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書籍と雑誌の要約と解説

「狂牛病」どう立ち向かうか

家族を守る必携本!

装丁
「狂牛病」どう立ち向かうか 「狂牛病」どう立ち向かうか
NHK「狂牛病」取材班
日本放送出版協会
ISBN4-14-080654-0
2001/12/25
¥1400
緊急出版!英国などへの長期取材をふまえ、
狂牛病の災厄から賢く、冷静に逃れるために、
生活人や企業人はどう行動すればいいのかを提起する。
目次
この本は、日本で狂牛病の牛がはじめて発見された直後に放送され、
大きな反響をいただいたNHKスペシャル
「狂牛病 なぜ感染は拡大したのか」の取材記です。
それと同時に、この番組制作のために集めた膨大な情報をもとに、
英国やEU(欧州連合)では狂牛病にどういった対策がとられているのかをまとめた、
実用的な内容のガイドブックとでもいうべき内容にもなっています。
目次
  1. 急遽打ちだされた日本の狂牛病対策
  2. 狂牛病と変異型ヤコブ病
    1. 変異型ヤコブ病多発地帯・ケニボロー村
    2. 娘を失った悲しみ
    3. 英国ブレア政権下の狂牛病調査「BSEインクワイアリー」
    4. プリオンという名の病原体
    5. 煮ても焼いても死なない病原体
    6. 異常プリオンはこうして増える
    7. 「種の壁」を越えた狂牛病
    8. 特定の場所にしか蓄積しない異常プリオン
    9. 若い牛は安全~英国の30か月法
  3. 防げなかった大流行
    1. 謎の牛の病気が発生した~1984年
    2. 狂牛病の発見~1986年
    3. 遅れた公表~1987年
    4. 原因の解明へ
    5. 大流行に間に合わなかった肉骨粉使用禁止
    6. 肉骨粉をやめても感染が続いた~原因は「交差汚染」
    7. 後手にまわった交差汚染対策
    8. 徹底した検査と情報公開で業界を監視
    9. きびしく監視される牛の飼料
    10. 狂牛病はどこからきたのか
    11. 豚や鶏は肉骨粉を食べても狂牛病に感染しない
  4. 人間への感染との闘い
    1. 狂牛病は人間に感染するのか?
    2. 狂牛病が「種の壁」を越えはじめた
    3. 人間への感染調査がはじまった
    4. 英国政府「牛肉は安全」キャンペイン
    5. 人間に狂牛病がうつっていた
    6. 食肉汚染の可能性①食肉処理場での背割り
    7. 食肉汚染の可能性②血管を通じて体内に広がる脳の破片
    8. 食肉汚染の可能性③骨ごとすりつぶされた肉の問題
    9. 医原感染の恐怖
    10. 診断法、治療法研究の最前線
    11. 英国の牛トレースシステム
    12. EU究極の牛管理システム~牛肉への信頼をとりもどせ
  5. なぜ世界に広がったのか
    1. 危険な廃棄物となった肉骨粉
    2. 肉骨粉の焼却を急ぐ英国
    3. 英国から輸出され続けた肉骨粉
    4. 届かなかった英国の警告
    5. EUの外に流れた英国産の肉骨粉
    6. 英国の詳細な輸出データがでてきた
    7. 英国の肉骨粉輸出の倫理性
    8. バレンタインデーに送られた手紙
    9. 国際機関は警告する
  6. 肉骨粉を輸入し続けた日本
    1. ヨーロッパをおおった狂牛病
    2. プリオン検査薬の発明と狂牛病の拡がり・波紋
    3. 肉骨粉は輸入、検査薬は輸入できなかった日本
    4. EUの外に拡がった肉骨粉とEUのリスク・アセスメント
    5. 安全な国に分類されたオーストラリア・アメリカ
    6. 評価に不満を表明したドイツ・チェコ
    7. 埋もれた日本の狂牛病リスク報告
    8. 「汚染肉骨粉は10キロなので日本は安心」
    9. 食を守るシステムの構造改革がはじまった
校正
  1. 把握できないない⇒把握できない[P.225]

内容

ケニボロー村のパメラ[P.23-28]

