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書籍と雑誌の要約と解説

狂食の時代

イギリスジャーナリスト界の重鎮からの告発

装丁
狂食の時代 狂食の時代
The Great Food Gamble
ジョン・ハンフリース
John Humphrys
永井喜久子+西尾ゆう子
講談社
ISBN4-06-211156-X
2002/03/29
¥1900
目次
  1. もっと、食べ物を!
  2. 昨日、今日……そして明日は?
  3. 食品添加物の危険な歴史
  4. 殺虫剤が体内に溜まる
  5. 失われた大地のバランス
  6. それでも、養殖魚を食べられますか
  7. 食肉に潜む危険な細菌
  8. 暗黒の未来――遺伝子組み換え食品
  9. 有機農法は人類を救うか
  10. 解説――筑紫哲也(ジャーナリスト)
文献
  • レイチェル・カーソン『沈黙の春』

内容

  1. 特殊な場合でなければ病気の原因に気づかない[P.80]
  2. オランダで最近行われた調査によれば、有毒化学薬品に最も多くさらされた乳児群は、最も少ない乳児群と比較して、IQが四ポイント低くなるそうだ。[P.81]
  3. 母乳のダイオキシンの16%は乳児に移行する[P.81]
  4. 殺虫剤の使用と若年層でのパーキンソン病の発症とのあいだに、かなりの関連性があることを示す論文が出ている。[P.86]
  5. ピレスロイド系殺虫剤は神経系を攻撃する。神経細胞間の情報伝達をじゃまするのではなく、情報を無限に繰り返させるのだ。[P.88]
  6. ビンクロゾリンと精子減少[P.94]
  7. 残留農薬を隠そうとする農漁業食糧省[P.113-114]
  8. ここ半世紀のあいだ、国民全員がモルモットのように扱われ、田舎が巨大な実験室のように扱われることがあまりに多すぎた。[P.120]
  9. 魚に病気が蔓延する不衛生な養殖場[P.155]
  10. 鮭と鶏の飼料に添加される人工カンタキサンチン[P.166-167]
  11. 抗生物質に成長促進作用があるという発見[P.183-184]
  12. 現在、家禽を早く大きくするために使われている抗生物質は二種類だけ、フラボマイシンとアビラマイシンである。[P.203]
  13. 成長ホルモンを投与した牛を食べない牧場主[P.208-209]
  14. 実験データを確認せずに許可するアメリカ食品医薬品局[P.233]
  15. 欧州委員会は牛乳が乳癌の原因になると結論[P.233-234]
  16. トリプトファン死亡事件[P.238-239]
  17. 遺伝子組み換えジャガイモを食べたラットの腸に異常[P.243-244]
  18. アルツハイマー病などによって死亡したとされていた老人たちは、本当はクロイツフェルト・ヤコブ病にかかっていたのではないだろうか?[P.258]
  19. 変異型クロイツフェルト・ヤコブ病で死亡した人全員の脳において、銅の量が少なく、マンガンの量が基準の一〇倍に達していることが明らかになった。[P.276]
  20. アラン・アービンガー教授のヤコブ病細菌説[P.277]

特殊な場合でなければ病気の原因に気づかない[P.80]

もし、手や足がないのではなく、たとえば口蓋裂だったら、
サリドマイド児は発見されていただろうか。おそらく発見されていまい。
いまだにその結果が原因と結びつけられていなかったかもしれない。
したがって、もし一般的な疾病である肺ガンや心臓病の患者を
増加させるものが環境や食物に存在していたとしても、
その原因物質を病気と関連づけるチャンスはほとんどゼロ、
私たちが気づくのは、特殊な場合だけだ。

母乳のダイオキシンの16%は乳児に移行する[P.81]

リンドストローム博士は最初の子供を母乳で育てる時、
自分の母乳に含まれるダイオキシンの量を測定した。
彼女の体内のダイオキシンレベルは最初の六ヵ月で一五パーセント低下した。
減った分の毒は、文字通り彼女の赤ん坊によって吸い出されたのだ。
六ヵ月間母乳で育てられた乳児は、この種の環境汚染物質の一生を通じた
総摂取量の最高一六パーセントを取りいれることになると推定されている。

ビンクロゾリンと精子減少[P.94]

