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書籍と雑誌の要約と解説

ワキガ・多汗症を治す

イナバ式削除法

装丁
ワキガ・多汗症を治す ワキガ・多汗症を治す
稲葉義方(稲葉クリニック院長/東京ワキガ研究所所長)
リヨン社
ISBN4-576-07017-9
2007/02/10
¥1200
「イナバ式削除法」
による治療を長年行なってきた著者が、
いろいろある治療法の長所や短所を分かりやすく解説し、
あなたの悩みを解消する本です!
目次
  1. ワキガはこうして発症する
    1. 「ワキガ体質」 – 簡単チェック法
      1. 「ワキガになりやすい体質」と「ワキガにならない体質」
      2. チェック① 親・兄弟・親戚にワキガの人がいる?
      3. チェック② 耳アカがしめってやわらかい?
      4. チェック③ わきの下のニオイが気になりだしたのは、思春期ごろ?
      5. チェック④ 家族や親戚から、ワキガ臭を指摘されたことがある?
      6. チェック⑤ 衣類に黄ばみ・変色がみられる?
    2. ワキガのニオイはこうして発生する
      1. ワキガ臭の強さやタイプには個人差がある
      2. ワキガのニオイの元凶は「アポクリン汗腺」
      3. 「皮脂腺」と「エクリン汗腺」も、ワキガ臭を増長
    3. 間違った情報がひとり歩きしている
      1. 誤解① 「わきの下のニオイ=ワキガ」ではない
      2. 誤解② 「腋窩多汗症=ワキガ」ではない
      3. 誤解③ 「衣類の黄ばみ=ワキガ」ではない
    4. ワキガ人口の少なさゆえの悲劇
      1. 欧米では「当たり前」、日本では「悩みの種」
      2. ワキガに悩む方たちからのSOS
      3. 人種差があるのは歴史的な食生活の影響?
      4. 日本のワキガ人口は増えつつある
      5. ほのかなワキガ臭はセックスアピールにもなる
      6. 【コラム】「ワキガが治り、結婚していまは幸せに」
  2. 腋窩多汗症はこうして発症する
    1. 「腋窩多汗症」 – 簡単チェック法
      1. 「単なる汗かき」と「腋窩多汗症」の違い
      2. チェック① 一日中、だらだらと汗がとまらない?
      3. チェック② 緊張すると異常なほど汗がでてくる?
    2. 腋窩多汗症はこうして発生する
      1. 持続的な腋窩多汗症 – エクリン汗腺の暴走が引き金に
      2. 一時的な腋窩多汗症 – 緊張すると異常なほど汗がでてくる?
    3. 本人にしかわからない多汗の苦悩
      1. 他人からみれば「たかが汗」、本人は「されど汗」
      2. 汗わきパッドをこまめに交換
      3. 「ワキガ臭をともなうのでは?」という不安
    4. どのレベルから治療が必要なのか
      1. 十代の思春期に手術を選択するのは慎重に
      2. 持続的な多汗症は、症状の度合いで対策を考える
      3. ワキガ妄想の患者さんは「手術しかない」
    5. 【コラム】「多汗がピタリと止まり、夢のよう」
  3. ワキガ・腋窩多汗症の治療法
    1. 自分の目的に合った治療法を選ぼう
      1. 治療法の選択は慎重に
      2. 知識を身につけ、明確な目的をもって医療機関へ
      3. 不安なことは治療前に解決しておく
      4. こんな医師には要注意
    2. ワキガ臭が「軽い」方は、この療法
      1. 「石けん洗浄・制汗剤」 – わきの下を清潔に保つ
      2. 「電気分解法・電気凝固法」 – アポクリン汗腺が少し減る程度
      3. 「レーザー療法」 – 脱毛には有効だが、ワキガは退治できない
    3. ワキガ臭が「強い」方も手術で治る
      1. 自分の目的に合った手術法をじっくり選ぶ
      2. 「切除法」「皮弁形成手術」 – 切除範囲に限界がある
      3. 「皮下組織掻爬法」 – アポクリン汗腺は半分くらいしかとれない
      4. 「吸引法・超音波吸引法」 – 手軽にできるが、アポクリン汗腺は残りやすい
