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書籍と雑誌の要約と解説

水道の思想

都市の水の文化誌

装丁
水道の思想 水道の思想
鯖田豊之(京都府立医科大学名誉教授)
中央公論社(中公新書1297)
ISBN4-12-101297-6
1996/04/15
¥718
日本では、水道の原水を地表水に求めて塩素などの薬品で浄化するのに対して、
ヨーロッパでは、地表水を敬遠し、湧水や地下水に頼って薬品使用を避ける傾向が見られる。
なぜこの違いがあるのか。
古代ローマにはじまる水道が、ゲルマン民族の大移動によって破壊され、
その復活が十九世紀後半になった歴史をもつヨーロッパ諸国の水道建設の思想的背景を、
日本の場合と比較。都市化と乱開発のなかで危機が叫ばれる飲料水について考える。
目次
  1. なぜ今、水道か
    1. わたくしと水道
      1. カルチャー・ギャップ――東京と丸亀
      2. 量に不安のない京都市水道
    2. ヨーロッパの水の旅
      1. 西洋史学者として――上・下水道論争
      2. 下水の処理は活性汚泥法で――灌漑農場の夢破れて
      3. 画一化する下水道の終末処理技術
      4. 日本の常識のあてはまらないヨーロッパの上水道
      5. ヨーロッパの上水道は都市の顔
    3. 水道の思想の探求
      1. 忘れられていた歴史家の原点
      2. ピラミッドやギリシア哲学に代わる古代ローマの水道
  2. 前近代の水道
    1. 古代ローマの水道――首都ローマの場合
      1. ラツィオ地方の湧水水源
      2. 水道の建設と水源
      3. 混合配水は禁忌
      4. 配水量はひとり一日あたり五〇〇リットル
      5. 古代ローマの栄光と没落
    2. あの手この手の生活用水確保
      1. 案外おそかった一〇〇万都市の復活
      2. 小都市は共同井戸でやりくり
      3. ローマではルネサンス時代に古代の三水道が復旧
      4. ローマ法王の奇妙なテヴェーレ崇拝
      5. 不足する湧水水道――パリとロンドン
      6. 河川水を水車で揚水――セーヌ河とテームズ河
      7. ロンドンのニュー・リヴァー建設
      8. ニュー・リヴァー水道会社
      9. 江戸の玉川上水建設
      10. 玉川上水の幕府移管
    3. うらめにでた蒸気機関の利用
      1. 水道の圧力送水
      2. 相次ぐロンドンでの水道会社の誕生――強化されるテームズへの依存
      3. ロンドンにおける上・下水道論争の実態
      4. ロンドンでの解決は上水道取水口と下水道放流口の分離
      5. パリの水道水も薄められた下水に
      6. ナポレオンがウルク運河を建設したが
      7. カイザー・フェルディナンド水道の失敗
      8. ハムブルクの高さ六三メートルの配水塔
      9. 都市の規模も問題
  3. きめ細かな水源別対応
    1. 現行水道法規
      1. ヨーロッパでは水源の選択を重視
      2. 日本特有の給水栓残留塩素
      3. 塩素漬けの日本の上水道
    2. 湧水――古代ローマの水道思想の復活・温存
      1. 上水道は湧水、下水の放流はセーヌ河に――パリ
      2. パリの現状は湧水六〇パーセント、セーヌ濾過水四〇パーセント
      3. ウィーンの二つの高地湧水水道
      4. ウィーンの水道水はヨーロッパ随一の名水ミュンヘンはウィーンの小型版
      5. 法王の時代の終わりとマルツィア水道会社
      6. ローマの二元的な水道行政
      7. 水力発電と共存するペスキエーラ水道計画
      8. 配水量を一人一日あたり五二〇リットルに
    3. 浄水技術は地表水から
      1. 地下水敬遠の時代
      2. 首都水道庁からテームズ・ウォーターへ――広大な貯水池
      3. 緩速砂濾過と急速砂濾過
      4. ロンドンでは二重濾過――どんなに時間がかかっても
      5. 不人気なベルリンのシュトラウアー・トール浄水場
      6. 人工的な緩速砂濾過より自然の土壌濾過を
      7. 水道水が飲めなくなったロッテルダム
      8. ビースボス計画――五、六ヵ月の貯留
      9. 日本で活躍するイギリス人技術者
      10. 水道と井戸の共存
      11. 二重濾過の存在しない日本
      12. 遅ればせの高度処理の導入――横並び思想からの脱却
      13. 東京方式と大阪方式
    4. 地下水と伏流水
      1. ストラスブールは今でも塩素消毒のみ