ビンクロゾリンも殺菌剤である。
種子油を絞るためのナタネ、リンゴ、マメ類に使われる。
これは「反オス」効果を引きおこす。
子宮内のオスネズミの胎児に少量を与えると、生まれた後に生殖器に一連の変化が見られた。
精子数も減少する。若いオスのネズミは性的発達が遅れた。
ビンクロゾリンは、二〇〇〇年夏にECが定めた
内分泌撹乱物質の「優先」リスト草案に載っているが、
対策は何も講じられていない。

残留農薬を隠そうとする農漁業食糧省[P.113-114]

およそ、農漁業食糧省は何かをすぐに行ったためしがない。
たとえば、一九九九年に行われた残留物の調査報告書を農漁業食糧省が公表したのは、
二〇〇〇年九月になってからだ。
数字を少しばかり足しあわせるのに、ずいぶん時間がかかったものである。

膨大な数のサンプルを調査していたわけでもないようだ。
一九九八年には、トマトのサンプル数が四八、レタスが一八〇だった。
この情報の提示のしかたが傑作である。

インターネット上で公開された報告書の抜粋は一般向けのもので、
それ以上興味がある人なら誰でも、
ホームページに出ている農漁業食糧省の番号に電話すれば、
完全な報告書が手に入ると書いてあった。

私はやってみた。もう絶版だといわれた。公開された翌日の話である。
私はしつこく食いさがり、とうとうコピーを一部送ってもらった。
なんと前年度のものだった。農漁業食糧省というのはそんなところだ。

魚に病気が蔓延する不衛生な養殖場[P.155]

大半のサケに与えている飼料には、とんでもなく高い濃度の油分が含まれている。
このせいでサケは下痢を繰り返し、魚肉は柔らかくなる。
結果のひとつは、お買い得の切り身に浮かぶ太い白線だ。
脂肪である。

下痢をまぬかれたとしても、ケージ内には大量の排泄物が浮かんでいる。
このせいで感染症が広がり、えらを冒された魚体は大量の粘液を分泌する。
養殖サケは感染性サケ貧血(ISA)にもなりやすい。
これは、魚がかかる一種のインフルエンザだ。
一九九八年にはスコットランド中の養殖場にこの病気が広まった。
四〇〇万尾が処分され、サケ養殖場の四分の三が隔離されたが、
期待されたような効果はなく、流行はおさまらなかった。

病気はほかにもたくさんある。
心筋症候群(CMS)は致命的な心臓疾患として知られているし、
感染性膵臓壊死(IPN)もある。この病名リストにはまだ先がある。
集約的サケ養殖場自体が魚にとっては不健康な場所なのだ。驚くにはあたらない。
自分の排泄物の中を泳ぎ、ふたのない下水道で暮らしているのだから。

鮭と鶏の飼料に添加される人工カンタキサンチン[P.166-167]

野生のサケの身は、大洋でえさをとるにつれて微妙なピンク色に染まっていく。
彼らがえさにしているのは、甲殻類、小魚、プランクトン、海草などである。
そのどれもがカンタキサンチンおよびアスタキサンチンと呼ばれるカロチノイドを豊富に含んでいる。
だが、ケージのサケは自分でえさを探すのではなく、
与えられる飼料を食べるため、まずそうな、さえない色の身になってしまう。
魚を買いにスーパーマーケットに来た客が期待するような色ではない。
サケはピンク色だと誰もが思っている。もちろん消費者もそう思っている。
そこで生産者は、サケの飼料に人工カンタキサンチンを加える。
だが、自然状態と同じようにうまくはいかない。
野生サケの微妙なピンクではなく、あざやかすぎるピンクではなく、
あざやかすぎるピンクになってしまう。それでもピンクにはなる。
とりあえずはこれでよろしい。
人工カンタキサンチンも安全だ。いや、安全だとされている。

おや、と読者は思うかもしれない。
カンタキサンチンの添加は禁止されているはずでは、と。
人間が直接口にする食べ物にカンタキサンチンを添加するのは違法行為だ。
網膜上に黄色の微粒子が蓄積することがあり、
発達段階にある小さな子どもたちの場合は目に損傷を受けやすいとされている。

