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書籍と雑誌の要約と解説

飲料水汚染と人工乳が起こす乳幼児の突然死

水道水の硝酸汚染と人工乳の恐るべき関係

装丁
飲料水汚染と人工乳が起こす乳幼児の突然死 飲料水汚染と人工乳が起こす乳幼児の突然死
水道水の硝酸汚染と人工乳の恐るべき関係
林俊郎(目白大学人間社会部教授)
健友館
ISBN4-7737-0510-8
2000/10/20
¥1300
目次
  1. 乳児の中毒死事件が契機となって誕生した水質基準
    1. 飲料水の水質改善がもたらした人口増加
      1. 汚染された飲料水が人口増加を抑制
      2. 地球上に人口爆発をもたらした水質改善・水質調査
    2. 飲料水を原因とする新規な乳児突然死事件
      1. 近代科学の光と影 – 人工乳の登場がもたらした乳児突然死
      2. 先天的な心臓病と誤診する奇妙な病気
    3. 水質基準策定の原点になったコムリー教授の事例報告
      1. 事例その1
        1. 人工乳哺育児に奇病が
        2. 原因不明の酸欠症
        3. 染料を用いた新規な治療法
        4. メチレンブルーの電撃的な治療効果
        5. 退院すると再発する奇妙な病気
        6. 飲料水が疑われる
        7. 子を思う親の一念が問題を解決に導く
        8. 小児病院での診断
        9. 再び飲料水に目が向けられる
        10. 誤解をまねく硝酸・亜硝酸の濃度標示
      2. 事例その2
        1. 激しい下痢とチアノーゼ
        2. どす黒いチョコレート色のメトヘモグロビン
        3. 乳児にのみ特異的なチアノーゼ
    4. 世界各地で発生している乳児のメトヘモグロビン血症
      1. 乳児のチアノーゼの主因は飲料水汚染
      2. 世界の各地で発生する飲料水を原因とするメトヘモグロビン血症
    5. 硝酸の水質基準
      1. 生物界にかけがえのない硝酸
      2. 規制値以下でも発症例のある硝酸の水質基準
      3. 水質基準項目の中で最重要項目に位置づけられる「硝酸」
      4. 現行の基準値よりも厳しい戦前の上水判定標準
      5. 安全率が考慮できない硝酸の水質基準
      6. 発症しなくてもメトヘモグロビンは乳児に発生している
  2. 首都圏飲料水の硝酸汚染の実態
    1. 高度に汚染されている首都圏の飲料水
      1. いたずらが意外な方向に
      2. 数多くの人々の協力を得て集められた首都圏の飲料水
      3. 東京都の飲料水汚染の実態
      4. 東京近郊の飲料水汚染の実態
    2. 河川の硝酸汚染源を求めて
      1. 硝酸汚染は人為的なもの
      2. 森林のもつ絶大な浄化機能
      3. 民族の遺産:水田のもつ機能
      4. 最大の汚染原因は化学肥料か
    3. 限界にきている地下水汚染
      1. 横浜市の井戸水5000基の三分の一は飲用に適さない
      2. なぜ地下水に硝酸が蓄積するのか
      3. ゴルフ場管理と硝酸汚染の相関
      4. 硝酸が検出されない地下水・湧水の不思議
  3. 硝酸・亜硝酸による中毒発生の機序
    1. 硝酸が毒性を発揮する機序
      1. 硝酸はメトヘモグロビンの直接の原因ではない
      2. コムリー教授の結論
      3. コムリー教授の見解に対する反論
    2. 反芻動物のポックリ病
      1. 神秘的なルーメンの機構
      2. 反芻動物の硝酸中毒
      3. 生まれたばかりの子牛にルーメンは存在しない
    3. 乳児のメトヘモグロビン血症発生の機序
      1. 胃の機能
      2. 胃がん、野菜大量摂取原因説
      3. 亜硝酸が発生する場所は胃袋
      4. メトヘモグロビン血症発生機序の最終結論
    4. 飲料水の硝酸基準値の再評価
      1. 硝酸基準値設定の歴史
      2. 現行の硝酸の水質基準値は高すぎるか、あるいは低すぎるか
    5. 首都圏飲料水の安全性評価
      1. 首都圏の乳児に発生するメトヘモグロビン量
      2. 胃の中での亜硝酸生成率は米国環境保護庁の推定よりも大きい
  4. 乳児の胃腸の機構
    1. 乳児の胃の機構
      1. 乳児の胃は中性?
      2. 胃の中で発がん物質が生成
    2. 乳児の腸の機構
      1. 「腸管の吸収閉鎖」とは
      2. 腸管の吸収閉鎖が「解除」されている乳児の腸
      3. 新生児に腸管の吸収閉鎖が解除されている訳
      4. ヒトの乳児の悲劇
    3. 胃酸分泌の不可思議
      1. 新生児に胃酸分泌が少ない訳
  5. 乳児哺育に対する正当な認識の芽生え
    1. 飲料水の硝酸汚染がもたらした功罪
      1. 思わぬ展開に
      2. ウーマンリブ闘争最中に母乳哺育が促進される
      3. 教育水準と相関する米国の母乳哺育率
    2. 人工乳の克服できぬ課題
      1. 人間モルモットの時代
      2. どうしても克服できない糞便の違い
      3. 加熱された母乳
  6. 乳児を人質にした情報操作
    1. ダイオキシン騒動がもたらしたもの
      1. 少ない知識は危険
      2. ダイオキシン汚染母乳に対するWHOの見解
      3. 母乳哺育を衰退化させる悪質情報
  7. 母乳と野菜
    1. 野菜に蓄積される高濃度の硝酸
      1. 飲料水を汚染する硝酸は乳幼児以外にはなんの問題も及ぼさない
      2. 成人の摂取する硝酸の95%は野菜から
    2. 母乳と硝酸
      1. 母乳の中へ硝酸は移行しないか?
    3. 漬け物の安全性
      1. 一夜漬けの安全性
  8. 乳児哺育における近年の課題と対策
    1. 離乳補助食品の危険性
      1. 野菜によってチアノーゼ発生
      2. 危険な乳児補助食品
    2. 人工乳哺育児への対応
      1. より安全な水を求めて
文献
  • 通商産業省鉱山保安局『水質基準』
  • 水道協会『上水試験法註解』
  • 日本環境管理学会『新水道水質基準ガイドブック』
  • 東京の水を考える会『東京の水』
  • 東京都水道局水質センター『水質年報』
  • 日本薬学会『衛生試験法註解』[P.127]
  • 田辺『生物と環境』
  • 石館守三『生活環境と発がん』
  • 日本栄養・食糧学会『今日の乳児栄養』
  • 清澤功『母乳の栄養学』
  • 竹内徹・横尾京子『母乳哺育の実際』
  • 橋本武夫『母乳育児の文化と真実』
  • 恩賜財団母子愛育会『新乳幼児保健指針』
  • ラ・レーチェ・リーグ『母乳育児』
  • 『乳幼児突然死症候群』メティカ出版、1995年
  • 石田寿老『生化学原理』
  • 村上國男『ハンセン病対策の反省』