      5. 「剪除法」 – 医師の腕がよければ成功率が高い
      6. 「イナバ式皮下組織削除法」 – 二つの汗腺と皮脂腺を確実に除去できる
      7. 手術療法で起こりやすい合併症
    4. 腋窩多汗症の方には、こんな療法
      1. 重症例以外は、手術は最終選択とする
      2. 「精神安定剤」 – 過度な緊張を上手にコントロール
      3. 「ボトックス注射」 – 一回の注射で、半年ほど効果が持続する
      4. 「手術療法」 – エクリン汗腺を除去できる手術法は二つ
      5. 【コラム】「接客の仕事もできるようになった」
  4. イナバ式「皮下組織削除法」
    1. イナバ式はこうして完成した
      1. 父・稲葉益巳が数年かけ、試行錯誤の末に完成
      2. 手術後の新しい固定法も考案
      3. 日本医師会から最高功労賞を受賞
    2. 皮下組織を約1ミリのうすさまで削除する
      1. アポクリン汗腺、皮脂腺、エクリン汗腺を一掃
      2. 手順① わき毛をそり、局所麻酔をする
      3. 手順② わきの下の皮膚を小さく切開する
      4. 手順③ 手術する部位の皮膚を剥離する
      5. 手順④ ワキガ臭と多汗の元凶である皮下組織を削り取る
      6. 手順⑤ 排液孔をあける
      7. 手順⑥ 皮膚を縫い合わせる
    3. 術後の固定は「ダブル・タイ・オーバー法」
      1. 術後の圧迫固定は必ずおこなう必要がある
      2. 「ダブル・タイ・オーバー法」とは
    4. 手術後はこうした経過をたどる
      1. 手術直後は安静が大切
      2. 手術後3日から半年後までの経過
      3. 遠方から来院された方は、約1週間で帰宅できる
    5. 確実な治療法で起こりやすい合併症
      1. どんな手術にもリスクはともなう
      2. イナバ式にもマイナス面はある
      3. 手術前に患者さんとじっくり相談
      4. ごくまれに術後にワキガ臭が残るケースがある
      5. 再手術の方は手術時間が倍になることも
    6. 「偽イナバ式」にご用心!
      1. 別の治療法を組み合わせているのは危ない
      2. 確実な効果を約束できるのは当院だけ
  5. ここが知りたいQ&A
    1. ワキガは人に伝染する?
    2. 自分がワキガだと気づいていない人もいる?
    3. 腋窩多汗症も、ワキガのように思春期ごろに発症する?
    4. わき毛を残す手術は可能?
    5. わき毛の生えている部分が広いが、すべて除去できる?
    6. 手術前にわき毛を抜いても問題ない?
    7. 子どもは何歳から手術できる?
    8. ワキガ臭は軽い人ほど治りやすい?
    9. ケロイド体質でも手術は受けられる?
    10. 手術中および手術後の痛みはどの程度?
    11. 手術後、ワキガ臭と多汗はどのくらいなくなる?
    12. 手術後にシワや色素沈着が残ることがあると聞いたが?
    13. 手術後の固定期間をもっと短くできない?
    14. 手術後はどのくらい通院が必要?
    15. 以前は入院をすすめていたのに、入院しなくてよくなったのはなぜ?
    16. わきの下の手術後、背中や胸からニオイがでてくることは?
    17. イナバ式は健康保険が使える?
    18. すそワキガも治せる?
    19. 手術によって血管や神経を傷める危険性は?
    20. 他の病院で受けた手術の傷あとは治る?
    21. 他院で手術を受けたあと、どのくらいで再手術が可能?
    22. 剪除法もすぐれた治療法と聞いたが、イナバ式との違いは?
    23. 手術したいが、仕事が忙しくて長期の休みがとれないが?
    24. 手術後、いつから制汗剤を使用してもいい?
    25. 自分でできる効果的なニオイ対策は?
文献
  • 稲葉益巳『多汗症・ワキガの治療』
  • 稲葉益巳『気になるボディーの臭い解消法』
  • 稲葉益巳・稲葉義方『多汗症・ワキガはきれいに治る』