カンタキサンチンの添加を今すぐ禁止すべきだという
食品諮問委員会の提言から七年以上が経ってやっと、政府による禁止令が出た。
だが、鳥獣用飼料への添加を規制する法律はなく、
ニワトリはいまだにカンタキサンチンの入った飼料を食べている。
卵黄の発色をよくするためだ。魚用飼料に対する規制もない。

抗生物質に成長促進作用があるという発見[P.183-184]

五〇年代初期、またしても抗生物質をめぐる偶然の発見があった。
今回も一大発見として時の話題をさらったが、少しばかり事情が違っていた。
この発見が行われたのは実験室の中ではなく、アメリカのとある養鶏場だったのだ。

生まれたばかりのヒヨコを育てる混合飼料には、
オーレオマイシンとして知られる抗生物質を含んだ製品の残りかすも入っていたが、
この飼料には何らかの薬効があるだろうと思われていた。
ニワトリが細菌に感染する可能性を少なくしてくれるのではないか。
だが、それ以外のことまで起こった。
ニワトリが異常な速度で成長し始めたのである。
当時の『デイリー・テレグラフ』の記事の見出しにはこうある。
「抗生物質で動物の成長が五〇パーセントアップ」

成長ホルモンを投与した牛を食べない牧場主[P.208-209]

私が、薬の力で大きくなった牛の肉を初めて食べたのは、八〇年代の初期だった。
ある農園を訪れてみごとに育った動物を誉めていた時のことである。
みごとですね、と私は言った。だが、隅の方にいる牛はやせていた。
ほかの牛の腰のあたりには、
オリンピックの重量挙げ選手のような隆々とした肉がついているが、
その牛は「ボディビルトレーニング前のなんとかさん」
を写した広告写真みたいに貧相なのだ。

「何か問題でも?」
「いや、全然。あのやせ牛はうちの家族で食べる。
女房のやつが、あんな薬を子どもたちの口には入れたくないって言うもんでね」

実験データを確認せずに許可するアメリカ食品医薬品局[P.233]

アメリカ食品医薬品局は、遺伝子組み換え牛成長ホルモンを九〇日間
大量に投与されたラットにはいかなる悪影響も出なかったと述べていた。
カナダの科学者の実験では、ラットには悪影響が出た。
ラットの三分の一近くに反応が現れ、
遺伝子組み換え牛成長ホルモンが血液中に吸収されたことを示したのである。
オスの甲状腺に嚢胞ができ、前立腺もつまっていた。
アメリカ食品医薬品局関係者の一人が一九九八年にAP通信社に語ったところによると、
アメリカ食品医薬品局はモンサント社の報告にあったデータを一度も確認せず、
要約だけを見て結論を出したという。

欧州委員会は牛乳が癌の原因になると結論[P.233-234]

欧州委員会は科学委員会を設置することにした。
遺伝子操作でできあがったホルモン剤を注射された牛の乳を人間が飲んだ場合に、
どのようなことが起こりうるかを調べるためである。
この委員会には欧州連合各国の科学者一六名が参加していて、
独立した権限のもとに任務にあたっている。
同委員会は、遺伝子組み換え牛成長ホルモンを注射された牛の乳には、
IGF-1(インシュリン様成長因子)が高濃度に含まれていることをつきとめた。
この物質は自然状態で牛の体内に存在するが、
人間がこれを過剰に摂取すると乳ガンおよび前立腺ガンの発生率が非常に高くなる。
報告書の結論はこうだ。
「IGF-1摂取と乳ガンおよび前立腺ガン発生の関係は、
集団を対象に行った最近の研究によって易学的に立証できる」。
報告者はIGF-1の過剰摂取は「ガン細胞の細胞死誘発機能を抑制し、
ガンの発生と進行を促進する」と警告している。

トリプトファン死亡事件[P.238-239]

サプリメントは巨大な容器の中で発酵させながら作ることが多い。
容器内では微生物が増加し、アミノ酸などのサプリメントが抽出、精製されていく。
アミノ酸の一つであるトリプトファンも、ずっとこのような方法で作られていた。
ところが八〇年代に日本企業の昭和電工が別の方法をとるようになった。
昭和電工の研究者達は遺伝子工学を使って微生物を変化させ、発酵の効率を上げようとした。
計画は成功した。トリプトファンの生産量がかなり増大し、
八八年にはアメリカでも売られるようになった。
昭和電工は安全テストをしなくてもよかった。
トリプトファンの安全性はすでに確認されていたし、
製造過程の変化に関心を抱く人がいなかったからである。

