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書籍と雑誌の要約と解説

アルツハイマー病(岩波新書)

脳神経科学の最先端の研究成果と事例

装丁
アルツハイマー病 アルツハイマー病
黒田洋一郎(東京都神経科学総合研究所参事研究員)
岩波書店(岩波新書561)
ISBN4-00-430561-6
1998/05/20
¥740
目次
  1. アルツハイマー病とは
    1. アルツハイマー病の発見
    2. 痴呆と痴呆でないもの
      1. ボケと痴呆
      2. 度忘れは生理的ボケで、痴呆ではない
      3. 鬱病なども痴呆と紛らわしい
    3. アルツハイマー病とはどんな病気か
      1. 脳血管性痴呆などアルツハイマー病以外の痴呆
      2. あるアルツハイマー病患者
      3. アルツハイマー病の症状
      4. 脳の中で起っていること
  2. 診断と早期発見
    1. 診断
      1. 診断基準
      2. 各種テストや検査
      3. 画像診断
    2. 早期発見
      1. 初期診断の重要性と問題点
      2. 家族による早期発見の目安
  3. どんな人がかかりやすいか
    1. 疫学調査と危険因子
    2. アルツハイマー病の多因子性
    3. アルツハイマー病の危険因子
      1. 加齢
      2. 近親者の発病
      3. 男女差
      4. 頭部外傷
      5. アルミニウム
      6. 不活発な生活
      7. 生活環境の大きな変化
      8. たばこ
      9. 脳血管障害
      10. その他
    4. 未知の環境因子の探求
    5. 疫学の限界
  4. アルツハイマー病の原因研究
    1. アルツハイマー病に関係する遺伝子
    2. βアミロイド蛋白による神経細胞死
    3. 環境からのアルミニウム
    4. これからの原因研究
      1. アルツハイマー脳内での神経細胞死の分子メカニズムの解明
      2. アルツハイマー病の分子疫学の発展
      3. 脳の老化研究の重点化
  5. アルツハイマー病は治せるか、防げるか
    1. アルツハイマー病の治療
      1. 早期発見・早期治療の必要性
      2. 薬による治療
      3. 治療薬の開発史
      4. 治療薬の現状
      5. 根源的治療薬の可能性
      6. 症状の多様性と治療薬
      7. リハビリテーションと脳の機能の維持・回復
      8. アルツハイマー病のリハビリテーション
    2. アルツハイマー病の予防
      1. 予防法開発の考え方
      2. アルミニウムに注意
      3. フリー・ラジカルなどの老化促進因子からの予防
      4. 精神的ショックからの予防
      5. 脳血管障害の予防
    3. これからのアルツハイマー病対策
      1. アルツハイマー病患者の増加と実労働者の減少する社会
      2. 対アルツハイマー病10年計画の必要
  6. 「21世紀の脳」の健康
    1. 脳と化学物質
      1. アルツハイマー病と脳研究
      2. 脳の複雑さと精緻さ
      3. 化学物質からできた精密機械の壊れやすさ
      4. 身の回りの化学物質はどれだけわかっているか
    2. 子どもたちの脳の問題
      1. 学習障害
      2. 影響を受けやすい胎児の脳
      3. “キレる”のはなぜか
      4. 希望的側面
    3.  

    4. 新しい健康学へ
文献
  • E・M・トーマス『トナカイ月』[P.12]
  • 黒田洋一郎『ボケの原因を探る』[P.18]
  • 有吉佐和子『複合汚染』[P.18]
  • 三浦文夫『痴呆症を介護する』[P.168]
  • シーア・コルボーン『奪われし未来』[P.197]
  • レイチェル・カーソン『沈黙の春』[P.199]
  • 吉村昭『白い航跡』[P.214]
  • 正田彬『消費者の権利』[P.216]
  • 多田富雄『生命 – その始まりの様式』[P.223]
  • 『夢千代日記』[P.203]

内容

  1. アルミニウム化合物を動物の脳内に注入すると、てんかんを起こしたり、脳内に神経原繊維変化に似た蓄積物を生じることは、古くから知られていた。[P.90]
  2. 軽金属業界によるアルミ説の隠蔽工作[P.90-91]
  3. スリーA問題:飲料水中のアルミがアルツハイマー病の要因になる[P.92-93]
  4. アルミニウムは脳に蓄積する[P.126]
  5. アルミニウムはβアミロイド蛋白の多量体化を促進する[P.127-128]
  6. 鉄分を補給するとアルツハイマー病が改善する[P.146]
  7. アルミ鍋から流出したアルミニウムは体内に吸収される[P.170]
  8. 有機物と化合したアルミニウムは、太古の昔からある、土の中やほこりに含まれている無機の酸化アルミニウムやケイ酸アルミニウムがほとんど体内に吸収されないのに対し、はるかに体内に吸収されやすい。[P.171]
  9. アルミニウムはトランスフェリンと結合することで血液脳関門を突破する[P.171]
  10. アルミニウムをキレート剤で排出するとアルツハイマー病に治療効果があるという報告からも、脳内で有害なアルミニウムの濃度がある一定の値(閾値)を越えた場合に毒性が次第に顕在化してアルツハイマー病が発症すると考えられている。[P.172]
  11. 制酸剤と食品に含まれるアルミ化合物は安全だというデータが出ている[P.172-174]
  12. 浄水におけるオランダと日本のアルミニウム行政[P.176]
  13. たばこをやめるのと同じようにアルミ鍋はやめたほうがよいと私は思うが、その判断は読者の方々に委ねられている。[P.175]
  14. マウスを合成化学物質に曝露させると凶暴化する[P.206]