要約

アイオワ州立医大教授のH.H.コムリーは1930年代末に乳児の未知の奇病に遭遇。
追跡調査により硝酸に汚染された井戸水が原因と判明し、[P.24]
発表後同様の症状が保護者から多数寄せられた。
そこでアイオワ州全域の井戸水2000点が分析された結果、
硝酸性窒素0-125ppmの範囲にあり、
チアノーゼ発症濃度は64-140ppmの範囲にあった。[P.44]

さらにミネソタ州でも1941~49年の間に少なくとも114人の乳児が
硝酸によってメトヘモグロビン血症に罹り、そのうち14人が亡くなっていることを
ローゼンフィールドとハウストンが報告している。[P.45]
またウオルトンは米国公衆衛生総局が調査した乳児メトヘモグロビン血症
278例中214例は硝酸汚染が原因であることを示唆している。
この現象は世界各地で発生しており、1945~70年の間に2000件内160件死亡。
実際にはこの10倍以上の発生があったと指摘されている。[P.46]

日本では飲料水に起因するメトヘモグロビン血症は一件も報告されていないが、
これは小児科医が硝酸汚染について知らないからだと著者は推測している。
現にジョンソンとクロスは硝酸汚染水によるメトヘモグロビン死は
SIDSと誤診されているであろうと述べている。[P.47]

