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書籍と雑誌の要約と解説

悪魔の鍋

読むと、食べられなくなる!

装丁
悪魔の鍋 悪魔の鍋 [食]のグローバル化が世界を脅かす
Aus Teufels Topf Die neuen Risiken beim Essen
ハンス・ウルリッヒ・グリム
Hans-Ulrich Grimm
監訳・佐々木建
訳・花房恵子
家の光協会
ISBN4-259-54595-7
2001/07/01
¥1600
解説
いまでは世界じゅう到る所で農産物が生産され、加工され、輸入される。
食料のグローバル化が進んでいるのだ。
消費者には生産と流通の仕組みが見えなくなり、
どこでどのように生産されたのか、どのような土壌で生産され、
どのような農薬を使ったのか、ほとんど知らされることはない。
汚染源や責任者など、消費者にはわかるはずもない、知らされているのは、
スーパーやコンビニでいつでも安く手に入り、手軽に食せるということだけだ。
私たちはたしかに「食」の工業化とグローバル化によって低価格と利便性を手にできた。
しかし、まさにそのことによって、
これまでに体験したことのない生活と生命に対するリスクに直面しているのである。

ハンス・ウルリッヒ グリムの手になる本書は、
このような「食」の危機の現状を多くの見聞と資料を使って明確に大胆に分析し、
その解決の展望をわかりやすく示してくれる。
その危機の実態のあまりの凄惨さと非人間性に、
本書を手にした誰もが驚愕し、戦慄するに違いない。
ドイツ国内では出版一年後にして、すでに、
この分野のスタンダードな著作と評価されているのも当然といえよう。
日本でも「食」に関する著作は多いし、
本書で論じられている問題も各所で取り上げられてはいる。
しかし、本書のように、体系的に大胆に大企業の関与の実態を暴き、
研究者の社会的責任を実名入りで追及している書物はなかった。

目次
  1. 快い不安――新しい病気の世界
    1. 幼い少女の死
    2. サラダはやめましょう:ある女医のメニューの選び方
    3. アメリカの早期警戒システム
    4. 冷静な経営者が急に顧客の健康状態を気遣うようになるわけ
  2. 驚くべき腸内の様子――目に見えないリスク
    1. オーストラリア空軍爆撃機墜落の謎
    2. アルディの店が陳列台の薫製魚をたちまちのうちに売りさばいてしまった時
    3. よき友をもつのは健康によい
    4. 工場制食品を食べると消化管に何が起こるか
    5. 怠惰の代償
  3. インスタント食品――病原体はどうやって食堂に入り込んだか
    1. 魅惑の湖畔が突如として騒がしくなる
    2. 巨大企業のレシピ
    3. 老人ホームで腸疾患が続発
    4. 公務員の安い定食、国会議員のおいしい食事
    5. 教会幼稚園牧師の健康対策
  4. ヤシの生えない島――肥満が世界を侵略する
    1. のどかな南太平洋で国王が率先して減量にいどむ
    2. パプア・ニューギニアの子どもたちはネスレのスナック菓子が大好き
    3. いびきをかく人が自動車事故を起こしやすいわけ
    4. 南の楽園でも失明の危機
    5. 美食のリスク―肥満は喫煙と同じくらい有害か
  5. ノアの洪水――新種のバクテリア
    1. 悲しい夏
    2. レバーケーゼはバクテリアの温床か
    3. 対策事務局を訪れる
    4. 酋長大エルヒの予言
    5. モンサント社と自然の改造
    6. 恐ろしい大腸菌―乳牛に牧草を食べさせないわけ
  6. 発光する骨――人間と家畜飼料とのかかわり
    1. 店長があわてて陳列台のバターを片づけたわけ
    2. 農民と劇薬―農業信用組合の栄養強化飼料に何が入っていたか
    3. 牧場に去年の牛糞が分解されないまま残っていたわけ
    4. 家畜用小麦粉が子牛には母牛のミルクと同じ味がするわけ
  7. 交接する遺伝子――新たなリスクに誰が責任を負うのか
    1. コカコーラと骨粗鬆症の少年
    2. 金銭モラルと責任の消滅
    3. 巨大なナスとバクテリアの速やかな交換―遺伝子操作がもたらした驚くべき結果
    4. ポップコーンは飢えた人々のためのものか
  8. 早すぎる思春期――食品のホルモン汚染
    1. イギリスの川に現れた性転換魚とスイスで見られた乳房の怪
    2. 「薬品による去勢」は人類を脅かす
    3. 企業連合の速やかな警報解除
    4. 路上の殺人
    5. 模範国ベルギー
  9. 黒い腫れ物――労働者の苦悩
    1. コスタリカの男性が子どもの遊ぶのを見て哀しくなったわけ
    2. チキータ社には罪の意識がない
    3. 哀れな羊飼育業者と憂鬱なブドウ栽培農家
    4. 畜産場の危険な埃
    5. デンマーク製の新しいハム接着剤
  10. 防衛戦士、免疫細胞――見栄えが一番:工場制食品の価値
    1. バナナが腐りレタスが萎れる―スーパーマーケットの生鮮食品は長持ちしない
    2. 果物と野菜は品不足なのか
    3. 食の砂漠に対するイギリス政府の緊急プログラム
    4. フルーツヨーグルトにビタミンは何種類入っているか
  11. 不快なシミ――企業の未来戦略
    1. 消費者の感激―保存料は何といってもすごい
    2. 原子の恩恵―バクテリアを殺す放射線
    3. サルモネラ菌と闘う遺伝子
    4. 欠乏症予防のための法定ビタミン規定
    5. 消費者はそれほど保護されていない
  12. 誇大広告――宣伝と真実
    1. 乳牛フローレンスが食べた飼料
    2. クリエーターの世界と失われた信頼の追求
    3. シュヴァルタウ社の思い違い
    4. ミルーパ社の幻想―ミルピーノ育児用ミルクはどれほど健康によいか
    5. プーデル教授と巨大製薬企業―科学者の言葉にはどれほど価値があるのか
  13. 手作りのよさ――よいものをもとめる
    1. ウィーンの幸運なラット
    2. スーパーマーケットと闘う市長
    3. コカコーラは有害か
    4. パン生地は寝かせる時間が長いほどよく膨らむし、パン屋の店主は朝寝坊が心地よい
    5. アルディ店の困惑
    6. イタリア人万歳
文献
  • (08) Udo Pollmer/Cornelia Hoicke/Hans-Ulrich Grimm : Vorsicht Geschmack. Was ist drin in Lebensmitteln. Stuttgart/Leipzig : Hirzel Verlag,1998.[P.28]
  • (09) Bennet, P.et al: The Shipley Profect – treating food allergy to prevent criminal behaviour in community settings.Journal of Nutrition & Environmental Medicine 1998/8/S.77-83.[P.29]
  • Brunello Wuthrich: Allergien auf Fleischeiweiβebei Erwachsenen. In: Nahrungsmittel und Allergie. Herausgegeben von Brunello Wuthrich. Munchen-Deisenhofen: Dustri-Verlag Dr.Karl Feistle,1996.
  • (18) Mary Ellen: Der fliegende Pfannkuchen. 999 praktische und ungewohnliche Kuchentips fur sie und ihn. Munchen/Zurich: Delphin Verlag 1981.[P.144]
  • (26) Jaak Vandemeulenbroucke: De hormonenmaffia.Antwerpen: Hadewijch,1993.[P.183]
  • (36) Werner Kollath: Der Vollwert der Nahrung. Nachdruck der Gesamtausgabe. Heidelberg: Haug Verlag,1983.[P.257]
校正
  • 処理をしやくするために→処理をしやすくするために[P.123]
  • 種に反した餌を与えると狂牛病の原因になることがわかっているが、→誤謬[P.128]