内容

  • わきの下のニオイを何度チェックしてみても、約3割の方はまったくワキガ臭が確認できません。つまり、ワキガではないのです。[P.2]
  • 自己臭症の症例[P.3-4]
  • イナバ式は、私の父が開発した独自の治療法で、ワキガおよび腋窩多汗症の方がこの手術を受ければ確実に治ります。[P.8]
  • 耳アカとワキガの因果関係[P.28_66-67]
  • 当院の調査では、女性の場合、ワキガ臭の発生時期と、生理の開始時期がほぼ並行していることが確認できました。また、ワキガの女性は、ワキガでない女性にくらべて、生理開始時期がいくぶん早い傾向にあったのも興味深い事実でした。[P.29]
  • 女性の場合は、更年期を過ぎて女性ホルモンの分泌が激減すると、ワキガのニオイが弱くなることがわかっています。[P.29]
  • 男女を問わず、一度ワキガのニオイが発生した方は、適切な治療をしないかぎり、ワキガ臭が完全に消えることはありません。[P.29]
  • 制汗剤を多用した場合も、衣類に黄ばみや黒ずみが付着しやすくなります。[P.43]
  • 東洋人は総じてワキガ体質が少ないことが知られています。例えば、お隣の韓国では日本より少なくて人口の0.5割、中国ではさらに少なくて人口の0.3割といわれています。[P.46]
  • ある主婦の方からこんなお手紙をいただいたことがあります。ご本人はわきの下の汗がひどく気になって、すぐにでも汗を抑える手術を受けたいのだが、ご主人やご両親は猛反対。[P.63]
  • わき毛を残す量が多ければ多いほど、ワキガ臭や多汗の症状も残ってしまいます。それを説明したうえでもなお、男性の患者さんのなかには、「わき毛を残して欲しい」という方がいらっしゃるのです。[P.83]
  • ワキガの手術のなかで、むかしから全国でポピュラーにおこなわれ、唯一、健康保険が適用となっているのが切除法と皮弁形成手術です。[P.91]
  • イナバ式を開発した父の代から数えると、私のクリニックだけでこれまで5万人以上の患者さんが、イナバ式の手術で治癒しています。[P.103]
  • イナバ式皮下組織削除法[P.118-123_151_!53]
  • キシロカイン[P.128-129]
  • ダブル・タイ・オーバー法[P.135-138]
  • じつは世の中にはわき毛の生えている範囲を超えて、アポクリン腺が分布している方がまれにいるのです。[P.151]
  • 私のクリニックには、別の医療施設で手術をうけたあとに、再手術を希望して訪れる患者さんが数多く来院されます。ワキガや腋窩多汗症の手術を受けるのが三度目、四度目というケースも珍しくありません。[P.153]
  • 自覚なきワキガ[P.161]
  • 小学生の場合、本人がワキガで悩んで来院されるケースはまれで、親御さんがニオイを気にしてムリヤリ連れてこられる場合がほとんどです。[P.166]
  • ワキガの転移[P.177]
  • 健康保険の適応範囲[P.178]
  • 私のクリニックではすそワキガの治療はおこなっていません。以前試みたことがあるのですが、イナバ式皮下組織削除法がおこなえるのはせいぜい毛の生えている前の部分だけで、性器に近いほうはムリでした。[P.179]
  • 少しでもすそワキガのニオイを減らしたい方は、治療効果は確実でないものの、皮膚がでこぼこしていても関係なくおこなえる電気凝固法を試してみるのがよろしいでしょう。[P.179]
  • 再手術をおこなう場合、本来は皮下脂肪が少しやわらかくなってくるまで待ったほうが、皮膚を剥離しやすく、術後の経過もよくなります。しかし、皮下脂肪がやわらかくなってくるのは術後半年以上先のこと。[P.182]
  • 切除法をおこなった患者さんの再手術は大変で、通常の倍以上の時間がかかります。[P.182]
  • 化繊は汗とともにニオイ成分をまき散らしやすいのに対して、天然素材の衣類はニオイ成分を捕まえて吸着する性質がある。[P.186]

