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書籍と雑誌の要約と解説

あぶない薬

薬にだまされないために

装丁
あぶない薬 あぶない薬
平澤正夫
三一書房(三一新書954)
ISBN4-380-84002-6
C0236
1984/07/15
¥700
解説

この本は、社会党の機関紙『社会新報』にこわれて、
一九八三年四月から一年間、
同紙に連載した記事を中心にまとめた。
まとめるにあたって、足りないとおもわれるテーマをくわえた。
それは、13 薬と医療費、14 成人病の薬、15 かぜ薬、
16 医者・薬・マスコミ、の部分である。

連載をつづけた一年のあいだに、薬をめぐる情勢が多少かわった。
この本の中身は、連載記事のうち、
誤解や誤謬とおもわれるところだけしか修正していない。
そのため、医薬品関係の統計数字は、
執筆時に入手可能だった至近時点のものが引用されている。
具体的にいえば、一九八二年であったり八三年であったりする。
そのつど、年次は明記してあるけれど、ご理解をねがいたい。

目次
  1. ビタミン剤
    1. ビタミン・ブーム
    2. ビタミンC
    3. ポーリング博士
    4. 保健量
    5. タバコの害
    6. ビタミンE
    7. ビタミン調査
    8. 調味料化
    9. ビタミン原価
    10. ビタミン市場
  2. 製薬産業
    1. 高度成長
    2. 薬づけの秘密
    3. 新薬開発力
    4. 他産業の参入
    5. プロパー稼業
    6. 世界企業
    7. 産政懇
    8. 戦略産業
  3. 抗生物質
    1. 薬の王者
    2. クロマイ物語
    3. アンタブース
    4. 弱毒菌
    5. 高い新薬
    6. 第三世代
    7. 家畜と養殖魚
    8. 世代の交代
  4. 薬と厚生省
    1. 薬務行政の本質
    2. 貿易摩擦
    3. 薬事審議会
    4. 情報の公開
    5. モニター制度
    6. 天下り三羽烏
    7. 薬務局気質
    8. 薬害救済制度
    9. 薬務行政のムダ
    10. ボス支配
  5. 薬害
    1. 薬害の大きさ
    2. サリドマイド
    3. キノホルム
    4. 薬害裁判
    5. 薬は毒
    6. 医者の責任
    7. クロロキン
    8. ライ症候群
    9. 新型の副作用
    10. 薬害の国際化
  6. 制がん剤
    1. モルモット
    2. フェーズⅠ
    3. クジ引き治療
    4. メーカーと医者
    5. 丸山ワクチン
    6. ある臨床試験
    7. よく売れる薬
    8. 環境とがん
  7. 商品としての薬
    1. 藤沢薬品事件
    2. データねつ造
    3. 銘柄別収載
    4. 新薬メーカー
    5. 弱肉強食
    6. 「貰う」と「買う」
    7. 高齢化時代
  8. 薬の歴史
    1. 製薬業のルーツ
    2. 薬の歴史
    3. 洋薬と洋医
    4. 第一次世界大戦
    5. 社会的副作用
    6. 新薬と保健薬
  9. 漢方薬
    1. 健保適用
    2. 漢方薬ブーム
    3. 効きめの疑い
    4. 医者の無知
    5. 原料難
    6. 落ち穂ひろい
  10. バイオテクノロジー
    1. 遺伝子工学
    2. 夢の新薬
    3. 放線菌
    4. インシュリン
    5. ダボハゼ企業
    6. 生物災害
    7. ワクチン
  11. 薬とからだ
    1. ミサイル療法
    2. クスリはリスク
    3. 肝臓と腎臓
    4. 薬好き日本人
    5. プラシーボ
    6. 薬の限界
    7. アルコール
    8. 薬物中毒
  12. 精神安定剤
    1. 精神病と薬
    2. 第二の革命
    3. 不定愁訴
    4. 習慣性
    5. 向精神薬
    6. 睡眠薬
    7. ホパテ
    8. 最高傑作
  13. 薬と医療費
    1. 医療費
    2. 薬価切下げ
    3. 支払基金
    4. 超高価薬
    5. 医者不信
    6. 患者の人権
  14. 成人病の薬
    1. ステロイド
    2. 性ホルモン
    3. リュウマチ
    4. 心臓薬
    5. 糖尿病
    6. 肝腎の薬
  15. かぜ薬
    1. 筋短縮症
    2. 自然治癒
    3. かぜと薬
    4. 総合感冒薬
    5. インフルエンザ
    6. 社会防衛
  16. 医者・薬・マスコミ
    1. ピル
    2. 広告費
    3. 苦情処理
    4. 健康雑誌
    5. 医薬分業
    6. 医者と薬剤師
文献
  • アール・ミンデル『ビタミン・バイブル』[P.16_19]
  • 村田晃『ビタミンCと健康』[P.16]
  • 『薬業時報』1982年9月20日[P.44]
  • 平澤正夫『薬害と政治』[P.88]