内容

  1. ミュンヘンの小児神経科医ヨゼフ・エッガーは、工場制食品も使用せずアレルゲンも含まない簡単な食事療法によって、子どもの偏頭痛患者の九〇パーセントと運動過剰の子どもの三分の二の治療に数週間で成功を収めた(8)。[P.28]
  2. シプレー計画[P.28-29]
  3. 細菌性リュウマチ[P.29-30]
  4. 缶詰のBADGE汚染[P.31]
  5. 細菌汚染食品[P.34]
  6. スナック菓子にアスベストが含まれていた。[P.35]
  7. IBP社のひき肉ガラス片混入事件[P.35]
  8. 硫黄化合物は消化管に病原微生物[P.38-39]
  9. 外食の方が食中毒のリスクが高い[P.50-51]
  10. 一九九七年には、ハノーファー獣医科大学の研究でオランダからの輸入豚肉の三分の一がサルモネラ菌に汚染されていたことが確認されている。[P.61]
  11. フランス産肉は全てサルモネラ菌に汚染されている[P.61-62]
  12. 一九九九年初め、イギリスのスーパーマーケットチェーンのセーフウェイでは、年間に販売する七〇〇〇万羽のニワトリのうち一一パーセントに依然としてサルモネラ菌の汚染が見つかっている。[P.62]
  13. クルージング船コスタ・リヴィエラ号のサルモネラ食中毒[P.64]
  14. 香料は肥育剤として機能する[P.84-85]
  15. 干草を食べる牛には病原菌が繁殖しない[P.111]
  16. ドイツの牛乳ダイオキシン・スキャンダル[P.113-119_121-123]
  17. 専門誌『トップ・アグラール』の記事によると、豚のおよそ六〇パーセントが胃潰瘍にかかっているという。[P.125]
  18. 飼料添加物ビガロール・トロパロムL[P.127-128]
  19. 抗生物質汚染[P.129-132]
  20. 耐性菌問題[P.135-136]
  21. 抗生物質論争[P.136-138]
  22. コーラ症候群[P.140-146]
  23. 食品の異物混入事例[P.149]
  24. 遺伝子組み換えを批判して追放されたパズタイ博士[P.152-153]
  25. 超早熟児の誕生[P.163-164]
  26. スイスのブラジャーサイズ向上現象[P.164]
  27. インドでは、国立生殖研究所が一九九八年に公表したように、正常に発育する精子をもっていたのは男子のわずか三〇パーセントにすぎなかった。[P.167]
  28. 環境ホルモンは極微量でも作用する[P.171]
  29. 環境ホルモン汚染食品[P.172]
  30. クレンブテロール不正使用事件[P.178-181]
  31. ホルモンマフィア暗殺事件[P.183-184]
  32. コーデックス委員会の合成ホルモン安全宣言[P.187-188]
  33. バナナ農園で働くと必ず性的不能になる[P.192]
  34. WHOの概算によれば、世界中で毎年約一〇〇万人の人々が農薬による中毒を起こし、そのうち二万人が死亡している。[P.195]
  35. 第三世界では防護服なしで農薬散布されている[P.196]
  36. 「先進国が処分コストを節約するために、危険な殺虫剤を使用期限が切れる寸前に発展途上国へ輸出することはよく行われている」と、国連環境計画の責任者であるドイツの元環境大臣クラウス・テプファー氏は言う。[P.196-197]
  37. ベリンガー社のダイオキシン公表妨害工作[P.199-200]
  38. 「皮肉を言うつもりはないが、2、4、5-T製造部門でクロルアクネのない従業員はいるだろうか」と、モンサント社の医薬品部長は述べている。[P.201]
  39. ダイオキシンを含む除草剤2、4、5-T自体、第二次世界大戦で日本の稲作を全滅させるために、アメリカ軍の実験室で開発された劇薬である。[P.201]
  40. 羊飼いの精神疾患と動物用薬品[P.204-205]
  41. 調理場というガス室[P.206]
  42. ジュース増量酵素「ペクチネックス・スマッシュ」[P.206-207]
  43. 肉片接着酵素[P.207-209]
  44. パパインアレルギー事件[P.209]
  45. パン職人の酵素アレルギー[P.209-210]
  46. ボッフム大学のアレルギー学者バウアー教授は、一九九八年に発表した研究の中で、「パンの中に酵素の残留が発見された」ことを確認している。[P.212]
  47. 法的規制は販売員が商品知識を勉強する意欲を妨げるという、製パン業組合幹部の奇妙な言い訳である。[P.213]
  48. 食の砂漠=ウェスト・エヴァートン[P.215]
  49. バウアー・フェアラーク出版社の広告マーケティング部長クヌート・グンダーマン氏が公表しているように、住民の六七パーセントがインスタント食品を「家事を軽減する有益なものと考えている」。[P.223-224]
  50. 製品の売れ行きは包装が全て[P.224]
  51. 平均的ドイツ人は毎日一九八グラムのジャガイモを食べ、これは一人当り三四ミリグラムのビタミンCに相当する。[P.227]
  52. ヤセ薬「キセニカル」とシミ[P.229-230]
  53. 放射線量に応じてビタミンCが、イチゴでは二〇パーセントまで、ジャガイモでは四〇パーセントまで、ブドウでは六〇パーセントまで破壊されてしまう。[P.239]
  54. マサチューセッツ総合病院のアメリカ人医師が、総合ビタミン製剤を服用している人の三分の一にビタミンDが欠乏していることを確認している。[P.255]
  55. 合成サプリメンを服用すると栄養失調になる[P.257]
  56. 食品添加物がアレルギー体質を作る(ベン・クンツ教授)[P.262-263]
  57. 加害企業の肩を持つスーザン・ゴルディング市長[P.266-267]
  58. 効き目の無い薬でも許可されるドイツの審査制度[P.270]
  59. 有機栽培飼料は動物の死産を減少させる[P.272-274]

シプレー計画[P.28-29]

青少年の系犯罪者にしても簡素な食事療法で明らかにおとなしくなったと、
一九九八年にシプレー計画に関するイギリスの研究で明らかにされている(9)

これはイギリスの街シプレーに住む
七歳から一六歳の運動過剰の子どもと青少年九人を調査したものである。
彼らが犯した犯罪は全部で六七件、被害総額はなんと一〇万ポンドにものぼっている。

若い犯罪者たちにまず食物不耐性検査が行われた。
その結果、いくつかの食物を摂ったあとに著しく攻撃的な反応を示すことが明らかになった。
食べたあとにとくに激昂する「十大食品」にはチョコレート、
ポテトチップス、砂糖、小麦、ミルク、米などが入っていた。

そのあとは、それぞれに疑わしい食品を除いた食事療法を行う。
すると半年後には、九人のうち七人に明らかに変化が見られた。
振る舞い、学業、健康が明らかに改善されたのである。
九人のうち二人は食事プランを守らず、犯罪へのエネルギーが再び増大した。
さらに二人の子どもが翌年に犯罪事件を起こしたが、以前よりも明らかに暴力は少なかった。
二年後、更生した五人の子どもはもはや犯罪に逆戻りすることはなかった。
食事療法がこのグループ以外でも効果を現した例がある。
ある母親が運動過剰の子どものための献立を作り、家族全員に食べさせた。
すると、パニック発作に悩んでいた父親が、みるみるうちに冷静になったという。

細菌性リュウマチ[P.29-30]

意外なところから関節炎やリューマチが起こることもある。
カンピロバクター、エルジニア、シゲラのようなバクテリアである。
サルモネラ菌によってお起こる。
一九八五年にシカゴでサルモネラ菌が発生したとき、
汚染された牛乳による感染者数は二〇万人を超え、
そのうちの二・三パーセントがその後に関節炎を発症している。

缶詰のBADGE汚染[P.31]

スイスでは一九九六年、
スーパーマーケットやガソリンスタンドで売られている魚の缶詰のうち三分の一が処分された。
「ビスフェノールAジグリシジルエーテル(略称BADGE)」
という薬品が使用されていたのである。
「BADGE」には発ガン性があり、遺伝子に害を与えるとされている。
これはニシンのラクロワ・グルメ・フィレのような最高級缶詰にも使用されている。
商品テスト財団が一九九七年に負荷を測定したのを受けて、
この名門缶詰会社は缶詰をただちに市場から回収した。
検査を受けた缶詰の四分の一に危険濃度が測定された。
アンチョビのアペル社やサーディンのリオスター社といった
その他のメーカーも当惑を隠せなかった。
ユナイテッド・オケアヌス社のアンチョビ・フィレ二缶からは
キロ当たり一ミリグラムという、
EUで定められている限界値の二八~三三倍もの量が検出された。

細菌汚染食品[P.34]

一九九七年、ミルーパ社はベビー用粉乳「ミルミル」を
フランス、アイルランド、イギリスで回収するはめになった。
イギリス保健省がこの製品に対して警告を出したからである。
一歳未満の乳児一二人がサルモネラ菌に感染した。
ミルーパ社は「ミルミル」との関連を否定した。
会社側は、「ミルミル」はドイツおよびオーストリアでは
その他の国と製法が異なるので無害だと譲らなかったが、製品の回収だけは行った。

一九九六年、イタリア政府はジッリオ社、パルマラート社、
ソル・ディ・ヴァッレ社のマスカルポーネチーズ一〇万パックを回収させた。
ティラミスを食べた一五歳の子どもがボツリヌス食中毒で不幸にも死亡したからである。

IBP社のひき肉ガラス片混入事件[P.35]

一九九九年二月に、アメリカ最大の精肉企業IBP社はほぼ五トンのひき肉を回収している。
IBP社のパック入り製品にガラスの破片が入っていたことを
何人かの消費者が発見したからである。

硫黄化合物は消化管に病原微生物[P.38-39]

切ってから数分も経たないうちに茶色に変色するジャガイモを、
スーパーマーケットの経営者を喜ばすために
一年以上も棚に並べておけるマギーやプファンニのピューレに加工するのに、
技術者や化学者はE223を使用する。
硫黄化合物で本来よりも長持ちさせたピューレやスナック菓子のような工場製食品、
いわゆる「ジャンクフード」を食べている多くの人の場合、
胃腸管に河口にある泥のようなものが見られることがある。

「人間の腸内物と。河口の底に堆積している有害物質を含んだ泥との違いは何か」と、
一九九八年八月、科学雑誌『ニュー・サイエンティスト』が問いかけた。
ただちに回答があった。
「あまり違いはないだろう。とくにジャンクフードが好きな人の場合は」。

イギリスの科学者グループが数年前にスコットランド東海岸にある
ダンディー港のすぐそばのテイ川河口の泥を調査し、
ある種のバクテリアを発見した。
そのバクテリアは硫黄をせっせと分解し、それによって生きるエネルギーを得ている。

この学者グループのうち何人かは後にそのキャリアを生かし、
人間の消化管を研究するチームに合流し、
そこで意外にも例の硫黄を好んで食べるバクテリアに再会した。
このバクテリアはとくに人間の消化管に棲みつき、腸壁を攻撃する。
腸炎患者の九六パーセントと、現在健康な人の少なくとも二分の一の体内に、
この硫黄を食べるバクテリアが見られた。
このバクテリアが攻撃的な環境をつくり出すことはずっと以前から知られている。
石油大企業はすでに一九八〇年代に、このタイプのバクテリアがパイプラインを侵し、
大きな障害を引き起こしたことを確認している。
このバクテリアが腸管にも棲みつき、これを傷つけることは、
そのときまで知られていなかった。