      2. ケルンではライン表流水取水論が敗退
      3. ケルンが粒状活性炭濾過を導入するまで
      4. 確立した地下水処理技術――エアレーションと急速砂濾過
      5. ベルリンでは塩素消毒を廃止――自然のままに
      6. 岐阜は伏流水を含む地下水が一〇〇パーセント
      7. 鹿児島は湧水・地下水が四一パーセントに
      8. 熊本はストラスブールなみ――残念な給水栓残留塩素規定
    5. 湖水
      1. かつては湖中水を無処理で配水――コンスタンツとジュネーヴ
      2. 湖中水も最後は地表水なみの処理に――チューリヒとジュネーヴ
      3. ボーデン湖水道事業組合――シュトゥットガルトが中心
      4. 大津は琵琶湖伏流水から湖面水へ
  4. 人工的地下水づくり
    1. 原水の種類と変化
      1. ベルリンでは湖水から――現在ではリン除去が前提
      2. ハーフェルやシュプレーの濾過水も
      3. バーゼルではライン濾過水が
      4. ケルンではライン伏流水が
      5. ヨーロッパと日本の落差
    2. 砂丘地下水
      1. 砂丘地下水の効用
      2. アムステルダムはレク運河濾過水で
      3. ハーグはマース系アンデル湖濾過水で
  5. 水質保全と危機管理
    1. 保護地域の設定
      1. 第二次大戦後の環境保護運動
      2. 三種類の保護地域――フランスの場合
      3. 第二種、第三種保護地域の設定基準――ドイツは州法でベルリンの保護地域
      4. 反対運動にさらされたミュンヘンの「オーベラウ計画」
      5. 粘土で被覆して地表を緑地化――チューリヒ・ハルトホフ地区
      6. 保護地域を設定できない熊本市の対応
      7. 無防備に近い熊本のトリクロロエチレン汚染
      8. 日本の水道水源保護の特色
    2. 危機管理
      1. チューリヒの水源分散
      2. シュトゥットガルトは工業用水の転用で
      3. 二〇日間以上の取水停止に耐えうるライン沿岸都市
      4. オランダの砂丘水道は二ヵ月分の予備
      5. ロンドンではテームズ河の人工的逆流で
      6. 水の貯まってくれない日本のダム――東京サバクと福岡サバク
      7. せめて配水池の容量を大きく――阪神大震災の教訓
  6. 転機に立つ水道
    1. ヨーロッパの水道水は飲めるか
      1. 飲用はミネラル・ウォーター
      2. ドリンキング・ウォーター・サプライ Drinking Water Supply
    2. 気になる各都市の水源
      1. 日本でも水道は都市の顔に
      2. 水道の蛇口の背後を
      3. 予想もしなかった水道水の美容効果
文献
  • 大木孝『土木社会史年表』
  • 建設省近畿地方建設局『淀川百年史』
  • 堀越正雄『水道の文化史』
  • 堀越正雄『日本の上水』
  • 堀越正雄『井戸と水道の話』
  • 山口嘉之『水を訪れる』
  • 鯖田豊之『水道の文化』
  • 鯖田豊之『都市はいかにつくられたか』
  • 鯖田豊之『ラインの文化史』
  • 中西準子『いのちの水』
  • 小林康彦『水道の水源水質の保全』
  • 国土庁『日本の水資源』
  • ローレス・ライト『風呂トイレ讃歌』
  • 横浜市水道局『横浜水道百年の歩み』

内容

日本の水道水は塩素漬け[P.80]

奇妙なのは、現行の水道法施行規則が
「給水栓における水が遊離残留塩素を〇・一PPM(結合残留塩素の場合は〇・四PPM)
異常保持するように塩素消毒をすること」と規定していることである。
PPMは一〇〇万分率のことで、
給水栓残留塩素が遊離塩素のときは水道水一リットルあたり〇・一ミリグラム以上、
結合塩素の場合は〇・四ミリグラム以上でなければならないことを意味する。
水道の蛇口からほとばしり出る水に含まれるべき塩素量の下限を規定し、
それ以上はいくら含まれていても差し支えないとする。
事実、各地の水道局は抽出調査で末端の公的或いは準公的施設
(警官派出所、電力会社支店など)の給水栓残留塩素を測定・公表してきた。

このような形での給水栓残留塩素の観念はヨーロッパには存在しない。
普通、残留塩素というときは、配水池もしくは配水管に残留する塩素のことで、
給水栓のことは念頭にはない。
例外的にスイスが給水栓残留塩素の規定をもつが、
遊離塩素で〇・一PPM以下でなければならないとする。
日本の下限がスイスの上限にあたる。
日本の水道水は法律的に「塩素漬け」にされているといえよう。

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