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書籍と雑誌の要約と解説

水と健康

狼少年にご用心

装丁
水と健康 水と健康 狼少年にご用心
林利郎
日本評論社(シリーズ地球と人間の環境を考える⑦)
ISBN4-535-04827-4
2004/02/20
¥1600
目次
  1. 飲み水にひそむ危険
    1. 水と人体
      1. 人体と台風
      2. 水もとりすぎると毒
    2. 飢えと病気の人類史
      1. 飢疫
    3. ヒトの病気はヒトから
      1. ヒトの糞
      2. 意識と現実のギャップ
      3. ヒトに特異的
    4. 飲み水に忍び込む病原体
      1. 細菌
      2. 原虫
      3. 腸内性寄生虫
      4. ウイルス
    5. 水系感染症の殺傷力
  2. 塩素の恵み
    1. 人口爆発の誘因
    2. 伝染病を撲滅した塩素消毒
    3. 胃がんと塩素消毒
      1. 胃がんの成因
      2. 潰瘍は細菌感染
      3. 胃がんは細菌感染症
      4. ピロリ菌の種特異性
      5. ピロリ菌の感染経路
      6. 胃がん発生率の日米格差
      7. 塩素消毒と胃がん
      8. 日本人の胃がんが一九六〇年代に最高だった理由
      9. 胃がん大国を生んだAF2
      10. わが子をピロリ菌から守るには
    4. 子宮がんを激減させたもの
      1. ウイルス感染で発生するがん
      2. 昔の女性に子宮がんが多かったわけ
      3. 女性をいたずらに脅す人
  3. トリハロメタン幻想
    1. トリハロメタンは猛毒?
      1. トリハロメタンと浄水器
      2. トリハロメタンとは
      3. トリハロメタン類の毒性
      4. 汚染が激しい欧米の河川
      5. トリハロメタン類はむしろ大気から
    2. トリハロメタンの摂取を減らすには
      1. 水道水の加熱でトリハロメタンが増加?
      2. トリハロメタン対策 その一
      3. トリハロメタン対策 その二
      4. 塩素消毒の意味
      5. 水をめぐる幻想
  4. 飲み水の基準と実体
    1. 水質基準項目
    2. 基準項目と毒性
      1. 見掛け倒しの「毒物」
    3. 飲み水と日本人の虫歯
      1. 虫歯体質
      2. フッ素の基準値――日本と欧米
      3. フッ素の過剰症
    4. ハイテク産業関連合成化合物
      1. 工業化と環境汚染物質
      2. 有機塩素化合物
    5. 水道水の性状
    6. ゴルフ場の農薬
  5. 誤解だらけの「硝酸・亜硝酸」
    1. 歴史的背景
      1. 水質汚染の最重要課題?
      2. 塩素消毒が見直させた水質基準
      3. 硝酸・亜硝酸の健康影響
      4. 近代生活が生んだ新病
      5. 奇病の解明史
      6. 広がる衝撃
    2. 問題は胃のしくみ
      1. コムリー仮説の検証
      2. 亜硝酸の発生源
      3. 塩酸の分泌抑制
      4. 新生児の不思議な腸
    3. 水質基準値とメトヘモグロビン血症
      1. 基準値の算出根拠
      2. 基準値に異議あり
      3. 基準値以下なら安全か?
    4. 硝酸・亜硝酸汚染の現状
      1. 首都圏の飲料水
      2. 汚染度の高い地下水
    5. 乳児の胃でできる亜硝酸
      1. 亜硝酸の生成率
      2. 意外に多い乳児の摂水量