「これは目に見えない爆弾だ」と、
研究に参加した学者の一人であるジョン・カミングズは述べている。
考えてみれば、大量に消費される多くの工場制食品にはこの種の硫黄化合物が含まれている。

「こういった食品が病気の原因になる微生物の増殖を促すのであれば、
食品企業は狂牛病やサルモネラ菌に勝るとも劣らない危機に直面することになろう」。

外食の方が食中毒のリスクが高い[P.50-51]

イギリス国会の委託による調査の結果を、
『ファイナンシャル・タイムズ』の業界紙『FTフードビジネス』が
一九九七年一〇月に報道している。
それによると、レストランや社員食堂で食事をする人は、
家で食事をする人と比べて「食中毒を起こす確率は数倍も高い」という。
議会科学技術問題担当責任者であるマイク・ノートン氏の指揮による調査で、
食中毒の四四パーセントがレストランや社会食堂などで発生しており、
また食事全体の二五パーセントがそのような場所で摂られていることがわかった。
中毒の件数はこの一〇年間に倍増している。

フランス産肉は全てサルモネラ菌に汚染されている[P.61-62]

スウェーデン食品管理局は一九九七年に、フランス産の肉を食べないよう何度も警告を出した。
一九九七年秋の抜き取り検査で、フランスからのほとんどすべての輸入品、
そのなかでもとくに鶏肉がサルモネラ菌に汚染されていたことが明らかになった。
フランス側は責任はまったくないと主張している。
ニワトリは輸送中の不注意によりフランス国境をはるか越えたところで感染したのだという。

クルージング船コスタ・リヴィエラ号のサルモネラ食中毒[P.64]

クルージング船コスタ・リヴィエラ号の船長は、一九九六年夏、
クレタ島のヘラクリオン入港を前にして、
当地のすべての病院に警戒態勢をとるよう要請するはめになった。
乗客一三二二人のうち八五〇人が昼食後サルモネラ食中毒を起こしたのである。
イタリア人、ドイツ人、イギリス人、ロシア人、オーストリア人が
疫痢や急性の心臓疾患を起こし、そのなかには子どもも三〇人含まれていた。
船はただちに検疫下におかれた。島民にまで危険が及ぶことのないようにとの措置であった。

船長のディナーが出た料理が最高級のものとはいえなかったようだ。
さまざまなクルージングに乗船したことのある
『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング』の旅行リポーターは、
航行中に備蓄食糧を視察した。その結果はほとんど彼の気に入らなかった。
とくに、近代的な遠洋航路用大型船の食事メニューの規格化は好ましくない結果を招く。

香料は肥育剤として機能する[P.84-85]

香料は、豚を短期間で処理可能な体重にするための肥育剤としても使用されている。
犬や猫の餌にも食欲を増進させるために添加されている。
あるデンマークの会社が行った飼育実験では、
ふつうの餌を食べていた子豚は毎日三〇一グラムずつ体重が増えていた。
それがイチゴの香料で風味をつけた餌を与えると、毎日三二二グラムの増加になった。
さらにイチゴの香料に甘味料を加えた飼料を食べた豚は体重の増加が最も盛んになり、
一日三二六グラムの増加になった。
ちなみにこの香料はドゥダルフストの製品にも使用されている。

香料メーカーのハールマン&ライマー社はバイエルの子会社である。
この企業が、犬と猫に香料を添加した餌とふつうの餌を与えて比較調査した。
その結果、香料添加の餌のほうを動物たちははるかにたくさん食べた。
餌を好きなだけ食べられるようにした犬は、山盛りの餌皿を前にして、
平均すると香料無添加の餌は三八パーセントしか食べなかったが、
香料添加の餌のほうは六一パーセントも食べた。
猫も香料添加の餌の七〇パーセントに対して、
無添加のほうは四三パーセントと、結果は明らかだった。

ハールマン&ライマー社は香料を食品用に製造しており、
その結果は人間の場合も同様であると、
香料メーカーが組織するドイツ・エキス産業連盟も率直に認めている。

干草を食べる牛には病原菌が繁殖しない[P.111]

肉を大量に生産したり、牛乳をたくさん出すように改良された近代的な高性能牛には、
穀類と栄養強化飼料を混合したものが与えられる。
この飼料こそが大腸菌O-157の蔓延を助長しているのである。
一九九八年に『サイエンス』二八一号一六六六頁に発表された研究で、
科学者はその理由を次のように報告している。
動物をその種に反して穀類で育てると、
それが動物の胃の中で完全に分解せず、未消化のまま腸に届く。
そこで発酵が始まり、酸性の環境ができあがる。

バクテリアはそれによってある程度の抵抗力を付け、酸性の環境に慣れてしまい、
後に人間の胃の中で胃酸の攻撃を切り抜ける。
自然に反した飼育が文字どおり、抵抗力のある病原菌をつくり出しているのだ。

科学者は牛の腸内にいる大腸菌細胞の正確な数によって、この認識に至った。
穀類を食べた牛には危険な種類の大腸菌細胞が腸内物一グラム当たり二五万個もあった。
干し草と牧草を食べた牛にはわずか二万個しかなかった。
しかも、その病原菌は長生きできなかった。
九九・九九パーセントは人間の胃酸によって殺され、害を及ぼすことがなかったのである。

ドイツの牛乳ダイオキシン・スキャンダル[P.113-119_121-123]

ライナー・マリシュ氏は穏やかな人物だ。
地味な色を好み、コールテンのズボンにブルーかベージュのシャツを着ている。
マツダの車を運転し、家族は妻と二人の子ども、それにゴールデンレトリバーが一匹。
ヴェストファーレン出身のマリシュ氏はフライブルク近郊に住んでいる。
大学卒業後は南ドイツに腰を据え、州立化学物質調査機関のダイオキシン研究所長になった。

<中略>

一九九八年二月二七日、金曜日のことだった。
同僚のヘルムート・ヴィンターハルター氏が昼食後に彼のオフィスへやってきた。
小さなオフィスにはファイルや書類、書物、
それにさまざまな会議の報告書などであふれんばかりの棚が所狭しと並んでいる。

ヴィンターハルター氏も、大げさな態度をとったり興奮したりするタイプではない。
だが、この日ばかりは違っていた。
オフィスに入ってきたときから、少し緊張しているのが見て取れた。
ヴィンターハルター氏は、バーデン・ヴェルテンベルク州全体の数値を包括するセンター、
フライブルク研究施設のダイオキシン測定責任者である。
この日の午後、彼は一枚の紙を持っていた。
その紙には蛍光ペンで赤い印の付いた数字が並んでいた。

その紙はまずスタッフの週末の計画を混乱させた。
続いて官庁の執務室や企業本社に興奮を巻き起こした。
それはドイツ中に、EU全域に、さらに遠くまで広がっていった。

ヴィンターハルター氏が赤く印を付けた数字はダイオキシンの数値だった。
鶏肉と鶏卵をめぐるベルギーのダイオキシン・スキャンダルより一年前のことで、
数値は、ドイツではこれまでにないほど高かった。
牛乳から検出された数値は乳脂肪一グラム当たり七・八六ピコグラム。

<中略>

マリシュ氏は同僚とともに急いでダイオキシン値が不可解な上昇を示した原因を調査した。
牛乳運搬車を調べ、農場から検体をとり、可能性のある汚染源を体系的に追跡していった。
VGオート・スペックは昼夜を問わずフル回転し、スタッフは週末もオフィスに詰めた。
そしてついに数値が上がった原因を突き止めた。
それはフライブルクの南にある小さな農場だった。

マリシュ氏はほっとした。とうとう牛乳の汚染源が見つかったのだ。
農民を訪ね、その農場を検査した。こんなにうまくいくとは思ってもいなかった。
しかし「わたしはむしろ嫌な気分でした」とマリシュ氏は言う。
その農民には、不正な手段を用いたり、
顧客への健康リスクを知りながら利益だけを追求するような、そんな冷酷な印象はなかった。
「その農民からは誠実な印象を受けました。
彼は断言しました、禁止されている薬品は使っていないと、
彼は殺虫剤も殺菌剤も使用していませんでした」。
マリシュ氏はその農民を信じた。
「彼は生活を守るのに必死です。
四人の子どもがいて、家族全員が自分たちの牛の牛乳を飲んでいるのです」。

マリシュ氏はそれでもやはり念のために、この気の毒な農民の農場で、
とくに栄養強化飼料から検体を採取した。
それは、彼が農業信用組合から取り寄せたライフアイゼン栄養強化飼料KK183であった。
新しい飼料だった。
前に使用していたものよりも一〇〇キロ当たり二マルクも安かったから買ったという。

VGオート・スペックは再び活動を開始した。
調査結果は歴然たるものだった。
その栄養強化飼料がダイオキシン源と確認された。

*   *   *

テプシャー社は、間接的にではあるが、ダイオキシンを扱っていた。
この会社は家畜飼料用添加物を販売している。いわゆるオレンジの皮である。
これはオレンジ果汁製品の副産物で、乾燥させてから家畜飼料添加物として販売される。
小さな茶色のボール状で、ほのかにオレンジの香りがする。
一九九六年度の販売量はヨーロッパ全域でほぼ三〇〇万トンであった。