軽金属業界によるアルミ説の隠蔽工作[P.90-91]

日本では、医学雑誌でもない『軽金属』という雑誌に掲載された、
自身の実験データを全く欠いた論文により
「このようなアルミニウムの急性毒性による透析痴呆の病態と
(数十年かかって発症するはずの慢性毒性によるはずの)
アルツハイマー病の病態は異なる。
したがってアルミニウムはアルツハイマー病と関係しない」、
といった奇妙な論理のすりかえがおこなわれ、
アルツハイマー病と「アルミニウムは関係ない」という考えが
「アルツハイマー病の専門家」といわれる人々のあいだに広まった。

スリーA問題:飲料水中のアルミがアルツハイマー病の要因になる[P.92-93]

一九八九年になって、飲料水中のアルミニウム濃度と
アルツハイマー病の発病率に相関があるという大規模な疫学調査の調査が、
英国の医学雑誌『ランセット』(‘Lancet’)の巻頭に掲載され注目された。

この時点で、酸性雨(Acid rain)、アルミニウム(Aluminum)、
アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)を結ぶAAA(スリーA)問題として、
単なる医学問題だけでなく環境問題にもなってきたのである。

すぐに各国で疫学調査がおこなわれ、
一九九七年までに一二例中、ニ例を除いて、
アルツハイマー病発病と飲料水中のアルミニウム濃度との相関は
「ある(統計学的に有意)」という結果が出た。

表3-2 飲料水中のAl濃度と痴呆との関連を示す疫学調査
著者 年度 比較したAl濃度(μg/l) 相対危険率 備考
Vogt 1986 ノルウェー 20と200 1.48 痴呆による死亡率
Martyn 1989 イギリス 0~10と110以上 1.5 CTスキャンにより判定
Michel 1990 フランス 10と160 4.53
Flaten 1990 ノルウェー 5と200以上 1.46 痴呆による死亡率
Neri 1991 カナダ 0~10と200 1.42 ケースコントロールスタディ
Frecker 1991 カナダ 10と150以上 3.0 痴呆による高死亡率地域でAlの濃度が高い
Wettstein 1991 スイス 10と100 相関なし 80歳以上の老人のみの比較
Forbes 1992 カナダ 低Al高Fと高Al低F 2.7
Jacqmine 1994 フランス 5と100 1.33 pHが高いとAlの効果なし
Forbes 1994 カナダ 低Al高Fと高Al低F 4.42 Fの保護効果
McLachlan 1996 カナダ 100以下と100以上 2.3 死後脳病理診断からADと確定診断
Martyn 1997 イギリス 10と110以上 相関なし CTスキャン判定、ケースコントロールスタディ

アルミニウムは脳に蓄積する[P.126]

鉄などほかの金属イオンの体内への取り込みに関しては、これまでさまざまなデータがあった。
しかし不運なことにアルミニウムだけは、適当な放射性の同位体がないために、
体内への微量な取り込みを検出する実験が簡単にはできず、全く未知だった。

実際はアルツハイマー病の脳はもちろん、
正常の脳内にもアルミニウムが蓄積しているにもかかわらず、
取り込みデータがないので、「アルミニウムは正常な脳内には入らない。
したがってアルツハイマー病とは関係がない」との主張もあった。

しかし一九九〇年、
湯本昌(元東京大学医学部)らが同位体26Alを用いる方法によって、
正常な脳でも、アルミニウムは微量ながら脳内に侵入し、
しかも排出されにくいので蓄積していくことを示した(図4-5)。
また、老人斑でもアルミニウムが沈着していること、
神経原繊維変化にもアルミニウムが蓄積していることが明らかになった。

アルミニウムはβアミロイド蛋白の多量体化を促進する[P.127-128]

川原正博(東京都神経科学総合研究所)らは
βアミロイド蛋白の毒性がその多量体化で生じることに注目し、
各種金属イオンが、βアミロイド蛋白が会合して多量体化する過程に
かかわっているのではないかと調べたところ、
鉄・亜鉛に比してアルミニウムは著しく多量体化を促進した。
アルミニウムは自体の神経毒性だけでなく、
βアミロイド蛋白の毒性を強めることによっても神経細胞死を増加させ、
アルツハイマー病の発病率を上げ、
かつ老人斑形成も促進している可能性が示された。
アルミニウムが細胞骨格蛋白タウの燐酸基に結びつき、
脱燐酸化を妨げることによって神経原繊維変化を生じる仕組みも、
山本秀幸、宮本英七(熊本大学医学部)らにより明らかにされた。

