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書籍と雑誌の要約と解説

油 このおいしくて不安なもの

くずれたリノール酸神話

装丁
油 このおいしくて不安なもの―くずれたリノール酸神話― 油 このおいしくて不安なもの―くずれたリノール酸神話―
奥山治美(名古屋市立大学薬学部教授)
健康双書(農文協 ケ645)
ISBN4-540-88130-2
1989/03/15
¥1200
目次
  1. 油脂、このおいしくて不安なもの – 食事と油と健康の関係
    1. 毎日食べている三種類の油
      1. 油は動物性・植物性だけではない
      2. 植物が作る脂肪酸と動物が作る脂肪酸
      3. 身体が作れる脂肪酸と作れない脂肪酸
      4. 脂肪酸と食物連鎖
    2. 油とのつきあい下手がもたらす成人病
      1. うなぎのぼりに増えた食物中の油
      2. 油のとり方の変化と成人病の増加
    3. リノール酸は飽食時代の救世主だったのだろうか?
      1. 「リノール酸=健康」神話の成立ち
      2. コレステロールと脂肪酸
      3. 脂肪酸からできるホルモン様物質
      4. 人ではリノール酸欠乏症は起こらない
    4. もうひとつの重要な脂肪酸、α-リノレン酸
      1. α-リノレン酸は必須でないか?
      2. 頭のよくなる脂肪酸?
      3. シソ油には秘薬が入っているのか?
      4. 脳の脂肪酸も食物で変わってくる
      5. 視力を高く保つα-リノレン酸
      6. 人のα-リノレン酸欠乏症の具体例は?
      7. 脳の働きとプロスタグランディン
    5. 三つの油で献立をチェック
      1. 献立改善のヒント
  2. リノール酸健康神話にこれだけの反証 – α-リノレン酸とのバランスが問題だった
    1. 変わる現代病のパターン
    2. 油のアンバランスが作るアレルギー体質
      1. 幼児の三人に一人はアレルギー患者
      2. アレルゲン探しだけでいいのか
      3. アレルギー体質の改善は可能か?
      4. アレルギー体質に脂肪酸バランスが関与
      5. 幼児期の脂肪酸バランスが大切
    3. 脳梗塞、心筋梗塞の主犯はコレステロールではなかった
      1. エスキモー人とデンマーク人の話
      2. 脂肪酸バランスで血栓が予防できる
      3. 発作が起きても障害を軽くするには
      4. 魚油の効果がアイマイなのはなぜ?
    4. 増える「境界域高血圧」に有効なα-リノレン酸
    5. ガンの発生と転移を促進するリノール酸過多
      1. ガンの転移と必須脂肪酸バランス
      2. 発ガンにも脂肪酸バランスが影響
      3. 自然発ガンマウスと脂肪酸バランス
      4. ガン予防のための油のとり方
    6. 老人ボケにもリノール酸が関係
      1. 老齢ネズミの学習能と酸化しやすい油
      2. 人の痴呆症はどれだけ防げるか
      3. 老化防止の薬はできるか
      4. レシチンは老人ボケに効くか
    7. 脳卒中(出血性)にも有効なα-リノレン酸
      1. 魚油EPAはラットの脳卒中を増やすか
      2. 脳卒中ラットにもα-リノレン酸は有効
    8. 寿命を延ばすα-リノレン酸
      1. なぜα-リノレン酸が寿命を延ばすのか
      2. ガンより重要な食用油の問題
      3. リノール酸とりすぎ症候群は本当にある
  3. 油脂のバランスはこうして崩れた – 思い当たる私たちの食物の変遷のあのときに
    1. エゴマ油からベニハナ油へ – 食用油の変化
    2. 食生活の欧風化が油のバランスにもたらしたもの
    3. 食品自体も変わってきた
      1. 家畜の餌の変化 – 牧草から濃厚飼料へ
      2. 卵の中身が変わるなんて
      3. 魚よ、お前もか – 栽培漁業の問題点
      4. 温室野菜ばかり食べていると
    4. 月見草オイルの悲喜劇
      1. γ-リノレン酸はなぜ有効とされるか
      2. 月見草オイルで肥満解消?
      3. 長期摂取の副作用は調べられていない
      4. コレステロール低下作用とその副作用
      5. γ-リノレン酸は母乳に入っているか?
      6. アルファーかガンマーか
  4. かしこい油脂のとり方 – 油のバランスをとりもどす
    1. すぐ始めたい自己防衛の工夫
      1. 霜降り肉よサヨウナラ
      2. 魚のよさは食べ方しだい
      3. プレミアム・オイルにメリットなし
      4. マヨネーズ、ドレッシング、マーガリンに要注意
      5. 揚げたお菓子にご用心
      6. 野菜のよさを生かす主婦の気配り
    2. こんな人はとくに気をつけたい
      1. 油によって影響を受ける病気
      2. 妊婦の食事、粉ミルクと離乳食
      3. 実年以後の食生活
      4. 糖尿病患者はどうすべきか
    3. 消費者の声と企業の決断ですぐ変えられるもの
      1. 病院食が慢性疾患を重くしている?
      2. 粉ミルクの脂肪酸はどうあるべきか
      3. 油漬けマグロ缶なんて
      4. これからの油脂食品と外食産業の方向
      5. 日本は欧米よりまし? – 適正比率を探る
    4. 栄養指導の専門家にお願いします – 家庭と職場で必要なこと
  5. 古い油=過酸化脂質の危険説を検証する
    1. 不飽和脂肪酸の酸化 – 過酸化脂質の生成
    2. 老化、ガン化のフリーラジカル(過酸化脂質)説
    3. 過酸化脂質のふりかけ実験の問題点 – 毒性の評価
    4. 過酸化脂質の定量法の問題点
    5. 老化、ガン化の過酸化脂質説の誤り
    6. 身体のなかでは試験管内での酸化のされやすさは反映されない
    7. α-リノレン酸系列はむしろ火消し役?
文献
  • ウィリアム・E・ランズ『人の健康と魚』[P.63]
  • 県北の食『聞き書き岩手の食事』[P.110]