このオレンジの皮がダイオキシン汚染の原因であることを、
フライブルクの化学者が発見した。
この添加物は南部バーデンで飼料として使われていただけでなく、
他の地域でも使用され、牛乳、バター、ヨーグルトが汚染されていた。

<中略>

EUは一九九九年初めに調査官を独自にブラジルへ派遣した。
そして、彼らは近代的食品生産の背後にある興味深い情報を持って帰ってきたのである。

ある工場がダイオキシン源であと確認された。
それは世界最大の化学薬品企業の一つ、
ベルギーの多国籍化学企業ソルヴェー社の系列会社である。
同社のブラジル工場では化学合成物質PVCを製造している。
製造時に副産物として石灰ができる。しかも、大量にできる。
EUから派遣された調査団がサンパウロ近郊の会社の敷地を検査したとき、
そこには一〇〇万トンもの巨大な石灰の山があった。
高度にダイオキシンで汚染されていたので売却できないものだった。
ダイオキシンがどのようにして石灰に入り込んだのかはわからないが、
最終的にヨーロッパの牛乳にたどり着くまでの長い道のりのどこかで入ったのだろう。

ソルヴェー石灰は、ブラジルの建築現場ではふつうに使用されている。
取次業者が原料を工場から受け取り、それを建設会社に納入する。
ベルギーの多国籍化学薬品企業はあらかじめ文書で防衛策を講じているので、
その後の使用については何の責任も負わない。
取次業者は抜け目なく、ある時点で、
自分たちの製品が採算のとれるような使い途を見つけていた。
彼らは石灰をオレンジジュースのメーカーに運んだのである。

そこでは果汁を搾ったあと、皮と残った果肉を細かく刻み、
乾燥させてから家畜飼料添加物に利用する。
この乾燥工程で処理をしやくするために石灰が使用される。
その際にダイオキシンで汚染された石灰も大量に使用され、
オレンジの皮に毒素が混入したのである。

飼料添加物ビガロール・トロパロムL[P.127-128]

豚、ニワトリ、子牛が、餌が気に入らず、嫌がってハンガーストライキをしたり、
少ししか食べなかったりすれば、畜産業者にとって動物が役だたなくなり、
畜産場は壊滅状態になりかねない。

そこで畜産業者は従業員を薬品貯蔵庫へ行かせ、黄色っぽい液を豚の飼料に混ぜる。
ビガロール・トロパロムLという薬品である。
これを混ぜると、豚には従来の餌との違いがわからなくなる。
「熱した野生のイチゴをベースに、新鮮でフルーティーなキイチゴとイチゴの風味」
を出すよう配慮して作られているので
「養豚業界で問題になっている飼料の香りづけに最適」であると、
メーカーのハールマン&ライマー社は自社の製品案内に記している。
この薬はスプレー用で、一個ずつパックしてあり、
三七五トンの飼料に十分な三〇キログラム入りプラスティック容器から、
一万トンの「問題飼料」が作れる八〇〇キログラム入りのものまである。
これは再利用できる大型容器に入っている。
アグリビジネスの業者は、とくに若干大きめの畜産場を念頭に置いているようだ。

この場合、毎日キイチゴとイチゴである必要はない。
「新鮮なトゥッティ・フルッティ
(果物の砂糖漬け)風味のフルーティーな緑のセイヨウナシ」や
「クリーミーなココナッツ・バニラ風味のアーモンド菓子」もある。
自然愛好家の子牛業者にはヘルバロムLがお勧めで、
これは牧草には本来含まれていない「合成飼料の苦味質」を隠すことができるので、
「牧草地の新鮮な干し草そのもののような香りを連想させる」という。

抗生物質汚染[P.129-132]

  1. 『ズュートドイチェ・ツァイトゥング』紙は、「数年前から、春になっても前の年の牛糞が牧場に分解されずに残っている」と報道し、世間を驚かせた。[P.129]
  2. 人間や動物のための抗生物質が「表面水に含まれていることは珍しくなく、むしろふつうのこと」だと、フランクフルト一帯に給水されている水を七七か所で調査したヘッセン州環境保護研究所のゲオルグ・ベルトホルト氏は言う。[P.130]
  3. エデカなどのスーパーマーケットでも販売していたアイフリッシュ社の卵に抗生物質の残留が認められた。[P.130]
  4. 一九九五年には、ドイツで検査された豚の三・二パーセントと子牛の一八パーセントが、一九九四年以来禁止されている抗生物質クロラムフェニコールで汚染されていた。[P.131]
  5. 抗生物質で汚染された肉を食べた後に重症のアレルギー反応を起こし、ショック状態になり、生命が危険になることもある(17)。[P.131]
  6. 豚のテトラサイクリン汚染[P.131-132]
  7. 抗生物質=肥育補助剤[P.132]
豚のテトラサイクリン汚染[P.131-132]

食肉衛生局の獣医がかつてヴェストファーレン地方のボルケンで綿密な調査を行ったとき、
一〇頭の豚のうち七頭に抗生物質の残留が認められた。
「骨まで汚染された豚」と『ターゲスツァイトゥング』紙は報道した。
ヴェストファーレンで検査官が調査したのは一部の豚のすね肉だけでなく、
総数一万七一五〇頭分の検体だったので、この発見は非常に重要である。
また紫外線に当てると一〇頭のうち七頭の検体が黄色に発光した。
骨にテトラサイクリンという抗生物質の残留があったのである。

抗生物質=肥育補助剤[P.132]

ヨーロッパでは一万トン、
アメリカでは二万五〇〇〇トンの抗生物質が毎年消費されているが、
その約半分は家畜に投与されている。
また抗菌剤はほとんどの種類が動物に使用されている。
抗生物質のバンコマイシンは、人間の場合には控え目に使用され、
他の薬が効かない場合に最後の手段として用いられることが多い。
この抗生物質は、デンマークでは
一九九三年に人間の病気の治療にはわずか二四キログラムが使用されただけだったが、
農業では家畜用に一万九〇〇〇キログラムも使用されていた。
オーストラリアは一九九二年から九六年に人間の治療目的で五八二キログラムを輸入したが、
動物用にはその一〇〇倍の量であった。

抗生物質は陸上だけでなく、サケなどの大規模養魚場でも使用されている。

耐性菌問題[P.135-136]

  1. ブランデンブルク州のすべての家畜で病原菌を調査した結果、家禽では六〇パーセントに、豚では九〇パーセントに耐性があることがわかった。[P.135]
  2. デンマークでは一九九八年に、豚肉を食べた女性がサルモネラDT104による感染症で死亡した。[P.135]
  3. 耐性菌で死亡した俳優ギュンター・シュトラック[P.135]
  4. 一九九八年に香港の女性が黄色ブドウ球菌に感染して死亡した。[P.136]
耐性菌で死亡した俳優ギュンター・シュトラック[P.135]

一九九九年初めに死亡したドイツの俳優ギュンター・シュトラックは、
晩年は耐性菌に感染していた。
一九九六年夏に脳卒中を起こしたあと快方に向かっていたが、再発し、
そこから「苦難」が始まったと、『ビルト・ツァイトゥング』紙に語っている。
「七か月間苦しみました。下痢が続き、血液がだめになりました。
五か所の病院へ行きましたが、なんの役にもたちませんでした。
なんの病気なのか誰にもわからなかったのです。
抗生物質はまったく効きませんでした」。
彼は抗生物質バンコマイシンに耐性のあるエンテロコッカス(腸球菌)の犠牲になった。
汚染された肉を食べて感染したのである。

抗生物質論争[P.136-138]

  1. WHOは抗生物質添加飼料を制限するよう繰り返し求めている。[P.136]
  2. ロベルト・コッホ研究所に「「人間の健康に予測できないリスクが発生するのを防止するためにも、家畜飼料胃に抗生物質の肥育剤を入れるのを完全に止めるよう」求めている。[P.137]
  3. 耐性が伝染することについては「証拠がない」と、ヨーロッパの動物用医薬品メーカーの合併により設立された「フェデサ」のギスレーヌ・フォレ会長も言う。[P.137]
  4. スイスの製薬企業ホフマン・ラ・ロシュ社も、自社の抗生物質アボパルシンが耐性の形成に責任がないことを、専門家の鑑定で証明しようとした。もっとも反対派の見解によると、鑑定は誤りだらけであるという。[P.137-138]
  5. スイスでは驚くほどの徹底ぶりだ。一九九九年一月一日付で、どんな場合でも「抗生物質および類似の物質を成長促進剤として動物に使用すること」を禁止した。[P.138]

コーラ症候群[P.140-146]

  1. コーラ大瓶三本を毎日飲んで骨粗鬆症になった少年[P.140-142]
  2. 「コーラをいつも飲んでいる人は、成長するにつれて骨がもろくなる」と、フランスの栄養学者ジャン・ポール・キュルテイは述べている。[P.143]
  3. 一九六〇年代にエジプト政府が国産コーラを市場に出したとき、
    アメリカ政府が「トップレベルの」介入を行い、
    競合製品が「再び姿を現した」場合には「投資から撤退すると脅かした」と、
    『ノイエ・チュルヒャー・ツアイトゥング』は報じている。[P.144]
  4. アメリカの家事コンサルタント、マリー・エレンさんは
    トイレ洗浄剤として使うことを勧めている。
    「少し使ってみると、便器がピカピカになるのがわかります」(18)[P.144]
  5. コカコーラはかなり攻撃的な物質で、
    肉にふりかけておくと数時間たたないうちに完全に溶けてしまう。[P.144-145]
  6. ドイツでは清涼飲料の一人当たり年間消費量は八五リットルで、
    そのうち五〇リットルはコカコーラである。[P.146]
  7. ファンタを飲んでも歯が悪くなることがある。ファンタにはクエン酸が含まれており、
    これがリン酸と同様に歯に有害であることが、ケルン大学の研究で証明されている。[P.146]
コーラ大瓶三本を毎日飲んで骨粗鬆症になった少年[P.140-142]