コムリーの報告がきっかけとなり1962年に米国公衆衛生局が
無毒性量10ppm/最小毒性量11~20ppmを勧告。
しかしながら事例全体の3%は8.9ppm以下で発症しているのが事実である。[P.52-54]

そもそも基準値10ppmでは
総ヘモグロビンの10-20%がメトヘモグロビンとなって軽度のチアノーゼになってしまう。
基準以下であったとしても硝酸濃度に応じてメトヘモグロビンが生じてしまう。[P.60]

ちなみに喫煙は乳児に1.5-2.0%のメトヘモグロビンを生じさせる可能性がある。
タバコの煙には高濃度の一酸化炭素が含まれているからである。[P.61]

著者が硝酸とSIDSの関連に着目した発端は、
厨房で発生する窒素酸化物と肺ガンの関係を調べる過程で
水道水中に大量の硝酸を見い出した事による。
それと本来の研究分野である反芻動物の胃内細菌と相まって
硝酸中毒の研究へと誘われた。[P.64-67]
著者はまず学生の協力を得て水道水の全国調査を実施した。
その結果日本の水道水は軒並硝酸の基準値を超えていることが明らかとなった。[P.67-68]
特に横浜市の井戸水は40-120ppm、最高では200ppmを超える所もいくつかあった。[P.90-91]

こうした高濃度の汚染はゴルフ場が原因だと推定される。
ゴルフ場では芝生の育成のために大量の化学肥料が散布されるためである。[P.93-95]

ミシガン州立大のブルーニングは成人が水道水を飲んでもメトヘモグロビン血症にかからない理由として、
十分な胃酸が分泌されている酸性下では硝酸を亜硝酸に変える微生物が生息できない点を挙げている。[P.118]

コーネル大学のマラガスはブタの胃酸を抑制した場合と促進した場合を比較したところ、
前者では胃汁2mL当り104~107の硝酸還元細菌が分離されたのに対して、
後者ではその千分の一から十万分の一しか検出されなかった。

カリフォルニア大バークレイ校のファンによると、
3ヵ月児未満にメトヘモグロビン血症が頻発する原因は胃酸分泌が少なく
胃内phが5~7であるため硝酸還元菌が繁殖しやすいためだと述べている。
ところが日本の小児科学書には乳児の胃内phに関する記述が見つからず、
むしろ新生児においても胃酸分泌が行なわれていると記述している専門書すらある
(保志宏『ヒトの成長と老化』)。[P.125]

アメリカにおいても乳児チアノーゼの届出義務がなく、全容が把握されていない。[P.136]

東京都水道局は365日水質調査を行い汚染度の低い河川の水で稀釈する等の
対策を講じているため首都圏の水道水は硝酸の基準値をクリアしている。[P.138-139]

哺乳類は新生児期に抗体を作ることができないため初乳を通じて抗体を得る。
このとき抗体が破壊されないように胃酸は分泌されず、
代わりに母乳に含まれる多量の白血球が細菌を食い殺して殺菌力を発揮する。[P.155-171]

内容

  • ポックリ病[P.3_6_113]
  • コムリー教授の事例報告[P.26-32]
  • 乳幼児突発性危急事態(ALTE)[P.45-46]
  • 安全率を考慮しないで水質基準値が設定されているのは硝酸だけです。
    仮に安全率を掛けるとすると、硝酸性窒素の基準は0.1ppm以下となり、
    こうなるともはや世界には飲める水が無くなるのです。[P.59]
  • 日本の水道水は硝酸に汚染されている[P.67-68_73_75_78]
  • 浅井戸の硝酸汚染レベルは高く、深井戸の硝酸汚染レベルは低い。[P.98]
  • 硝酸自体に毒性はない[P.102-104]
  • ビタミンCはメトヘモグロビン血症の発症を抑制し、
    また症状を改善する効果があります。[P.136]
  • 乳児に人工乳を与えると、胃の酸度が低いために細菌が繁殖し、
    硝酸が亜硝酸に還元されてメトヘモグロビン血症の原因をつくりました。[P.166]
  • 新生児に十分な胃酸分泌が行なわれない理由は、母乳に含まれる白血球をはじめ、
    抗体や様々な生理活性物質の働きを損なうことなく受け入れる
    生理学的に意義のある合目的な現象と解することができます。[P.171]
  • 血液中の硝酸濃度に対して、
    母乳中の硝酸濃度は明らかに微量であり母乳中に硝酸は蓄積しない。[P.211]
  • 漬け物の亜硝酸について数多く調べましたが、
    不思議なことに伝統的な漬け物には
    ほとんどといえるほど亜硝酸が検出されません。[P.213]
  • 早すぎる離乳によって、あるいは補助的に野菜ジュースなどを与えたときに
    チアノーゼが発生しています。[P.216]
  • 市販飲料水中の硝酸濃度[P.224]

