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書籍と雑誌の要約と解説

LD・ADHDは病気なのか?

小児癲癇専門医から見たLD・ADHD

装丁
LD・ADHDは病気なのか? LD・ADHDは病気なのか?
金澤治(国立西新潟中央病院小児科医長)
講談社(講談社+α新書)
ISBN4-06-272202-X
2003/06/20
¥880
目次
  1. アメリカからきたLD・ADHDが日本を混乱させた
    1. パール・ハーバーの教訓
    2. LD・ADHDってなんだ?
    3. LDとは?
    4. ADHDとは?
    5. アスペルガー症候群
    6. 行為障害
    7. ADHDのT君
    8. まれだが、LDの典型H君
    9. 「LD」はアメリカ育ち
    10. アポロ計画と子どもの教育推進
    11. PL94-142の制定
    12. PL94-142に対する論争
    13. アメリカは天才も特殊教育する
    14. 移民の国としての生き残り対策
    15. デジタル的な考え方の弊害
    16. 日本人は法律を活用しない?
    17. 脳死の論議から見えること
    18. 日本では精神の病気になれない?
    19. 精神科医がすくない
    20. アメリカでは精神科医はいい職業
    21. 悩みを打ちあけるという効果
    22. 強迫神経症の小学二年生のK君
    23. 乏しいパラメディカル・スタッフ
  2. LDは精神遅滞とどう違うのか?
    1. LDとは、なにか?
    2. 学習とは、なにか?
    3. 学力とは、どんなものか?
    4. 学力テストとは、なにか?
    5. 知能とは、なにか?
    6. 知能テストとは、どんなものか?
    7. 神経心理学としての心理テスト
    8. 知能年齢(精神年齢)とは?
    9. 本書でのLDのとらえ方
    10. LDと精神遅滞との違い
    11. 知的障害児C君の場合
    12. LDとADHDはどう違うのか?
    13. LDなどを調べる脳の検査
  3. LDがもたらすもの、そのメリットとデメリット
    1. 新しい医学体系で見てみよう
    2. 予防医学とはどんなものか?
    3. LDは予防医学でとらえられるか
    4. 神経心理学で研究されるLD
    5. アメリカの尻馬でもいい
    6. LDは日本にも昔からあった
    7. LDと児童虐待の背景は異なる
    8. てんかんがとまり、よい子のY君
    9. 評価しにくい研究成果
    10. 世にはびこるのは、ADHD?
    11. 情報の不公平
    12. 一億総ADHDなのか?
    13. マスコミはLDをどうとらえるか
    14. LDがスケープゴートになる?
    15. 表層的ブームで終わらせたくない
    16. 関心を集めている今こそ!
    17. 肝に銘じておきたいこと!
    18. 新たなランクづけができる?
    19. 精神遅滞と正常とのあいだ
    20. 太古の昔には問題にならなかった
  4. LD・ADHDの診断のむずかしさ
    1. 本場アメリカの診断基準
    2. LDを疑わせる徴候
    3. 障害を持つ子の親の権利と義務
    4. 未熟児だったN君
    5. 血液型判断と同レベルで扱うな
    6. かたづけができないA子ちゃん
    7. 児童精神医学の領域
    8. 窮地に追いこまれている小児科
    9. 小児科医の過酷な二四時間
    10. 臨床的な立ち後れ
    11. ICD-10とは
    12. DSM-Ⅳとは
    13. DSM-ⅣのなかのLDの記述
    14. 安易に使用される診断名
    15. 厚生労働省のチェック・ポイント
    16. 要は「どれだけ困るか」なのです
    17. 教育現場の困った傾向
  5. LDの治療
    1. まず原因を調べること
    2. チーム医療のリーダーを探せ!
    3. ゆだねられるべきは学校の教師
    4. 負担の多い学校教師たち
    5. かかりすぎる教育費
    6. 塾の先生は学校の教師より優秀?
    7. 国は根本的な見直しを
    8. 安易な治療法にたよるな
    9. 副作用のない薬はない!
    10. LDの医学的な原因とは
    11. 精神遅滞とLDの境界は?
    12. 広汎性発達障害との関連性は?
    13. LDの治療の理想
    14. 教え子たちからの招待
  6. LD・ADHDはこんな病気とまちがえられる
    1. てんかんとLDの定義と分類
    2. てんかんと合併した障害
    3. 進行性の知的退行について
    4. LDの状態依存症と永続性
    5. てんかんとLDについての結論
    6. ADHDとてんかん
    7. 実際どんな例があるのか
    8. 高機能自閉症のW君
    9. 後天性失語症になったY君
    10. 脳炎後、多動になったS君
    11. 脳波の変化で変身したMさん
  7. あとがきにかえて
    1. てんかん児の診療からみたLD
    2. 「米百俵」は日本の真の教育精神
    3. LD・ADHDに正当な認識を
    4. 目の輝きを失った子どもたち
文献
  • ディズニー『パール・ハーバー』[P.119]
  • 壺井栄『二十四の瞳』[P.194]
  • 山本有三『米百俵』[P.227]