      3. 亜硝酸のメトヘモグロビン生成率
    6. 認識の遅れた日本
    7. メトヘモグロビン血症は文明病?
    8. 母乳哺育を見直そう
      1. 亜硝酸が生む別の問題
      2. 母乳哺育の意義
    9. 無用の水質項目「硝酸・亜硝酸」
  6. 水と地球環境
    1. 水の循環・大気の浄化
      1. 海は死にかけている?
      2. 海の誕生
      3. 水の循環と大陸
      4. 汚染の極致だった原始大気
      5. 大気を浄化する水の循環
      6. 海水の浄化
      7. 生物が浄化した海
      8. いまの大気をつくった生物
    2. 海水の浄化
      1. 海水組成の不思議
      2. 元素の分別・堆積
      3. 海の表層は貧栄養
      4. 海水の謎と化学実験
    3. 物質の大循環
      1. 窒素の循環
      2. 硫黄の循環
      3. 水銀の循環
    4. いきすぎた反応
文献
  • B・デルプゴリツ『水の世界』
  • アン・ナダカブカレン『地球環境と人間』
  • J・デ・カストロ『飢えの地理学』
  • 富士川『日本疾病史』
  • 酒井シヅ『日本疾病史』
  • 荒川秀俊『飢饉』
  • 北脇・関沢純・内田康策『WHO健康保険委員会報告』
  • E・A・ローズ『水環境の基礎科学』
  • 中島陽一郎『病気日本史』
  • 尾形道夫、「一冊の本をめぐって」、『暮しの手帖』五号、五二ページ(二〇〇三年)
  • 秦藤樹・小松信彦『微生物学』
  • マルセル・サンドライユ『病の文化史(下)』
  • 西田博『食中毒の原因と対応』
  • 金子光美『水道のクリプトスポリジウム対策』
  • 金子光美『水の消毒』
  • 高橋裕『水の百科事典』
  • 緒方卓郎『ヘリコバクター・ピロリ菌』
  • T.C.Northfield『ヘリコバクター・ピロリ感染症』
  • 杉村隆『発がん物質』
  • がんの統計編集委員会『がんの統計』
  • 林俊郎『ガン死のトップ 流行する肺がん』
  • 日本水道協会『WHO飲料水水質ガイドライン(第2巻)』
  • 化学物質安全情報研究会『化学物質安全性データブック』
  • 丹保憲仁『水道とトリハロメタン』
  • 東京都水道局『水質年報』
  • 日本環境管理学会『新水道水質基準ガイドブック』
  • 丹羽靭負『水――いのちと健康の科学』
  • ビョルン・ロンボルグ『環境危機をあおってはいけない――地球環境のホントの実態』
  • 渡辺正・林俊郎『ダイオキシン――神話の終焉』
  • Edward A.Laws『水環境の基礎科学』
  • John Emsley『化学物質ウラの裏』
  • von Ernst Lindner『食品の毒性学』
  • A.White,P..Handler,E.L.Smith,D.Stetten『生化学原理』
  • 堀口博『公害食品』
  • 小川吉雄『地下水の硝酸汚染と農法転換』
  • 眞柄泰基・金子光美『WHO飲料水水質ハンドブック』
  • 石館守三『生活環境と発がん』
  • 保志宏『ヒトの成長と老化』
  • 小泉武宣『JOHNS』
  • 林俊郎『飲料水汚染と人工乳が起こす乳幼児の突然死』
  • 石田清『新生児の胃破裂と壊死性腸炎』
  • 内山充・糸川・豊田正武『食品衛生学』
  • N.Baumslag,D.L.Michels『母乳育児の文化と真実』
  • J・E・ラヴロック『ガイアの科学 地球生命圏』
  • 北野康『地球の環境』
  • 渡辺啓『現代の化学』
  • 熊澤蜂夫・伊藤孝士・吉田茂生『全地球史解読』
  • 北野康『水の科学』
  • 武田育郎『水と水質環境の基礎知識』
  • 畠山史郎『酸性雨――誰が森林を傷めているのか?』
  • 芝哲夫『化学物語二五講』
  • 木田『周産期医学』