自己臭症の症例[P.3-4]

十代の女子高生がワキガの手術を希望して、お母さんと一緒に来院されました。
ニオイのチェックをしてみると、汗クサさが若干あった程度で、
ワキガ臭は一切確認できませんでした。
そこで、手術の必要がないことを告げたところ、
女子高生はその場で泣き崩れてしまったのです。
お母さんは、

「だから言ったでしょう、あなたはワキガ臭なんかないのよ」

と説得しても、本人はまったく耳を貸さず、

「お母さんは何もわかってない。先生とグルになって私をだましている」の一点張り。
手術さえすれば、これまでの苦しみが一掃されると信じて来たのに、
手術してもらえないとわかって絶望してしまうのです。

なかには、

「ワキガじゃなくてもいいから、とにかく手術をしてください」

と、本末転倒の要求をしてくる患者さんもあります。

耳アカとワキガの因果関係[P.28_66-67]

前院長(父)の代からの数十年にわたる治療経験からいって、
耳アカが乾いている方で、ワキガのニオイが確認できた例はありません。

*   *   *

私のクリニックで以前おこなった調査では、ワキガと多汗症の患者さん466人のうち、
耳アカがしめってやわらかかった431人の9割近くはワキガのニオイが確認されたのに対して、
耳アカがカサカサにかわいていた35人の患者さんはすべてワキガ臭のない純粋な腋窩多汗症でした。

<中略>

ただし、耳アカがしめっているワキガ体質の方でも、ワキガのニオイがしない場合があります。
前記の調査でも、耳アカがしめっていた患者さんのうち、
1割強の方にはワキガ臭が確認できませんでした。

イナバ式皮下組織削除法[P.118-123_151_!53]

イナバ式皮下組織削除法は、私の父・稲葉益巳が数年の歳月をかけて開発した治療法です。

父が、イナバ式の開発に着手したのは昭和40年ころのこと。
当時ワキガの治療法といえば、脱毛技術を応用した電気分解法・電気凝固法のほか、
切除法と皮下組織掻爬法の三つが主でした。

このうち、電気分解法・電気凝固法と皮下組織掻爬法は、
どちらも手間がかかるわりに再発率が高いことから、
治療効果を少しでも高めるには切除法を選択するしかありませんでした。

しかし、切除法では、わきの上部から乳首の横あたりまで、
大きくメスを入れなければなりません。術後の患者さんのわきの下の傷あとを見て、

「治るにしても傷が大きすぎる」

と、こころを痛めた父は、

「掻爬法のような小さな切開で、もっと確実に皮膚の裏側のアポクリン汗腺や皮脂腺、
エクリン汗腺を削りとる方法はないものだろうか」

と、独自に研究をスタートしました。
これがまさにイナバ式皮下組織削除法開発のはじまりでした。

イナバ式を思いつくヒントになったのは、材木を削るカンナでした。
カンナで材木を削るように、皮膚の裏側をシュッシュッと少しずつ平らに削っていくことができれば、
掻爬法以上に皮膚のより浅い部分まで削りとることができるはず、と父は考えたのです。

そこで、皮膚の裏側から一定の角度を保ってカミソリで皮下組織を削りとる方法を考案しました。
このとき、単にカミソリで切るのでは不安定なので、皮膚の裏側にあてた刃物に対し、
皮膚表面から平均的に圧力を加えられるものが必要でした。

圧力を加えるアイテムとして、父が最初に選んだのは平板でした。

さっそく実験として鶏の皮を使い、
その表面を平板で押さえながらカミソリの刃を引いてみたところ、これが大失敗。
切れ味がよすぎて皮膚の表面までバッサリと切れてしまったのです。

試行錯誤の末、あるとき父はローラーで圧力を加えることを思いつき、試作品を作成。
手術で使う金甘子にローラーとカミソリをつけた単純なものでしたが、
じつはこれが現在のイナバ式削除器の原型となった「A型削除器」です。
研究に着手してから、すでに二年の歳月が流れていました。