ポックリ病[P.3_6_113]

ウシやヒツジなどの反芻動物に発生する「ポックリ病」と呼ばれている突然死があります。
昨夜まで元気にしていた見るからに大きく頑健な体躯をしたウシが、
朝には冷たくなって横たわり、牧夫を悲しませている。
このポックリ病と呼ばれる奇病によって、わが国では年間二〇〇頭ものウシが斃死しています。
原因は、飼料に含まれている「硝酸」による中毒が惹起した「酸素欠乏」による突然死です。

*   *   *

反芻動物は、胃が一つしかないヒトと異なって、胃袋を四つ持っているのが特徴です。
その中で特に重要な役割を演じているのが第一番目の胃(ルーメン)です。
ルーメンは強大な発酵槽となっており、この中で無限大の数の細菌が発酵・増殖し、
反芻動物が必要としている栄養素を合成しているのです。
ところが、硝酸を高濃度に含む牧草を与えすぎると、
ルーメンの中で微生物によって硝酸が「毒性の強い亜硝酸」に変えられ、
この亜硝酸がヘモグロビンの酸素運搬能を喪失させて窒息死を起こす原因を作るのです。

*   *   *

反芻動物の「硝酸中毒」は一〇〇年ほど前から知られており、
ヨーロッパを始め世界各地で多数報告されています。
日本でも、原因不明の急死として、俗に「ポックリ病」と呼ばれ、
昭和三五年(一九六〇年)頃から相次いで報告されるようになってきました。

中毒の原因は、硝酸を高濃度に含む牧草を多給したことによるものです。
牧草として与えられるイタリアンライグラス、青刈りトウモロコシ、ライムギ、エンバク、
シモフサカブ、ダイコン、アオビュや野草のイタドリには硝酸が特に多いことが知られ、
中毒が報告されています。

牧草に硝酸が大量に蓄積する原因としては、植物の種類による固有の特性の他、
土壌への窒素肥料の施肥過多や、干ばつ後に降雨があると土壌中の硝酸が急速に吸収され、
一時的に蓄積量が上昇する現象が報告されています。

コムリー教授の事例報告[P.26-32]

一人の女の赤ちゃん(白人)が、アイオワのある地方病院で生まれました。
この赤ちゃんは、お母さんが重い妊娠中毒症に罹ったため、
緊急の帝王切開で予定日よりも一ヵ月早く生まれています。
それでも誕生時の体重は三、八七〇グラムもありました。
一二日間入院しましたが、
この間に新生児に共通する疾病の徴候は全く認められなかったと記録されています。

乳児の神秘的な栄養整理や母乳の機能が全く分かっていないこの時代
(一九三〇年代末)に、米国ではすでに人工乳がさかんに導入され、この傾向は六五年まで続きます。
この赤ちゃんにも、母乳ではなく人工乳が与えられていました。
毎日、エバミルク(無糖練乳)二一〇ミリリットル、飲料水五四〇ミリリットル、
デキストリン麦芽糖調整剤(澱粉分解物)三〇グラムで調合した人工乳が与えられていました。
エバミルクは牛乳を二~三倍程度に減圧下で濃縮したものです。

ところが、誕生一八日目(退院六日後)になって、
この赤ちゃんは再び先の地方病院にかつぎ込まれることになりました。
原因は、飲んだ人工乳の嘔吐、異常な泣き方、下痢、体重増加不良などによるものでした。

原因が人工乳にあることが疑われ、再入院してからは、
酸性にしたスキムミルクに少量の下痢防止剤を添加した人工乳が与えられました。
下痢防止剤には、当時開発されたばかりのサルファー剤が使われています。
スキムミルクは、牛乳の脂肪層をすくい取って除去したミルクで、
今日でいう低脂肪牛乳に相当するものです。
まさに人体実験を絵に描いたような人工乳でしたが、
それでもまもなくして乳児は健康を回復し、
誕生二七日目には体重を三六〇グラム増加させて退院することができました。