内容

ビタミンブーム[P.9-10]

ビタミン・ブームは、十年ほど前にも一度あった。
三船敏郎の「飲んでますか」のCMで売りまくった
武田薬品のアリナミンを思い出していただけばよい。
このときは、ビタミン剤が中心となって保健薬ブームを巻き起こした。
時代は、高度成長期のまっただなか。
人びとは、気休めにひとしいビタミン剤の薬効を信じ、
それに依存しながら馬車馬のように働いた。

今度のブームは、それとはひと味も、ふた味も違う。

ビタミン・ブームの主役はビタミンCである。

一九八一年の二月、
NHKの番組がビタミンCはがんに効くのではないか、との情報を流した。
そのときからブームが燃えさかった。

ビタミンC市場[P.26]

ビタミンの需給は、多国籍企業が入りみだれる世界市場をぬきにしては語れない。

世界市場を大きくおさえるのは、
スイスのバーゼルに本社をおく世界最大の製薬会社、
ホフマン・ラ・ロシュである。

ビタミンCは、世界の年間生産能力五万トンあまり。
うち三万五千トンをロシュがにぎる。
ついで武田の八千五百トン。
アメリカのE・メルク、デンマークのグリンステッドが各六千トン。

この勢力地図に異変がおきた。
一九八一年、西独のBASF社が、グリンステッドを傘下におさめたのだ。
BASFは、これまでにビタミンA、Eなど、油溶性ビタミンを生産していたが、
水溶性ビタミン(ビタミンC、Bなど)メーカーのグリンステッドを手中にし、
ビタミンの総合メーカーとなった。

抗生物質の休薬期間がない養殖魚[P.60-61]

再生不良性貧血という恐ろしい副作用をもたらしたクロラムフェニコール。
いまや、ほとんど使われていないはずだ。
ところが、おもいがけない死角がある。

クロマイは、動物用医薬品として、まだかなり使われている。
家畜や養殖魚の餌に混ぜるのだ。
餌を通じて体内に蓄積される。
それを人間が食べる。
だから、クロマイも人体のほうに移動する。

それ以外の抗生物質も用いられている。
動物用医薬品業者が、
「漢方薬以外なら、なんでもありますよ」と言うほどである。

動物用医薬品の管理は、かなりルーズだ。
とくに養殖魚に使う水産用は、まるっきり野放し状態といってよい。

家畜の場合だったら、出荷前の一定期間は薬をきるという規則がある。
また、薬の使用は、獣医の許可をえなければならないことになっている。
実際には、それが守られていない。
畜産業者が勝手に薬を使っている。

養殖魚には、そういう規則さえもない。
水産用の医薬品は、だれでも自由に使える。
もっとも能書には、休薬期間が何日、というふうに書いてある。
しかし、それはまず無視されているのが現実だ。

非公開の薬事審議会[P.72]

薬事審議会の議事録を公開せよ――。

消費者団体や薬害被害者団体は、以前から厚生省に要求してきた。
それに対して薬務局の役人は、必ずこう答える。

「そんなことをしたら自由にものが言えません。
先生方のご協力がえられなくなる」。

中略

公開を恐れず、審議会の委員になるような人は、
なによりもまず、厚生省にとって好ましからざる存在であるにちがいない。
ということはつまり、厚生省が国民の“敵”であることの証明になる。

薬務局長の天下り[P.76_78]

厚生省薬務局の官僚の天下りをいうとき、筆頭にあげなければならないのは、
ミドリ十字の社長・松下廉蔵氏である。

松下氏は、一九四四年東大法学部卒。
厚生省に入省後、児童家庭局長などをへて、七二年六月薬務局長に就任した。
薬務局長在任中に手がけた最大の仕事は、
七四年十月に成立したサリドマイド訴訟であった。