セバスチャンはごくふつうの少年だった。
学校はあまり好きではないが、サッカーは大好き、スポーツで鍛えた頑丈な体格をしていた。
ただ他の子どもと違って、歯がグラグラで、前歯がもう何本か欠けていた。
まだ一一歳なのにこれはただごとではないと母親は考え、息子を歯科医へ連れて行った。
歯のレントゲンを撮ってみると、驚くべきことがわかった。
あごが退化してしまっていたのだ。医学用語でいう「萎縮」である。

歯科医にはこの現象がよくわからなかったので、少年を専門病院へ行かせた。
運動神経の発達したセバスチャンはひらりと自転車に飛び乗り、
ベルリンの同じ市街区にある病院へ出かけていった。
ところが途中で自転車ごと転倒し、下腿部を骨折してしまった。
すぐに救急車で病院へ運ばれ、整形外科で骨折合術が行われた。
それが済むと、少年は入院した。

少年はほとんど動けなかったので、はじめのうちはベッドを離れることができなかった。
そこで看護婦が便器を差し入れたところ、またやっかいなことが起こった。
「痛い」とセバスチャンは小さく叫んだ。
医師の診断によれば椎体骨折だった。「椎体挫傷」と診断は修正された。

「骨がもうボロボロです」とユッタ・ゼムラー教授は言う。
ゼムラー女医は当時、少年の治療にあたり、
椎体骨折を確認した時点で非常に心配していた。

このような椎体骨折では骨が小さく砕けるだけですむ。
ところが骨質があまり安定していないので、骨格がもろくなるおそれがある。
木組み家屋の梁に小さな穴がたくさん開いているようなものだ。
建物が立っているのではじめのうちは誰も気づかない。
「しかし大型トラックが通ったりすると、その振動で家全体が崩れ落ちてしまいます」。

一一歳という年齢にしては衰えるのが早すぎる。医師としてもこんな経験は初めてだ。
重ねて検査を行ったが、よくわからない。
この種の病気が子どもに起こることはこれまでなかったので、
他の症例と比較することもできない。
そこでまず骨質に関する情報を与えてくれる骨密度を、健康な子どもを対象に検査した。
そうして比較してみると、「少年の検査結果はまるで高齢者のよう」だったと、
ゼムラー教授は語っている。診断は「骨粗鬆症」。
この病気は更年期を迎えた女性におもに起こるものだと、これまでは考えられていた。

セバスチャンの病気は前代未聞だったので、その原因を調べていくのは、
医師にとっても最初は暗闇で手探りするようなものだった。
骨粗鬆症は他の病気の兆候ではないのか、それともまったく新しい病気なのだろうか。
なぜ少年はこのような病気にかかったのだろうか。
医師は少年をとりあえず四週間入院させた。
原因を突き止め、可能であれば治療をするためだった。

ある日、いつもの栄養相談が終わったあと、
セバスチャンはゼムラー女医のところにやってきた。
そして母親には絶対に内緒にしてほしいことがあると言った。
女医は秘密厳守を約束し(したがってセバスチャンの本名も素性もここでは明らかにできない)、
少年が骨粗鬆症になった原因を知った。

セバスチャンはベルリン市街区のヴェディングに、
彼を一人で育ててくれた母親と一緒に暮らしていた。
母親はスーパーマケットで働き、二人の生計を立てていた。
彼女は毎朝、息子に昼食代として数マルク与えていた。
バターを塗っただけのパンを学校へ持っていけば笑われるだろう。
そこでセバスチャンは買って持っていくことにした。
それも毎日コーラの大ビン三本と甘い菓子パンを一個。

ここにセバスチャンの病気の謎を解く鍵があった。
医師の診断によると、セバスチャンは「栄養不良」だったのだ。
彼の骨粗鬆症はコーラのせいだった。
コーラに含まれているリン酸が骨からカルシウムを取り去り、もろくしていた。
セチャスチャンも、もちろん母親もそのことを知らなかった。

食品の異物混入事例[P.149]

ネスレ・イギリス社は
チョコレートにゴムが混入しているのが見つかったため一〇〇〇ポンドの罰金を、
ゼリー菓子に木屑が混入していたため四〇〇〇ポンドを支払った。
チョコレートメーカーのマルス社も菓子類にゴムが見つかり二〇〇〇ポンド、
「ナッツバー」に金属片が混入していたため二〇〇〇ポンド。
大手食品企業のキャドバリーズ社はチョコレートにウジがわいていたため二五〇〇ポンド、
バーガーキングはハンバーガーにカブトムシが入っていたため二〇〇〇ポンドを、
それぞれ罰金として支払った。

遺伝子組み換えを批判して追放されたパズタイ博士[P.152-153]

ハンガリー生まれでスコットランド在住の遺伝子学者アーパド・パズタイ博士は、
遺伝子組み換えジャガイモに意外な性質があることを発見し、驚愕した。
このジャガイモの塊根には、
害虫予防のためにマツユキソウから採り出した有毒遺伝子が組み込んである。

この新種のジャガイモをラットに食べさせたところ、病気になった。
ラットの内臓が一〇パーセント収縮し、胃と腸に炎症が起こった。
おもしろいことに、本物のマツユキソウの毒を摂取したラットにはこの現象は現れなかった。
遺伝子組み換えジャガイモを食べたラットにだけ起こったのである。

そのことをパズタイ博士は、一九九八年八月一〇日、イギリスのテレビで報告した。
「選べるものなら、わたしは遺伝子組み換え食品を食べません。
私たちが遺伝子組み換えジャガイモで行ったのに匹敵するような実験による証拠を見ないうちは」。
博士はこの説を唱えるべきではなかった。
これによってアバディーンのロウェット研究所の職を失った。
博士の実験室は閉鎖され、研究仲間やメディアからも冷たい目で見られた。
一九九九年二月になってようやく、二三人の世界的学者が手をさしのべ、名誉を回復させた。
当時パズタイ博士は遺伝子操作に決して批判的だったのではなく、むしろ支持者であった。
遺伝子組み換え製品の安全性を人間に与える前に動物実験によって調査するという、
本来ならば控え目な要求をしたにすぎなかったのである。

超早熟児の誕生[P.163-164]

その少女はまだ幼かったが、身体はすでに女性の特徴を示していた。
まず胸と陰毛にその兆候が現れた。三歳になったばかりのときだった。

今日では「ぜんぜん珍しいことではありません」と、
ノースカロライナ州の女性衛生学者マルシア・ハーマンギデンス教授は言う。
教授はこのような早熟の少女をこれまでたくさん見てきた。
アメリカで一万七〇〇〇人の女児を対象にした調査に協力したときにも、
白人三歳児の一パーセントに、白人八歳児の一四パーセン以上に、
肉体的成熟の最初の兆候が現れているのを確認した。
子どもたちの多くが早すぎる思春期を迎えていたのである。

これは異常であるだけでなく、危険なことでもある。
「大人になったとき健康を損なうおそれがあります」と、
カリフォルニア州公衆衛生局のシャンナ・スワンさんは言う。
「思春期を迎えるのが早ければ早いほど、後になって乳ガンにかかるリスクが高くなります」。

スイスのブラジャーサイズ向上現象[P.164]

最初にその変化に気づいたのは下着メーカーの経営者だった。
スイスの若い女性たちが以前よりサイズの大きいブラジャーを求めるようになっているのを発見した。
この現象を、チューリヒの科学者マルグレット・シュルンプフさんは、
多くの人がそれと気づかず摂取しているホルモンに関係があると考えている。

環境ホルモンは極微量でも作用する[P.171]

「わたしたちはこれまで、濃度の測り方を間違えていました」
とミズーリ大学のホルモン学者フレッド・フォム・ザール教授は言う。
「ホルモン物質は他の毒素のような作用の仕方をしません。
ホルモン物質は、量が多ければ作用も強くなるということはないのです。
それどころか、たいていはその逆です」。

フォム・ザール教授は、妊娠したマウスにビスフェノールAという化学物質を、
体重一グラム当たりきっかり五〇〇万分の一グラムという少量を与えた。
その結果、生まれたばかりのオスの前立腺は与えなかった仲間より大きかった。

環境ホルモン汚染食品[P.172]

『ネイチャー』誌のテスト購入者が一九九八年秋に、
テンゲルマン社の銘柄商品A&Pの袋入り冷凍食品にフタル酸塩と同種の物質が
一キログラム当たり一二五ミリグラム含まれているのを発見した。
メリッタ社の「トピッツ袋入り朝食」にはエストロゲン様ホルモン作用のある別の物質が、
ドイツ最高の地牛乳といわれる
ブランデンブルク酪農場エムツェットのプラスティック牛乳瓶には
一キログラム当たり一七八ミリグラムのビスフェノールAが含まれていた。

クレンブテロール不正使用事件[P.178-181]