鉄分を補給するとアルツハイマー病が改善する[P.146]

アルツハイマー病、
しかも遺伝性のアルツハイマー病と確定した患者さんに治療効果があり、
症状を改善し発症を少なくとも二年遅らせたという報告は
今川正樹(兵庫県立尾崎病院)によって一九九二年におこなわれた。
この女性の患者Aさんの姉がまず
日本で珍しい遺伝性のアルツハイマー病にかかっていることがわかり、
Aさん自身も21番染色体に突然変異をもっていることが
辻省次(新潟大学医学部)によって証明され、発病が心配されていた。

治療法は、よく使われる脳代謝改善薬(コエンザイムQ10とビタミンB)のほかに、
クエン酸第一鉄を入れたのが特徴で、この三種の薬を毎日二年間にわたって飲み続けた。
Aさんはバイクに乗って買い物に行けるほど回復し、
姉さんのほうも症状の悪化、進行がなくなった。
また薬をやめるとその休薬期には症状が悪くなり、また飲むと良くなった(図5-1)。
この例は家族性アルツハイマー病で、
遺伝子レベルでの診断は確定していると考えられたので英国の医学雑誌『ランセット』に発表できた。
その後も、鉄剤などを飲み始めてから約五年間、
自発的に身の回りのことをしたり同じ病気の姉の看病をしていて、
長谷川式やFASTなどのテストの成績もよく
アルツハイマー病とは決していえないほどに回復していた。

図5-1 鉄剤によるアルツハイマー病患者の治療例(今川ほか,1992より)
コエンザイムQ10 60mg
150mg
ビタミンB 180mg

アルミ鍋からは溶出したアルミニウムは体内に吸収される[P.170]

腎機能が低下した患者で3ヵ月アルミ鍋使用とステンレス鍋使用とに分けて調べたところ、
ステンレス鍋を使った人では、血中のアルミニウム濃度が約半分に下がったという論文が最近発表された。
鍋から溶け出たアルミは血中に入ってくるのである。

<中略>

トマトなどの野菜をアルミ鍋で煮ただけで酸性になり、
それ以上だとアルツハイマー病の発病にかかわってくると考えられている
飲料水中のアルミ濃度(一リットルあたり〇・一ミリグラム)に比べて、条件にもよるが、
一〇倍から数百倍のアルミニウムが溶け出るといった実験データは数多くある。
アルミ鍋の酸化アルミニウムの被膜は、
焼け焦げをとるためにタワシなどでこすると簡単にはげてしまうので、
アルミの溶出は防止できない。

アルミニウムはトランスフェリンと結合することで血液脳関門を突破する[P.171]

血液中のアルミニウムのうち、八〇%は細胞に鉄を運ぶトランスフェリンという蛋白質と結合し、
残りの二〇%は果物や野菜に多く含まれるクエン酸などの有機酸と結合して
キレート化合物などになっているといわれている。

アルミニウムと結合したトランスフェリンは、
鉄と結合しているトランスフェリンと血液脳関門で区別されず、微量ながら脳の中に取り込まれていく。
クエン酸など有機物と結合したアルミニウムも、
細胞膜などを通りやすく、こうしてアルミニウムが脳の細胞の中に蓄積されていく。

制酸剤と食品に含まれるアルミ化合物は安全だというデータが出ている[P.172-174]

天然アルミ化合物が安全らしいように、すべてのアルミ化合物が危ないわけではないらしい。
制酸剤などに使われている大量の水酸化アルミニウムと痴呆の関係を調べた二つの疫学調査では、
相関はなかったとされている。
水に溶ける塩化アルミニウムでは病変が起こるのに、
水酸化アルミニウムを約二年間経口投与した実験動物では、脳に病変は出ていない。
食品中のアルミニウムも、お茶など天然のものにもともと含まれている化合物の場合、
体内に吸収されにくいというデータがある。

浄水におけるオランダと日本のアルミニウム行政[P.176]

オランダでは、水道水中のアルミニウムとアルツハイマー病との関係を重視し、
浄水の過程で、アルミニウムを用いた凝集剤の使用をとりやめ、鉄に切り替えた。
日本でも一九九六年ごろから、アルミニウム凝集剤を使わず、
膜を使った高度浄水システムが小規模な浄水場で採用され始めた。

マウスを合成化学物質に曝露させると凶暴化する[P.206]

藤井梼子(帝京大学医学部)は、ゴルフ場でよく使われる除草剤グルホシネートを、
毒性を調べる目的で、妊娠したラットに与えてみた。
すると致死量の数十分の一程度の量でも、生まれた子どもは易興奮性で噛み合った。
また雌ラット自身は正常では噛み合わないが、高濃度のグルホシネートを与えると凶暴になり、
噛み合いを続け、片方が死ぬまでやめない場合があった。

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