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書籍と雑誌の要約と解説

代理ミュンヒハウゼン症候群

「うちの子、不治の病なの……でも、わざと病気にしたのは私」

装丁
代理ミュンヒハウゼン症候群 代理ミュンヒハウゼン症候群
南部さおり(横浜市立大学医学部医学科教室助教授)
アスキー・メディアワークス(アスキー新書158)
ISBN4-04-868701-0
C1236
2010/07/10
¥743
目次
  1. 代理によらない「ミュンヒハウゼン症候群」
  2. 代理ミュンヒハウゼン症候群とは
  3. MSBPの母親の特徴とは
  4. 子どもを病気にするために、彼女たちがすること
  5. 日本で報告された代理ミュンヒハウゼン症候群
  6. 「病気」か「犯罪」か
  7. 点滴汚染水混入事件
  8. MSBP概念はどこに行くのか?
文献
  • 坂井聖ニ『子どもを病人にしたてる親たち』[P.32_125]
  • マーク・D・フェルドマン&チャールズ・V・フォード『病気志願者』[P.38]
  • メアリー・エドナ・ヘルファ『虐待された子ども』[P.43_57]
  • リチャード・ファーストマン&ジェイミー・タラン『赤ちゃんは殺されたのか』[P.80]
  • ドナルド・W・ブラック『社会悪のルーツ』[P.??]
  • 山村賢明『日本人と母』[P.112]
  • 守大助『僕はやっていない!』[P.128]
  • アメリカ精神医学会『DSM-Ⅳ-TR』[P.129]

内容

  • 私たちは、本能的に闇を恐れる。しかし私たちは、暗闇に沈んだ子どもたちに光を届けなければならない。そして、幾筋かの光が集まれば、そこはもはや闇ではなくなるのだ。[P.9]
  • わが子の健康や未来、生命さえも意に介さないという、絶望的なまでの冷淡さこそが、代理ミュンヒハウゼン症候群と呼ばれる虐待の本質[P.9]
  • この症候群は1951年に、イギリスのアッシャーという精神科医によって名づけられた。[P.21]
  • 特徴[P.22_59-60]
  • 名称[P.30-31]
  • 段階[P.39-40]
  • 「ひ弱な子ども症候群」と呼ばれるグループも存在し、これは過去に重大な病気に実際にかかったことのある子どもの親に見られ、親による子どもの健康への過剰な不安に基づく訴えを意味するようである。[P.44]
  • 1996年にイギリスおよびアイルランドで行なわれた調査研究によれば、MSBP被害者のうち42%において、他のきょうだいも同様の虐待を受けていたことが報告されている。[P.64]
  • 「MSBP加害者の二大手口」ともいうべき典型的なものがある。窒息と毒(有害物質)である。[P.74]
  • 胸腺リンパ体質[P.76-77]
  • カテーテル[P.86]
  • 有病率[P.96-97]

特徴[P.22_59-60]

代理ミュンヒハウゼン症候群の特徴は、大げさな演出によって病気を装い、
難しい検査や痛みを伴う治療を受けたがること、
そして、詐病とは異なり、それによって得られる結果は、
他人からしてみるとほとんど「意味がない」どころか、
本人を含めて誰にとっても「害悪でしかない」ことなどである。

*

典型的なMSBPの母親は、医療スタッフや病院職員、
さらにはほかの入院患者や彼らの面会人などからも、
自分が非常に感じのよい素敵な人物に見えるよう、自らを美しく演出する。
そうした母親は、優しく慈愛に満ちた聖母、
明るさと周囲への気遣いを忘れないけなげな女性、
あるいは薄幸のヒロインなど、自分が思い描くところの魅力的な人物を、
病院という舞台の上で、抜群の演技力と説得力を持って演じきるのである。

例えばキャシーの例では、看護師はともかく、
主治医である小児科医からは絶対的な信頼を得ており、
看護師が主治医に自分たちの心配を告げに行った際には、
医師は一切取り合おうとしなかったばかりか、彼女らに腹を立てさえしたという。
また、虐待捜査のプロである児童保護局の調査員でさえも、
最初の調査の8ヶ月間で、ジャニファーが虐待の被害者であることを認めつつも、
ついに、目の前の素晴らしい母親が加害者である
との確信を持つことができなかったというのである。

また、メードゥの報告した2つの症例でも、子どもは何年もの間にわたり、
複数の医療機関への受診を繰り返していたが、
いずれの病院でも、とても献身的で理想的な母親という外見に、
医療スタッフはまんまと騙されており、医療チームが一丸となり、
母親の望みをかなえるべく、せっせと不必要な治療を継続していたのである。

名称[P.30-31]