一九九五年一一月三〇日、
マドリードからボンの外務省に一通の暗号テレックスが届き、
担当機関である保健省に回された。その本文は、
「一九九五年一一月二二日、牛レバーを食べた一二人が中毒症状を起こし、
マドリードの病院に入院。原因はクレンブテロールと確認された。
この物質は牛の飼料には使用を禁止されているが、当該のレバーには含まれていた。
保健所は予防措置として、トレド県の畜肉処理場から近郊のモストレス、
ナバルカルネロ、パルラにある肉屋やモツ専門店に納入されたレバーを押収。
肥育業者の追跡調査ができたかどうかは不明」。

このテレックスが送られてきたのは、
もくりの肥育剤売人一味が関係しているからではないかと推測される。
このような病気が発生したのは初めてのことではない。
「一九九四年一月には、
クレンブテロールで汚染されたレバーを食べて一五〇人を越える患者が出ている。
その後、マドリード一帯のモツの消費は激減し、保健所は管理を強化した。
一九九四年二月には、
採取された検体の四二パーセントにクレンブテロールやその他の薬品の残留が確認された。
売人一味はあぶり出され、一連の肥育業者が罰金刑に科せられた」。

クレンブテロールは運動選手の間では、かつての女史陸上界のために使用したからである。
もっとも過剰に服用すれば、鼓動が速まったり、筋肉の痙攣や頭痛が起こる可能性もある。
糖尿病患者が昏睡状態に陥り、心臓病患者が発作を起こして死に至ることもある。

豚にクレンブテロールを与えると、脂肪が落ち、あっさりした肉になる。
これは一九九七年までは動物用咳止薬として認可されていたが、
いかがわしい肥育業者にとくに気に入られたのは、
検査の際に風邪の予防という言い訳ができたからである。
それが全面禁止になって以来、検査官の観察によると、
それに代わる物質やまったく別の新しい物質が現れて、
禁止された物質は隠れてしまい、追跡がいっそう困難になっている。
ノルトライン・ヴェストファーレン州当局は、
一九九八年夏に初めて副腎皮質ホルモンのコルチゾンを発見した。
これは従来の肥育剤の効果を高め、
混合された物質を分析時にカモフラージュするために使用されていた。
当局はこれまでその捜査をしてこなかったので、
この事件の情報がなければ、この物質に出くわすことはなかった。

化学合成飼料の場合、畜産業者や小売業者が創造力を発揮して調合を頻繁に変えるので、
検査官はとっくに使用されなくなっている物質を捜査していることがよくある。

一九八八年、ドイツ最大の家畜ドーピング事件が発覚した。
ミュンスターラントのズュートローン・エディングに住む
大規模農家のフェリックス・ヒューイングは、
一万三七三六頭の子牛にホルモン剤を与えていた。
この子牛業界のボスに化学物質を提供していたのが誰か、当初はわからなかった。
ただ、オランダの納入業者が怪しいとの指摘が数多くあった。
しかし、数年たっても化学合成飼料はなくならなかった。
ニーダーザクセン州レニンゲンのある家畜業者のところで、
コーラの瓶に入った一キログラムの純粋のクレンブテロールが見つかった。
家畜二万頭分の量である。
ニーダーライン地方ゴッホ・アスペルデンの畜産業者
ゲルハルト・ヴューリングスのところでは、
一九九五年、捜査官が畜舎で血液検査を行い、
子牛にホルモン物質エストラジオールを確認した。
五四頭のうち四七頭にクレンブテロールが確認され、
ドーピング用貯蔵庫は相当な設備だった。
テストステロン、エストラジオール・ベンゾアートなど、
さまざまなホルモン剤の入った瓶が五〇〇本と、
さらに抗生物質と七五キログラムのクレンブテロールが見つかった。
ヴューリングスには執行猶予付一〇か月間の拘留と
一万マルク(約六〇万円)の罰金刑が申し渡された。

<中略>

ノルトライン・ヴェストファーレン州でも一九九八年夏に、
ボルケン郡の二五軒の農家が捜索され、そのうちの一四軒に非合法肥育剤が見つかった。
クレンブテロールと、最近よく使用されるホルモン剤のコルチゾンである。

同じ年の夏、ニーダーザクセン州でも捜査官が、
検査を受けた一二七軒の農家のうち六五軒で、
禁止されている肥育剤クレンブテロールを発見した。
逮捕者の一人である、
エムスラントのリンゲン出身のフランツ・ミッデンがドイツ子牛肉管理組合
「子牛肉生産の安全性と透明性を促進する運動」
のメンバーであったことが関係者を驚かせた。

ホルモンマフィア暗殺事件[P.183-184]

ベルギーの獣医カルロス・ファン・デン・ブレムブーシェ氏は、
一九九三年六月一三日午前二時頃、家に銃撃を受けた。
二発の銃弾が玄関ドアとシャッターを貫通し、
犯人は人目に付くことなく、けばけばしい赤い車で逃げおおせた。
この犠牲者は「ホルモン・マフィアは邪魔者をすべて消してしまうつもりでいます」
と後に語っている。
ベルギーのヨーロッパ議員ヤーク・ファンデモイレンブルッケ氏は
何度もテロの対象になり、火炎瓶を投げつけられた。
彼はホルモン・マフィアについて調査し、著書を出版していた(26)

獣医アンドレ・エルモン氏は覆面した男たちに殴られ、
同じく獣医のファン・デ・ヴィーレ氏は
モーターバイクに乗った二人の男に家の前で待ち伏せされ、
刺激性のある薬を目に吹きつけられ、殴られた。

獣医カレル・ファン・ノッペン氏の娘は自転車で下校途中、
見かけない車によって通りから池に突き落とされた。
この事件も、そしてまた火炎瓶によるテロも、
ファン・ノッペン氏の調査を止めさせることはできなかった。
そして、頑固な性格ゆえに命を落とすことになった。
一九九五年二月、獣医はメルセデス190を通りに止めた。
そして車から降りたところ三発の銃弾が彼の身体を貫いた。
獣医は死の直前にベルギーの食肉産業の状況について調査し、報告書をまとめていた。
牛の三分の二と子牛の九〇パーセントがホルモン処理されており、
査察を受けることになっていた畜肉処理場は、検査官側から事前に情報が漏れていた。
買収は日常茶飯事であるという。彼自身も賄賂の申し出を受けていた。

カレル・ファン・ノッペン獣医殺害事件の容疑者は逮捕され、自白した。
だが、黒幕は何年たっても発見されなかった。それが誰なのか、実はわかっている。
ベルギーでは数年前から、大規模畜産業者、ホルモン剤メーカー、
薬品業者など数人がホルモン・マフィアの主要メンバーに名を連ねており、
隣国との接触も行っていた。だが、司法は捜査にあまり熱心ではなかったようだ。
「マフィアの黒幕をたどっていくと、ある大臣の二親等か三親等の家族に突き当たる」と、
被害者の兄フロール・ファン・ノッペン氏は言う。
彼はホルモン・マフィアとの戦いを続けるために、未亡人となった義妹とともに財団を設立した。
彼はこの事件を、他の犯罪事件と関係があると見ている。
「ベルギーでは、組織犯罪の重要事件で過去数十年間に解決を見た例はありません」。

コーデックス委員会の合成ホルモン安全宣言[P.187-188]

コーデックス委員会は世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)の合同組織である。
健康によいと一般に認められているものについて、世界規模で審査する。
この委員会は約一六〇人のメンバーからなり、本部をローマに置き、
世界のさまざまな地域で会議を開いている。
加盟国は投票権をもつが、ネスレ社、コカコーラ社、ホフマン・ラ・ロシュ社や
その他の有名企業から専門家が顧問として参加しているのは問題である。

コーデックス委員会の現在の見解では、テストステロン、プロゲステロン、
ゼラノール・トレンボロン、17βエストラジオールなどのホルモン剤が
身体に悪影響を及ぼすことはまったくないという。

これらのホルモン剤は、「肉をふつうに食べる場合」には
人体に有害ではないとコーデックス委員会はいう。
これはたしかにこの委員会全体の意見ではない。
一九九五年、三三対二九、棄権七という過半数ギリギリのところで採択された。
しかし、この非公開で行われた秘密投票で三三人によって決議された規則に、
全世界が従わねばならないのである。

バナナ農園で働くと必ず性的不能になる[P.192]

コスタリカ出身のディオニッシオ・ラミレス・ヘルナンデスさんは、
プレルトリモンの港を歩いていて、トタン屋根の小屋と多国籍バナナ企業の事務所の間で
コーラの缶を蹴って遊んでいる子どもたちを見るたびに胸が痛む。
「この辺りではどこでも子どもを見かけます。毎日子どものことを考えるんです」。
彼には子どもがいない。
七年間農園で働いてきたが、それ以来頭痛や胃痛が途切れることがない。
そればかりではない。生食不能になったのだ。
チキータ社やその他の多国籍企業の農園で働く八〇〇〇人のバナナ労働者は
みな同じ運命をたどっている。

第三世界では防護服なしで農薬散布されている[P.196]

グリーンピースの観察によれば、猛毒でガンの原因にもなる除草剤2、4-Dを、
農園労働者がマスクも保護服も着けずに、自分で混ぜたり噴霧したりしている。
子どもがサンダルばきで、劇薬の入った容器を背中に背負って散布していることも観察されている。
バイエルやBASFといったライフサイエンスのパイオニア企業からふつうに購入できる混合液である。
グリーンピースによれば、フィジー、パプアニューギニア、西サモアといった南太平洋諸国では、
薬剤を多量に使用しているオーストラリアやニュージーランドより中毒件数が多いが、
この状況では不思議はない。

