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書籍と雑誌の要約と解説

沈黙の春

自然破壊を警告した先駆書

装丁
沈黙の春 沈黙の春
Silent Spring
レイチェル・カーソン
Rachel Carson
新潮社(新潮文庫 カー4ー1)
ISBN4-10-207401-5
1974/02/20
¥629
自然を破壊し人体を蝕む化学薬品。
その乱用の恐ろしさを最初に告発し、
かけがえのない地球のために、生涯をかけて闘ったR・カーソン。
海洋生物学者としての広い知識と洞察力に裏づけられた警告は、
初版刊行から四十数年を経た今も、衝撃的である。
人類は、この問題を解決する有効な手立てを、いまだにみつけ出してはいない――。
歴史を変えた20世紀のベストセラー。待望の新装版。
目次
  1. 明日のための寓話
  2. 負担は耐えねばならぬ
  3. 死の霊薬
  4. 地表の水、地底の海
  5. 土壌の世界
  6. みどりの地表
  7. 何のための大破壊?
  8. そして、鳥は鳴かず
  9. 死の川
  10. 空からの一斉爆撃
  11. ボルジア家の夢をこえて
  12. 人間の代価
  13. 狭き窓より
  14. 四人にひとり
  15. 自然は逆襲する
  16. 迫り来る雪崩
  17. べつの道
文献
  • チャールズ・エルトン『侵蝕の生態学』[P.23]
  • ウィリアム・ダグラス『わが荒野、カターディンの東』[P.92]
  • トムリンソン『失われた森』[P.142]
  • ベント『生物誌』[P.151]
  • ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』[P.242]
  • ジョージ・ゲイロード・シンプソン『生命』[P.273]
  • ヒューパー『職業腫瘍』[P.285]

内容

  1. 精神病患者は発病前に殺虫剤を吸い込んでいる[P.257-258]
  2. 何世代もDDTのスプレーをうけた蚊は、雌雄モザイクと呼ばれる不思議なものにかわってしまう。雌でもあれば雄でもあるという奇妙な蚊だ。[P.276]
  3. ジャガイモの発芽防止に使用されるウレタン[P.276]
  4. 殺虫剤を散布した直後に血液疾患が発症する[P.291-293_300]

精神病患者は発病前に殺虫剤を吸い込んでいる[P.257-258]

メルボルン大学とメルボルンのプリンス・ヘンリー病院の医者たちは、
精神病の十六の症例について研究成果を報告しているが、
例外なく、まえに有機リン酸エステル系の殺虫剤に継続的にふれている。
患者のうちの三人は化学者で、スプレーの効力を専門に検査していた。
八人は温室栽培者、残りの五人は農民だった。
症状は、記憶減退とか精神分裂症とか抑欝反応とかいろいろだった。
それぞれ使っていた化学薬品に、飼犬に手をかまれるように、
手いたい目にあわされるまえは、みんな正常な健康な生活を送っていた。

ジャガイモの発芽防止に使用されるウレタン[P.276]

ウレタンとは、カルバミン酸エステルと呼ばれるグループの化学薬品で、
殺虫剤などの農薬が最近さかんにそれからつくられている。
カルバミン酸エステルのうちの二つは、
ジャガイモを貯蔵するとき芽がでないようにするのに使われている。
まさに、細胞分裂を止める力があるためなのだ。
このうちの一つは、マレイン酸ヒドラジッドで、強力な突然変異原として知られている。

殺虫剤を散布した直後に血液疾患が発症する[P.291-293_300]

メイオー病院など国際的に有名な病院では、
造血組織の悪性腫瘍の患者を何百人も受け入れている。
メイオー病院の血液学部門のマルコム・ハーグレイヴズ博士たちが
患者の病歴を調べたところでは、みな例外なく、
DDT、クロールデン、ベンゼン、リンデン、
石油溜出物りゅうしゅつぶつなどの入った殺虫剤の撒布スプレーも含めて有毒な化学薬品にふれていた、という。