和解成立後、ほとんど間髪をいれずに退職。
ほどなく、血液製剤の業界団体と社会福祉団体の二つの役員ポストをかねた。
このうち、血液製剤関係のほうは、
彼が現職につくうえでの伏線であったとおもわれる。
松下氏は七八年三月、ミドリ十字の副社長に就任。
八三年三月、会長の内藤良一氏の死去にともない、同社の社長となった。

歴代の薬務局長のうち、一部上場製薬会社の社長についたのは、
おそらく松下氏が最初だろう。
そればかりか、ミドリ十字は、反国民的企業の多い
日本の製薬会社のなかでも札つきの会社だ。
薬務局長であった松下氏がミドリ十字の正体を知らないはずはない。

前社長で、創業者でもある内藤氏は、
細菌戦で悪名高い関東軍・石井部隊の生きのこりであった。
インターフェロン開発の情報をリークして株価を上げるのは序の口。
胎児の性別のわかる試験紙を発売しようとしてマスコミにたたかれ挫折。
人工血液の臨床試験で患者を無断でモルモットがわりに使用。
またヒトの胎盤を大量に集めて血液製剤を生産……。
倫理的にはもちろん、営業路線にもきわめて問題の多い会社である。

ミドリ十字は血液製剤の独占メーカーといってよい。
松下氏が、退官後、まず血液製剤の業界団体に天下ったのは、
国家公務員法に抵触しないための作戦でもあっただろう。

松下氏にくわえて、
武田薬品の副社長・梅本純正氏、中外製薬の副社長・坂本貞一郎氏
(いずれも元厚生事務次官)を、製薬会社への天下り三羽烏と称する。

薬害隠しのための薬害救済制度[P.80-83]

一九八〇年五月に、薬害救済制度が発足した。
医薬品副作用被害を救済するため、
業界の拠出金で基金をつくったのである。
厚生省のきもいりで、国会が全会一致で薬害救済基金法を成立させ、
それにもとづく基金だ。

発足以前から、薬害被害者のあいだには、
この基金が薬害かくしにつながるとの反対意見があった。
いま、その意見の正しさが証明されたかっこうである。

当初、基金は年間ニ、三千件の薬害を予想し、
売上げの〇・一%にあたる拠出金を製薬会社から集めた。
ところが、最初の一年の申請件数は二十件。
支給額は千数百万円。
あまりの不振(?)に、二年目からは、拠出金を売上げの〇・〇三%に下げた。
申請件数は年間ベースで約百件になったとはいえ、開店休業状態。
ついに三年目の拠出金は売上げの〇・〇一%にへらされた。

基金の現状は、いわば当然の結果なのである。

薬害救済といっても、被害者は医者の承認をえたうえで、基金に救済を申請する。
これでは、救済がじゅうぶん機能しない。
医者が自分のひきおこした薬害の“証明”を患者にするはずがないではないか。
だから、救済の申請はごく少数にとどまる。

基金自体、国民にむかって、ひろくPRする道をとざされている。
事務当局はPR費の不足をかこつが、それは表面上の理由にすぎない。
薬事審議会のメンバーをはじめ、厚生省に出入りする医者たちが、
薬害救済基金を国民にPRすることに反対なのだときく。

それでも、厚生省と業界にとって、基金のメリットは絶大である。
「薬害救済の窓口があります」というデモンストレーション効果。
さらに、三十余人の職員を出向させる基金事務局という薬務局の出城の獲得……。

国民にとっては、デメリットのみ。
“入口のないマンション”のような基金によって、
薬害かくしという逆効果が完成する。

*

この基金からの給付がえられるのは、
「医師が適正に使用した医薬品の副作用被害」にかぎられる。
「適正に使用した」という自信のあるケースでも、
医者は患者に基金の給付をうけるようにすすめることはまずありえない。
日本の医者は、薬の副作用はおろか、効能や薬品名すら患者には秘密にしている。
そんな医者が、薬害救済制度の存在を患者におしえるはずがない。

おこりえないことがおこるという前提にたって、薬害救済制度はつくられた。
薬害救済制度はつくられた。
窓口に閑古鳥が鳴いているのは、けだし当然である。

「私個人の見解ですが、もうニ、三年、様子をみるべきじゃないでしょうか」と、
基金事務局は語る。
だが、患者と医者の関係が根本的にかわらないかぎり、
いつまで様子をみてもムダである。