ベイリス パメラの様子が少しおかしいな、
と私が最初に思ったのは九六年の七月のことでした。
そのころパメラはサザンプトンという街に私たちと離れて住んでいて、
ある日、電話をかけてきたのですが、笑い声が変なのです。
あんなおかしな笑い声は聞いたことがありませんでした。
この病気の症状の一つが筋肉を上手に
コントロールできないということなのですが、いまから考えると、
それで上手に笑うことができなくなっていたのだと思います。
そのときは、なんだか変だな、と思っただけで無視していたのです。

そのあと、パメラが二四時間もの間、意識不明になってしまうという事件が起こりました。
サザンプトンの警察から突然、連絡があったのです。
警察が停車中の車の中にいるパメラを見つけたのですが、
彼女は自分がどうしてそこにいるのか、まったく説明ができなかったというのです。

八月になると、歩き方がおかしくなりはじめました。
勤め先の上司にそれを指摘されて、会社の診察室に行ったのですが、
まったく異常は見つかりませんでした。

そして一一月、本人にはまだ自覚はなかったようですが、
友人が何かおかしいと思うようになり、私たち夫婦に連絡してくれたのです。
それで翌日、パメラを家につれて帰りました。
それ以来、パメラは入院していた時期をのぞいて、この家で過ごしました。

――病名はいつわかったのですか。

ベイリス 最初は近所のレスターの病院に入院しましたが、
病気の原因はわからず、のちにロンドンの病院に転院しました。
九七年の三月に扁桃の一部を取りだして生体検査を行い、病名がわかりました。

<中略>

――入院中に困ったことはありましたか?

ベイリス やがて若年性の痴呆症特有の
攻撃性のようなものがあらわれはじめました。
いえ、正確にいえば攻撃性ではありません。
言葉を失い、自分の欲求が理解してもらえないフラストレーションの爆発です。
あるとき、理学療法士がパメラのところにきて、彼女の足が収縮しはじめているのを見つけました。
そこで、パメラの足を強く引っ張ると、腱が縮まり、パメラは苦痛を感じたのです。
そこでパメラが「やめて」と意思表示できる唯一の方法は、
突進して理学療法士にかみつくことだけでした。
パメラは攻撃的だと言われました。
でもそうではなかったのです。
自分の意思を伝えるためには、そんなふうにするしかありませんでした。

また、病院でこんなことがありました。
病院でのたび重なる検査など、パメラはつらい試練に耐えていました。
ある日、外で何か食べようと、
夕方にパメラを地元のフィッシュ・アンド・チップスの店に連れ出しました。
病院をでると、パメラは車いすから降りました。
彼女は立つことも、歩くこともできなかったのですが、
それは彼女が何かを求めていることを意味しました。
パメラが車いすを降りたので、私が抱きかかえなければなりませんでした。
するとパメラは突然、「レイプ!レイプ!救急車!救急車!」と叫びはじめたのです。

――パメラさんがですか?

ベイリス ええ、パメラがです。
病院前の道路をわたった路上でパメラを抱きかかえていました。
妻のジェーンも一緒にいました。パメラは体が大きく力もあります。
私はパメラを抱えるのが精一杯でした。
もし私がパメラを話したら、彼女は地面に崩れ落ちてしまいます。
ひとりでは立てないのですから。パメラは叫んでいました。
「レイプ、救急車、レイプ、救急車」と。
「レイプ、警察」と叫んだのではありません。
「レイプ、救急車」でした。混乱していたのです。
いま思うと、パメラなりにもう病院へは戻りたくないと
われわれに伝えようとしていたのでしょう。
そう思っていても、
「病院は嫌いだから、もう戻りたくない」とは言えなかったのです。
唯一の手段がああいう行動をとり、レイプと叫ぶことだったのです。悲しいできごとでした。

食物を通じてのBSEの人間への暴露リスク[P.50]

狂牛病の牛体内の感染力の分布
組織 ID50感染力価 全感染力に占める割合
5000 64.1%
脊髄 2000 25.6%
脊髄神経節 300 3.8%
回腸 260 3.3%
三叉神経節 200 2.6%
脾臓 26 0.3%
眼球 3 0.04%

(*感染力はないというデータもある)
出典/欧州委員会科学運営委員会「食物を通じてのBSEの人間への暴露リスク」
(1999年12月)