内容

児童精神科でのドクターハラスメント[P.75]

C君のお母さんはすこし前に、わが子の学校での成績が、学年を経るごとに落ちてくるので、
地元の児童精神科を標榜する医師に相談したことがありました。
C君のようにてんかんのある子どもには、
LDが合併する可能性があると、どこかで情報を入手したことから、
日頃、わが子の行動面もすこし気になっていたこともあって心配になり、
なにかいい手はないものかと相談にいかれたそうです。
すると、その医師は、WISC-Ⅲという知能テストをしてから、こういったそうです。

「あなたのお子さんは、境界線か、あるいはややそれ以下の知恵遅れです。
LDというのは、なにかの分野で平均以上の能力を示すような場合をさしていうので、
あなたのお子さんにはまったくあてはまりません。
LDならばこちらで診させていただきますが、
単なる知恵遅れですから、もうこちらには来なくてもけっこうですよ」

C君のお母さんはその児童精神科の医師の言葉にたいへんショックを受け、
また同時に非常に憤慨して帰ってきたそうです。

LD・DCD・ADHDの三位一体[P.106-107]

昨今、ADHDをとり扱った一般向けの書籍が何冊も出版され、書店にならべられています。
見わたしたところ、その内容のほとんどが、ADHDのことしか書かれてはいないようです。
じつは、つねにADHDとオーバーラップするはずのLD、
それに俗にいう「不器用児童症候群あるいは発達性協調障害
(Developmental Coordination Disorder《DCD》)
などについては関連性がかなり深くあるはずなのに、
ADHDを扱ったどの著書にもほとんど書かれていないのではないでしょうか。
もしかしたら、これら三者の疾患単位の意義は
ほとんど同比重になるかもしれないのにもかかわらず、です。

癲癇の治癒により注意欠陥多動性障害も治癒した症例[P.220-223]

自然快癒[P.220-221]

S君は四歳までは、まったく健康に育っていました。
あるときとつぜん、夜なかにけいれんとともに高熱が出て、
何日間も熱が下がらず、またそのあいだも、けいれんが度重なり、
救急でICU(集中治療室)に入院して、
ずーっとそのまま重症児として点滴や酸素投与などをつづけられていました。
一週間目にやっと熱がさがり、けいれんの頻度も日に一回くらいとなり、だいぶ落ちついてきました。
二週間後、まだ、けいれんをおさえる薬がかなりたくさん投与されていたため、
ふらつきがひどかったのですが、けいれん発作は数日に一回ほどに遠のき、ようやく退院しました。

