

論文を執筆する時点からさかのぼって二年以内の工事実例から採取した「水」をチェックした結果、
MDAは水道水に溶け出していない、安全性は十分に確保できていると結論したにすぎない。

あたかも新築一年や二年の建物をみて、
「壁は破れていませんね、雨漏りはしていませんね」
と言っているに等しいのである。

日米貿易摩擦を解消するためにMDAが大量輸入された[P.189-192]

それにしても、なぜこのような毒性の強いMDA(メチレンジアニリン)――
エポキシ樹脂塗料が、日本の水道管の内側を汚染するようになったのか。

それを調べていくと、芳香族系エポキシ樹脂塗料が戦略物資の一つであることを前提にした、
一九七二年(昭和四七年)八月、
ハワイのオアフ島クイリマ・ホテルで開かれた日米首脳会談「田中・ニクソン会談」に突き当たる。

≪中略≫

このときの日米首脳会談の最大の議題は、日米貿易摩擦だった。
日本が貯め込んだ膨大な外貨=ドルを減らし、
メイド・イン・アメリカの商品を緊急、大量に買いつける。
このため一五〇品目以上の工業製品、農産物のリストが両国の間で交換された。

≪中略≫

米国が売却したい品目の中に、当時の戦略物資である芳香族系エポキシ樹脂(接着剤)
が含まれていたのではないか――と、筆者(俊成)は疑う。

航空機や車両の破損を、短時間で修理できる芳香族系エポキシ樹脂接着剤は、
第二次世界大戦をヒトラーの敗北、連合国側の勝利に導いた秘密兵器の一つであった。

上陸用舟艇の大量生産、あるいは戦闘機の銀座保護など、
エポキシ樹脂接着剤の活躍なしに、連合国側の勝利はなかったのである。

≪中略≫

新しい塗料は、それを受け入れた当時から、日本の水道工事現場で「戦略物資」と呼ばれていた。
「これは戦略物資だから、ノウハウは韓国にも中国にも渡しちゃダメなんだ」
というふうに、水道技術者の間で言われてきた経緯がある。

住宅の水道管はペットの毛で汚れ切っている[P.206-207]

どの住宅も水道管の中は、いまやスケール(水垢=炭酸カルシウムなどのこびりつき)
の剥がれた結果の浮遊分子、細菌、鉄錆の微細な粉、ペットの毛などで汚れ切っている。

ペットの毛はいったいどこから入り込むのか。
蛇口にいたる水道管の、どこかにかすかな漏水個所があり、
小さな隙間からミクロン(一〇〇〇分の一ミリ)単位でペットの毛や空気中のほこりが入り込むのだ。

筆者(俊成)は東京・新宿区のA医療施設の水道管を、
みずから内視鏡で覗いてそのことを確認、水道管内の汚染のひどさを実感した。

クラスターの小さい水は老化を遅らせる[P.263-264]

松下の提唱で、全国立感染研究所の加藤賢三博士、
埼玉医科大学の仁科正実準教授らと「ほ乳動物の老化とは何か。
また老化をなだらかにする要因は何か」についての共同研究が進んでいる。

マウスの皮膚組織に含まれる「水」が、老化にともない、どのように皮膚組織水となるのか。

それをH-NMR(水素原子核の磁気共鳴)法により、
組織内の「水」と脂肪分の比率で追跡した研究者たちは、
比率曲線の変化から、皮膚の脂肪組織が加齢にともなって、
なだらかに増加することを突き止めた。

マウスは年をとるとともに体内脂肪が増え、「水」が減少していくのである。
――人間を含めたほ乳動物の老化とは何か。
それは身体から「水」が減少することだ。

研究者たちが出した結論である。

加齢とともに、人間も動物も、「水」を飲む量が少なくなる。
老人は「水」を飲むのをいやがるようになる。

ここから次の結論が出てくる。

皮膚組織や細胞組織と結合する力が強い「水」、
分子集団の小さい「水」を毎日飲んでいれば、
いつまでもみずみずしく、老化進行の速度を、なだらかにすることができる。

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