EU臓器分類[P.51]

EU医薬品審査庁による臓器分類
カテゴリー1(高度感染性) 、脊髄、眼
カテゴリー2(中等度感染性) 回腸、リンパ節、近位結腸、脾臓、扁桃、硬膜、松果体、胎盤、脳脊髄液、下垂体、副腎
カテゴリー3(低感染性) 遠位結腸、鼻粘膜、末梢神経、骨髄、肝臓、肺、膵臓、胸腺
カテゴリー4(検出可能な感染性なし) 凝血、糞便、心臓、腎臓、乳腺、乳汁、卵巣、唾液、精嚢、血清、骨格筋、厚顔、甲状腺、子宮、胆汁、骨、毛、皮膚、尿

*狂牛病にかかった牛で感染性が検出された臓器

133号についてのインタビュー[P.56]

その雌牛は特異な症状を示していて、やせており、頭が震えていました。
頭をわずかにゆすっていたのです。
背中は真っ直ぐではなく、そり返っていたようでした。
顔つきはやや強暴で、そして、やや困ったような顔をしていました。
とにかく不気味な感じがしました。
学術的には感覚過敏症と呼ばれており、
突然の物音や動きに対して、ふつうの牛に比べて過敏に反応する状態を指します。
その牛は五歳でした。
その後、再び往診すると症状がさらに進行しており、不調整状態になっていました。
つまり不必要に脚を高く上げてしまうため、正常に歩くことができなくなっていたのです。
さらに病状が進行するとほとんど歩けなくなり、動きが異常になりました。
脚をふつうに立たせていることすらできなくなったのです。

英国獣医学研究所の狂牛病隠蔽工作[P.67-68]

一九八六年一二月一九日付けで、ウェルズ博士の上司のレイ・ブラッドレー氏から、
当時の英国獣医学研究所長ウイリアム・ワトソンに宛てた文書の中には、
以下のように新しい病気を発見したことを伝える記述がある。

興味がもたれている症例には、他の種の動物に見られる海面状脳症、
とくに羊のスクレイピーとの類似性がある。(中略)

もしこの病気が牛のスクレイピーならば、それは輸出に深刻な影響を与えるだろう。
また、例えば人間の海綿状脳症が、牛と近い関係にあると発見された場合、
人間にも大きな影響を与えるだろう。
こうした理由から、私はこの文書を秘密扱いに分類する。(中略)

現在のところ、静かにしておくほうがよいと思う。
なぜなら現在進行中の調査から、不安をしずめてくれるシンプルな説明がでてくるかもしれないからだ。
またこの情報は、英国獣医学研究所の政治的な意味での防衛のためにも価値があると考える。

狂牛病野生動物起源説[P.105_108]

ニュージーランドのマッセイ大学教授で動物学者のロジャー・モリス氏が、
提唱している野生動物起源説である。
モリス教授は、狂牛病がレンダリングを通じて拡散していく様子を
モデル化してコンピュータ・シミュレーションを行い、
狂牛病の拡がり方や収束してゆくパターンを
理論的に説明できることを示したことで有名になった学者である。
英国政府からの依頼で家畜伝染病関連の各種委員会の委員も務めている。

*   *   *

モリス教授は最新の報告で、
狂牛病の起源はアフリカからもち込まれたアンテロープである疑いが強いとしている。

1988年03月に農業省が保健省にヒトに感染するか調査要請[P.112]

サー・リチャード・サウスウッド委員長を代表とするサウスウッド委員会は、
1989年02月に最終報告書で「ヒトの健康に影響をおよぼすことはきわめて考えにくい」と結論。
科学的根拠はなかったがこれが公式見解として扱われることになった。

肉骨粉発電所[P.171]

九六年以降、肉骨粉の使用を禁止しただけではなく、
生後三〇か月以上の牛を五〇〇万頭以上処分してきた英国は、
膨大に発生する肉骨粉の焼却法に頭を痛めてきたが、
最近では肉骨粉製造最大手のプロスパー・デ・モルダー社がレンダリング工場の敷地内に焼却炉を作り、
くず肉を灰にするまでのプロセスを一貫して行いはじめた。