しかし、退院後、けいれん発作は週一回ほどに減ったのですが、
以前にも増して落ちつきがなくなり、高い所や不安定な物によじのぼったり、飛びおりたりして、
一時もじっとしてはいなくなりました。
また、いたずらもひどくなり、
こわれものや危ないものを彼の目に触れる所に置いておけなくなりました。
洗面所の蛇口で水を勢いよく飛ばしてまわりを水浸しにしたり、
ちゃんとかたづけてあった戸棚の中の大切な置きものをつぎつぎと外に投げだして割ったり、
とにかく手がつけられないほど乱暴でわがままになってしまいました。

脳波所見としては、前頭部にふつうよりもゆるい波が見られ、
後頭部の基礎波といわれる波も、年齢とは不相応に周波数の遅い波が見られました。
両親の希望により、落ちつく薬ということで、ハロペリドールという薬を投与してみましたが、
わずかに乱暴が落ちついただけで、かえって眠気が出てしまいました。

しかし、このような家族の緊張の時期は意外に早くおさまりを見せ、
それから半年もたたないうちに、いつのまにか、しだいに乱暴や多動は目だたなくなり、
とうとう、ある日の外来受診日には落ちついていすにすわって診察が受けられるようになりました。
また同時に脳波所見も改善し、ゆっくりした波は目だたなくなり、
後頭部の基礎波も年齢相応の周波数(アルファー波)にまで増えてきました。

薬物療法[P.221-223]

Mさんは、7歳~10歳まで病気の精確な観察がなされた女の子です。
3歳頃から右手のごく軽い麻痺があったようで、今は左利きです。
6歳のとき、運動会で、みんながいっせいに走りだすところを
たった一人だけポツンと立ちどまっていたというエピソードがあって、
どうも異常なのではないかと気づかれました。

その数ヵ月後に、とつぜん右手の拇指が勝手にピクピクするようなことが起こりはじめ、
それが週に数回も見られるようになりました。
脳波異常があるといわれて、抗てんかん薬を飲むと、拇指のピクつきはなくなりました。
その頃のWISC-R知能テストではFIQ92、VIQ96、PIQ88でした。
その後も数ヵ月に一回ほど、
カクカクと身体の力がぬけてくずれこむような数秒間のてんかん発作が見られるようになり、
8歳8ヵ月のときには、とうとう発作症状や行動の問題があまりにもひどくなり、
入院することになりました。

観察されたこととしては、右手や右側の空間を無視するような傾向が見られたことや、
行動面で、落ちつきのなさ、集中困難、甘え(看護師にべたべたとまとわりつく)、
乱暴(気に入らないと足げりをした)、感情の易変性(泣きわめいてなだめられない)などが見られ、
病棟での処遇にかなりの困難をきたしました。
学習面では、漢字などの書字が極端に乱雑になりました。

Mさんの脳波所見では、とくに睡眠中にほとんど連続的に脳全体からてんかん特有の発作波が見られ、
正常な脳波活動がほとんど認められない状態でした。
また、頭部のMRIでは、左のシルヴィウス溝という大きな脳の溝が、
右側のそれと比較してわずかに拡がっていることがわかりました。
すなわち、右手の運動や感覚を司る脳の領域にわずかな構造上の問題があり、
そこから脳波異常や発作や行動上の問題がすべて生じていることが推測されました。

WISC-R知能テストでは、
FIQ71、VIQ76、PIQ70と前回にくらべて落ちこみが見られました。
おそよ二ヵ月後、抗てんかん薬の調整がうまくいき、
発作症状は消え、脳波所見も異常脳波が脳全体には拡がらず、
左のシルヴィウス溝付近のみにかぎられて見られるようになって改善し、
また行動上の問題も徐々に解消して、もとのおりこうさんの女の子にもどりました。

10歳10ヵ月時のWISC-Rの結果は、
FIQ92、VIQ90、PIQ95でもとにもどっていました。
またてんかん発作も以後は見られず、
右手の麻痺傾向もほとんどわからないほどになりました。

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