ムダといえば、運営費は国と業界が折半で、国庫支出分は年間約一億五千万円だ。

当然予想されることながら、基金は天下り官僚の巣窟である。
理事長は厚生省、四人いる理事は厚生、大蔵各二人、
監事は行政管理庁の、いずれもOBたち。

東京・池袋の超高層サンシャインビル。
その二十六階をほぼ半分借り切ったオフィスは、
いつもしいんと静まりかえっている。

クロロキン失明[P.100-101]

クロロキンには、恐ろしい副作用があった。
目をやられるのだ。
視神経をおかされ、クロロキン網膜症となり、ついには失明してしまう。
副作用に気づいて薬の服用をやめても副作用が進行する。
悲惨な薬害である。

開発されたのはアメリカで、一九三四年だったが、
動物実験で強い副作用が出たので製品化されなかった。
一九四八年、それがよみがえり、マラリアの薬として許可された。
日本での許可は一九五五年だった。

その後、リューマチ、エリテマトーデス(膠原病)と効能が追加された。
ただし、腎臓病に効くとしたのは日本だけだった。
現在、クロロキン被害者の大半が腎臓病患者であることをおもえば、
この無責任な適応症の拡大は、まことに犯罪的というしかない。

腎臓病に効くといったのは、神戸大学の辻昇三教授。
彼の書いた論文をみても科学的根拠がまったくない。
しかも、数人の有名教授が辻論文のチョウチンもちをして、
インチキ論文を書きちらした。
これに力をえたメーカーは、一九五八年から能書に腎臓病を加えた。
売り上げは大きくのびた。

実際には、腎臓病には効かない。
尿中のタンパクを減らすという見かけの“効果”に幻惑されたにすぎない。
米国医師会は、むしろ腎障害の副作用あり、と警告を出している。
日本の医学者のおソマツさを世界に知らしめた一幕であった。

クロロキンの副作用は早くから知られていた。
アメリカでは、一九四八年の発売と同時に、視力障害などを指摘する論文が出た。
日本のメーカーは、それを無視して発売した。

以上の全経過について、厚生省は知りうる立場にあった。
にもかかわらず、なんの手も打たなかった。
決して怠慢だったのではない。
加害者が故意につくりだした薬害である。

飲むのを止めるとさらにひどくなる抗潰瘍薬タガメット[P.104-105]

タガメットは、抗潰瘍薬である。
とくに十二指腸潰瘍や胃潰瘍に用いられている。
飲んでいるうちは治ったかにみえるが、
薬をやめると再発するケースがたいへん多い。
もともと、潰瘍は再発をくりかえすことがよくあるのだが、
タガメットを飲むと、その現象がいっそうひどくなる。
裏をかえせば、ずっと飲みつづけなければならない薬なのである。
いったん飲みだしたら、もう縁が切れない薬。
だからこそ、タガメットの売上げはますますふくらむ。
メーカーは笑いがとまらない。
患者を薬依存状態に仕向けるリバウンド(再発)現象は、
新しいタイプの副作用である。

なお、タガメットには、
男性の女性化、性的不能、精子減少といった副作用が知られる。
また、発がん性の疑いも完全には消えていない。

薬害を起こした薬物は他国へ輸出[P.106-107]

スモンをもたらしたキノホルム。
日本では禁止されたが、東南アジアなどでは、まだ薬局で買うことができる。
キノホルムのメーカーは、スイスのバーゼルに本社をおく世界企業、
チバガイギーである。
日本で売れなくなった分の穴埋めとして対策を立てない国ぐにへ
集中的に出荷しているのではないかと思われる。
これらの国ぐにでスモンが発生していると聞くが、詳細は不明だ。

サリドマイドの場合、日本のメーカーは、韓国、台湾などに輸出した。
台湾では、サリドマイド被害児の発生が確認された。
メーカーの大日本製薬は、一人あたり約七百万円の補償金を支払った。
日本の被害児が獲得した補償金は一人平均約二千万円だったから、
補償金相場にも“差別”があるわけだ。

シメチジン(タガメット)の薬害(性的不能など)は、
中東の産油国あたりで顕在化している。
お国柄からいって高い新薬を用いる財力がある半面、薬害への警戒心が低い。
そのため、国民全体が薬害のモルモットにされかねない。
日本も、この点ではまだまだ、“いいカモ”であることを知るべきだ。

審査する者とされる者が同じ薬物製造承認[P.119]