解説

脂質栄養学の立場から現代に蔓延するリノール酸過剰症が病因になることを明らかにする。
健康に良いと言われているリノール酸系調理油は実は不要の長物であり、
むしろアルファ-リノレン酸こそが必要であると自身で行なった実験を元に訴える。

内容

  1. “リノール酸とりすぎ症候群”が私たちの健康をむしばんでいるのです。[P.1]
  2. リノール酸の所要量は主食だけで満たせる[P.26]
  3. 「α-リノレン酸は動物の学習能を高く保つうえで必須である」[P.34]
  4. 食事によって脳の脂肪酸組成が変化する[P.35]
  5. ホルマンのα-リノレン酸欠乏症例(1982年)[P.40-41]
  6. 名古屋のある小学校ではアトピーと診断されている子どもが三~四人に一人の割合でいます
    (名古屋市立愛知小学校瀬木由美教諭)。[P.52-53]
  7. オメガ3は血圧を低下させる[P.76-77]
  8. シソ油はガンの転移を抑制する[P.79-80]
  9. 一九八八年日本ガン学会でバターとサフラワーマーガリンの発ガンに及ぼす影響が報告されました。それによりますと、サフラワーマーガリンを与えたほうがバター食群より発ガン率が高かったそうです。[P.83]
  10. 日本ではエゴマ油が使われていた[P.110]
  11. ドイツではアマニ油が使われていた[P.111]
  12. 飼料によって畜産物の脂肪酸比率が変化する[P.117-118]
  13. 植物は低温状態だとα-リノレン酸を作り出す[P.124-125]
  14. γ-リノレン酸有害説[P.129-130]
  15. ナタネのエルカ酸が本当に心臓疾患のひきがねになるかどうか疑わしいのですが、
    現在のところ灰色なので、なるべく避けたほうがよいでしょう。[P.146]
  16. 野菜を煮るとビタミンCが壊れて減ってしまうという話は本当ですが、
    果物なども豊富になりましたので、
    いろいろな清涼飲料水にもビタミンCはたくさん入っていますから。[P.157]

リノール酸の所要量は主食だけで満たせる[P.26]