「新」トリプトファンが販売されるようになって数ヵ月経つうちに、
これを摂取した三七名が死亡し、一五〇〇名が後遺症に苦しむことになった。
遺伝子操作をうけたトリプトファンに起因する毒素が
原因であるとわかったのは、数ヵ月経ってからだった。
この毒素のせいで好酸球増加筋肉痛症候群(EMS)という病気がひき起こされたのである。
まさに明白な事実であり論争の余地はない。
ただし、この毒素がどうやってできたかについては事件の後も論争が続いていて、
製造過程で使われていた遺伝子組み換え微生物によって作られたものかどうかが問題となっている。

バイオ産業お気に入りの説明はこうだ。
問題の企業が遺伝子組み換え微生物を使うようになった時に、
濾過作業の手抜きをしてしまったため、
濾過されなかった不純物が混ざってしまったというのである。
昭和電工側の顧問弁護士によると、作業にあたった研究者らはこの説明を否定している。
研究者らによると、濾過システムの変更はそれ以前にほぼ終わっていて、
そのやり方で不都合は出なかったからだ。このほかにも大切な点がふたつある。
昭和電工は、遺伝子操作を行わなかった微生物から問題の毒素を見つけることができなかった。
また、他社のトリプトファンのせいでEMSが大発生したということもない。

遺伝子組み換えに反対する人々は、
問題の遺伝子組み換え微生物のせいで死者が出たと信じている。
確かなことはわからないだろう。
昭和電工は、問題を起こした遺伝子組み換え微生物を公開していない。
悲劇が報告されると、そのすべてを処分してしまったのである。

遺伝子組み換えジャガイモを食べたラットの腸に異常[P.243-244]

イギリスで遺伝子組み換えへの恐怖をかきたてた第一の立て役者は、
ローウェット研究所のアルパード・プシュタイ教授だった。
教授は一九九八年四月のテレビ出演で、
遺伝子組み換えジャガイモを使った実験について話し、
問題のジャガイモを食べたラットの腸に重大な変化があらわれたと述べた。
実験の結果、腸の構造と消化機能の変化、内臓の発育不全、
外傷に対する免疫反応の低下が観察されたという。
教授によれば、もっとも重要な点はこれらの変化が予測できなかったことである。
教授は、自分でも遺伝子組み換えジャガイモを食べようとは思わないし、
「イギリス国民を実験動物のように扱うのはまったく不公平だ」と述べた。
多くの人にとってこの言葉は、
遺伝子組み換え食品は危険であることを示す決定的証拠のように思えた。

イギリス医師会は遺伝子組み換え作物の植えつけを一時停止するように求めた。
二ヵ月のうちに、ヨーロッパ中のスーパーマーケットの七チェーンが、
売り場から遺伝子組み換え食品を一掃して今後の販売を中止すると発表した。
世界最大の多国籍食品会社三社も、遺伝子組み換え食品は販売しないと言明した。
ローウェット研究所はといえば、プシュタイ教授をクビにした。
研究所の規定を破り、実験が完結するか、
もしくは同僚の意見を聞くより前に内容を発表してしまったからである。
教授は多くの科学者を公然と味方につけたが、猛烈な反撃も喰らうことになった。

イギリス学士院はプシュタイ教授らの実験を再調査し、
この実験には欠陥があったという結論を出した。
『ランセット』誌はイギリス学士院の行為に反発し、プシュタイ論文の掲載に踏みきった。
強い調子で書かれた論説文には、学指院は「許しがたい非礼」を犯したと書かれていた。
研究者は「完成論文もしくは最終論文の内容によってのみ評価されるべきである」

アラン・アービンガー教授のヤコブ病細菌説[P.277]

アラン・アービンガー教授はロンドン大学キングズ・カレッジで免疫学を研究している。
教授によれば、BSEと変異型クロイツフェルト・ヤコブ病の原因は、
免疫システムの不調であるという。
教授はキングズ・カレッジの同僚の力を借りて真犯人をつきとめた、と断言した。
教授の言う真犯人とは、土壌や上下水にごく一般的に見られる細菌であり、
多発性硬化症の原因である。彼は、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病は、
多発性硬化症が極端なかたちであらわれたものだと主張している。

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