まったく新しい解決法が一九九九年に生まれた。
肉骨粉を燃やして電気を起こす発電所ができたのである。
化石燃料を用いない発電事業所に対して補助金が支給される制度のもと、
この発電所は鶏の食肉処理後にでるくずを燃やす発電所として建設された。
それらが肉骨粉を引き取って燃やすことがビジネスとなるご時世になったのを見て、
九九年から牛の肉骨粉を燃やしはじめたのである。

ここに届いた肉骨粉は一二五〇度の炎で燃やされて異常プリオンは完全に分解し、四分の一の量になる。
毎日七〇〇トンもの肉骨粉を燃やし、今後三年間で二五万五〇〇〇トンを処理する予定である。
発電量は一三・五メガワット、これはニ万四〇〇〇世帯の家庭の消費する電力にあたる。
あくまでも小規模な発電所である。
しかし、一石三鳥ともいえるこの発電所は高い収益を上げている。
現在、こうした肉骨粉による発電所が全英で続々と誕生している。

生肉業者の狂牛病検査を妨害するドイツ政府[P.216_220-221]

プリオニクス社の創設メンバーのひとり、モーザー博士にインタビューを行った。
モーザー博士も学者から会社重役に転身したひとりである。

*   *   *

ドイツはその他の国と状況が少し違っていました。
1999年、ドイツのある地域がプリオニクス検査を採用しました。
その地域は検査に非常に前向きでしたが、少しだけ調査研究をしたあと、
検査の中断を余儀なくされてしまいました。
その他の地域や中央政府から強力な圧力がかかったためです。

その直後、欧州委員会はそれまでに調査を進めていた
狂牛病リスク・アセスメント(後述)の結果を公表し、
ドイツを四段階のレベル3の狂牛病危険国と位置づけました。
この結果を見たドイツ国内の高級精肉業者の一部が事態を憂慮して、
自社の食肉処理場にプリオン検査を取り入れ、
狂牛病の牛が人の口に入るのを防ごうと自主的に動きはじめました。

しかし、ドイツの中央政府がこれに激しく反対しました。
狂牛病検査は民間がやるべきではなく、
国立獣医学研究所だけができるものだという理由です。
そのうえドイツ政府は、ドイツには狂牛病は存在しないから、
国立獣医学研究所は狂牛病検査を使った積極的な調査はしないと断言しました。
ドイツ当局は状況をその程度に考えていました。

狂牛病検査をはじめようとした精肉業者は、苦境に立たされました。
その精肉業者の行為は単なる市場妨害である、
ドイツには狂牛病は存在しない、検査をとり入れるのはまったく無意味で、
ただ消費者をだまして悪い風評を巻き起こし、不安をあおっているだけだ、
などと政府や業界から集中的に非難されたのです。

しかし、一部の高級精肉業者はそうした非難に屈することなく、なおも検査を導入するよう主張しました。
狂牛病の調査ではなく、品質管理をするだけだと言い張ったのです。
品質管理をするのは誰にもとめられません。
このようにして、プリオン検査がはじまったとたんに最初の狂牛病症例がドイツ北部で見つかり、
その後、ドイツ南部の国境でも見つかりました。
ドイツ政府も迅速な対応を余儀なくされ、狂牛病検査を義務化せざるを得ませんでした。

リスクアセスメントに対する日本農務省の圧力[P.236]

国際会議の取材を終えて帰国した私たちを迎えたのは、
フランスAFP通信の東京特派員が書いた思いもかけない一本の外電だった。
その記事の題名は「東京はブリュッセルに対して、
狂牛病の警告報告書を葬り去るよう圧力をかけている」というものだった。

「日本の農務省はブリュッセルに対して、
欧州委員会がまとめた日本の狂牛病に関する警告報告書を
発表しないように圧力をかけていると、欧州の外交官筋は語っている。
「東京側は非常に憂慮しており、ブリュッセルに代表団をたびたび送って、
報告書の発表を延期するよう要請している」と、
駐日欧州委員会代表部(東京)のある外交官は匿名を条件に語った」
「科学運営委員会に近い筋によると、日本には危険度レベル3がつけられたという。
この水準はいままで評価が行われた国の中では悪い部類に属する」

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