リノール酸の必須量は六〇キログラムの人に換算して一~二グラム/日です。
普通の食事をしているとこの量は充分まかなえます。
たとえばご飯二杯半、パン二枚のなかには二・三グラムのリノール酸が入っていますので、
これだけで充分なのです。
このほかのほとんどすべての食物にリノール酸が入っていますので、
これが不足することはまず考えられません(表参照)。

食事によって脳の脂肪酸組成が変化する[P.35]

この実験は親から子まで二世代にわたって異なる餌を与えたネズミを比較したものです。
すると脳の脂肪酸組成まで変わることがわかりました。
予想どおり、食餌のリノール酸とα-リノレン酸の比率を変えますと、
それぞれから作られる脂肪酸の比率がそれに応じて変わったのです。

ホルマンのα-リノレン酸欠乏症例(1982年)[P.40-41]

これは銃の暴発で小腸を三メートルほど切除した少女の場合です。
小腸が少なくなりましたので栄養分が吸収されず、
高カロリー輸液(中心静脈栄養)によって療養していたところ、
しびれ、感覚異常、視覚のぶれなど、脳・神経に関わる症状を示したそうです。
この輸液はベニバナ油(リノール酸が八〇%も含まれるが
α-リノレン酸は一%以下しかふくまれていない)のみを脂肪源として使っていたので、
血漿脂肪酸にはα-リノレン酸系列の脂肪酸が非常に少なかったそうです。
そこでα-リノレン酸を与えたところ、これらの症状が消失した、というものです。

オメガ3は血圧を低下させる[P.76-77]

高血圧自然発症ラットは名古屋市立大学医学部の青木久三先生たちによって確立されました。
このネズミに魚油を与えると、血圧が下がることをアメリカのショウニーらがみつけました。
血圧の低下は一五%くらいですから、高血圧の原因を除くのではないとおもわれます。
しかし、境界域の高血圧の場合は、
この程度の血圧低下でも正常値にもどりますので、非常に有効ということになります。
魚油は血漿の中性脂肪のレベルを下げますし、
コレステロールも多少下げますので、これらが重なって、血圧低下作用が現れるのでしょう。

私たちはシソ油とベニハナ油を高血圧ラットおよび
その対照(比較する対象)の普通血圧ラットに与え、
血圧に及ぼす影響を調べてみました(図24)。
ネズミの週齢を追って血圧の変化を調べてみますと、
シソ油食群のほうがベニハナ油食群に比べて血圧の上昇が抑えられました。
普通血圧のネズミに対しては、餌の脂肪酸が違ってもほとんど影響がありませんでした。
すなわち高血圧は下げるが正常血圧の血圧は下げないという。
非常によい結果が得られたわけです。
この場合にもやはり、血圧の低下は一〇%くらいでした。

後(7節)でも述べますように、
高血圧ラットよりもっと血圧の高い脳卒中易発症性ラットでも、
シソ油とベニハナ油とで同様に一〇%前後の血圧の差が生じました。

食用油を選ぶことによって一〇%前後の血圧を下げることができるとすれば、
シソ油は非常に安全な食物でありますから、
境界域高血圧の人の非常によい食餌療法になります。

シソ油はガンの転移を抑制する[P.79-80]

ガン細胞が血液中を運ばれ、ある組織に着いて増殖するとき、
血小板が深く関わっているという報告がだされました。
すなわち、血小板でできるプロスタグランディンⅠ2を増やして凝集しないようにすると、
ガンの転移が減少するというものです。
血小板の凝集がn-3系列の脂肪酸で抑制されることは3節で詳しくのべました。
そこでシソ油とベニハナ油をネズミに与え、ガン細胞を静脈より注入し、
肺にできた転移結節(ガン病巣)の数を比較してみたのです。
この実験はガンと脂質の専門家、
名古屋大学医学部小島清秀教授グループのご協力をいただきました。
図25に示しましたように、
普通食群とベニハナ油食群との間に有意差はなかったのですが、
シソ油食群では他の二群に比べて有意に転移が少なく、
α-リノレン酸が転移を四〇%ほど少なかったのです。

日本では昔からエゴマ油が使われていた[P.110]