解説

『水と健康』は塩素処理によるデメリットよりもメリットの方が大きいと説く。
塩素で消毒しないと感染症が蔓延するというのがその理由である。
特にピロリ菌感染防止による胃癌減少の利点を強調する。
この反面アトピーなどは明らかに塩素が関係していると考えられるが、
塩素のもたらす病気については一切触れられていない。
なお水道とは関係ないが日本の胃癌多発要因としてAF2を挙げている点が興味深い。

内容

  1. 最近の調査によると、国民の四七%は水道水を飲まないという。[P.ⅲ]
  2. 世界の誰もが清潔な水を飲んだり使ったりできれば、
    世界の疾病の八〇%までが予防できる、と専門家はみる(3)。[P.7]
  3. 飢饉には、必ずといってもよいほど疫病の流行が伴い、
    歴史書はそれを「飢疫」と記している(6)。[P.8]
  4. 一九九一年のペルーでは、二七万六〇〇〇人の患者が登録されて二六六四人が死亡し、
    以後の三年間で約一万人が亡くなった(8)
    塩素消毒したら発がん物質のトリハロメタン類ができる…という話に怯えたペルー政府が、
    飲み水の殺菌をやめたのが原因だった(11)。[P.17-18]
  5. 昔の戦争で、兵士の死因は戦死よりも病死のほうが常に多く、
    平均二~三倍、はなはだしいときは十数倍に達したという。[P.20]
  6. 原水をろ過すると、消化器系伝染病の死亡率だけでなく、
    一般の死亡率も減少することが一九世紀末に実証され、
    その現象を発見者二人の名にちなんで「ミルズ・ラインケ現象」という(2)。[P.41-42]
  7. ピロリ菌の感染率は途上国でずいぶん高く、先進国は明らかに低い(図2-4)。[P.47]
  8. 同じ国内でも、感染率は貧しい階層に高く、豊かな階層は低い。
    また、大家族ほど感染率が高い(4)
    経済状態との関係という点では胃がんも同じで、
    胃がんはおおむね貧しい国の人々に起きやすく、豊かな国では発生率が低い。[P.47]
  9. ピロリ菌感染者の多くは五、六歳までに感染し、
    歳をとってからその〇・五~二・五%が胃がんになるという(5)[P.48]。
  10. ピロリ菌は古代アンデスのミイラの胃からも検出されている。[P.49]
  11. 殺菌効力のないミネラルウォーターのペットボトルを共有して飲むのをやめよう。[P.50]
  12. 早くから水道水に塩素消毒を導入した米国で胃がん死は激減し、
    いまやまれながんになっている。[P.52]
  13. 胃癌AF2説[P.57-61]
  14. NIHの報告によると、公衆衛生が完備してきた米国で、
    乳幼児のピロリ菌感染は五〇%までが家庭内感染にある。[P.62-63]
  15. 日本は汚染度の低い上流部で取水し、下水を海に放流するシステムをとっている
    (例外もあり、それについては「高度浄水処理」(九〇ページ)で説明する)。
    それにひきかえ欧米の河川は長大だから、日本のようなシステムをとれない河川が多い。
    ライン川などは最もたるもので、河口にあるオランダは、上流にある各国の排出した下水道水を水源にすることになり、汚染度は日本人の想像を絶する。[P.83-84]
  16. 都の報告(5)では、トリハロメタン類生成はもう少し低温で進み、
    六〇~九〇℃あたりでピークになった。そのあと加熱を続けたら急減し、
    沸騰時点では五〇%程度に減り、沸騰一~ニ分でほぼ消えた(図3-2)。
    また、トリハロメタンを生む残留塩素は、
    一〇〇℃に達したとき九〇~一〇〇%が消えていた(図3-3)。[P.87]
  17. 飲み水に溶けた微量のトリハロメタンは、
    ヒトの発がんにはまず関係ないと考えるのがよい。[P.90]
  18. インドとバングラデシュの地下水が高濃度のヒ素に汚染され、
    被害対象一億人、被害者にがん死が増えているという報告が、
    二〇〇三年の「世界水フォーラム」であった。[P.113]
  19. スポーツドリンク類を乳児に飲ませ、ひどい虫歯をつくったり、
    衝心脚気(ビタミンB1欠乏によって起こる心疾患)で亡くなったりする例がある。[P.158]

胃癌AF2説[P.57-61]

劣悪な衛生環境下にあって日本よりはるかにピロリ菌感染率の高い途上国よりも、
日本のほうが突出して胃がん死亡率が高いのはなぜか?――
その謎は、変異原物質にあると考えるのが筋だろう。

≪中略≫

それは、ほかの先進国はもとより、
東南アジア諸国やアフリカの人々さえ口にしたことのないものだろう。
そうでなければ、日本が突出した胃がん大国になるはずはない。

日本民族だけが口にした特殊な物質とは何か。思いあたるものがひとつだけある。
それは、日本だけが食品添加物に使った物質、「AF2」に代表される防腐剤である。

戦後から昭和四〇年代の初めまで、
「ニトロフラゾン」「ニトロフリルアクリルアミド」という合成化合物を、
豆腐やかまぼこ、ちくわ、ハム、ソーセージなどの防腐剤に多用した。
AF2は右記の二物質を結合させたもので、昭和四九(一九七四)年まで使われていた。

≪中略≫

動物実験で胃がんはなかなかできなかった。
しかし昭和四九年、国立衛生試験所(現・国立医薬品食品衛生研究所)で、
AF2を与えたマウスのほとんどに胃がんができるとわかり、すぐさまAF2を使用禁止した。
これほど確実に胃がんを起こす物質は、たぶんほかにはない。

≪中略≫

AF2は、日本人が開発したこともあって、もっぱら日本国内で使われた。
日本人の胃がん発生率は、ピロリ菌の高い感染率に加え、
発がん性の強いAF2類の摂取が押し上げてきたのではないか。

日本の以上に高い胃がん死亡率は、
IARCの報告書をもとにつくった死亡率の国際比較からも一目瞭然である(図2-9)。
これは一九八九~九二年のデータで、世界の年齢調整死亡率だから、真の姿を表す。
九〇年には日本の胃がん死亡率もピーク時の半分ほどに下がったけれど、
当時もなお世界で突出していた。日本の異様さがよくわかるだろう。

≪中略≫

AF2は、お隣の韓国にも少なからず影響を及ぼした可能性がある。
日本に次いで高い胃がん死亡率は、かつて使われたAF2のせいではないかと私は思う。

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