その後、A型削除器を使った動物実験が何度となくくりかえされました。
もちろん、最初からうまくいくわけもなく、失敗の連続でしたが、
父は次第に皮下組織だけを削りとる字術をマスターしていきました。
そして自信がついたところで、今度は親戚や友人でワキガのある方の協力のもと、
実際の臨床への応用がはじまったのです。

最初は、皮膚を傷つけてしまったり、
手術後にワキガのニオイが少し残ってしまったりといった失敗もあったようです。
しかし、A型削除器完成から数年後、改良型のB型削除器が完成するに至り、
確実に皮下組織を削りとることができるようになりました。

*   *   *

私のクリニックでイナバ式皮下組織削除法をおこなった場合、
手術後にふたたびワキガ臭が発生する確率は1%以下。
吸引法などの他の手術では再発率30~40%が通例ですから、
いかにイナバ式皮下組織削除法が「確実性」の高い手術かわかっていただけると思います。

*   *   *

当院でイナバ式皮下削除法をおこなった場合、
両わきで40分程度で終了するのが通例ですが、例外があります。

皮膚の状態は人によってかなりことなります。
手術しやすい皮膚とそうでない皮膚があるのです。

例えば、皮膚が厚くて真皮に弾力のある方は手術がしやすく、
ときには両わき30分ほどで終了することもあります。
しかし、皮膚がうすくてシワがたくさん寄っているタイプの方は若干時間がかかります。

キシロカイン[P.128-129]

麻酔に使う薬剤は「キシロカイン」といって、歯の治療などにも使われている麻酔薬です。
これを0・1%の濃度にうすめて、わき毛の生えている範囲に複数箇所注射します。

ちなみに、キシロカインを0・1%で使うことは、
いまではワキガの手術において常識となっていますが、
この濃度は私の父が発見したものです。

ひと昔前まで、キシロカインは1%の濃度で使うのが通例でした。
しかし、キシロカインの投与量には上限があり、
例えば体重50kgの方であれば500mgまでしか使うことができません。
したがって、1%の濃度で注射すると、
両方のわきの下を広範囲に麻酔することは不可能となります。

そこで私の父は、キシロカインをうすめて使うことを考えました。
「うすめる」と簡単に言っても、
果たして麻酔の効果が得られる最低ラインがどのくらいの濃度なのか、
まったくわからない状態でした。
父はまさに手探りで、段階的に濃度を下げて使用する研究をくりかえすなかで、
0・1%までうすめても大丈夫であることを見いだしたのです。

<中略>

麻酔の効果はおよそ10時間継続します。

ダブル・タイ・オーバー法[P.135-138]

旧来、ワキガの手術後の固定法としては、
単純圧迫法と呼ばれる処置が広くおこなわれていました。
これは手術後のわきの下に、脱脂綿やガーゼ、スポンジなどの圧迫物をまるめてあて、
絆創膏や包帯で固定する方法です。

しかしこの方法は、術後しばらくは絶対安静が必要で、その間、
ギプスで固定した腕をあげた状態で過ごさなければなりませんでした。
腕をむやみに動かすと、内出血したり、血腫ができて皮膚が壊死しやすくなったり、
浮腫・しびれといったさまざまな問題が生じてくるからです。
また、圧迫物を押さえるための絆創膏で、
皮膚炎や水疱、皮膚びらんを起こすこともしばしばでした。

そのため、単純圧迫法をおこなうと、入院期間が2~3週間に及びます。
加えて、入院中はトイレに行くのもお風呂へ入るのも、
人の助けが必要となるうえ、そもそも忙しい現代人にとって、
そんなに長期間にわたって休みをとることじたい難しいことでした。

そこでもっと機動性の高い圧迫法として考案されたのが、
現在も盛んにおこなわれているタイ・オーバー法です。
これは手術で縫い合わせた糸を切らずに残しておき、
その糸を利用して、患部の上にのせた綿ガーゼを結びつける方法で、
ガーゼの上で(over)皮膚とともに結札糸(tie)固定することから、
タオ・オーバー法の名がつけられました。