ベリンガー社のダイオキシン公表妨害工作[P.199-200]

ハリー・ガルブレヒトさんはハンブルクのC・H・ベーリンガー・ゾーン社で働いていた。
この企業は「人類に必要な植物を保護する」を社是に農薬を製造している。
この立派な大事業にハリーも参加していた。
やがて彼は家を出る必要がなくなった。働けなくなったのである。

「ハリーはテレビの前に座っているとき、
身体のどこかに何かが起こっているのを感じることがよくある。
それは大腿部であったり、臀部であったり、背中であったりする。
『そろそろ腫れてくるころだ』と五四歳のハリーは思い、その箇所をそっと撫でてみる。
脹れている。やがてスモモ大に腫れあがってくることはもうわかっている。
これまでに七回もこのような腫瘤を切除した。

彼の皮膚病は頑固だ。化学療法は徐々にではあるが、確実に皮膚ガンを引き起こす。
大きな黒い腫れ物とはもう二〇年以上のつきあいだ。
『虫が這い出してきそう』と孫たちにいわれる。
抱き上げようとすると『嫌だ』といわれる。
いつ副腎に腫瘍ができたのか、はっきりわからない。
そのせいで月に三~四度、死の不安に襲われる。
損傷を受けた副腎のアドレナリンのせいだと教えられた。
そのときは外へ出るか、妻が医者を呼びに行くしかない。
この病気があるので、医師は腫瘍の切除をためらっている。

平衡障害はいつものことで、ハリーにはあらゆるものが二重に見えることがある。
酒もタバコもやらない。カナダの木こりのように頑丈な体格で、
ドイツの樫の木のようにどっしりと動かずにいる。
ほとんどの時間をソファに座ったまま過ごし、
『次は身体のどこにくるのだろう』と覚悟して待っている」。

あまり慰めにはならないが、それでも彼は一人で苦しんでいるわけではない。
昔の仲間と出会ったときなど、「彼らは自分たちをガンの標本だと思っている」と、
『シュピーゲル』は書いている。
一人は喉頭ガン、別の一人は同時に三種のガンに冒されている。
「さらに舌ガンが一人、前立腺ガンが一人、非ホジキン・リンパ腫が一人、
膀胱ガンが二人、大腸ガンと直腸ガンが各一人ずつ、皮膚ガンが二人、脳腫瘍が一人。
五人の女性も乳ガンにかかっている。これが生き残っている仲間の全部だ。
一一五人がガンで死亡した」。

ハリーは最初リンデン製造部門で働き、後にT酸製造部門に移り、ずっと農薬にかかわってきた。
そのとき超劇薬のダイオキシンが発生していたことを従業員は知らなかった。
農薬製造の副産物として発生するこの危険な劇薬は、
当時は専門家の間でもまだあまり知られていなかったから、
ましてや一般の人が知ろうはずもなかった。
もっとも、ベーリンガー社ではこの危険な作用を当初から知っており、
T酸製造部門の化学者ゲオルク・ゾルゲ部長もそれに気づいていた。
業界大手のBASF社も承知の上だった。
同社工場では一九五三年の事故の後、
研究員たちがこの化学物質の危険性を確かめるために
ウサギによる実験を行っていたからである。
だが従業員にも世間にも知らされることはなかった。
エルンスト・ベーリンガー社長は、公表を阻止するのに手段を選ばなかった。
公表を準備していたゾルゲ部長にもそれを禁じた。ゾルゲ部長は自殺した。
社長がBASF社からの情報を公表しないよう迫ったためだった。
社長はCDU(キリスト教民主同盟)との関係をうまく利用した。
当時の農業大臣、後にドイツ連邦大統領になったハインリヒ・リュプケも
部下を通じて公表を禁じたのである。

羊飼いの精神疾患と動物用薬品[P.204-205]

多くの動物用医薬品は業者自身にも影響を与える。
イギリスの羊飼育業者で不眠症、記憶力低下、重症の鬱病にかかっている人が何千人もいる。
王立物理大学と王立精神医科大学の科学者がこの病気の原因を調査したところ、
羊飼いが寄生虫の予防に動物に与えていた薬品が原因であることがわかった。
多くの医師は動物用医薬品と人間の病気との関連性を疑ってもみなかったので、
患者を救えなかったことは非常に残念であると、研究グループのメンバーの一人、
ジョン・ニューサム・デイヴィス教授は述べている。

調理場というガス室[P.206]

ドイツ食料品・飲食店同業組合中央研究所も、二〇か所の大調理場を検査した際に、
揚げ鍋と、チップパンと呼ばれる肉を大量に調理するプロ用のフライパンが、
有害物質の正真正銘の発生源であることを確認した。
調理場の湿った空気にはガンの原因になる物質が大量に存在し、
同業組合の研究者によると「タバコの煙がもうもうと立ちのぼる飲食店」よりも多いという。

ジュース増量酵素「ペクチネックス・スマッシュ」[P.206-207]

リンゴジュースを製造する際には酵素がよく使われる。
酵素を使えば搾ったジュースの量を増やすことができるからである。
六リットルのジュースを搾るのにこれまでは九キログラムのリンゴが必要だったが、
いまでは六キログラムで十分だ。
デンマークのノヴァ・ノルディスク社の「ペクチネックス・スマッシュ」という酵素である。
リンゴジュースの場合、
ペクチネックス・スマッシュのおかげで「一〇〇パーセントを超える収量」になったと、
ノヴァ・ノルディスク社は手放しで喜んでいるが、不思議な計算もあったものだ。

肉片接着酵素[P.207-209]

日本の味の素社がある酵素を開発した。
「缶詰製品特有の」パサパサした食感のソーセージに
弾力性をもたせることができるとパンプレットにある。
トランスグルタミナーゼ(TG)という酵素のおかげで、
「低コストで生と同じ歯ごたえのある」ソーセージ料理ができると、
日本の技術者は誇らしげだ。この酵素は一種の接着剤である。
企業パンフレットの挿し絵に描かれているように、
シチュー肉のような「肉片」をいくつかくっつけると「合成ステーキ」ができあがる。
この肉用接着剤は「ラベル表示なしに」使用できる。

<中略>

ノヴォ・ノルディスク社の酵素技術者も同様の製品を開発した。
まず実験室で試作し、その後小規模の試験的精肉工場で、
畜肉処理企業デニッシュ・クラウン社との共同開発により製造した。
この協力関係は大いに期待がもてる。
ノヴォ・ノルディスク社は酵素メーカーとしては一流企業で、
世界の酵素生産の二分の一を占めている。
たいていは特殊調整をした、あるいは遺伝子を組み換えたバクテリアや糸状菌を利用する。
デヒッシュ・クラウン社は豚の年間生産量が一〇〇〇万頭という、
ヨーロッパ最大の畜肉処理企業である。
その際に皮やその他の大量の残存物が当然生じる。
「昔はこれを安く売ったり、家畜飼料として利用していました」
とデニッシュ・クラウン社首脳のエゴン・クリステンセン氏は言う。
白い上着にネクタイ、縁なし帽をかぶった年輩の男性だ。
そのうちにこれが再評価され、食用として利用されるようになった。

ある日、ノヴォ・ノルディスク社から一人の男性が
「おもしろいアイデア」を持ってやってきて、協力したいと申し出た。
クリステンセン氏は感激し、
豚の皮やその他の残存物をトラックでノヴォ・ノルディスク社へ運ばせた。
彼らはプロタメックスという奇跡の物質を開発した。
この酵素で残存物の肉片を分解し、くっつけて、ハムのような製品に作り替えた。
何人かのデンマーク人が選ばれて試食してみると、本物の肉よりはるかにうまい。
彼らの意見では、酵素が肉の細胞を広げるので、味も風味もいちだんと良くなったという。

<中略>

酵素は形式的な認可手続きを行う場合、それが健康上なんの問題もないことを検査する必要がない。
ドイツでは、将来使用されるであろうものも含めて、
酵素はすべて一括使用できるという認可を食品メーカーは取得している。

パパインアレルギー事件[P.209]

アメリカで起きた有名な事件がある。
肉をやわらかくするのに使用されるパパインという酵素が
重症のアレルギー性ショックを引き起こした。
このような報告は、肉を大量に消費する国でもあまり聞いたことがない。
だがこれは、これまでほとんど考慮されてこなかったある問題を示唆している。
とくに食品企業の従業員に関する問題である。
大規模調理場の従業員三八人を対象にした調査で、
一九人がパパインにアレルギー反応を起こしていたことが明らかにされている。

パン職人の酵素アレルギー[P.209-210]

パン焼き職人に酵素アレルギーが起きている。
生地を機械に入れ、パンをキツネ色にこんがり焼いて
おいしそうにふっくら仕上げるのに酵素を使用しているからである。
パン焼き職人の喘息が急増したのが最初の兆候だった。小麦粉のせいではなかった。
製パン剤の使用と正比例してパン焼き職人の喘息が急上昇した。
彼らはこの酵素をたっぷり使用する。年間一六万トンというおびただしい量である。
国民一人当たりにすると年間二キログラムにも相当する。