クレスチンは、日本の全医薬品のなかで売上げ額のトップを占め、
メーカー(三共)のドル箱商品である。
すでにみたように薬の開発には、
学会に発言力の大きい医学者を取り込むことが必須条件だ。
クレスチンの場合、癌研究所の塚越茂氏が、
厚生省に提出する製造承認のためのデータづくりに手を貸した。
その塚越氏は、厚生省の中央薬事審議会抗悪性腫瘍調査会のメンバーで、
自分が関与したデータを自分で審査した。

「暁の五人委員会」というエピソードがある。
調査会のメンバーは十二人。
決定は全会一致でなさなければならない。
だが、クレスチン承認に賛成なのは十二人中五人。
そこで、塚越氏らが残りの七人を懸命に説得。
おかげでクレスチンは日の目をみた。

丸山ワクチンを不承認にするための八百長試験[P.120]

厚生省は、世論の力に押されて、
いったんは不許可にした丸山ワクチンの臨床試験のやり直しを認めた。
結果は、ほとんど結果なしと出た。

この臨床試験では、丸山ワクチンを末期がんの患者に用いた。
患者を対象に薬の有効性を調べるのは、
新薬の臨床試験のフェーズⅡの段階である。
抗がん剤のフェーズⅡでは、薬を末期がんの患者に与えることになっている。

ところで、丸山ワクチンのような免疫療法剤は、
末期がんにはほとんど効かないといわれる。
したがって、厚生省が認めた丸山ワクチンのやり直し臨床試験は、
最初から結果がわかっていたし、開発システムのあり方自体が、
丸山ワクチン承認をこばんでもいる。

コラルジル肝障害死[P.193]

コラルジルという薬があった。
高血圧や心臓病に効くというふれこみで、ずいぶん広く用いられた。
厚生省の発表によると、販売総量は三億五千万錠、発売は一九六三年。
当時の薬価が一錠十八円十銭。
その半額で取引きがなされたとしてメーカーの鳥居薬品には三十数億円
(現在の百数十億円)がころがりこんだ計算になる。

あいにく、この薬には肝障害の副作用があった。
だが、服用者が中高年者だったこともあり、
肝障害の症状(体がだるい、疲労、食欲不振)を寄る年波のせいと錯覚。
原因がつきとめられないまま、わかっているだけでも六十数人が死亡した。
メーカーは一九七五年まで薬を売りつづけた。
被害者は推定六万人とされるが、ヤミに葬られたままである。

コントミン突然死[P.213]

「コントミンは、精神科医がよくつかう薬です。
一日の使用量は、ふつう百五十ミリグラムなんだけど、
千ミリグラム、千五百ミリグラムと、とんでもない極量になっていって、
突然死をおこしたりします」というから危険だ。

ヒロポン虐殺[P.214-215]

覚醒剤――これは精神賦活剤の一種だから、りっぱな向精神薬だ。
敗戦後から一九五〇年代にかけ、
大きな社会問題となったヒロポンという名の覚醒剤は、
健保の薬価のリストにいまものっている。
ヒロポンの主成分は塩酸メタアンフェタミン。
要するにアンフェタミン製剤なのである。

アンフェタミンは、かつてアメリカがベトナムで兵士にあたえたことで知られる。
米兵は大儀なきベトナム戦争で士気阻喪し、たたかうのをこわがった。
それで、アンフェタミンを彼らにのませて精神の高揚をはかった。
薬づけの米兵は、しばしば暴走してベトナムの民衆を虐殺した……。

レセルピン自殺[P.215]

精神安定剤が用いられはじめたころ、
レセルピンという薬がかなりポピュラーであった。
ところが、鎮静作用がいきすぎて患者がうつ状態におちいり、
自殺するものさえ出た。
それで、レセルピンは精神安定剤としてあまり使われないようになった。

しかし、血圧を下げる作用のあることがわかり、降圧剤に用いられた。
やがて、長期連用の患者にパーキンソン氏病のような副作用が発生。
最近では、特効薬ではなくなった。

ステロイド骨関節結核蔓延事件[P.238-239]

広島県因島のある医院は、リュウマチの患者に評判がよかった。
ステロイドをどんどん使っていたからである。
ところが、患者のあいだに骨関節結核が発生。
歩けない人が続出した。
たまたま、医院の看護婦が粟粒結核にかかっていた。
ステロイドをあたえられる患者は、感染症(結核など)への抵抗力が弱まる。
そのため、看護婦の結核が患者にうつったとおもわれる。
医療被害と薬害のダブルパンチであるこの事件は、
集団訴訟が提起されて争われている。

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