ところが、誕生三一日目(退院四日後)になって、
再び激しい下痢を起こし病院で診断を受けることになりました。
この時の診断は、ミルクアレルギーが原因ではないか?というものでした。
そのため、牛乳を避けて、大豆粉を主成分とする複合食物を調合し、
この調合粉末八〇グラムに沸騰水八四〇ミリリットルを加えた
人工乳を調整する指導を受けて帰宅しています。

ところがこの二日後に、乳児は突如として激しく泣くなど興奮状態となり、
その9時間後には明らかな「チアノーゼ」を呈し、意識混濁状態に陥りました。
チアノーゼとは、局所的・全身的に血液中の酸素が欠乏して鮮紅色を失うために、
皮膚や粘膜が青色になる状態で、通常血行障害や呼吸障害によって起こるものです。

わが子の異常な症状に驚いた両親は、先の地方病院に急ぎ駆け込みました。
この時の診断記録には、心音に異常はなく、また体温もごく正常範囲にあり、
さらに急性肺炎、肺拡張不全、気胸症の徴候は認められなかったと記述されています。

病院側では、この乳児が酸素欠乏に陥った原因が何にあるのか、皆目つかめないでいました。
唯一の可能性として、この家で使われていたオイルバーナーが疑われました。

このバーナーを調べたところ不完全燃焼を起こす欠陥のあることが分かり、
放出する一酸化炭素による中毒が疑われたのです。

一酸化炭素は、血液中のヘモグロビンと強固に結合して
ヘモグロビンの酸素運搬能を消失させるために酸欠状態とし、
その影響は脳に強く現れ、ごく薄い濃度でヒトをしに至らしめます。

しかし、乳児の症状は独特な一酸化炭素中毒によるチアノーゼとは明らかに異なっていたのです。

<中略>

医師団は、酸素吸引を試みていますが回復の徴候がみられず、
三〇分そこそこでこの処置による治療をあきらめています。

そこで、次に行なったのがメチレンブルーという染料を使った治療でした。
メチレンブルーは顕微鏡で細菌を観察する際に用いられるお馴染みの染料です。
メチレンブルーをチアノーゼの治療に用いたのはこの医師団が最初ではありません。

イエンデル(一九三九年)は、イヌを使った動物実験で、
亜硝酸によって「メトヘモグロビン血症」を発症させ、
これをメチレンブルーによって治療したことを報告しています。

<中略>

この乳児に一%濃度のメチレンブルーが
体重一キログラム当たり一・一ミリリットル静脈注射により投与されました。
そして、投与後直ちに身体の抹消部分を強くマッサージしたところ、
一三分以内に皮膚の色、呼吸数、心拍数が正常にもどったと報告しています。
メチレンブルーという色素が電撃的な治療効果をもたらしたのです。

この乳児は、病院にいる間はチアノーゼを再発することもなく1週間で元気を回復し退院しています。
この入院期間中にも、大豆粉を主原料とした人工乳を相変わらず与えていたことから、
この人工乳がチアノーゼの直接の原因でないことは明らかでした。

ところが、退院48時間後にこの赤ちゃんは自宅で下痢、
チアノーゼ、意識混濁と以前と同じ症状を呈し、
再度メチレンブルーによる治療を受けることになりました。

なお、この家では問題とされたオイルバーナーを以降使用していないことから、
原因が一酸化炭素によるものでないことだけははっきりしていました。

彼女はこの後一六日間病院で看護を受けています。
この間に大豆を主体とした人工乳で健康を回復し、
排便も正常、体型も良好となり、体重は四、五四五グラムにまで回復しました。

ところがまたしても退院2日目になって、
両親は病気の再発の徴候を察知し、彼女を病院に連れていきました。
しかしこの時は明らかなチアノーゼ状態を呈していなかったことから、
入院や治療処置を受けることなく帰されています。

しかし、この病院の医師よりも、
両親の方が明らかにわが子の異変を敏感に察知していたのです。
翌日になって、この乳児は重度のチアノーゼ状態に陥り、
再び過酷な治療による攻撃を余儀なくされたのでした。
彼女の症状を改善するためにメチレンブルーの処置に2時間も要したと記録しています。