エゴマ油は日本で一番古く(8世紀ころ)絞られた油の一つであることがわかりました。
そしてこのエゴマは比較的最近まで、使われていたようなのです。
少し調べてみますと、現在でも北陸地方や東北地方の一部で料理に使われているようです。
岩手ではじゅうね油とかじゅうねん油、油つぶなどとよばれ、
味噌などにまぜ(じゅうね味噌)、いろいろな料理に使われたと記載されています
(『聞き書き岩手の食事』、県北の食、農山漁村文化協会、一九八六年)。
それがわずかここ三〇年ほどの油脂摂取量の増加によって、
ダイズ油やベニハナ油に押しのけられてしまったのです。

ドイツでは昔からアマニ油が使われていた[P.111]

ごく最近、ベルリンから旧友R・エンテ先生(ベルリン工科大学助教授)が来られました。
私たちの研究室の研究結果を説明しますと、
たしかドイツではアマニ油を昔から食用に使っている、という話でした。
アマニ油は油絵の具の溶剤としてよく使われますので、
食用油としてあまり使われていないという先入観がありました。
そこで帰国後再確認していただきましたところ、やはり食用い使っているのだそうです。

飼料によって畜産物の脂肪酸比率が変化する[P.117-118]

コーンやダイズがアメリカの大規模農業で生産過剰となり、
また運送費が総体的に安くなってから、日本の畜産業もずいぶん変わりました。
すなわち、コーンやダイズが家畜の飼料にふんだんにつかわれるようになったのです。
これが食物連鎖の結果、動物性食品の必須脂肪酸バランスをわるくすることになったのです。
かつて、脂肪の栄養を飽和/不飽和で論じていたところ、
牛乳に多い飽和脂肪酸を不飽和に変える目的で、
リノール酸の多いヒマワリ種子を多量に与えた実験がありました。
予想どおり、その牛乳は多量のリノール酸を含んでいました
(図34の牛乳B。牛乳Aは普通の飼料で育てられたもの)。
肉のほうも同じです。
オーストラリアから輸入された“牧草で育てた牛の肉”と一般の市販の肉を比較してみますと、
明らかに牧草と濃厚飼料のα-リノレン酸/リノール酸バランスを反映しています(図37)。

植物は低温状態だとα-リノレン酸を作り出す[P.124-125]

一種類の植物でも栽培温度によってリノール酸とα-リノレン酸の割合が変わってきます。
市販のカイワレダイコンを高温と低温で育ててみますと、図41にみられますように、
低温のほうがα-リノレン酸が多くなっています。

(中略)

植物が低温でα-リノレン酸を多く作るメカニズムは、低温のほうが細胞内に溶ける酸素が多く、
高濃度の酸素がα-リノレン酸合成酵素を促進する、といわれています。
このほかに、不飽和化酵素自体が低温で誘導されるメカニズムも知られています。

γ-リノレン酸有害説[P.129-130]

γ-リノレン酸の次にジホモ-γ-リノレン酸が作られ、それからアラキドン酸が作られるのですが、
このジホモ-γ-リノレン酸からはプロスタグランディンE1が作られ、
これは血栓性を抑える作用があります。
そこでγ-リノレン酸を与えるとジホモ-γ-リノレン酸が増えプロスタグランディンE1が増え、
その結果身体によい効果がみられるというのが、月見草オイルを勧めるときの説明です(図42)。

しかし、この図から推測されますように、
この流れが期待どおりE1のほうへ流れるだけなのか、
あるいはアラキドン酸のほうへ流れて結果的に二系統プロスタグランディンが増えるのか、
予断を許しません。これを実際に人で調べてみた報告があります。
この場合、直接ジホモ-γ-リノレン酸を人に与え、
血小板で作られるE1とE2とを測定したのです(図43)。

するとたしかに、ジホモ-γ-リノレン酸を与えるとE1が増えたのですが、
その数十倍の量のE2が増えたのです。
すなわち、ジホモ-γ-リノレン酸からアラキドン酸への流れが人でも大きく、
やはり、アラキドン酸の前駆体を与えることは危険な方法であることがわかりました。

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