いろいろ有毒な物質の使用と関係のある環境汚染が原因の病気が、ふえてきている。
それも、≪とくにここ十年間のことだ≫とハーグレイヴズ博士は言う。
豊富な臨床経験にもとづいた博士の言葉――
《血液疾患やリンパ疾病しっぺい≫の患者の大部分は、
今日の大部分の殺虫剤の成分であるさまざまな炭化水素物に接触しているという特徴がある。
注意深く患者の病歴を調べてみると、
このような関係が明らかになる場合がほとんどであるといえよう》。
博士は、白血病、再生不良性貧血、ホジキン病など、血液や造血組織関係の病気にかかった
患者ひとりひとりのデータをくわしくとり、病歴をたくさん集め、
《みんな、これらの環境因子にかなりはげしく接触していた》と報告している。

このような病歴とはどんなものなのだろうか。
たとえば、ある主婦。クモが大きらいだった。
八月の半ばごろ、DDTと石油溜出物のエアゾールをもって地下室へおりていき、
階段下とか、果物棚くだものだなとか、天井板や木垂たるきのあいだなど、すみからすみまで消毒した。
スプレー後、ひどく気分が悪くなり、吐き気がした。
また、気がいらだち、わけのわからない不安におそわれたりした。
ニ、三日たつうちに元気になったので、どうしてあんな目にあったのか、
まさか殺虫剤のためとは思わず、九月に入ってから二回ばかりまた徹底的に撒布さんぷをした。
二度目のときも気分が悪くなったが、たいしたことはなかった。
だが、三度目にエアゾールを使ったあと、新しい症状があらわれた。
発熱、関節の痛み、全身の不快感、片脚に急性静脈炎。
ハーグレイヴズ博士が診察してみると、急性白血病にかかっていた。
その翌日、彼女は死んだ。

また、こんな患者もいた。
ふるいビルに事務所のある人。その建物には、ゴキブリがたくさんいた。
我慢できず、自分でゴキブリ退治にのりだし、日曜日一日かけて、
地下室など、すみからすみまで撒布した。
使ったのは、メタノール変性ナフタリン含有の溶剤でといた
二五パーセントのDDT濃縮液だった。
ところが、そのためか、あざがあちこちに生じ、
その傷口から、何度も出血したあげく入院した。
血液を調べると、再生不良性貧血と呼ばれるいちじるしい骨髄機能低下が見られ、
すぐにいろんな治療をうけたが、五カ月半のあいだに五十九回も輸血した。
その後しばらくよくなったように見えたが、九年後致命的な白血病で死亡している。

いつも病歴で問題になる殺虫剤は、DDT、リンデン、BHC、ニトロフェノール、
ふつう使われる虫よけの結晶パラジクロロベンゼン、クロールデン、
そして言うまでもなくこれらの溶剤だ。
ハーグレイヴズ博士も言うように、
たった一つの化学薬品に身をさらすことは、今日ほとんどありえない。
巷に溢れている殺虫剤は、ふつういくつかの化学薬品をまぜてあるし、
その溶剤も石油溜出物のほかに煙霧させるためにまたべつの薬品を使っている。
造血器官障害の主な原因は、むしろ溶剤の芳香族、環式、不飽和炭化水素にあるらしい。
これは医学上は重大であっても、実際にはおよそ問題になりえないことかもしれない。
ほとんどの場合スプレーのとき
だれでも石油の溶剤を使わなければならなくなっているのだから。

白血病や血液関係の病気と化学薬品とのあいだに因果関係がある、
というハーグレイヴズ博士の見解は、いろいろな医学文献からも裏づけられる。
合衆国ばかりでなくほかの国にも、このような顕著な症例は多い。

*   *   *

化学薬品でも、ストロンチウム90と同じように、とくに骨髄に引きよせられるものがある。
殺虫剤の溶剤によく使われるベンゼンは、骨髄にたまり、二十カ月たっても消え去らない。
医学では、かなりまえからベンゼンが白血病の原因になると考えられている。

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