不思議なことに、この原因不明の奇病は、
病院にいるときは発症せず、自宅に帰ると突如として姿を現しました。
病院と家をめぐる乳児の環境の明らかな違い、それは人工乳そのものではなく
それを調整する飲料水であることが誰の目にも明らかとなってきました。
しかし、飲料水は常に煮沸消毒して使っていることから、
微生物汚染が原因でないことも明らかでした。

そこで、水質汚染から発生するチアノーゼの可能性として、
この地方病院の医師は硫化ヘモグロビン血症を想定しました。
それはスルファニルアミドと呼ばれるイオウを含んだ化合物による
メトヘモグロビン血症の発症事例があったことによるものです。
しかし、飲料水の検査結果はイオウの存在を否定するものでした。
限定された水質検査でしたが、この段階で水質汚染の疑いがひとまずはうち消されたのです。

しかし、両親は警戒してこれ以上自宅の井戸水をわが子に飲ませないために、
苦肉の策として酸性にした全乳を人工乳として与えることにしました。

<中略>

この後、この乳児は二度とチアノーゼを発症することはなかったのです。

乳幼児突発性危急事態(ALTE)[P.45-46]

「乳幼児突然死症候群(SIDS)」は、現在のところ原因が全くわかっていないとされています。
しかし、これとの関連が強く疑われている症状として「乳幼児突発性危急事態(ALTE)」、
アルテと呼ばれる医学用語があります。この症状の代表的なものがチアノーゼです。
そして、SIDSの剖検の所見が暗赤色流動性血液
(厚生省『SIDS診断の手引き』)とされています。
すなわちチアノーゼは、乳児突然死の代表的な症状の一つと指摘することができるのです。

ローゼンフィールドらは、ミネソタでメトヘモグロビン血症をもたらした
チアノーゼ139例について詳細に調べています。
このうちの129件、約93%が8日から5ヵ月齢までの乳児に発症したもので、
いずれも硝酸に汚染された飲料水がもたらしたものであることを報告しています。

日本の水道水は硝酸に汚染されている[P.67-68_73_75_78]

飲料水のサンプリングは本学の学生やまた私が関係している
専門学校の生命工学を専攻する学生諸君からも積極的な協力を得ました。
サンプルは主に駅構内の水道より採取することにしました。
この方法が最も効率よく集められると考えたからです。

HPLC分析条件
カラム IC-Pak anion column(Waters Assoc.)
移動層 5mM-HK2PO4
流量 0.8ml/min
注入量 20μl
温度 40℃
検出波長 215nm
東京都の水道水の硝酸濃度
  • 足立区 13.29
  • 葛飾区 11.45
  • 江戸川区 13.01
  • 墨田区 11.75
  • 江東区 12.44
  • 北区 10.49
  • 板橋区 8.40
  • 文京区 9.28
  • 豊島区 10.14
  • 新宿区 9.52
  • 港区 6.62
  • 練馬区 9.48
  • 中野区 9.45
  • 渋谷区 8.01
  • 杉並区 10.34
  • 田無区 3.82
  • 東久留米市 3.49
  • 小平市 2.98
  • 府中市 7.56
  • 国分寺市 19.75
  • 立川市 20.69
  • 大田区 7.83
  • 世田谷区 12.82
  • 八王子市 3.90
  • 武蔵村山市 3.42
  • 調布市 20.52
  • 武蔵野市 8.89
  • 三鷹市 1.72
  • 昭島市 10.27
  • 奥多摩町 3.25
東京近郊の水道水の硝酸濃度(埼玉県)
  • 深谷市 29.94
  • 熊谷市 17.72
  • 東松山市 7.03
  • 北本市 0.00
  • 南埼玉郡菖蒲町 8.27
  • 北葛飾郡鷲宮町 0.00
  • 北葛飾郡庄和町 8.28
  • 北葛飾郡吉川町 9.69
  • 春日部市 9.78
  • 上尾市 10.15
  • 坂戸市 9.52
  • 入間郡越生町 8.44
  • 川越市 10.36
  • 大宮市 13.74
  • 越谷市 10.23
  • 草加市 10.27
  • 川口市 11.23
  • 与野市 12.18
  • 浦和市 12.39
  • 入間郡三芳町 9.35
  • 朝霞市 15.76
  • 和光市 11.66
  • 所沢市 12.98
東京近郊の水道水の硝酸濃度(千葉県)
  • 野田市 12.08
  • 松戸市 11.19
  • 流山市 11.79
  • 柏市 9,78
  • 市川市 11.66
  • 我孫子市 13.22
  • 船橋市 9.03
  • 浦安市 11.32
  • 八千代市 9.54
  • 智志野市 12.00
  • 印旛郡栄町 7.13
  • 千葉市 10.06
  • 市原市4.78
東京近郊の水道水の硝酸濃度(神奈川県)
  • 川崎市多摩区 16.10
  • 川崎市幸区 6.49
  • 大和市 6.40
  • 座間市 29.69
  • 横浜市緑区 5.23
  • 横浜市港北区 5.49
  • 横浜市鶴見区 7.34
  • 横浜市保土ヶ谷区 4.89
  • 横浜市旭区 6.52
  • 横浜市南区 5.54
  • 横浜市戸塚区 7.22
  • 芽ヶ崎市 6.71