代理ミュンヒハウゼン症候群、
正式には「Munchausen Syndrome by Proxy」(略語でMSBP)と表記する。

中略

わが国では、著者によって、
「代理ミュンヒハウゼン症候群」
「代理によるミュンヒハウゼン症候群」
「代理人によるミュンヒハウゼン症候群」
「子どもを代理としたミュンヒハウゼン症候群」
など、複数の訳語が用いられている。
しかし、いずれの訳語によっても、その症候群が代理人を指すのか、
代理人を立てた人物を指すのかが分からず、混乱してしまう。

段階[P.39-40]

「子どもを病気にする」と一口に言っても、子どもに直接危害を加えることなく、
「さっき、呼吸が止まったんです!」「噴水のようにミルクを吐きました!」
などと血相を変えて病院に飛び込んでくるものや、
本当に窒息させてチアノーゼ(酸素不足で唇などが真っ青になる状態)にしたり、
毒物を飲ませて重態にしてから救急車を呼ぶような殺人未遂すれすれの行為まで、
さまざまな段階が存在する。
ありもしない症状を訴えて医療機関を受診する母親は
「偽装者(Fabricator)」と呼ばれる一方、
実際に子どもに手を下して病気の状態にする母親は
「作出者(Inducer)」と呼ばれ、医学書では、しばしば両者は区別されている。

胸腺リンパ体質[P.76-77]

幼児期は活発に免疫系を発達させる時期にあたるため、
赤ん坊の今日線が大きいことは当然のことである。
胸腺は、最も老化の早い臓器として知られ、
思春期をすぎると急速に退縮してゆき、成人をすぎる頃には脂肪組織化している。
レントゲン技術のない当時の医師は、
死んだ子どもの解剖によってしか子どもの胸腺の大きさを確認できなかったので、
生きている健康な子との比較ができないままに、
「胸腺が大きいという解剖学的な原因によって、なんらかの異常が生じ、
子どもは突然死するのだ」と決めつけてしまった。
以降、後に「胸腺リンパ体質」と呼ばれるものが突然死を引き起こすという考え方は、
西洋医学において20世紀まで信じられており、1930年代頃には、
一流病院において、
子どもたちの胸腺に放射線を照射してその機能を損なうということまで、
平然と行なわれていたのである。

カテーテル[P.86]

「代理ミュンヒハウゼン症候群における医学的カオスの源泉としての
中心静脈カテーテル」と題して、フェルドマンらが『小児外科雑誌』に
1998年4月に発表した調査研究では、1974年から96年の間に、
地域の病院の小児科でMSBPだと判断された93例の被害児のうち、
16例は中心静脈カテーテルを挿入されており、
うち半数以上にカテーテル経由での敗血症が報告されていたという。
幼い子どもの口から異物を摂取させることは難しいが、
直接体内に注入すれば、より確実に症状を引き起こすことができるのである。

また、別の特殊な例として、子どもの腕に空気を注射して、
原因不明の腫瘍が皮下にできると訴えていた母親というものも報告されている。

有病率[P.96-97]

日本ではこれまで、80年代頃から医学雑誌でぽつぽつと報告がなされてきていたが、
いったいどれだけの数のMSBPが存在するのかについては、
まったく明らかでなく、調査もほとんど行なわれていない。
筆者が知る限りでは、国立保健医療科学院の藤原武男医師らが、
2008年に国際ジャーナル『児童虐待&ネグレクト』で
報告したものが唯一のものと思われる。
これは、学会でMSBPの経験を報告した
小児科医たちを対象として行なったアンケート調査によるものである。
ここで、ざっとその内容を紹介したい。

その調査では、1995年から2004年までの10年間で、
MSBPの確定診断がついた15例と、
MSBPがかなり疑わしいとされる事例6例の、21例が特定されている。
このうち、2例は同一家族のきょうだい同士であり、
加害者は実の父母であったという。
また、21人の被害者のうち、男女比はほぼ半々(男児が10人)で、
MSBP被害者であるとの診断がついた子どもの年齢は平均で4・6歳。
加害者は21人中19人が実母がで、実父も2人いたようである。
MSBPのプロファイルとしてあげられた「医療従事者」は、
たった1名しかいなかった。
MSBP加害者の種類では、作出者が多数を占め、
作出と偽装とが併用されているケースを含めると、7割以上を占めている。
作出または偽装される子どもの身体的な病気としては、
胃腸症状が最も多く、次いでけいれん、敗血症、尿崩症(多尿)などが続き、
ほかに、行為障害やPTSDなどの、精神神経学的な症状も挙げられている。

この「10年間で21症例」という数は、
全国で発生するMSBPの氷山の一角であろう。
例えば、ある論文には、1986年から10年間の国立小児病院
(現・国立成育衣料センター)だけでも、
11例のMSBPが報告されていると書かれている。

日本のMSBP事例としては、
医師が自ら経験した事例を医学論文に報告したものや、
公表された裁判記録などがぽつぽつと見られるのみで、
その報告数はあまり多くはない。

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