ボッフム大学医学部のクサヴェール・バウアー教授らは、
製パン職人に喘息が多いのは、多くの場合小麦粉が原因ではなく、
酵素の入った製パン剤が原因であることを発見した。
その治療のために同業者保険組合は年間八〇〇〇万マルク
(約四七億二〇〇〇万円)を支出しなければならない。
バウアー教授らはまずアルファ・アミラーゼという酵素を確認した。
これはアスペルギルス属の糸状菌によってつくり出される。
一九八八年、バウアー教授らはキシラナーゼという酵素が
製パン職人にアレルギーを引き起こすことも発見した。
「センセーショナルな発見だ」と教授のチームは報告している。

酵素入り製パン剤を使用しないに越したことはない。
だが、工業化された製パンという条件下ではこれはほとんど不可能だ。
新しい換気装置を設置して工場内の埃の量を限度内にとどめておくよう努力するくらいしかない。

食の砂漠=ウェスト・エヴァートン[P.215]

ウェスト・エヴァートンは、人に見放された気の毒な町だ。
一九九三年から九七年までに、住民の三分の二以上が引っ越して行った。
残った六〇〇〇人のために「雑貨店」が一軒残っているだけだ。
そこにも、近隣の二軒のスーパーマーケットにも、
置いてあるのはおもに缶詰や冷凍食品である。
「ここの住民は、新鮮な果物や野菜を手に入れるのが難しい」と
救援組織「セーブ・ザ・チルドレン」のスタッフ、クレール・マハニーさんは言う。
彼女は状況改善のための計画を準備中である。

ウェスト・エヴァートンの人々は完成食品や調理済食品ばかり食べている。
イギリスではこのような地区に対して独特の言葉がある。「食の砂漠」だ。
このような荒廃した生活は楽しみがないだけでなく不健康でもあることを、
ウェスト・エヴァートンの患者統計が明らかにしている。
住民の四〇パーセントが慢性疾患に、子どもの五人に一人が喘息にかかっており、
死亡率はリバプールの他の地域のほぼ二倍だ。

製品の売れ行きは包装が全て[P.224]

製品自体はそれほど問題ではないと、ウィリアム・H・ルンダーマン氏は言う。
ルンダーマン氏はアメリカの缶詰スープが医者キャンベルのチーフデザイナーで、
ドイツの子会社エラスコ社のラベルを新たにデザインした。
「包装がなによりもだいじです」と言う。
「スーパーマーケットの棚に並んでいる商品を見たとき、
買うかどうかを決めるきっかけになるからです。
消費者と包装、あるのはそれだけです。
包装はすべてを語るものでなくてはなりません。
内容について教えてくれ、感情に訴えかけ、
すぐ横にある商品との競争に勝たなくてはなりません。
さもないと消費者は素通りしてしまいます」。

ヤセ薬「キセニカル」とシミ[P.229-230]

この薬はスイスの大手製薬企業ホフマン・ラ・ロシュ社が製造している。
この企業は、肥満は人類にとって大きな災厄であり、
その特効薬を開発した企業には黄金の時代がやってくることを見抜いていた。
キセニカルという名の薬品で、
ツィマーマンさんは八四カプセル入り一箱を一九八マルク(約一万一七〇〇円)で買った。
これで四週間分である。

早速、服んでみた。最初の二週間で四キロやせた。

だが、副作用もあった。
それはあまり人に言えないものなので、
南ドイツに住む年金生活者の彼女は本名を伏せてほしいと言う。
最初の夜から不快な副作用が現れた。パジャマの下のある場所に奇妙な感覚があった。
「朝起きると脂のシミが浮き出ていました」。非常に不快だった。
またフロリダへ行くつもりだったのでなおさらだった。
「休暇をとるのは無理みたい。脂のシミを隠すことができないので、水着を着て歩けないし。
パッケージの説明のとおりに一日三回服用したら、人前に出られなくなりました」。
これは彼女だけに起こったことではない。
知り合いが同じくキセニカルの犠牲になり、ほとんど家から出られなくなってしまった。

この副作用はメーカー側には周知のことである。
「パンツの下の脂のシミ」について、
ロシュ社首脳のウヴェ・ブラウマン氏は「副作用といえるのはこれだけです」と断言する。

合成サプリメンを服用すると栄養失調になる[P.257]

合成ビタミンは単独で摂取してもあまり役に立たないことを、
すでに一九五〇年に一人の研究者が発見している。
ヴェルナー・コラートという自然食品の効用を説いた人である。
コラートはまず、パン、ケーキ、ビスケットといった
ビタミンを含まない人間用の食物に匹敵する齧歯げっし類用の文明食をラットに与えるという、
一連の大規模な実験を行った。あわれな動物たちはすぐにかわいそうな状態になった。
慢性便秘や虫歯になり、骨がもろくなり、腸内菌に悪性の変化が起きた。
ガンの第一段階である。
死には至らなかったが、無気力で病気がちになり、よくても「半病人」でぼんやりしていた。
次に合成ビタミンを与えてみた。
総合ビタミン剤を身体によいと信じて服用している
典型的なジャンクフード愛好家が食事に取り入れている組み合わせである。
何も起こらなかった。ラットはどんどん元気がなくなっていった。
そこで今度は酵母、穀類胚芽、青麦を与えると、
この小さなラットはようやく目に見えて元気になった。
コラートは、「私たちの食物はできるかぎり自然なままにしておいてほしい」
と訴えている(36)

食品添加物がアレルギー体質を作る(ベン・クンツ教授)[P.262-263]

ボン大学のベンノ・クンツ教授は、
食品企業の残存物から作られた高価値の繊維質を利用して、
「ACEドリンク」などのビタミン飲料を作る研究を行っているが、
工場製食品の原料に対する消費者の疑念に理解を示している。
『シュピーゲル・テレビ』の放送で、彼は次のように懸念を表明している。
今日では「小さな子どもの回りに以前よりずっと多くの物質があふれている」。
昔は、ニンジン入りマッシュポテトには
「本当にニンジンとジャガイモしか入っていなかった」が、
今日では「ご丁寧にも二〇~二五種類の物質が入って」おり、
それが「幼いときから子どもの免疫システムに何倍も負担をかけ」、
そのため「潜在的なアレルギー体質をつくっている」という。

加害企業の肩を持つスーザン・ゴルディング市長[P.266-267]

病原菌に汚染されたハンバーガーで死亡したローレンの母親ロニー・ルドルフさん
(1章参照)は、政府の最も重要な義務は市民を被害から守ることだと主張する。
「政府は食品の安全性に責任をもつべきです。
私たちが選んだ政治家に、私たちを守ってもらいたい」という。

娘の死の直後に新聞に載った一枚の写真を見たとき、ルドルフさんは自分の目を疑った。
サンディエゴのスーザン・ゴルディング市長が、
ジャック・イン・ザ・ボックスの店に座っている。
この店はローレンの死の原因となったハンバーガーのチェーン店である。
女性市長がおいしそうに頬張っているのはハンバーガーではなくチキンサンドだが、
「この店が清廉潔白であること」をきちんと知らせるのが「重要」だとして、
市長自ら実演してみせているのだ。市会議員の何人かも市長と同席している。
「食事をするのに、こおは市内で最も安全な場所だと思います」
とヴァレリー・スターリングズ市会議員は語っている。

薬品企業と癒着する獣医ラインハルト・クロカー[P.267]

ラインハルト・クロカー氏は、
ドイツ消費健康者保護・獣医学研究所の部門責任者として
危険な動物用医薬品の管理を任せられている。
一九九六年九月、彼はフランスのある薬品企業から
週末をコートダジュールで過ごすための費用を払ってもらった。
旅費と豪華なホテルの宿泊費を含めてである。
これがばれてしまったので、ともかくホテル代だけは後日返却した。

効き目の無い薬でも許可されるドイツの審査制度[P.270]

ブレーメン中央病院の臨床薬学者であるペーター・シェーンヘーファー教授は、
『ズュートドイチェ・ツァイトゥング』紙とのインタビューで、
BASF社の新しいやせ薬の認可について憤りを感ずると述べている。

この薬は最初は抗鬱剤として開発されたが、
鬱病だけでなく肥満にも効果があることがわかった。
ところが副作用もある。この薬は脳に直接作用し、吐き気、頭痛、睡眠障害、
口の渇き、心拍数の変化、月経不順を引き起こすことがある。

「副作用のほうが効きめより大きいのなら、なぜ認可されたのか」と、
『ズュートドイチェ・ツァイトゥング』紙は首をかしげる。

それに対して、
長らくそのような策略に公然と憤りを表明してきた博士は、次のように語っている。
「審査を行う当局は消費者保護や効力の基準を、
企業のはたらきかけで役にもたたない無駄話をしながら、
このドイツ全土でないも同然なほど下方修正してきました。
その結果、どんなに効きめのない薬でも、
許可されないものはほとんどなくなてしまったのです」。

有機栽培飼料は動物の死産を減少させる[P.272-274]

ルートヴィヒ・ボルツマン研究所の食品研究はちょっと変わっている。
ここでは実際に生命の研究が行われている。
試験管に入っているのは本物のリンゴや正真正銘のダイコンで、
ビタミン剤や化学薬品の類ではない。
本物の果物がラットやウサギやニワトリに餌として与えられる。

<中略>

ラットに有機栽培の餌を与えると、死産が少なくなる。
通常の餌では死産の率は八パーセントだが、
有機栽培の場合はわずか三パーセントにすぎない。
ウサギでは、有機グループの三・六パーセントに対して、
通常の餌を与えたグループでは三二・四パーセントだった。
また有機グループは多産でもある。

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