硝酸自体に毒性はない[P.102-104]

成人だけでなく、幼児や児童ですら同じように硝酸に汚染された水を飲用しても、
通常は全くなんの影響も現れないのです。
米国のクラウンらは、飲料水の硝酸性窒素高レベル地域(22~111ppm)の1~8歳において
メトヘモグロビン血症の増加傾向がないことを報告しています。
この点は、イヌなどの動物実験でも裏付けられています。
硝酸ナトリウムを2%濃度に含ませた餌で100日以上飼育しても
いかなる障害も認められていないのです。
同様に、リーマンは硝酸ナトリウムを直接静脈に注入しても
メトヘモグロビン血症を生じないことも動物実験で認められています。

成人において硝酸によるメトヘモグロビン血症はほとんど例がありませんが、
わずかな例外が2例、オイスターマンとカイズ(1929年)によって報告されています。
硝酸アンモニウムを利尿剤として大集団に経口投与したところ、
二人の患者にメトヘモグロビン血症が発生したというものです。
この二人の共通点は胃腸病を患っていたという点です。

市販飲料水中の硝酸濃度[P.224]

商品名 採水地 硝酸濃度(ppm)
南アルプス天然水 山梨県北巨摩郡白州町 2.34
VOLVIC ボルビック 6.45
やさしい赤ちゃんの水 0.00
六甲のおいしい水 9.20
北アルプス安曇野の天然水 長野県南安曇郡掘金村 22.87
秩父山水 埼玉県秩父郡横瀬町芦ヶ久保1369-1 7.90
evian エビアン(カシャ水源) 3.44
アルカリイオンの水 1.75
ピュアウォーター 0.00
秩父源流水 埼玉県秩父郡大滝村 2.29
夢水氣(ゆめみずき) 北海道亀田郡七飯町字大沼町 0.00
AQUA BEAT(アクアビート) 沖縄本島糸満沖 4.25
湾州(チュジュ) 韓国湾州島 2.22
Pierval(ピテバル) エール・ノルマンディー 11.71
三隅の潤水天然のアルカリイオン水 島根県那賀郡三隅町大字井野奥三隅温泉 0.00
Vittel フランス、ヴィッテル 0.00
VALVRERT(バルヴェール) ベルギー、アルデンヌ 3.86
WHISTLER Water(ウィスラーウォーター) カナダ、バーナビ 0.00
飲む野菜温泉水99 鹿児島垂水温泉 0.89
生命源水 Sea power 鳥取県境港市(日本海) 0.00
SPA ベルギー、アルデンヌ地方スパ市(レーヌ泉) 1.75
HIGHLAND SPRIG スコットランドブラックフォード 0.00
ROCCHETTA(ロケッタ) イタリアグァルドタディーノ 0.80
ICE AGE カナダブリティッシュコロンビア州 0.00
PANNA イタリア、パンナスプリングス 5.48
Surgive 6.11
龍泉洞の水 岩手県下閉伊郡岩泉町岩泉字神成(龍泉洞) 4.15
谷川山系のおいしい水 越後の名水 新潟県南魚沼郡塩沢町 4.37
伊豆大島産 深層海塩ミネラル水 伊豆大島 5.44
天然クロレラ温泉水 鹿児島県垂水市 0.00

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