しかし、このタイ・オーバー法で圧迫固定しても、やはり10日くらいの安静が必要で、
術後しばらくは腕をあげたままにしておかなければなりません。
単純圧迫法と同様に、腕をおろすと神経や血管を圧迫し、
むくみやしびれが生じてくるからです。
また、圧迫物が大きいため、上腕を動かすと剥離した皮膚がズレて、
内出血を起こしやすい欠点もありました。

そうした難点をできるだけ解決し、手術後のトラブル防止と早期回復を目的として、
私の父が開発したのが、ダブル・タイ・オーバー法です。

<中略>

ダブル・タイ・オーバー法は、わきの下の中央部を走っている血管、
神経を避けて圧迫するところが、旧来の圧迫固定法と異なる点です。

まず、棒状にまるめたAガーゼ(ドレシングA)と、
厚めのBガーゼ(ドレシングB)を用意します。

最初に、Aガーゼを手術した部位にのせ、ナイロン糸で
皮膚と皮下脂肪組織(削除した皮膚のしたの部分)からすくうように縫います(図)。
個人差はありますが、通常3~5本の糸で固定します。
次に、Aガーゼの上にBガーゼをすき間なくのせて、ナイロン糸でしばります(図)。
すると、ガーゼは半月状となって皮膚上に膨隆し、
削除した皮膚全体とその下の脂肪組織を確実に圧迫固定できます。

また、くぼみの大きな胸側には多少固めで厚いガーゼをのせ、
くぼみのない腕側にはやわらかめのうすいガーゼをのせることで、
ひじをより低い位置までおろした形で、腕を固定することも可能になりました。
手術した当日から、ひじから下は自由に動かすことができるようになったのです。

自覚なきワキガ[P.161]

ニオイがあまりにも強烈な場合、家族や職場の人がたまりかねて、
イヤがる患者さんを強引に私のクリニックへ連れてこられるケースがあります。

そうした場合、患者さん本人は、

「自分は全然ニオイなど気にならない」

とおっしゃいます。
決して嗅覚に問題があるわけではなく、
ワキガ以外のニオイに関してはふつうに感じとれるものの、
なぜかワキガのニオイについては感受性が鈍いようなのです。

ワキガの転移[P.177]

イナバ式でワキガのニオイが改善されたあと、

「こんどは背中や胸からワキガ臭がでてきた」

と訴えて来院される患者さんがたまにおられます。

手術前ではわきの下から発散されていたワキガのニオイが、
背中と胸からでてくるようになったというのです。

確かに、人間は誰しも背中や胸から絶えずニオイがでています。
しかしそれはワキガのニオイではありません。
百歩譲って、乳首やへその周囲に分布しているアポクリン汗腺由来のニオイが多少でていたとしても、
いわんや火山帯のように、わきの下のワキガ臭が治まったからといって、
そのニオイが別の部位からでてくることなどあり得ません。

おそらく、悩みの種だったわきの下のニオイが解消されたことで、
別の部位のニオイが気になりだした結果と考えられます。

健康保険の適応範囲[P.178]

ワキガの治療法のうち、切除法と皮弁形成手術については健康保険が使えます。
ただし、たとえ切除法または皮弁形成手術であっても、軽いワキガについては適応外とされています。
健康保険が認められるワキガの手術の適応は、昭和25年以来、次のように定められています。

『悪臭著しく他人の就業に支障を生じる事実が明らかであって、
客観的に医療を加うべき必要がある場合は給付して差し支えない。
軽度のものは給付外』

つまり、ワキガは生命に関わる病気ではないため、
健康保険で治療できるのは、あくまでワキガのニオイがあまりにも強烈で、
仕事に悪影響がでるほど周囲の人に迷惑をかけているような深刻な場合であって、
自分でニオイがちょっと気になるぐらいのケースは対象外というわけです。
なお、多汗症も対象外です。

ちなみに、当院でおこなっているイナバ式は、
まだ全国に広まっていないこともあって、現段階では健康保険の適応外となっています。

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